正和の勝利条件:眷属にならない。
「やっほ」
「そんな軽い挨拶ができる余裕、あるの?」
「ない。だから聞く。咲夜にかけた魔法のうち、どれを解いた」
「…解いたら困りそうな、死後が関わりそうな魔法以外。安心して、あの手紙のことは守ってるわ」
「何の話か、眷属にした後で聞いてあげる」
「もう来た」
この日のためにと術式を組んでいたのだが、どうやらダメだったらしい。秋姉妹神社の横に置いてあった迎撃魔法をこんな容易く破ってくることが信じられない。あの迎撃魔法、俺でも壊せないようにしたんだけど。流石に本を壊すのはダメなので、デカめの魔法陣で俺ごと空間移動させる。野原。天気は曇り。…何で人間一人にこんなにも執着するんだこの妖怪は。ガキかよ。ガキだったわ。一発殴られる。なんとか防ぐ。悪いが、すでに魔法で作った膜は破られてるので殴るのは勘弁して欲しい。
「こんのっ…!バルムンク!」
「じゃあ私も。グングニル」
余裕綽々。そんな感じで武器を取り出さないでもらいたい。殺されるわけにはいかないので、次々と迫ってくる槍をバルムンクで防ぐ。が、この手応えからして多分折られる。そう遠くない先で折られる。折られてたまるかとこちらからも切り掛かる。が、槍で防がれた。どうなってんだ。こちらとしても折られるのは嫌なので、二つにへし折ってから形を変える。短剣と、ちょいとそれより長い剣。二つだけど、短剣の方に魔力を流す。長い方は少し脆くなるが仕方ない。
「正和、諦めなさい」
「なんで?」
「何を諦めたのか、剣を二つに折っても私には勝てない。そもそも、元の剣でも殺せないのよ。」
「だろうなっ」
短剣で思い切り踏み込んで刺す。目を瞑って、演説するかのように喋っていた。油断。完全に油断していたから、そこを刺した。長い剣を刺そうと一歩引いて、また刺そうとすると手を掴まれた。槍で太腿を貫かれ、地面に刺さる。しまった。捕まえられた。レミリアの力は簡単に振り解けるわけもない。大体ほんの少しの差で俺が勝っている力の差が、傷の差や体力の消耗で勝てなくなっている。何も出来ない訳じゃない。魔力を全力で放ち、レミリアを剥がす。短剣刺したんだぞ、なんでまだ立ってられるんだ。
「ほら、殺せない」
「殺す気なんかないからな」
「そう。正和、貴方は逃げることだけを考えている。つまり私は逃げ道を全部潰せば良い。逃げられないようにすれば良い。」
「人間一人、無視すれば良い…っ」
「そうも行かないのよ」
力が緩んだ。刺さってない方の足で無理やりレミリアを蹴る。そこまで力が入らなかったようだが、そもそも今の俺に莫大な力を求めないで欲しい。グングニルを抜き、投げ捨てる。バルムンクが何個でも作れるように、これも捨てたからといって何かが起きるわけではない。むしろ無駄な行為だ。ていうか、俺の作ったバルムンクって確か鬼が痛がったよな。なんであいつにそれが出ねえんだよ。星熊勇儀が痛がった代物だぞ。沸いた頭使ってもわからん。痛覚捨てたか?
「逃すと思うの?」
「逃げるつもりだ」
「…そう。丁度、あいつも準備が終わったみたいだし。頃合い、ね」
「あいつ…?」
出て来たのはフランドール。…ふざけんな。悪いが、このまま逃げさせてもらう。見えないようにした魔法陣じゃない。魔法陣なんか無くても魔法は使える。俺一人を運ぶくらいなら、多分魔法陣はなくても移動できるはず。移動しまくれば、いくらなんでも捕まることはない。…流石に、フランドールとレミリアのコンビは無理。多少の無理をしてでも空間移動をするべき。あの二人、少なくともフランドールには抵抗する術がない。あいつに掴まれたら動けないからな。その上速い。俺の完全上位互換だ。さてこうしてる間にかなり逃げたつもりなのだが、どうだろう。
「一回一回の移動が短いよね」
「こんなに弱らせたかしら…」
「…そんなに出力ないかな」
「弱ってるものね」
「じゃ、さっそく血を…あれ?」
逃げることに関してはだれよりも考えて来たつもりだ。天邪鬼?最近有名らしいな。ともあれ、油断してくれたのでしっかりと魔法陣を作れた。移動先は秋姉妹神社。永琳のところはダメだ。引き渡し先がレミリア達のところかもしれない。対価もないのに治してくれるかもわからない、ということもある。それに、今死ぬのも別に悪手ではない。太ももの出血を考えれば、死ぬのはそう遠くない。問題はそれまでにレミリアとフランドールに見つからないかどうかだ。人外になるのは避けたい。
「無理か」
「フランを連れて来た意味を考えて欲しいわ。魔法ならフランの方が得意なのに」
「え、こいつに自慢されたくない。その台詞私が言い直して良い?」
「…そんなことやってたら逃げられるわよ」
当てられた。どうやら正真正銘の本気らしい。運命を見始めた。まずい。どれくらいまずいかというと、多分この先全ての行動を潰されるくらいまずい。というか、多分そうなる。逃げの手を考える余地は無くなった。だが、少し考える余地ができた。レミリアの奴、全ての運命を見ようとしてるのか知らんが現実を見ていない。一人では見てからの行動が間に合わんのか、フランドールとのコンビを確実にするために見てるのかはわからん。そんなこと考えても詰みなのは変わりないのが残念極まるところだ。
「っ…」
「ああ、そういうこと。じゃ、合わせてよ」
「そうね、主に動くのはフランにお願いするわ」
第二ラウンド(相手が全部の手を潰してくる負け戦)