※この世界における遊戯王カードの効果は現在調整中です。   作:月日は花客

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5:偵察報告

 

「そういえば……ますたぁは、どうやってわたし達のことを知ったんですか?」

 

 偵察の二人が帰ってくるまで暇だと言えば、シエルがふと気になっていたらしい事を聞いてきた。

 モンスター達は自分が架空の存在であり、またカードゲームのモンスターである事を知っているが、どうやって私が遊戯王というものに出会ったのかは知らないようだ。

 もしかしたら、遊戯王アプリ時代の記憶は無いのかもしれない。やはりユグドラシルでNPCとして作ったことで何かしらこの不思議な現象が起こったと考えるべきか。

 シエル以外の者たちも気になっていたらしく、視線が私に向く。

 どこから話すべきか、と私は少し頭を傾けた。

 

「私が遊戯王を始めたのは、ユグドラシル発売よりも前だから、えーっと……15年くらい前かな」

「人間としてはかなり前に感じますね」

「当時の私はまだ未成年でね。まだ画家として働き始めたばかりで、お金も無かったからユグドラシルに使うような大きな機材は買えなかったんだ。簡単なヘッドセットのみで遊べるものを探す必要があった」

 

 両親が居なくなってからは、パトロンを名乗り出てくれた富裕層の人のためにひたすら絵を描いていたから、画材代なんかで碌に貯金もできていなかったのだ。

 安いヘッドセット一つで遊べるゲームは限られていて、当然流行っていたアクションゲームやFPSはスペックが足りなくてできない。

 そんな中、目に入ったのが細々と運営が続けられていた遊戯王の公式オンラインデュエルアプリだった。

 内容はデッキ構築とデュエル、簡単なチャット機能くらいしか無く、運営だけでカツカツなのか定期的なメンテナンスはあるものの新コンテンツのアップデートなんかはもうされていなかった。

 それでも基本無料の課金方式だったから、ライトに遊ぶくらいはできるだろうと当時の私はなんとなくインストールしたのだ。

 

「そこで、最初に選んだデッキが君たち【天気】だった。選んだ理由は……なんだったかな、君たちみんな画材を持ってるから、親近感があったのかも」

 

 初心者ボーナスということで最初に無料でデッキを一つもらえるのだ。まぁ最低限テーマとしての動きができて、テーマ内カードが揃えられた誘発も捲り札も何も無いデッキだったが、当時の私はそんな用語も知らなかった。

 幼い時からカラフルでキラキラしたものが好きだったので、デッキ内で唯一ホロ加工が施されていたアルシエルに惚れたんだっけなぁ。そこからモンスターが全員何かしらのペンや筆を持っていることに気づいて、決めた気がする。

 効果や使い方なんてまともに見てなかった。

 そしてそのまま簡単なチュートリアルを終えたら、あとは自由に遊んでくれとばかりに放り出されてしまって……。

 

「何もわからないままオンライン対戦に潜ったら、相手がかす△てらだったんだよね。あっちの方が歴が長いから当たり前に負けたけど」

「かす△てら様は先輩だったんですね……」

「あの兄弟がいちばん決闘者歴が長いよ。私は11人中5位くらい」

 

 歴が長いのに最後に行き着いた先が「相手は殴れば死ぬ」なのはどうかと思ったが、かす△てらはデュエルでは容赦無かったものの初心者の私に優しくしてくれた。

 初めてのデュエルが終わった後、かす△てらはチャットで「対戦ありがとう。もしかして遊戯王は初心者?」と話しかけてきたのだ。

 素直にさっきの戦いが初めてだったと言えば、「うわ、普通にぶん殴ってごめん。初心者狩りのつもりは無かったんです。良かったら教えますよ、チュートリアルだけじゃわからない要素とかあるので」と丁寧に天気の動き方や誘発の存在、自分が使っている竜輝巧はどういう戦い方をするのかなんかを、簡単に教えてくれた。

