テストがやっと終了しました。これから投稿頻度は少しマシになると思います。
さて、今回からパーパルディア編です。どうぞ。
パーパルディア皇国。この国は、元々はただ正当防衛のために軍事力を上げた国だった。でも、それだってタダではない。そうやって、打ち負かした国を吸収せねば、その軍隊を維持することはできなかったのだ。こうして、負のスパイラルにハマったある種可哀想な国が、この国家だった。これは、どうしてだろう。鼻の内供なんかと似ている国だなと思ったヴィクトル。内供と同じで、被害者意識を前提とした自尊心、という点か。それとも、ただ被害者意識が齎した悲劇、というところか?そんなことを考える暇もなく、いつのまにかでかい軍隊と、列強という看板を首に掛けられていたのである。
「……兎に角、あのパーパルディアとは如何にかせねばならんな。」
「ああ。ロウリアとの条約は、結べそうだが国王の独断だ。あくまでな。それに、ダブルヘイクで海賊船に勝てるかどうか。いや、無理だな。多少のアドバンテージがあるとはいえ、厳しいだろう。」
「……そうか。なら、対空砲とか、もっと威力の高いカノンなんかを輸出するのはどうだ?」
「いや、それも厳しい。」
ソンバトヘイがすっと、紙を突き出した。そこには、不足資源の一部がつらつらと書き連ねてあったのである。その、まるで何か見せつけるような資料にやりどころのない感情を抱くヴィクトル。だが今そんなのを気にしている暇はない。その紙をまるで奪い取るように、ソンバトヘイから貰うと、それに目を通した。(暫定)翠星石と目配せするヤーノシュ。他方で、ヴィクトルの顔はどんどん真っ青に。
「……ああ〜そうじゃん忘れてた…この国、鉄も銅もすずもとことん取れねえんだ……」
「ええ。こないだ、無理して戦闘機を1機作たんだ。その時に、あっと気づいた。ようやく、気付いたんだよこの重要すぎる問題にな。」
「おい、そう言えば純国産の戦闘機とか船なんて不可能じゃないか?」
ちなみに、ハンガリーに造船能力は普通にある。あの、ドナウ川に流れているクルーズが全部舶来品なんて考えただけで目が回る。要は大規模な軍艦を作る能力はないけど、ちょっとした船なら作れるし、整備も普通にできる。というか、もうすでに小さい輸送船の建造も始めつつあるのだ。まあそれでも、今すぐ石油などなど全ての問題を解決できる訳ではないが。
「何するにしても結局鉄は大事だよ。青銅も作れないんじゃ、旧式大砲をどうやって作る?」
「やっぱり、ダブルヘイクは最適解だったなと今更ながら。」
肩を窄めてみせるヤーノシュ。だが、やっぱりダブルヘイク如きじゃ魔道砲とやらに対抗できるやら。だってよく考えればただのでかい火縄銃じゃないか。それで、例え火薬の質が良くてもどうにかなるものかは。
「困ったね、とりあえずロウリア国王を通してもらえるかい?レーチェルはもう帰ってきたんだろう?」
「ああ。さっきそこんとこに車が着いたらしい。」
顔を上げるヴィクトル。事務室の中に、暖かい空気が充満していた。その時、バタンと大きな音を立てる木のドア。奥からやってきたのは、黒スーツと軍人、そして「国王陛下」たち。
「ようお前ら、元気してたかい?」
「ああレーチェル、バカ元気そうで良かった。」
笑いながら握手を交わす2人。いや、一同。この雰囲気についていけない様子のハークとシャークンには、心底同情した(暫定)翠星石であった。
早速長いテーブルに、レーチェルがハークを案内する。続いて、どこか屈強な男…シャークンが入ってきた。その顔を見るだけでわかる。こいつは、絶対怒っている。
「国王陛下!なぜあんな無茶を!」
「仕方がないではないか!このままでは、全員が攻め立てられてしまう!ならば、余だけにその矛先が向くようにしたのだ!最後の、起死回生の一手も打って!」
