※この世界における遊戯王カードの効果は現在調整中です。   作:月日は花客

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3:生きたNPC

 

「突然マスター方の気配が変わり……代表として、私たちが様子を伺いに来たのです」

 

 アルシエルが、心配そうに眉を下げながらそう説明してくれた。

 しかし、そんな事よりも私は何故彼女がこうして自律して動き喋ることができるのかという事の方が重要だった。

 NPCに声はつかない。せいぜい鳴き声が精一杯だ。凝ったギルドはボイス系のデータクリスタルを組み込んでいたりするのかもしれないが、うちはそんなレアアイテムをたくさん集める余裕は無かったので。

 それにNPCはコマンドをプレイヤーが打たないと基本動けないし、配置された階を越えることもできない。

 しかし、今目の前にはアルシエルや、他のギルドメンバーのエースモンスターが立っている。

 後ろにいるメンバーも困惑しているようで、声にならない疑問が沢山浮かんでは整理できないままにとっ散らかっていく。

 アルシエルは固まっている私が不調と思ったのか、そっと私の額に手を当てた。その手はほんのりと暖かい。

 

「熱……は無いようですが、大丈夫でしょうか。回復魔法など使いましょうか?」

「あ……いや、大丈夫。その、なんで動けてるのか聞いていい?」

 

 シャボンの様な香りがふわりと漂ってきて、その実在感にくらりとしてしまう。

 目の前のアルシエルは確かに存在している。体温があり、声が空気を震わせている。

 目は変わらず閉じているものの、瞼越しに気遣いの視線が感じられるし、動作はただのNPCよりも生き生きしていた。

 アルシエルは私たちの疑問に気づいたのか、こほんと軽く咳払いをする。

 

「突然、自由に動ける様になったのです。今までとは違い、喋れますし、指示されなくても行動できる様になって……。そうなってすぐに、カード越しにマスター方の不安を感じて、こうして集まりました」

「なんでそうなったとかは、わかる?」

「わかりません。不思議ですね……私たちは自由に行動できるようになった以外、不調や異常は無いです」

 

 何故かはわからないが、NPCが生きた存在になった。そしてアバターが五感をハッキリと得て、ログアウトなどのUIが呼び出せないという事は……これは、本当にゲームが現実となってしまったのではないか?

 ジワジワと情報が固められていく感覚に、ぞわりと背筋に震えが走る。

 現実に帰れないということは、今までの生活がガラッと変わるだろう。というか、現実での私の身体は一体どうなっているのか。

 確かめる手段は無い。

 最悪、私は帰れなくてもいいが、他のメンバーはどうなのだろう。彼らにも生活があるはずだ。

 リーダーとして何ができるか、冷静に考えなければ……。

 

「ひょわぁああ!? ミュートリアス、お前も来てくれたのー!?」

 

 横から一人の影が飛び出した。

 白衣に眼鏡という古典的な科学者の格好をした男は、アカウント名「マッド研究員」。使用デッキは叫んだ通り【ミュートリア】で、怪物系のB級映画をこよなく愛する人物だ。

 ミュートリアの異形の身体と進化していく怪物という設定に惚れ込んでいて、ちょっと歪んだ角度からミュートリアモンスターを愛している、シャカパチ禁止同盟で一二を争う変人でもある。

 アルシエルの背後にいた巨大な触手、【シンセシス・ミュートリアス】に思いっきり抱きついた姿から、それはハッキリとわかる。

 鼻息を荒くして、彼を受け止めたミュートリアスの触手の一本を撫で回す。

 正直引く。

 

「ハァ……ハァ……俺が作ったモンスターが自律して動き出すなんて最高過ぎる……! やはり創造物に反乱を起こされないと()()()()()ないよなぁ! サイコー!!」

「……うわぁ」

 

 メンバーの一人がドン引きした声を吐いた。

 ミュートリアス本体も困っているのか、しがみつかれてない触手がウロウロと行き場を失っている。

 マッド研究員は「研究対象のモンスターに殺されるタイプの愚かな人間」の立場でモンスターを愛しているので、発露の仕方が歪なのだ。その為だけにユグドラシルの種族を人間に即決したくらいには、こだわっている。