 なんなら自分が負けても良いと、実戦形式で強い動きやコンボをレクチャーしてくれたのだ。

 今思うと、せっかく入ってきた新人を逃さないように必死だったのだと思う。

 もうその時点でアプリ内には人が少なくなっていて、同じ人と連続でマッチする事も少なく無かった。引退者と新規の天秤が並行になっていなかったのだ。

 流石にここまで丁寧に教えられ、戦績欄に傷が付いても優しく教えてくれる相手がいると、プレイしなくてはという使命感も湧き、しばらくかす△てらとのフレンドマッチで戦い方やマナーを習っていた。

 その後、弟のあっとまーくや同じく歴の長いAfと出会い、デュエルを通してコミュニケーションを続けていった。

 そうしていつの間にか11人の決闘者コミュニティが誕生し、アプリがサ終しても切れない友人関係となったのだ。

 

「そんな経歴が……。ふふ、最初に私たちを選んだのはセンスがいいわね」

「まぁ、仲良くなるほどにデュエル中の罵詈雑言もお互い増えていったんだけど……遠慮がいらない相手、と言えば聞こえは良いかな」

「ついこの間も、【王宮の勅命】を先攻で張られて『お前には人の心が無いのか! この悪魔! 犯罪者! 前歯全部折れろ』って言ってたもんね」

「それは忘れてもらっていいかな」

 

 デュエル中の発言はモンスターに聞かれているとわかった今なら、きっとみんな語気も抑えられるだろう。たぶん、きっと、おそらく。

 しかし我ながらよく続いているなと過去を思い返して感心していると、脳内に〈伝言〉が届く。

 どうやら偵察隊が戻ったらしい。

 

「じゃ、私とアルシエルは一旦広間に戻るね。みんなは好きにしてていいから」

「マスター、また今度沢山お話しよーねっ!」

「気をつけてのう」

 

 またアルシエルの手を取って広間に戻る。

 これにも慣れないといけないな。そもそも人と触れ合うことに慣れてないから、手を繋ぐだけでドキドキしてしまうのも仕方がないのだ。

 続々と広間に戻ってくる他メンバーを見ていると、やはりそれぞれ個性がある。

 *フラワ〜*とローズマリーは*フラワ〜*がローズマリーの腕に手を回して優雅に着地。

 あっとまーくは【デストーイ・クルーエル・ホエール】の背中に抱きついて着地。

 マッド研究員はミュートリアスの触手の一本に全身で貼り付いて着地。

 なかなかにシュールだ。華麗なのはアロマコンビしかいない。

 他メンバーはモンスターの都合か一人での移動だが、モンスターには会えたからかさっきよりも満足そうにしている。

 そうして席に着けば、まもなくかす△てらとAfが帰ってきた。体力が減っている様子は無いから、一先ず安心する。

 

「おかえり、どうだった?」

「取り敢えず戦闘は無かったよ。でもかす△てらが入り口に仕掛けてあった即死トラップを忘れて踏んで一回死んだ」

「だ、大丈夫だったんですか!?」

「黄金林檎のシャンメリーの効果で復活できたわ。あぶね〜飲んでて良かった」

「いや、即死トラップの場所忘れるなよ」

 

 即死系のトラップは維持費が高いため入り口にも2〜3個しか設置していなかった筈だが……何故ピンポイントに引っかかった。

 シャンメリーを飲んでなかったらどうなるかわからなかったぞ、全く。流石にこの状況では気楽に死にに行けない。

 アクシデントはあったものの、外は平和だったらしいのが幸いか。

 しかし二人はどうにも、自分が持って帰ってきた情報に頭を悩ませているらしい。どうやって話そうか、とAfが顎に手を当てた。

 

「僕らのギルドってニヴルヘイムにあったよね?」

「うん、ニヴルヘイム線霧の大森林北エリア廃神殿前」

「駅名みたいに」

「周囲も霧と森で囲まれてた筈なんだけど……なんか、岩地? 荒野? になってるんだよ」

「はぁー?」

 

 うちのギルドはホーム系ダンジョンである「大要塞城」を攻略しギルド化したものだ。大要塞城のあとに何かカタカナが並んでいた気がしたが、忘れた。

 見た目としては城だ。それ以上でも以下でも無い。攻略も多少手こずったが初見でクリアできる程度のものだった。

 霧が深い森の中に建っていて、6階あったのを10階まで増築し、内部を改造、装飾し、“あるもの”を付け足して完成させた。

 周囲は木々に囲まれ、霧が深いときは探索系のスキルが無いとまともに進む事もできない土地だったが、それが今は辺りに何も無い荒野になっているらしい。

 あってせいぜい細い川や岩山で、霧の森の要素は一つも無いそうだ。

 