「そんなことのためにイタズラに兵士を殺したのか!」
「違う!そうすれば、国民同士での殺し合いが始まろう!」
「まあ、落ち着いて下さいよ。とりあえず、この条約見てみて下さい。」
そう言って漸く落ち着いた2人。席に着くと、すぐに目の前に質のいい紙が滑ってきた。その内容の良い事と言ったら。少なくとも、今世における敗戦国の扱いじゃない。
「……それでは、これで一旦宜しいでしょうか?カナタ首相らは既に調印してますのでご安心を。」
その奇妙なペンシルを握らされるハーク。そのペンは、黒く輝く宝石のようで。そして、ハークの内在人格に隠れる不安の写しにも見えたのだ。それを、じっと眺めると紙にインクを滲ませる。そして、サインを書くためにさらさらとペンを滑らせた。これで、良かったんだ。降伏なんて何処にも書いてない。でも、これは結局降伏に同じだな。そう、ハークは痛感したのだった。ステンドグラスからの日が暖かい。今日は、なんだかんだで良い日なのだな。
「……ありがとうございますハークロウリア34世国王陛下。これからは、同盟国として末長くよろしくお願い致します。」
莞爾の顔を浮かべて、跪くヴィクトルの後ろには、やっぱりあのステンドグラス。どこかこの顔からは不気味さも感ぜられるが、そんなのどうでも良い。シャークンや、死んだ兵士の為にも、これは必須なのだ。
「……ああ。これで、戦争は終結だな。」
ガシッと、何かに縋るみたいに握手を交わす2人。外では、やっぱりドナウ川に光が反射して、きらきら輝いていた。
ここパーパルディア皇国では、今日もやっぱり日が昇る。でも、その1日の始まりがとても良いものとは限らない。皇帝というのは、大抵でかい態度を取るものだから。だから、まるで俺が皇帝だと言わんばかりに目の前に男がでんと座る。男の名はルディアス。この、パーパルディア皇国の皇帝だ。そして機嫌を絶対損ねてはならない人の1人。正確には、もっとヒステリックが酷いお方が居る。ただし、何よりさっき言った「被害者意識を前提とした自尊心」というものをこやつもまた持っているのだった。外から明るい日が刺して、赤いカーペットを燦々と照らす。
ところでこの国は、極度の独裁とも言って良い。政治は実質この皇帝と、側近アルデが取り仕切るのだから。こうやって、照らされる赤い部屋とはまるで対照的だ。この国の、深層というのは。だって、機嫌が悪いと癇癪を起こす皇帝に、誰がわざわざ変な報告したがるだろうか。そうなっちゃうと上からの叱責も酷いし、何よりその上もだいたい同じことを考えているから。
「……何?アルタラス王国が?」
「はい。無礼にも、皇国に楯突いたのであります。その上、観察軍を返り討ちに。」
アルデは顔を赤くしつつも、一瞬眉を八の字に寄せた。まるで、おかしい所を見つけて何か聞き返すみたいに。
「旧式とは言え、アルタラス如きに観察軍がそうもあっさりやられるものか?」
「そこで大切になるのが、ロデニウスとハンガリーです。」
アルデが、さらに説明を続けた。勿論、この皇帝以外にも色々な人が見ているから、ちゃんと分かりやすく説明をせねば。そう思ったアルデは、移動式黒板を持ち出す。そして、なんというかざらざらで茶色っぽい紙に描かれた地図を掲げた。まあ、例えるならばどうしよう。宝の地図見たいな、ボロ臭い感じのを想像してくれるといい。
兎に角、パラディスによる説明が始まる。ひとしきりでかい大陸の国家。これがパーパルディア皇国。その右あたりにある島国。それがハンガリー。その下にロデニウス、そこからちょっと東に行くとアルタラスという所だろうか。凄いのがこの地図、結構的確だったのだ。腹立たしい限りである、全く。
貴族の面々の前で説明が進む。だが、私の目にはそんな金ピカだの宝石だのは何も映っていない。映っているのは、この「作戦」っぽい物だけ。