 ハイテンションで己のエースモンスターを(変態的ながらも)愛でる姿に、不安がどっかに飛んでいってしまった。少なくともアイツは大丈夫だ。

 あの姿を見てからアルシエルを改めて眺めると、私の機材では出せない程の高画質に、髪の一本一本の煌めきがよくわかるほどの精細度。背丈的に私が見上げる形になるが、こちらを見下ろしてくる姿はとても神々しい。華やかで神聖な雰囲気は、モデリングされたゲーム時代のアルシエルよりも魅力が増している。

 うちのエースはさらに美しくなった。

 周りに目を向ければ、数体は姿が見えないが、ギルドメンバーのエースモンスターが粗方揃っているらしい。

 マッド研究員の痴態で他の皆も一度思考が冷めたのか、動いて喋る己の魂のカードに目を輝かせていた。

 ここに来てないモンスターは、おそらく身体の大きさなどの都合だろう。この通路はミュートリアスがギリギリ収まるくらいのスペースしか無いので。

 

「……一先ず、わからないことは置いておこうか。()()はしばらく落ち着かないだろうし」

「一度不安感を落ち着かせた方が良いかもしれませんね。せっかくモンスターと話せる様になったのですから」

「皆様、紅茶でもいかがですか?」

 

 あまり悪いことを考えていても仕方が無いので、NPCと話せるというミラクルを楽しむ方向に舵を切った。

 不安は伝染するものだし、このままびくびく怯えていても何も解決しないだろう。

 一度休む選択肢を察知したのか、【アロマリリス-ローズマリー】がいつの間にか紅茶のポットを手に持っていた。

 

「通路で話すのも落ち着かないし、広間に戻ろう。モンスターの分の椅子は足りるかな」

「ローズマリー、お紅茶をお願いできますか? 私はお砂糖も欲しいです」

「はい、*フラワ〜*様」

 

 美少女であるローズマリーと、メンバーの貴重な女性であり清楚な雰囲気を纏う*フラワ〜*が並ぶと、まるでそこだけ秘密の花園の様だ。そのお似合いな空気に違わず、*フラワ〜*の使うデッキが【アロマ】である。

 大テーブルにモンスター達の分の椅子(ミュートリアスなどは椅子に座れなかったのでそのまま)を用意して、紅茶の香りが漂う穏やかな空間が出来上がった。

 ローズマリーはどこから出したのか、角砂糖のポットやミルクピッチャー等ホイホイとお茶会の準備を整えてくれた。

 

「*フラワ〜*、あれって貴方が渡したアイテム?」

「確か……何かのイベントで『終わらないお茶会セット』っていうアイテムを渡した気がします」

「へぇ、レアアイテム?」

「いえ、ただほんのちょっとHPを継続回復させる効果のある紅茶を用意できるだけのコモンです。なんとなく、似合うかな〜と渡していただけで」

「なんであれ似合うと思った判断は正しかったね」

 

 それぞれカップに注がれた紅茶にミルクや砂糖を好きに加えて、一口飲めば少し香ばしい茶葉の香りと優しい紅茶の味が舌に広がる。紅茶なんて私はそうそう飲まなかったから、何ティーなのかはわからないけど。

 他の人たちも美味しい美味しいと口々に褒めて、ローズマリーは少し照れていた。

 

「それにしても夢みたいだなぁ、まさかご主人達と話せるようになるなんてね!」

「○☆♪#*♡」

「ミュートリアスはなんて言ってるの?」

「『ごすずんたちと話せてうれしい』だってさ。うおーミュートリアスご主人も嬉しいぞ〜!!」

「NPC時代の私たちはマスター達の指示が無いと動けなかったので、嬉しいことですね」

 

 陽気に【驚楽園の支配人<∀rlechino(アルレキーノ)>】が笑った。人型モンスターは話せるが、ミュートリアスの様な異形タイプはそのデッキの持ち主だけ意図がわかるらしい。

