※この世界における遊戯王カードの効果は現在調整中です。 作:月日は花客
とても嬉しいです。
MDで魔封じの芳香禁止になっちゃったどうしよ……。
「私が行こうかとも思ったんだけど」
「いやーギルマスはここにいた方が良いでしょ。確かに速度は一番だろうけどさぁ」
私はユグドラシルのプレイヤーとしての役割は回避型タンク兼バッファーである。
敵の攻撃を惹きつけ、ギリギリで躱すかいなすことによる防御。手が空いたら味方にバフを撒き、簡単な回復を受け持つ。
その為、ステータスは素早さに特化しており、その次に魔力が高い。ユグドラシルにおいて素早さは回避率に直結するため、真っ先にポイントを振り分ける必要があった。
攻撃や素の防御は捨てているので、かなりピーキーである。私一人ではあまり戦闘は受け持ちたくない。
ギルドマスターというのも不味い。ギルドのリーダーを失えば、その余波は大きく後続に響く。
私のビルドは他にアタッカーがいてこそ輝くものだ。素早さだけで判断するには確かに無理がある。
止める言葉に頷き、じゃあ他に誰にしようかと挙手した数人を見つめる。
「まず……
「クリーマさんの次に素早さが高いのは僕だしね。能力も斥候向きだし、任せて欲しいかな」
Afは【アメイズメント】使いの青年だ。
派手な見た目をしているが、これでも密偵や撹乱に長けた能力をしている。キラリと星が飛ぶようなウィンクはその自信があるからだろう。
スキルには即座に戦場から離脱できるものもあるので、今回の偵察にはピッタリだ。
本人的には、地味な仕事じゃなく派手な──それこそ職業レベルで取っているマジシャンのような役が欲しいかもしれないが、彼が存外真面目であることをここのメンバーは誰よりも知っている。
一人目はAfで確定し、アルレキーノとハイタッチする爽やかイケメン二人組を横目に二人目を決める。
「Afの邪魔にならないアタッカーかタンクが欲しいな」
「アタシが行くか?」
「武蔵野姐さんは戦いに夢中になりそうだから却下」
「ちぇっ」
梅色の狼耳を持つ美女がつまらなさそうに口を尖らせた。
花魁のような賭博師のような派手な着物を着た彼女は「武蔵野」という【花札衛】使いだ。使っているデッキの通り賭け事や運試しが好きなギャンブラーで、私とは違い攻撃をモロに喰らうタイプの防御型タンクだ。
興味があることにトコトン突っ込んでいく性分なので、気になることがあっても様子見で終わらせないといけない斥候は気質に合わないだろう。
「んじゃあオレか」
「ボクかな?」
息のあったセリフをかけてきたのは水槽仮説やAfより下の年齢に見える、背の低い少年コンビだ。
蒼く透明に輝く角を持った竜人が「かす△てら」。
顔にぬいぐるみのような縫い目があるスタッフド・トイという種族の少年が「@あっとまーく」。
この二人は兄弟であり、どちらもアタッカーに特化している。
因みに見た目がショタなだけで中身はショタではない。私たちはコイツらが宅飲みで一升瓶を三つも空にしたことを知っている。
純粋なアタッカーであり、そこそこ小回りも効くので、どちらかが行くのが正解だろう。
ではどちらにするか。
「じゃあコイントス。当てた方が行くってことで」
「じゃ表」
「裏〜」
適当に一枚取り出したユグドラシル金貨を親指で弾き、叩くように手の甲に落とせば、出たのは表だった。
「じゃ、かす△てら行ってこい」
「了解。Afは今から行ける? 装備整えるなら待つけど」
「いや、大丈夫。普通にフル装備揃ってるから」
「チョーカーは外して行けよ〜あとデッキ」
基本的に外に出る時はギルドの通行証であるチョーカーと、大切な宝であるデッキは置いていく。どちらも他人に取られる訳にはいかない。
Afはアルレキーノに、かす△てらは弟にその二つを預け、ギルドの出口へ走って行った。
残った我々は何かしら報告を受け取らない限り待機だ。
「待ってる時間で何する?」
「そうだなぁ……アルシエル達は私たちの不安と異変を感じて集まったんだよね? なら他のNPCにも状況を伝えた方が良いんじゃないかな」
「そうだね、意思がある以上不安要素を残したまま万が一の戦闘が起きるのは避けたい。一度この場は解散しよう」
「それにそれに、他のミュートリアモンスターにも会いたいしなぁ……っ! フヘヘ、夢のようだぜ」
