イシュトヴァーンよ永遠なれ   作:デブレツェン

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どうもこんばんはでデブレツェンです。
最近サボり気味ですが、どうにか元気ですよ。という訳で、今回はいろいろ詰め合わせです。どうぞ。


第八話 よろめき

ここはパーパルディア皇国の首都であり中枢部であるパラディス城。ここに住まうのは、皇帝とその一行。大広間には白い大理石が輝き、その中に敷かれた赤カーペットが美しい。

「ロウリアは、まだロデニウスの統一が出来ないのか?」

問いかけるのは皇帝であるルディアス。この男、便宜上より優秀な人物に書かせてもらうが、原作でも無能ではない。大臣程度の地位ならば確か列強上位にのし上がれた、そんな評価に困るお方だ。側近であるルパーサは、まさかそんな事を言うことができない。

「はっ。しかし、ロウリア軍がやられたのは事実。しかし、クワトイネにはございません。どうやらハンガリーという新興国が関わっている模様です。確定して居ない情報ですので、皇帝陛下のお耳に入れるのは少々恐縮ではございますが……」

「構わん。言え。」

「はっ……どうやら、そのハンガリーが、ロウリアの4400隻の船と350を超えるワイバーンを止めたと、観戦武官から最後の通信が送られて参りました。100以上が撃ち落とされ、数百の船が撃沈されたと……なお、これ以降通信がない事を加味すると、おそらく観戦武官は捕えられてしまったものと……」

場に、少しだけどよんとした雰囲気が漂い始めた。ロウリア程度の文明レベルで捕虜になることは、即ちそれを意味する。しかし皇帝はそれを払拭するように続ける。

「……そうか、それは残念だ。しかし、奴らのそれは何だ?よくある戦場伝説ではないのか。なるほど。そこまで配慮して余へ伝えたのだな。褒めて遣わす。」

「ははあ、ありがたき幸せ。」

ルパーサが少し頭を下げて礼をすると、周りがそれに驚愕の表情を浮かべた。すぐ恐怖に頼るまるで、この猛獣のような皇帝を飼い慣らしているのだ。この、ルパーサは相当の実力を持つ。そう解釈して差し支えないだろう。

「して、ルパーサよ。これからロウリアはどうする?余は、雑巾のように使い古す気ではあるが。」

「は。仰る通り、使えるだけ使うまでです。それでもロウリアは、まだ相応の戦力を抱えております。加えてハンガリーと言えど蛮族。我が軍を出動させるほどの事態ではございません。不躾ではございますが、皇帝陛下とその軍に置かれましては、今しばらくお待ちを。」

「ふむ。問題ない。」

また、全員が驚愕する。この男、何度でも言うが只者ではない。確か大化の改新の際、蘇我入鹿から刀剣を預かった俳優人が居るが、その位は肝が据わっている。何より、目上の工程に対して遜った表現と言え『命令している』のだ。信頼、勇気、実力、評価。やはりその全てがこの国で最高峰にあると見て間違いない。例えば、これがどこぞの鬼の棟梁であれば、『お前は私に指図した』と殺すことだろう。そうならなかった。それは、この関係性であるから起こりうる事なのだ。

「これから、具体的にどうするかをアルデと議論致します。」

「余も参加して構わぬか?」

「勿論でございます。」

この男ダメだ。意味が分からないほどの信頼が置かれている。もはや、語彙を持って表すのが難しいほど。この皇帝は幸運だ。例えば「ウィッシュ」のマグニフィコ王なんかは税金の節約をして大臣を雇わなかったのは失敗と見られる。こういう相談役を持つことは大事だ。逆に劉邦なんかが、こうやって勝った具体例じゃないかい?とにかくそういうこと。そしてこのルパーサは『こういう相談役』の部類に入る。この皇帝が多少謙遜した表現を行ったこと。これは、とにかくすごいとしか言いようがない。もっと言うと、この皇帝はあの暴虐無尽な皇帝ルディアス。それこそその凄さを裏付けている。そして彼は軽く一礼をしてから赤いカーペットを下って行った。道を開けるマスケットの群れを、何処までもゆっくり下って行った。その様子がまるで、何か表彰して見せつけてくるようで。私にはこれを到底耐えることのできないナショナリズムが根付いてしまっていると今更ながら。実際、私の存在は絶対にバレてないはずだ。

