「奴らを逃がすな!」
ブラートの声に応えるようにまた銃声が鳴り響く。
しかし、またしてもアランの作る見えない壁に銃弾は阻まれる。
「悪りいけど、こっちも大見得を切った手前不甲斐ない真似はできないんでな。行きたきゃ俺を殺してからにしろよな?。」
そう言い、アランは刀をいつでも抜刀出来るよう構え、ブラートとシェーレに相対する。それを見たブラートとシェーレの二人も構え直す。
「シェーレ…気を付けろ。あいつは縮地という歩法を使って高速で攻撃を仕掛けてくる。それとあいつのしてる腕輪…あれがあいつの帝具だ。帝具の能力は振動を使う。警戒を怠るな…!」
「…分かりました!」
「あー、そっか。お前には俺の帝具について説明したことがあったっけ。」
シェーレに自身の知り得るアランの情報を伝える。自身の情報を共有する二人の様子を見ながら事も無げにからからと笑いながら昔のことを思い出す。
「そこまでバレてるんならもういいか。俺の帝具は【エンケラドス】って言ってな、この腕輪の素材の稀少結晶の出す水晶震動波を使って振動を操る能力だ。」
自身の帝具について自慢気に言うアランに訝しげな視線を送る二人。
「いいのか?そこまで言って。」
「問題ねーさ。言ったところでお前らには負けねーよ。」
煙草を燻らせながら不敵に笑うアラン。
そして、闘いの火蓋は突如として切って落とされる。
咥えていた煙草を吐き捨てるなり、縮地を使い二人に肉薄する。
あまりにも予想外のタイミングとアランの縮地のスピードに対応が遅れる二人。しかし、アランと戦場を共にしたブラートにとっては慣れた速度であり、シェーレを庇う為前に出る余裕はあった。そんなのお構いなしとばかりに抜刀しブラートへと斬りかかる。アランの刃撃を自身の武器である槍、ノインテータで受け止めるが、ブラートは自身の頭に突然、衝撃を受け、視界から光りが消える。それは刀を抜刀した勢いをそのままに振るわれた刀の鞘によるもので、衝撃の為ふらつくブラートに追撃をしようとするがシェーレの横からの援護に阻まれ、一旦距離を開ける。
「ブラートは回復するまで下がっていてください!彼の相手は私がします…!」
「……さて、こっからが踏ん張りどころか。」
苦しげに言うシェーレに対して、アランはニヤリと笑みを深めた。
…がしかし。
「やっぱり、止めにしない?」
「は?」
これから更に戦闘が激化すると思われた矢先、アランの口から放たれたのは全く逆の戦闘終了の提案だった。
「いやね、さっきは何とかなるかなーって思ったんだけどやっぱり無理だわ。」
「何を言っているんですか?」
「縮地も全開じゃないとはいえ対処されてるからな。このまま行くとジリ貧…だからこの提案って訳よ。…そもそも、俺たちの最初の仕事は首斬りザンクを倒す事。お前らナイトレイドの相手は対象外なんだよ。それに…このままだとそこで倒れてるアカメちゃん、助からないんじゃない?」
「っ!」
シェーレに自身の提案の理由を述べる。そして、シェーレ達を退かせる為の切り札を切る。
「ほらほら、さっさと逃げないと。もう、壁は消してるからさ。」
「くっ…!」
「しょうがない、シェーレアカメを連れて退くぞ!」
回復したブラートがアカメを抱き上げながらシェーレに言うのをアランは闘っている時とは違う、へらへらした笑いを顔に貼り付けながら言う。
「まあ、今回は痛み分けという事にしとこうぜ、ブラート。」
「…よく言うな。」
「はっ!こっちは見逃してやってんだ。そう言うなよ。」
アカメを連れて退くブラートと言葉を交わし、ブラート達が完全にこの場から去ったのを確認する。
確認するや、その場に崩れ落ちるアラン。
「あー、しんど!それにしても、言ってみるもんだな。」
ブラート達には悟られずに済んだが先程からずっとエンケラドスの能力で周囲を仕切る壁を長時間出し続けていたアランの体は疲れ切っていた。
「あー、体動かねーし、どーすっかなー。」
「隊長……こんな所で倒れて何やってるんですか」
「セイラか?ちょうどいいや。煙草吸いたいんだけどさ、体動かねーから代わりに上着のポケットから取ってくれない?」
「嫌ですよ。いい加減煙草やめてくださいって何回言ってると思ってるんですか」
いつものようにへらりと笑う上司にセイラは溜め息を吐きながらこたえたのだった。
五話目にしてようやく主人公の帝具の詳細が出てきました。因みに名前のエンケラドスってのはギリシア神話に出てくる巨人の一人で火山の噴火や地震を引き起こすと一部では言われてるらしいです。
誤字、脱字、可笑しな表現があれば言ってください。
今回も読んで頂きありがとうございました。