 アルレキーノがどこからか出してくれたポップなお菓子達も追加され、いよいよ簡単なパーティじみてきた。さっきやったばかりだの言うのに。

 丁寧にアイシングで飾られたハート型のクッキーを齧りながら、私は隣で上品に紅茶を楽しんでいるアルシエルを見る。

 

「NPCだった時の記憶があるの?」

「はい、ハッキリと覚えていますよ。あと、私たちとマスター方が持つカードは繋がっているので、そこ越しの記憶も」

 

 そうアルシエルが説明すると、ピシッとギルドメンバーの身体が固まった。

 モンスター達はそれを不思議そうに見つめる。

 まるで油を注してないブリキのおもちゃの様に、ぎこちなく水槽仮説がアルシエルに首を向けた。

 

「それって……自分が『方界モンスターは全部俺の嫁だから。重婚だ重婚』って叫んだ時とか……」

「私が5連敗して泣きながら床を転げ回った時とか……」

「逆に勝ち越して鼓膜破れるくらいの大声で『乾いた叫び』を熱唱した時の事とかを……見てたってこと……?」

 

 奇行に心当たりのある何名かが青ざめた顔でモンスター達と手元のカップに挙動不審な視線を向けた。

 皆昼の間は何かしら用事があるから、基本的に集まるのは夜になる。そこから深夜から朝まで遊んでいると、だんだん精神がハイになってくるのだ。それ故の悪ノリやはっちゃけも多く、他所様には到底見せられない地獄の光景が浮かぶ。

 単純な恥ずかしさだけでなく、自分が普段カッコよく召喚口上を叫んだり、マスターロールプレイをしていた故のプライドや虚飾心が、ドスドスと心を刺してきた。

 顔を青くも赤くもしているメンバーに、アルシエルはなんだか申し訳なさそうに頷いた。

 

「見てました。ばっちり。私達だけでなく他のモンスターも」

「終わった! 終わった!」

「じょうぶなひもをさがそう」

「馬鹿かお前ら」

 

 一気に叫び声が上がった大テーブルに、さっきからずっとミュートリアスの触手を撫でていたマッド研究員が一喝した。

 

「痴態を見せてこそ本当の信頼が築けるってもんだ。言い訳する方が見苦しいぞ」

「お前がよくそれを言えたな……いや、お前だからなのか……?」

「別に完璧な人格を求めてるわけじゃないんだろ?」

「そうですね、ただのおもちゃの紙でしかなかった私たちをこんなに愛していただけるのはありがたいことです。ちょっとお茶目な一面があっても、幻滅なんてしませんよ」

 

 アルシエルの言葉に、早々に復活した水槽仮説が挙手した。

 

「自分が架空の存在であることを知っているのか?」

「そりゃ、知っているさ。ご主人様達も私たちが存在しないことをわかってて、こうしてNPCという形で作りだしたんだろう?」

「遊戯王というカードゲームのいちカードであり、フィクションの存在であることはモンスター全員理解していますよ。NPCという形で作られた場所がユグドラシルというゲームの中であることも」

「あ、もしかして設定画面の作品表示から……?」

 

 *フラワ〜*が思い当たったらしい。

 ユグドラシルでは、版権キャラクターのNPCを作る際、設定画面の一番上に、必ずその版権の元の作品や著作権保有者を書かなければならない。

 たとえ、製作から何十年と経ち著作権期間が切れていても、作品名の表記は絶対である。

 最初に宣言された「著作権オープンプロトコル」の一部だ。

 その表記から、彼らは自分がフィクションの存在だと知ったのかもしれない。あくまでも推測だが。

 

「私たちはマスターの剣であり盾ですから。何をされていてもついて行くだけです」

「*◎♤□+」

「なんて?」

「『ごすずんをうらぎると思われてるのはかなしい』だそうですよ」

「あ、モンスター同士でもわかるのか。そりゃそうか」

 