『こちらNo.1、今は白い恋人。13はルディアス、黒騎士はおそらくアルデ。洪水にお茶会を開く予定。カウンセラーが厄日。それがお開き。』

『こちら本部。了解。狼は七匹を食うか。』

『こちらNo.1、狼は七匹を食わず。繰り返す、狼は七匹を食わず。』

無線機の向こうから、少しだけよしっと喜びの声が聞こえた気もする。どうしてだろう、これほど緊張したのは大学受験以降だ。

『こちら本部、狼を殺す。繰り返す、狼を殺す。至急、白色と別れをつげろ。』

『No.1了解、これより恐怖を得る。』

そして、窓を乗り越えて出ようとする。勿論、誰も気づかない。皇帝の話に釘付けだから。

「ん?今何か聞こえたかね?」

「さあ、空耳じゃあないか?」

耳のいいものは順次気づき出すけど、もう後の祭り。どうして、一度侵入できた人間の目を盗めよう。

『恋は覚めた。繰り返す。恋は覚めた。』

しかし、彼はどうしても心配でならなかった。祖国ハンガリーへこれを持って帰るのは名誉であるけど、やっている事がまるでコソ泥。おまけに命懸け。何より、彼の不安要素は『カウンセラー』だ。

あんな人間、自分より何枚上手だろう。幾ら私が腰抜けのいばからいをしたとて、あの男には全て筒抜けな気がしてならないのだ。こうして一筋の不安を抱えつつ、No.1が帰投しようとしたその時、彼の心臓は止まった。

『No.1どうした。応答せよ。』

『あ……あ……見てる……見られてる。さっきの、相談役に……』

さっき巻いたはずの相談役ルパーサ。それが、こちらに向けて視線を向けて、煌々と眺めているのだ。そして、目が合った瞬間、まるで悪魔のようにニヤリと笑った。

『どうした、No.1、どうした!状況を報告せよ!』

「う、あ……逃げなくては……」

あの緊張は、要するにこの伏線だったのだ。この時、彼はこのルパーサに新たな類の凄みを感ぜられのである。この、そこはかとない恐怖。これが、このルパーサという有能の真髄だった。

「…………」

ずっと、格下で野蛮と決めつけて居たパーパルディア皇国。しかし人の脳みその大きさは決して変わらない。それを、彼は私に植え付けてきたのだ。私は、逃げたのではない。敢えて逃がされたのだ。舐めた、面白いという趣味趣向の面もあるだろうが、理由は一つ。そんな小僧を1人逃しても対してダメージにならないから。そして、それを誇示するためにわざわざ黙って居たのだ。ルパーサは、いつぞやの俳優人のようと言ったが、本当にその通りだと痛感した。

『こちら、No.1。舐めてはいけない。繰り返す。舐めてはいけない。』

こうして、私は城壁を下って行った。白い雲が空を覆っている。返答しないのは、無論この有能に悟られないためである。

 

 

 

 

 

「暇だね。」

「この流れ、前もやりませんでしたか?」

そう言うのはアンドルたち。ティサの艦長である。だって、鼠輸送しかする事がないんだ。それなのに、この前のトラウマのせいで、遊ぶのもなんだか癪だ。どうしようか。結局トランプとお酒に戻ってきてしまうんだ。

「兄さんたちでは何をしてるんだろ。」

そうだ。オルフィーのそれなら何かマシなことをしているかもしれないな。そう、期待に胸を躍らせて見てみると吃驚。

「いいかい?これが俺が3歳の時の写真で、これがアンドルが2のときで」

ああ、やりやがったよ。また始まったクソつまらないアルバム大会が。僕の黒歴史も全て筒抜けだ。心なしか、無線越しに聞こえる水兵たちの声も薄い。

「………見なかった事にしよう。」

そして周波数を弄ると今度はエマのマルギットに繋がる。マルギットでは、何かして居ないか。きっと、あのエマだ。何か面白いことをしているはずである。そのはずだ。きっと、そうだ。石油がたっぷり入った缶を背に無線機を繋げる。

「いいかい、エマちゃん。ファロってのはな、心を込めるんだ。」

「はい!頑張ります!」

「それじゃあ、掛け金100フォリントでいいk」

ぶつりと無線を切る。ダメだこりゃ。僕たちのまた一歩先へ、しかもイケナイ方向へと進化している。エマは、多分口車に乗せられたわけだ。違法賭博は違法なんだよ(?)。艦長、尊厳とリテラシーをしっかりと持ってくれ。頼むから。お兄ちゃんは悲しいよ。