「うわぁ」
涎を垂らしている一人は無視して、一度各々の担当区域を回ることとなった。Afとかす△てらの分は火炎瓶とあっとまーくがやってくれるそうなので任せる。
私は解散を宣言し、チョーカーを起動して10階に飛ぶ。
因みに、私たちシャカパチ禁止同盟は全員がハイ・サモナーの職業を持っている。NPCが持っているとただ召喚魔法が強くなるだけだが、プレイヤーが取得すると設定したNPCにも有利な効果が得られるのである。
主に自分が作成者であるNPCに適用され、転移の際〈上位転移〉じゃなくても一緒に飛ぶことができる等、NPCが恩恵を受けられるのだ。
基本作るNPCは遊戯王のモンスターしかいないので、決闘者ならエースモンスターと戦うのは夢だよね、と全員がどこかしらのタイミングでハイ・サモナーの職業を取得しているのだ。
ユグドラシルのモンスターを召喚して戦わせる、というよりはNPCと共闘する時に恩恵を受ける為、という面が強い。
今回もその効果を使いアルシエルをチョーカーの発動に巻き込んだ。〈上位転移〉と同じでどこかしら接触していた方が良いため、少しドキドキしたけれど彼女の手をとらせてもらった。白磁のような白さの細い指は触れただけで濁る芸術品のようで、こちらからは力無く触れるのが精一杯だった。
しかし、察したのか彼女から優しく握り返され、照れてしまった顔は彼女にはっきりと見られただろう。
マスターとしてまた情けない一面を見せてしまったが、いつかの「アルシエルはいずれインフルエンザにも効くようになる。というか現在進行形で効いてる」という妄言も聞かれていただろうから、もう怖いものは無いかもしれない。
「まさか戻ってくることになるとはね」
別れの挨拶をしたはずの空間に、思わず苦笑する。隣にいるアルシエルにも最後の別れをしんみりしたというのに、まさかこんなことになるなんて。
この電子の楽園が未だ続き、さらにNPCの自我の発生というおまけまで付いてきたのは、喜んだ方が良いのだろうか。
「少なくとも、私たちはマスターと話せて嬉しいですよ、とても」
「それは疑ってないよ」
アルシエルとは、なんだか心……あるいは魂の深いところで繋がっている感覚がある。糸というよりは、美しい絵の具で、私とアルシエルの中心を繋ぐように、いっぽん線がひかれたような感覚。
その絵の具は決して落ちず、朽ちることがない。上等な油絵具のように。
そして、その線はアルシエルの他にも細くだが繋がっていると感じる。
もはや当たり前になりすぎて、逆に深く感じ取らないとわからないほどの身体の一部。
その線が、だんだんと短くなってきていた。
「ますたぁ! 無事だったんですね!」
「心配したんだぞ、もー!」
「ほっほっほ、どうやら杞憂だったようじゃの」
集まってきたのは、天気の下級モンスターたち。上から【雪天気シエル】【雷天気ターメル】【晴天気ベンガーラ】だ。
雪のようにふわふわと笑う子、雷のようにピリピリと怒気を飛ばす子、晴れの穏やかな笑みを浮かべる者。
三者三様の言葉に思わず笑ってしまう。
彼らも私が作ったNPCであり、この10階を守護している存在だ。
空中に浮きながらわちゃわちゃと動き回る様子は絵本の中のようにメルヘンで平和的。しかし心配をかけたのは本当だし、早めに状況を共有するために眺めるのはここら辺で我慢しよう。
「私たちギルドメンバーは全員無事だよ。君たちがこうして動けるようになったみたいに、色々と周りに変化が起きたみたいなんだ。まだ情報は揃ってないけど、それを伝えに来たんだよ」
「とつぜん、ますたぁの不安がつたわってきてびっくりしたの」
「広間で何かあったんじゃないかって、アルシエルの帰りをずっと待ってたんだからなー!」
「今はまだ詳しいことはわからぬか。わしらが手伝えることはあるかのう?」
今は取り敢えず偵察二人の帰り待ちなので、あまり下手なことはできない。
一先ずここにいるNPCを全員集めて欲しいと伝えようとすると、そのタイミングで残りのモンスターも集まってきた。
「アルシエルの連絡どおり、無事みたいね」
「ハロー、マスター。こうして話せるようになって嬉しいよ」
「あ、あの、ご無事でなによりです……」
オーロラのようにきらめく魅力を放つ者。曇りのようにミステリアスな雰囲気の者。雨のように落ち着いた子。