 哀れかな、歪んだ愛情を向けられているミュートリアスに同情の視線が向く。根本的にモンスター達は使い手の意志に従うらしい。

 私もアルシエルから親愛や保護の心を向けられているのがハッキリわかるから、ミュートリアスに殺されるのが本望のマッド研究員の思想はかわいそうだ。

 しかしマッド研究員のこの性癖は筋金入りなので、ちょっと諌められただけじゃ止まらないだろう。

 彼の熱意は凄まじく、担当の階を凝りに凝って巨大な研究施設に変えてしまったのだ。大体の薬やポーションはここで作れるし、モンスターが暴れた時用のシャッターや非常灯の設備も完璧。危険を察知すると警報が鳴るし、モンスターが隠れ潜みやすいようダクトや換気口も細部まで配置する丁寧さ。

 資料のために製作を手伝わされていた水槽仮説は「大学時代を思い出してノイローゼになった」と言っていた。

 そんな熱量の感情を使い手に向けられているミュートリアスはどこか諦めたような顔をしている。表情わからないけれど。

 ローズマリーがミュートリアスのために紅茶のお代わりを淹れてあげたところで、空気が落ち着いたので状況を進めることにした。

 

「ここに来る道中で、ギルド内に変化はあった?」

「いえ、特に何も。NPCが自律できるようになった以外は変わりありません」

「じゃあ、次に確認するのは外だ。ギルドの外が変化したのか確かめたいな」

 

 基本的にギルドの窓は飾りで、実際に外に通じているわけではない。なぜなら窓から侵入できてしまうからだ。

 クランと戦った時、相手が飛行して窓から1階をショートカットして2階に上がってしまったので、その後塞いだのである。そのため窓から見える景色は時間経過こそ外と同じだが偽物だ。

 ギルド内から外は見れないので、出口から外に出るしかない。

 

「流石に全員で行くのはギルドの警備的にも怖いから、二人くらい選んで行かせようと思う」

「何かあっても逃げれるくらいの素早さと、ある程度の戦闘能力は欲しいね」

 

 ギルドから出てきた時が一番無防備なので、そのタイミングを狙って襲撃されることは多い。

 そのため、ギルドを出る時は注意して、なるべく複数人で出るようにしている。

 このギルドに強いプレイヤーは攻めてこないが、たまに雑魚狩りを楽しむタイプなのか性格が悪いプレイヤーが出待ちして居座ることがある。

 そういう時に一人で外に出てしまうと、PVPに慣れていない私たちは厳しい状況に陥ってしまう。

 今は異変もあって何が起きているのかわからないため、選定は慎重に行わなければならない。

 

「じゃあ、自分行けますって人〜」







【水槽仮説】
二つ名:五分前に生きた脳
使用デッキ:方界
レベル:100
カルマ値:極悪
役割:デバッファー
種族:スワンプマンなど
職業:幻術師、シェイプシフターなど
主要NPC:暗黒方界神クリムゾン・ノヴァ

ギルド内では珍しい大卒。富裕層。
青系の髪に、黒と紫のオッドアイをしている青年。人の姿はあくまでも仮の姿で、本気を出すとスライムに近い沼状の異形になる。
きっちりとしたモノトーンの礼服のようなものを着ている。新興宗教の胡散臭さに近い雰囲気。目玉を模した装飾が特徴。
性格は基本的に冷静。大卒なのもあって知識面からサポートすることが多い。他人に物を教えるのも好きなので、ギルドメンバーは彼のお陰で謎の知識を沢山持っている。
しかしデュエルとなると妄言や発狂が目立つようになり、様子がおかしくなる。
そのためギルドメンバーは彼がどれだけカッコつけようが胡散臭い笑みを浮かべようがデュエルの時の暴れ具合を思い出して真顔になる。
デュエルでは後攻ワンキルやクリムゾン・ノヴァでの同時ダメージによるキルを主体としている。殺意が高い。
ユグドラシルではデバッファーをメインに、魔法系の攻撃を投げる。チーム分けによっては彼が司令塔になる事も多々。
大学では医学、薬学関係を学んでいた。
卒業後は薬剤関係の仕事に就き、薬の開発などに携わっていた。ユグドラシルの配信中に大学卒業→就職したため、一時期は忙しさでまともにログインできず血涙を流していた。
その後卒論や就活に時間を食われた反動か、かなりの額を衝動的にユグドラシルに課金している。課金はその時のテンションでやるタイプ。
ギルド内課金総額ランキングで上位に入る。
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