「よっしゃ、じゃあ俺たちも賭け麻雀をやr…」

「やらない。僕はこの世で1番賭け事が嫌いだ。」

「ちえっ、しけてるよ。」

「奇襲されるよりはましだ!」

そうは言うけども、やっぱり暇。これは、何回目の往復だっけ。特に航路も変えてないので、何の面白みもない。だって、海なんてどこもかしこも同じ景色じゃあないか。全く、ドナウを見習って欲しいものだよ。

「さあて、針路そのままよーそろー。目標、イスカンダル!」

「あかん、アンドル艦長が宇宙戦艦ヤマトごっこ始めだした。」

「暇を持て余した者の末路だ。」

実際僕はもう手持ち無沙汰がすぎて、本当に辛い。頼みの綱も解けた。誰か、なんとかしてくれよ頼むからさ(切実)。

「お困りのようだねアンドル艦長。」

「あ、あなたは、すっかり存在を忘れられて居たリヒャルト総司令!」

「何か余計な一言が入った気がするが、まあ無視することとしよう。海が長い我々が提案してやろう。どうすべきか。どう言うのがいい?」

「えーとですね、簡単で直ぐにできて面白くて敵の警戒をできて飽きなくて何もなくてもできr……」

「あるわけねえだろカス」

そうして2秒で最後の命綱がプチッと切れちゃった。いや、キレたの方が適切。カイゼリン・エリザベートが羨ましいよ。アコーディオンにギターだぜ。ジョーカーが一つ抜けたトランプだけで耐え、それをこれまで禁じてきた身にもなって欲しいよ、本当の話。

「………アンドル艦長、結局、これしか無いんです。」

「……さんきゅー」

そして、キンキンに冷えたお酒を、喉に流し込んだ。冷燗にしてくれたのは、配慮という事にしておくよ。

「それじゃあ、安全な航海を願ってー(棒)」

「かんぱーい(棒)」

みんな、やる気はない。そりゃあ、こんなN回目安全航海祈願なんて、もううんざりだろうから。ああ、あの時の勝利の味が、とてもいい懐かしいよ。痛い目はごめんだけど。

「お前たち、いいか絶対手を抜くなよ。酒以外禁止!勿論ベロンベロンの酔っぱらいも禁止!情けないよ船乗りが吐くなんて!」

「えでもアンドル艦長もはいt」

「なんか言った?」

「ヴェ!マリモ!」

「よし。」

目的地は、まだまだ遠いぜこりゃあ。

 

 

 

 

 

城塞都市エジェイ

城塞都市エジェイには、クワトイネ公国軍西部方面師団約3万人が駐屯している。この、私が指揮する軍はクワトイネの主力と言ってよかった。

内訳は、ワイバーン50騎、騎兵3000人、弓兵7000人、歩兵2万人という大部隊。私は今回のロウリアの進攻をこの城塞都市エジェイで跳ね返せると思っていた。というか、ギムが攻め落とされて、もう一度戻ってきたこの今現在であっても、そう思っている節がある。何故ならば。

高さ25メートルにも達する防壁はあらゆる敵の進攻を防ぎ、空からの攻撃に対しても、対空用に訓練された精鋭ワイバーンが50騎もいる。

まさに鉄壁、まさに完璧。いかなる大軍をもってしても、この都市を陥落させることが出来るとは思えない。

「ノウ将軍、ハンガリー軍の方々が見えました。」

政府から協力するよう言われているため協力しているが、私は正直この国の土を踏ませるのが、あまりいい気分じゃ無い。ハンガリーは我が国の領空を犯し、あまつさえ力を見せ付けた後に接触してきた。信じたくないが、ロウリアの船もたった4隻でどうにかしたという。

しかし陸戦は何といっても数が大切。いくらその少数精鋭であろうと、60人程度の兵士でロウリアを相手取るのは、戦いというものを理解して居ないのか。そう思われても無理はないな。奴らはエジェイの東側約5kmのところにキャンプを作っている、政府が許可を与えたらしいが、先述の通り国土に他国の軍がいるのは良い気分ではない。ましてそれが、自分の守るべき土地であったら。何にせよ自分たちがロウリアを退ける事が出来るので、彼らの出番は無い。そう知らしめて、指揮官を少し揖斐ってくれよう。その時ドアがノックされる。しめた、きっと噂のハンガリーだ。