「このハンガリー、実はロウリアと戦争をしております。いえ、おりました。というのが正しいですね。理由は門前払いからの属国化要求。そして、そこからは利害一致でクワトイネと手を組んだんです、」
人混みの中から、気分だけまるで猫のようにぐっと顔を出す私。どうして。どうしてここまで知られているんだ。それなのに何故技術は、戦術は伝わっていないのだ。この不思議の国を、如何にかして読み解かねば。いや、それとも単純に馬鹿なだけかも?とりあえずは、エブリンに尋ねることにする。兎に角私はこれを一分一秒でもフレームに納めなくては。
「……しかし彼ら、曰く魔道砲は夥しい破壊力を持ち、さらに流星群を落とす兵器もあると。」
プラセンタⅠのことか。と、私は勝手ながら解釈する。煌びやかな金銀たちは、またガチャガチャ騒ぎ出してくれよった。ああもう、どうするんだよ。これじゃあ雑音まみれじゃないか。私は内心、ちょっとだけ苛々し始めてきていた。もちろんこのデブたちに囲まれて物理的に熱く、ひどく不愉快だったのも一因だが。
「そんな荒唐無稽なことありません。よくある戦場神話でしょう。」
ああ、と私は思う。杞憂だったな。ただ、馬鹿なだけだったよ。そんな、本来ちらっとしか期待しない期待値にしっかり乗っかってくれた。これは、あとはちゃんと情報を防御すれば負け筋はないな。少なくとも外交戦においては。しかしその時ルディアスが口を開く。
「魔道砲があるのなら、今までで最も脅威となるだろう。」
「ええ。ですが、大丈夫です。例えその流星群などを使うにしても、その前に叩けばいいだけの話。聞いた所、奴らは船を4隻しか持っていないようです。これでは、いくら何でも上陸を防ぐのは不可能でしょう。我が竜母艦隊を以てすれば敵ではありません。」
私は額に手を当てて首を振った。傲慢で、凶暴だと聞いた皇帝様の方が全然鮮明に映ってるじゃないか。そういう呆れ然り、やっぱり情報網を舐めてはいけないと痛感した私然り。この国本当にどっちなんだろう。有能なのか無能なのか訳がわからない。
「……竜母か、良いことを聞いた。」
小声で呟く私。そして、私は黒い帽子の鍔を少しくっと下げた。
「まあ、考えられるのはロウリアの裏切りといったところか。何れにせよ、蛮族には等しく滅びから脱する機会を与えるべきだ。ハンガリーとロデニウス三国、並びにアルタラスを呼べ。いや、呼ばずとも来るやもしれんが。」
「はっ……皇帝陛下はお優しい……」
そんなめちゃくちゃなこと言われてたまるか。拳を握りしめて、コートの中怒りをぐっと堪える私。この私の中のナショナリズムが爆発しないように、さっさととんずらしよう。丁度話も終わったようだし。こうして私はその白い石造りの宮殿を去っていった。
城下町に出ると、やっぱり人で賑わっていた。あの無慈悲だと思っていた皇国兵だって、青い制服を着こなして何だかぱりっとしている。果物を売る市場。歩く市民。笑顔いっぱいで走り回る子供達も。やっぱり、ここもただの国なんだな。私はそう思いつつ、木枯らしの吹く中帽子をより深く被った。
そんな日常の中で、同じ黒服を着ている金髪を肩ほどに切りそろえた女を探す。その女は、やっぱりカフェで紅茶を啜っていた。こいつ、任務中に何をしているんだろうか。ちゃっかりおやつなんて取りやがって。いや、おーいじゃないんだよ。その腹立たしい手をさっさとしまえ。と、叫びたくなる私を抑えつつ、そちらへ歩き出した。やっぱり顔だけは眉が寄っただけだったらしい。
「はぁいマーサ?どうしてそんな顔してる訳?」
「名前で呼ばないでください、教官」
「良いじゃない、別に偽名なんだし。私はエブリン、あなたはマーサ。それで良いでしょう?」
私が呆れたように目玉を回すと、一応テーブルについてやる事にした。