「地形もガラッと変わってるし、山の位置なんかから見て霧の森が全部枯れたってわけじゃなく、完全に別の場所に移動したんだと思う」

「隠蔽性がまるで無い。なぁ何不何(カフカ)、お前のとこの奴らは全員無事だったか?」

 

 かす△てらが視線を向けたのはクッションにもたれかかりながら話を聞いていた蟲だ。

 蚕蛾と蜘蛛、人間を混ぜたような姿をしていて、白い覆いによって目は見えない。その人間に近い上半身はやる気のない白ジャージを着ている。

 外見の人外度が高いわりに、どこから出したのかプリンを食べながらだらけている姿は物凄く人間臭い。

 こいつはアカウント名を「何不何(カフカ)」と言う。このギルド内で一番の自由人……いや、割とみんな自由だから、一番の面倒くさがり屋、だろうか。

 何不何はダルそうに手に持ったスプーンを揺らして、儚げな見た目からは想像できない低い声で答えた。

 

()()問題なーし。でもギルドを隠せないのは問題だろうね。目立つギルド程よく狙われるもんだ」

「そうなんだよ、荒れた平地にドーンとデカい城が建ってるからさ、めっちゃ目立つんだよね」

「ギルド入り口や一階は森林の地形に有利になるよう調節してるから、このままだと恩恵が受けられない。し、そもそもここはどこなんだって話になるんだよね」

 

 Afがため息を吐く。

 周囲には荒れた土地が広がるばかりで、近くに何かあるわけでもない。

 そんな中に突然立派な城が生えているのだから、このまま放置していたら違和感も凄いし、不審に思われるだろう。

 

「うーん、本格的にユグドラシルじゃ無いというか……」

「ギルドごと、異世界に来たって言われたほうが理解できるな。ラノベみたいな展開だけど……」

「らのべ?」

「若者向けの小説のことですよ、火炎瓶さん」

 

 NPCやギルド周辺の異変を考えると、ユグドラシルとは違うシステム、環境になっていることはよくわかる。

 信じ難いが、私たちはユグドラシルの姿とギルドのまま、異世界に転移してしまった……それによりNPCが自律し、生きたモンスターとして動くようになった。

 つまり、この世界が今の私たちの現実となってしまった。というわけか……。

 

「……元の世界に戻れないってのは、あるかな」

「十分あり得るだろうね。僕はそれでも良いけど、他のみんなは……当然、ショックだよね」

 

 Afが心配げに私たちを見た。

 身体も人外になった人の方が多いし、なによりリアルでの生活が丸ごと無くなり変化したのだから、人によっては絶望ものだろう。たとえ遊戯王のモンスターが生きている世界となっても、私たちには私たちの生きる世界があったわけだし。

 まぁ……でも、私はそんな極端にショックでは無いかな。

 家族はもう居ないし、絵を描くことは好きだったけどパトロンの言う通りに描かなくちゃいけないから自由な絵は無かったし。趣味で描こうにも画材もパトロンの人たちがお金を出しているから、それは使うことは許されずゼロから買わないといけない。

 売れたとしても、商売相手が富裕層だからってドンと大金が貰えるわけじゃないし。

 不安定な収入だから、パトロンや依頼人がいつ消えるかわからなくて未来への不安も大きかった。

 スランプが来たり、私の絵が飽きられた瞬間、私は路地裏で物乞いをする生活になるんじゃないかって。

 それならば、頼れるギルドのみんなや私について来てくれるモンスター達がいるこの世界の方が、よほど良い。

 そう考えていると、なんだか他にもチラホラと、今の私みたいに微妙な表情をしているメンバーが多くなってきた。

 

「まぁ……あっちにめちゃくちゃ未練がある、とかそういう訳ではないし」

「そもそもみんなで遊ぶこと以外は灰色の毎日だったからなぁ」

「人外になったのはびっくりだけど、独りじゃないし」

「そうそう、みなさんが居るから、あんまり怖くないんですよね」

 