【極天気ランブラ】【曇天気スレット】【雨天気ラズラ】の三名だ。
これで天気モンスターは全員……いや、アルシエルの衣装替えでもある【月天気アルシエル】はいないが、揃ったことになる。月天気はアルシエルの第二形態として採用しているため、戦闘が進まないと見ることはできない。
アルシエルが事前に連絡していたらしいので、無事なこと自体はわかっていたのだろう。しかし、本人を見ないと不安は消えないもの。特に幼なげにデザインされているモンスターたちが明らかにホッとしているため、来て損はない。
改めて並んでいるのを見ると壮観だ。ある種の達成感すら感じるのはなぜか。
ついその光景に見入ってしまい、ターメルに小突かれる。
「あはは、こうして全員揃ってるのは良いなって思っちゃって」
「まぁ、デュエルだとモンスターゾーンの数が足りないものね」
「そもそも除外ゾーンと行ったり来たりで揃うことの方が珍しいからの」
天気モンスターはアルシエルを一体と数えても7体。モンスターゾーンはEXゾーンを加えても6マス。
フルメンバーは揃えられないんだよなぁ。
ベンガーラの言うとおり、効果的に除外とフィールドを反復横跳びするから横並びになるのはかなり有利になってからだ。
その点ユグドラシルはフルメンバーで囲って殴れるのが良い。天気モンスターは全員打点が高くないので、必然的に攻撃は数の暴力に頼ることとなる。シエルのみ棒立ちなんかが発生しないのは嬉しいことだ。
ユグドラシルNPCとしての天気モンスターは、全員が回避の高いマジックキャスターである。それだけなら簡単に叩けそうだが、主力はこの空間に付けられたギミックだ。
〈天候操作〉でも変えられないこの空は、戦闘の状況に応じて様々な天気模様を映す。
攻撃が欲しいなら雷を。
妨害が欲しいなら雨を。
デバフが欲しいなら曇りを。
回復が欲しいなら晴れを。
バフが欲しいならオーロラを。
阻害が欲しいなら雪を。
蘇生が欲しいなら虹を。
時には二つ、三つの天気が混ざりながらプレイヤーを襲うのだ。
具体的に言うと当たると大ダメージの雷が舞う中、雨によって魔法やスキルのクールタイムが増えたりMPが持続的に減ったりし、雪によってアイテム使用不可、なんてことになったりする。
虹は現実時間での3日ほど再使用待機時間が必要になるが、一度だけ死亡した天気モンスターを全員蘇生させる効果がある。
そんな中でこちらの攻撃を避けつつ無視できないダメージを与えてくる相手を捌かねばならないのだ。性格の悪さが滲み出ている。
私や天気モンスター達のような、回避型タンクは嫌われるらしい。
これはユグドラシルで知った事だが、プレイヤー間では回避型タンクはなかなかに罵倒されていた。ゲーム内掲示板でアンチコメントが書かれていたり、PVPに遭遇した時に回避型タンクだからと絡まれたこともある。
防御型タンクはそこまでヘイトを買っていないのは、攻撃が効かずとも“当たっている”からかもしれない。
天気にも言えることだが、攻撃の前にそのモンスターに逃げられると割とイラッとくるのだ。殴らせてくれない消化不良の不快感が湧く。
しかもあっちからの攻撃は当たるとなると更に燃料が投下され、結果回避型タンクは嫌われているのだ。
私がそれに気づいた時にはとっくにビルドをそれに特化し終わっていたし、今更変えるつもりもなかったので特に気にしなかった。
しかし、そのあまりの苛立ちようや嫌われ方に、これは逆に利用できると気づいたのだ。
天気というテーマは妨害が得意だ。相手の邪魔をしてこそ天気。相手のやりたいことをやらせないのが天気。
そもそもカードゲームは相手の嫌がることを率先してやるゲームである。
というわけで、回避を中心に魔法威力低下や攻撃力ダウンをばら撒きつつ遠距離から魔法を撃ってくる天気モンスターNPCが誕生した。
弱点は必中系の効果を持つ攻撃だが、それは雪の天気が阻害してくれる。雪の天気は「相手の特定ワードを持つ能力を一定時間使用禁止にする」効果を持つ。この特定ワードは必中、あるいは回避不可や回避率低下関係を登録している。
いやぁ我ながら嫌らしいステージだ。
まぁこの空間全体を巻き込む広範囲魔法とか、素のプレイスキルで解決されると何もできないんだけどな!