「どうぞ」

将軍ノウが立ち上がり、彼らを迎える。

「失礼します」

一礼し、室内に入る人間が2名。1人はスーツに変わった鎧の男、もう1人は汚い緑の男。

「ハンガリー国防軍、特別作戦中隊隊長の、エルと申します。」

「ハンガリー外務貿易大臣の、キシュ・レーチェルです。お会いできて光栄です。」

自分の着ている気品のある服とは違い、汚らしい緑の迷彩服を着た人物。これが今回の派遣軍の将軍というのが、ノウには信じられなかった。

「これはこれは、良くおいで下さいました。私はクワトイネ公国西部方面師団将軍ノウといいます。このたびは、援軍に感謝いたします」

まずは社交辞令から入る。最初の方から喧嘩腰ではさすがに可哀想だ。

「ハンガリーの隊長に大臣殿、ロウリア軍はギムを落とし、まもなくこちらエジェイへ向かって来るでしょう。しかし、見てお解かりと思うが、エジェイは鉄壁の城塞都市。これを抜く事はいかに大軍をもってしても無理でしょう」

ノウは続ける。

「我が国は侵略され、ロウリアに一矢報いようと国の存亡をかけ、立ち向かおうと思いますハンガリーの方々は、東側5kmの位置にある、あなた方が作った基地から出ることなく、後方支援をしていただきたい。ロウリアは我々が退けます」

ノウは邪魔者はひっこんでいろ、という意味を込め、このような発言を行った。相手も国の命令で派遣され、プライドがあることを承知の上で。予測通りその皮肉に訝しげな顔をするエルとやら。顔を見合わせてから大臣の方が話す。

「解りました。我々は基地から後方支援を行います。しかし、不躾ですが一つお願いが。」

「なんでしょうか」

「敵の位置、戦局を伝える必要があるので観測要因と機材をエジェイに置かせて頂けませんか?」

「わかりました」

ハンガリーの将は退室した。ノウは思う。5km後方から支援してくれとは、皮肉であり、実質的に5kmも離れていたら、何も出来ない。つまり何もするなという意味である。彼らにプライドは無いのだろうか?それとも、いや。信じられないがそこからやる手段があるのか?

「まさかな。」

そうだ、5km離れて攻撃なんて、不可能だよ。そして、今日もまたロウリアの挑発と、部下の怒りを鎮める日々。正直もう疲れてきた。そこに、これである。

 

 

 

 

「さて、設営と行こうか。まず持ってきてよかった迫撃砲。」

エルが数門取り出して見せてみる。それは82mm迫撃砲BM-37という迫撃砲で、ここには十門もある。ちなみに、これを運んだヘリコプターは帰らせた。カナタをここまで連れてくわけにはいかない。

「さあて、あとはどうするかな。」

「何、我慢くらべに疲れておるだろう。その立場を逆転させてやる」

エル隊長がにやりと笑った。しかしそこで、予想外の展開が起きる。

「隊長!大変です!ロウリアに動きがありました!」

「何だ。」

「ロウリアが……ここを離れました!」

「な、なに、本当か!直ぐに連絡を!作戦が根底から崩れるぞ……つまり奴らが向かうは……」

ごくりと生唾を飲み込んで、レーチェルが答える。

「……手薄極まりない状況となった、首都マイハークであると。」

全員の背筋に悪寒が走る。エルはこういう状況でも怖気付かない。

「攻撃ヘリは!?」

「帰りました!燃料がないんです!」

舌打ちして辺りを見回すエル。残るは、この迫撃砲のみ。私のプランなら今宵、眠気覚ましをなん度もしてきたロウリア兵を逆に叩き起こしてやるつもりだった。この、迫撃砲という兵器で。どんな強い酒であろうと、眠れないほどの恐怖に叩き落とし、ついでに主力の殲滅をする予定だったのである。