 次々と「別に良くない?」という声が上がる。

 心配そうにしていたAfやモンスターたちも、その軽さにすこし驚いているようだ。

 

「ま、ギルメン勢揃いならなんとかなるだろう」

「そーそー、今はモンスター達もいるからむしろアドだって!」

「新生シャカパチ禁止同盟ってことで、やってけそうじゃんね」

 

 微妙な空気はどんどんポジティブな言葉に変わり、笑顔も増えていく。

 私とAfは、それにホッと安心する。

 絶望はデュエルの中だけでいい。自分の人生に絶望する友達は誰だって見たくない。

 

 しかし、これからの世界を受け入れたからといって全てが好転したわけではない。

 私は話をリセットするために、手を数回叩いて目線を集める。

 

「みんな今の身体に納得したのはいいけど、ギルドが変な場所に飛ばされたのは解決してないからね! 周辺が変わった以上情報収集は緊急!」

「そ、そうですね。安全と決まったわけじゃないんでした」

「はーい、という訳で、出番でございます。ルーエさん」

 

 私は、軍服を着た仮面の男に声をかけた。

 黒い軍服にマントを羽織り、銃の照準に見える模様が彫られた仮面を着けた人型のその人。

 アカウント名「アングリフ=ルーエ・ツァーンラート」。長いのでルーエ。

 彼はその仮面を外し、その彫られた照準の模様と全く同じである瞳を露わにする。

 

「ギルドの長として、貴方に『ワールド・ゲイザー』の行使を命じます」

「……待ってた。久々の要請だ」

 

 その瞳孔は、ここではない()()を見つめているように見えた。







【*フラワ〜*】
二つ名:香る花園乙女
使用デッキ:アロマ
レベル:100
カルマ値:極善
役割:ヒーラー
種族:アルラウネロードなど
職業:ドルイド、ハイ・ドルイドなど
主要NPC:アロマリリス-ローズマリー

ギルド内で一番のお嬢様。富裕層。
身体のあちこちに花や草木を纏った、ふんわりとした雰囲気の美少女。緑色をメインにカラフルな花々がアクセサリーやドレスの装飾として咲いている。
見た目も中身もご令嬢なので、外見と性格に一番齟齬が無い。
常に敬語で、ニコニコとした落ち着きを持っている。富裕層によくある傲慢や見下しが無いため、貧困層のメンバーもなにかと彼女を可愛がっている。
ちなみにギルド内最年少でもある。シャカパチ禁止同盟の姫と言えるだろう。
使用デッキはアロマ。かわいいから。
あと常にLPの優勢をとっておきたいから。
デュエル中も丁寧な態度は崩さないが、手を抜く訳では無い。普通にメタカード入れるし、LPの優位を逃さない。
いつもふわふわニコニコしている彼女の「何かありますか」は普段の暖かさが微塵も感じられないという。
ユグドラシルではヒーラーを担当。
様々な種族が集まっていて統一性が無いメンバー全員を最大限回復できるようにビルドしているので、攻撃や耐久は完全に捨てている。しかしその分回復力は高く、かつ絶妙なタイミングで回復をくれるのでユグドラシルでのプレイヤースキルはメンバー内最高クラス。
現実では富裕層の中でも最上位クラスの金持ちである巨大企業の役員の娘だった。
そのため幼い頃から勉学や習い事、作法を詰め込まれており、個人の意思を無視した「役員の娘」としての扱いを受けていた。
娯楽や自由時間が一切無く、企業に使える存在となるため締め付けられた日々を送り、ようやく自立し自由な時間ができた時────奴は弾けた。
幼い頃遊べなかった事を取り戻すかのように遊戯王及びユグドラシルに熱中し、ガチ金持ちの考える「高額」を課金しまくった。仕事によって得た自由に使える金を全て注ぎ込む勢いで課金した。
なまじ優秀なのでご令嬢と廃課金勢の顔を完全に使い分けていた。
大切なお友達であるギルメンと少しでも長く遊び続けるため、その課金した恩恵は自分だけでなくギルド全体に行き渡るようにした。
ぶっちぎりギルド内課金ランキング一位の爆誕であった。
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