「所で、お金はいつ?最低限の資金しか持って居ないですよ私。何より上も口酸っぱくして言ってるので。活動資金をしょうもない事に使うなって。エブリンさんいつも怒られてますよね?」
ひとしきりの沈黙の後、ちょっとだけ寒い風がびゅっと吹いた。熱い紅茶を啜ると、エブリンが答える。
「いいえ?借りたのよ。こんな風に。」
見るとさっきまでポケットにあったはずのカメラが、いつのまにかその黒手袋の中にあるじゃあないか。やっぱり、こういう諜報員としては一流なのが私が彼女についていく理由だろうか。
ところで自己紹介が忘れて居た。私はナジ・マーサ。まあ簡単にいうとスパイ。今は、秘密警察ÁVHの残喘というか、残り滓というか。兎に角そういう所で働いている。
「で、どんな感じだったの?」
「どうもこうも。現場の出来事が上に正常には伝わらないシステムとしか。」
「ああ、そうなの。まあ、変な真似されないならいいわね。」
エブリンは、赤色の紅茶を飲み干すと席を立ち、そこにコインを数枚置いた。日によってか、コインがきらりと輝く。マーサは苦笑した。これがここの誰かの財布から盗まれた物なのだから。
「さ。早く帰りましょう?私たちの宿に。」
「貴女本気でスリで生計立てる気です?」
「いいえ?借りてるだけよ。」
風の吹く寒い日。今更ながらではあるけどニコラウスさんは来てくれないな、と決心したマーサだった。
青い海が、波を畝らせて踊っている。ドナウ川もいいが、やっぱり自分のいる世界はこっちだな。そう思うのは、オルフィー。掃海艇三兄妹の長男であり、かつてオランダで一等航海士として働いた経験もあるのだ。だから、きっと彼なしではロウリアにも勝てなかったかもしれない。いつもは船酔いに見舞われることはないが、今日は別。が、それも不快な酔いじゃない。その酔いすらも、心地よく感じてしまったのだ。彼は、いつだってワクワクしている。新しい国に行くときは、いつだってそうである。
「よっしゃ!いざ行くぜアルタラス王国ぅぅぅ!」
「うるせえ。」
「あのノリにはついていけねえよ。」
大量の木箱には、コンパウンドボウやら旧式拳銃やらが所狭しと入って居た。中でも、ひとしきり大きいのが一つ。
「艦長、これなんですか?」
「ああ。ダブルヘイクだよ。でかい火縄銃みたいなもの。3分に一発撃てるそうだけど、これで足りるとは思わないなあ。」
望遠鏡を覗きながら答えるオルフィー。その目には、大きな島が映って居た。やっぱり、そういう事だろう。あれがアルタラスならば、なまじいに上陸しやすそうだなとオルフィーは思った。
「ところでまた戦争になるそうですよ。相手は列強だって。」
「へえ。面白そうじゃん。前みたいに、攻撃して救助で終わりだよ、」
「兄さんはいいよなそんな楽観視できて。」
いきなり無線がぶちっと着く。それにびっくりしたオルフィーは、つい仰け反ってしまった。本当、心臓が凍りつくかと思ったよ。
「びっくりしたよアンドル。どうしたんだい?お兄ちゃんのキスが恋しくなったかい?」
「気持ち悪っ!て、そうじゃなくて。相手は余裕で1000隻を超えてる、しかも戦列艦だよ?これはちょっと厳しい気がして……」
「まあその通りで厳しい。だからこそ、プラセンタがあるんだよ。」
そう、ここ数週間でこの掃海艇は大幅にアップグレードされたのだ。ついに、まともな対空ミサイルが発射できるようになった。加えて、通常の砲塔から発射するタイプのプラセンタⅠもいくつか積んでいる。まあ、それでもいつまで戦えるかわからないが。
「カイゼリンエリザベートも、改装が済んでみたいだよアンドル兄さん。ミサイルに機関銃に、ヘリコプターも詰めるようにしようって。」
「そらすげえ。一騎当千ってやつだな。」
もう、俺たちはいらないかもしれない。そんな杞憂を抱えながらもオルフィーは、やがて岸に船を止める。これから、重要な任務が始まるんだ。このアルタラスを守るという。日が、高く南に登ったころの話だった。