だがどうか。奴らはそれを察知したのか。

「ちきしょう、脳みそたこ焼きサイズだと思って居た連中に…!」

エルにも、一種リヒャルトに見られるような、脆弱な自尊心が備わって居たのである。一見、非の打ちどころのない彼が抱える瑕疵は、こういう重大なものだったのだ。

「落ち着けエル隊長。お子様が悲しむぜ。」

「レーチェル大臣生憎そういう気分じゃない。」

「違う。使うんだよあっためて。」

全員の頭に、疑問符が浮かんだ。こいつは何を言っているんだ。まさか、このワイバーン的な魔獣を還らせて、今からでも無料ヘリコプターとして使おうというのか。

「魔導士に頼もう。俺が頼んでくる。でも、くれぐれもこれは最終手段だ。迫撃砲と銃で対抗するのが、俺たちの領分だ。わかってるな?」

『サーイエッサー!』

「よし。しかし、いいなこういうのは。生物兵器も規制されない。何より、鹵獲時のリスクが現代兵器と比べて桁違いに低いな」

エル隊長が卵をそっと撫でる。そして、最後に少しだけ笑うと、そこに卵を安置して行った。

「よし、さっさと設置して、奴らがとんずらこく前にだ。ちょっとしたプレゼントをくれてやろう。」

「おう!」

そして、レーチェルとエルたちが、スナイパー含めたエジェイ駐在員とともに協力して設営する。迫撃砲のメリットは、その携帯性と臨時性。卒爾展開してすぐ去っていく。そんな変幻自在な兵器だ。

「よし、設営早いじゃないか。」

気づけば設営が終わっている。結構かかった気もするが、一応そう言った。

「さっさとやれよ……大丈夫か?」

「はい。半装填!」

「半装填よーし。」

「装填!」

そして、エルはわざわざ腕時計で時間を測ってから言った。

「てぇ!」

そのとき雷鳴のような大きな音と共に、無数の砲弾が空を切る。その音はエジェイにまで届いて居た。少なくとも、ノウには聞こえて居たのである。

「な、何だこれは……ロウリアか!?ロウリアなのか!?」

「3…2…1…弾着、今!」

しかしその仮説はこの完璧なタイミングに崩される事となる。この、ハンガリーの観測員が、そう言う度に奥の森に火の手が付くのだ。

「ど、どう言うことか。これがハンガリーか。」

しかしそれはまだ続く。どころか、左右から何か、ターンという変な音がする気もした。

「お、おい。ロウリアが素通りしていくぞ。」

「ま、まさかここには来ないのか?」

それとも追い払ったか。どういう状況かはわからないが、異常事態であることには変わりないらしい。

「よし、こんなもんだろう。やめ。」

「やめも何も、もう砲弾が無いんですよ。見栄を張らないでください。」

「後でお前は殺す。」

そして、エルはまたヘリコプターに戻ると、さっさと毛布を被った。レーチェルもそれに倣う。

「さあ寝ろ。明日は早い。なんせ、お偉いの読みが外れたんだ。帰れるかもわからない。いや、さすがに帰るのか。とりあえず一旦、ヘリコプターのためにもカイゼリン・エリザベートとの合流は必須だな。その時に色々やろう。」

「レーチェル大臣すまねえがそういう小難しい話は後にしてくれねえか。寝れない。」

「ああ、すまんね。」

それを終えると2人は風が木の葉を舞い上げる間に眠りについた。とても、深い眠りにである。

 

 

 

 

 

時を少し戻してこの日の昼。僅かに残った捕虜の生き残りや、負傷兵2名とカナタを乗せたMi –24P2機と輸送用ヘリコプターであるユーロコプターEC725カラカル1機が、帰路に付いていた。