これはゲームなのだから、クリアのための糸口を残しておいた方がゲームらしいだろう。
悪評が出回ると言うことはそれだけ強いということだ。別に運営が禁止していないのだから自由に利用すれば良い。
ギルドメンバーからも「スキドレを張られた時だけ友達を辞めている」とお褒めの言葉をいただいている。
公式アプリが生きていた時は禁止裁定などもあったし、それに従っていたが、無くなった今は皆好きに使っている。
なんとなく長く禁止にいたせいで使いづらいカードや、裁定が複雑なので使っていないカードもあるが、スキドレはアプリ時代も禁止ではなく制限だった。
一枚しか積んでないのだから良いだろう別に。
こちとら最高火力が2400のか弱い天使族だぞ。マクロコスモスで全てを除外してやろうか。
結果的にデュエルとしてもNPCとしても、「単純な高火力で焼き払われると死ぬ」という同じ結果に辿り着いたのは面白いと思う。
この10階が最後のエリアだからこそ、その火力を放てるだけのリソースが残っていたらの話なわけだが。
ユグドラシル時代ではまともな出番は無かったが、無いほうが良いだろう。
ここに誰かが来る時は、イコールでギルドの最期の危機なのだから。
そのままサ終によって眠らせてやりたかった気持ちもあるが、彼らの私を見る目があまりにも信頼と親愛で満ちていたから、頼る時はちゃんと頼ろうと考えを改める。
なにも独りで抱え込むことは無いだろう。
こんなにも私には味方がいてくれるのだから。
【マッド研究員】
二つ名:B級サイエンティスト
使用デッキ:ミュートリア
レベル:100
カルマ値:邪悪
役割:生産、デバッファー
種族:人間
職業:アルケミスト、ハーミットなど
主要NPC:シンセシス・ミュートリアス
ギルド内で一番の変態。
白衣に眼鏡、ひょろっとした風貌の見るからに科学者の姿をしている男。外見はB級映画によくいそうな顔を作ったらしく、現実とは全く違う(現実の本人はもっと筋肉があるし眼鏡をかけていない)らしい。
「B級映画によくいる自分が生み出した化け物に反逆されて殺される愚かな科学者」という立場でミュートリアを愛でている。元々大のB級映画好きだった。サメ映画とゾンビ映画に詳しい。グロ描写を観ながら肉食えるタイプ。
その熱量でギルドメンバーをたびたび引かせているが、めげない。
デュエルではミュートリアモンスターが攻撃されても逆に攻撃しても笑顔なので、「ポーカーフェイスなら無敵」と言われている。
あまり勝敗に拘らないが、エースであるシンセシス・ミュートリアスには怪物らしい散り方をして欲しいと思っている。方向性は火炎瓶おじさんと近い。
ユグドラシルでは生産をメインに、デバッファーも担当する。現在ギルド内で唯一の生産職なため、アイテム製作を全て担当している。忙しい。
現実では小卒の貧困層。
そこそこ優秀な営業の仕事をしながらB級映画を観たりミュートリアにハッスルしていた。ブラック企業が生み出した化け物はコイツかもしれない。
本人は理系でもなく強いて言うなら体育会系。筋トレは日課。
そこまで生活に余裕があるわけではないので、ミュートリアに関連する事以外は課金を控えていた。
意外と財布の紐が固く、節約する性格。