「おや、あれは?」

カナタが指差した方向には、難民たちが集団で歩いていた。若干20名ほど。よかった、どうにか乗り切る。そう安堵したとき、負傷兵は異常を見つけた。

「おい、あれ!首相!あの旗!」

「ああ、ロウリアの旗だー!」

なんとそこには、趣味の悪い狩りに殉じる、ロウリア騎兵の群れが写って居たのである。

「あ、あれを止めるぞ!」

「いや、ダメだ。」

「燃料はちょっと余分にあるんだろう?それに、どのみち港で補給するしか無い。」

パイロットが呆れたように目玉をくるりと回すと、隣の補佐官に指示をした。刹那急にヘリコプターが傾いたのである。

「仕方ねえなちょっとだけ遊んでやるか!」

「最高だよあんた!!」

負傷兵はMP5を持ち、機銃手の肩を叩く。

「よっしゃやってやろうぜ。」

「へいへい。ちょっとだけな。俺はこいつ以外は拳銃しかないから、制圧は頼んだぜ病み上がり。いや、まだ上がってねえか。」

そうする間にも、ぐんぐんと距離は縮まる。そして、ロウリアの騎兵にも認識されるほどに近くまで近づくのは、そう遠くの話ではなかった。

他方、息を切らしてエルフたちは東へ向かう。この、ロウリアの侵攻から逃れるため。その矢先だった。後方からよく無い知らせが飛んだのは。

「ロウリアの騎馬隊だ!」

少年は少女の手を引いて逃げ続ける。その目に映るロウリアのホーク騎士団所属、第15騎馬隊隊長、赤目のジョーヴは、目の前の獲物に舌なめずりをした。

「獲物発見」

20名くらいの、女子供が草原を東へ歩いて向かっていた。3kmは離れているが、遮蔽物が無く、余裕で見通せる。ギムではいい思いをした。好きにしろという上からの命令は最高だよ。猫耳の亜人は、わめき散らかして泣いていたが、その悲鳴がたまらなくて。赤目のジョーヴは獲物を見てどす黒い感情が迸る。その顔は、まるで欲望に飲まれたその権化のようだった。

ロウリア王国東部諸侯団所属の中でも精鋭と言われ、一騎当千を謳われるホーク騎士団。どうやって、徒歩で逃れよう。

隊長、赤目のジョーヴはその中でも特に残虐な性格だった。彼は気に入らないと、戦場において部下を殺し、戦死扱いする。

「さてと狩るか。おい!あの亜人どもを、皆殺しにするぞ!!獲物だ!突撃!!」

「ひゃっはーーー」

騎馬隊は奇声を発し、エルフの集団に向かって走り出した。少年、パルンは、妹アーシャの手を引いてさっきより早く、その想像する100倍は早く走った。

「大丈夫、お兄ちゃんが必ず守ってやるからな!心配するなよ!」

「うん」必死で走る。こわい!こわい!!という、心から湧き上がる恐怖を飲み込んでどうにか疲労を誤魔化す。自分たちを本気で殺しにくる悪魔の集団。僕たちが何か悪いことをしたのか?神様は助けてくれないのか?

なんとかしなきゃ!せめて、アーシャだけでも守らなきゃ。

「お兄ちゃん、だめ!エレシアが!」

「いいから走れ!」

「うわああああああああ!」

ぎりりと歯を食いしばり、神を心から呪った。と同時に、妹の力ない手をグイグイと引く。1mでも、1cmでも奴らから離れなくては。そのためには、この絶望のチェイスに巻き込まれないようにするしかない。武器も魔法も体格も未熟な我々が、ロウリアの精鋭騎兵に勝てるだろうか、勝てないだろう。諦めるんだ、諦めてくれアーシャ。そうなりたくないなら、お願いだから。エレシアの目が絶望にのまれて剣が突き立てられるそのほんの1フレーム前。

「間に合った!」

パアンという音と共に、揺れるヘリコプターの上から鏖殺の一撃が放たれた。右手には、煙を吹かした短筒が握られている。

「誰だ!何だこの音は!」

夢中で気づかなかったが、このバラバラという異様で大きい音。悲鳴にかき消されてほぼ聞こえなかったが、こういうことだったのか。

「俺たちはハンガリー軍だ!その中でも精鋭のコロナ中隊!さあ、やってやろうぜ!イシュトヴァーン王冠の名を冠した、俺たちに勝てるならな!」

演説が終わると、卑怯にもまたCz75を飛ばして攻撃する。馬を打つと暴れるだろうから、ピンポイントで頭を撃った。十分地上に近づいてから、負傷兵2人は地上に降り立つ。

「さあ早く逃げろ乗れ乗れ!30秒だけ待ってやるよ!」

と言うと、カラカルが地上ギリギリのところにホバリングを始めた。すぐさま、エルフたちが殺到する。それを手を引いてエスコートし、乗せる。その中には、アーシャとパルンも居た。

「あの、友達がまだわるいひとに。」

すると銃手の1人がしゃがんで頭に手をぽんと置いた。

「大丈夫だ、俺たちが倒してやる。でもな、ちょっとだけ、目を瞑ってね。耳も塞いだ方がいい。ヒーローなんて、居ないんだ。」

「そんなことない!貴方達は僕とアーシャのヒーローだ!」

「そうか。それじゃあ、見てみるといいよ。ヒーローのやり方を。」

ふうっと煙草のように深いため息を吐く。敵は、すぐそこ。20人はほぼ乗った。機関銃を撃つのは誤射の危険があるからまだ無理だ。

「これ以上待てねえ、どうにかならねえか!」

「ガンポッドは使えねえぜ」

「くそっ!奪われてたまるかあああああ!」

そして、負傷兵がMP5を持ってヘリコプターから全速力でかけ離れて行った。せめてもの戦果を苦虫を噛み潰すような表情で抱える馬を追いかけて。

「待て!」

「待てと言われて待つものかな?」

そして、それが逃ていくのを見逃すしかなかった。

「ちきしょう!」

拳銃は弾切れ。迫るのは暴徒と化してしまった騎兵たち。どうするか。MP5をぶっ放せば当たるかもしれない。己のエイムを過信させてくれる銃ではないんだ。軽機関銃は。

「でも……やるしかないでしょ!」

後ろからの声援に私は鼓舞されて、もう一度銃を構える。周囲を包囲する騎馬兵を、まずは1マガジンで殲滅。断末魔が平原に木霊した。その様子を恐怖の目で見守る兄妹。そして、その中で無双する負傷兵2人。しかしその現状はどんどん悪くなっている。いくら銃も、多勢に無勢。時間の問題だ。

「……チキショウ見てられねえんだよ!」

その時一機の攻撃ヘリコプターが痺れを切らしてガンポットを放つ。そして、馬達は暴れる暇なく倒れて行った。

「ありがてえ、フレンドリーファイアがなかったのは幸いだ。」

「お兄さん!君もかけるんだ!僕たちが、賭けに出て疎開したように!兵隊さんも賭けるんだ!」

そうだ。俺の人生いつもギャンブルさ。いつでもそうだし、そうじゃなかった時はない。目を照準に合わせて、狙うはマント翻す赤目のジョーヴ。

「ち、ちきしょう、部下達が……!」

「お前、今まで部下を殺したんだろ。災いしたな。」

「な、何をほざいて」

「お前がもし、部下を殺して居なければ!その部下がここにいれば!俺はとっくに死んでいた!」

そして、サイトを通して、その騎馬兵を見据える。あっちは居直ってこちらへと向かってくるようだ。ガンシップの五月蝿い音がする中、私は息を研ぎ澄ます。

「大丈夫だお前ならできる。」

同じ負傷兵の声に鼓舞されて、さらに私はそれを集中力に流し込んだ。体が重いけど軽い。照準はあった。セミオートに切り替えた。あとは、一発勝負。そして、その集中の弾丸は、金色の尾を引いてそれに向かって行った。彼の心持ちは、さながら扇の的に出る那須与一のようだった。そして、それはお話の通りに行ったのである。女官に当たらず、扇を射抜いたのだ。

「やったぞ!やったぞ!」

指揮系統を失ったどころか、壊滅状態のロウリア騎兵は引いていく。ああ、なんといい気分だ。エレシアだったか、その女の子を最後にカラカルへと乗せて、後にする。最後、私たちは死体に向かって十字を切った。

バラバラと音がして難民の輸送が始まる。夜は近い。遅かれ早かれ、きっとあと近くの村には届かなかっただろう。港へつけばまだどうにかなるはずだ。最もこっちに移民を、とかは御免だが。こうして世闇の中に消えたヘリコプターと騎兵隊。その二つが再び交わることは、もうないだろう。

 

 

 

 

 

 

「パーパルディアがそれなりにやばいと言うことはわかった。しかし、対策を練ろうにも向こうの技術がわからん。そういうわけでスパイを送ったが。」

ヤーノシュがやれやれというように首を振った。

「やっぱり向こうの技術は大したことないらしいぞ。」

聞くところマスケット銃に戦列艦。だが当然ながらロウリアと比べ物にならないほど厄介な相手だろう。しかし、ヴィクトルは全然別の場所を見て、さらにそこに別の意味での解釈を持ってきたのである。

「ああ、やってしまった。怖くないのかい?」

「何が。俺たちはオールマイティを握っているんだ。勝てるさきっと。」

「違う。奴らは持ってるんだよ」

ヴィクトルの声は、そして書面を持つ手は震えていた。彼は、冒頭のスパイの感じとったあの恐怖感を共有して居たのである。

「俺たちに対抗する、よろめきを。」

 

 




いかがでしたか?
最後のよろめき云々は、トランプ ナポレオンって検索すれば分かりますよ。
それでは次回もお楽しみに。

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