「さて、陛下。これから国内でも見て回りましょうよ。」
ああ、とハークは思う。国力の誇示だろうか。まあ、仕方ない。これも勉強と思ってちゃんとついていこう。でも、なんだか変な会話をし始めたのだ。
「まずはクルーズで流氷を見るのはどうだ?しっかり環境汚染のない世界だからな。しっかりとした流氷が見れるぞぉ」
「いや、この時期ならあれよ。クリスマスマーケット一択だね。」
「サンタマラソンやろカス。」
「てめえハーク陛下を走らせる気かよ!」
きょとんとするハークとシャークン。そりゃあそうだ。外交で、しかも敗戦国の敵にこんな事をしでかそうとしてるのだ。驚くのも無理はない。
「間を取ってクリスマスマーケット、行きますか。流氷は今日は無さそうだし」
「まあ、そうだな。走りたかったが。」
ヤーノシュが仕方なさそうに肩を窄めた。冬風が強く吹き付ける。
「それじゃあクリスマスマーケットまで、レッツゴーだ。これからは同盟国の国王だぜ。」
ええ、と困惑の表情を浮かべるハークとシャークン。条約締結からの切り替えが早すぎる。あるまじき速度だ。
「国王陛下、何も言えないご様子で。」
そう言われてシャークンの方をゆっくりぎこちなく向く。まるで、砲塔が向くみたいに。
「安心してください。私も理解できないので。」
ここ、クリスマスマーケットはこの時期になると開かれるとても楽しい市場。凍れる寒さの中、暖かい食い物を売る店もあるし、毛布だの工芸品だのを売る店もある。ちなみに筆者のお勧めは藍染。日本とはまた違う、白と藍のコントラストがとても美しい。そんな、盛況する市場に降り立った問題児数人。寒い風がひゅうひゅう吹き付ける中、市場に歩み寄る。部屋のように、もう暖かくはない。
「ではハークロウリア34世陛下に、シャークン提督。ここを、好きなように回りましょう。」
国力誇示とはわかっているけど、買い物していいならば。シャークンの目にはまだ不安がふっと映って居たが、ハークにとってそんなのはもうどうでもいい。だって、目の前に食い物があるのだから。シャークンは思った。もしかしてだが、これはそういう体で遊んでるだけなのか?
「すまぬ、あれを食しても良いか?というか、この国では庶民も飢えておらんのか?」
「はい。クワトイネというチート国家と比べると、ちょっと劣りますが、生活水準は基本保証されてますよ。生活保障制度といってですね、子供やご老人、障がいのある方がいらっしゃる世帯には支援がなされるのです。」
「さっきのサンタマラソンというのも、生活の苦しい方を支援する為のものなのですよ。」
いつもの間にやらカールポテトとサンタの帽子をかぶっているヤーノシュが捕捉する。どこから買ってきたんだ、それは。
「サンタというのは、12月25日の朝良い子にプレゼントを与える人の事ですよ。」
いや、それはわかったのだが国力誇示以上に気になるものが目の前に居るんだ。シャークンはある意味絶望した。国力の誇示なんていういやらしいものの方がまだ良かっただろうに。ハークもいつの間にかカラーチを齧っている。これは、自分だけ取り残されているんじゃないか。
「おお、これは石鹸か。」
「ええ。石鹸も広く普及しております。これもどうでしょう?」
「かたじけない。ほれシャークン、もっと楽しまんか。」
いや、貴方だけはこっちに居て欲しかったんですけど。と言わんばかりに目を見開くシャークン。後ろに下がれば、木でできた精巧なおもちゃ。思わず職業病が発動する。
「これはまた優秀な職人が居るのだなあ。船を作るのも苦労するまい。」
「我が国では、木は船には使いません。ですから、職人も減っておりまして。」
「なんと!それは勿体無い。是非とも、我が国の舟工廠として雇い入れたいものだ。」
そしてシャークンも、その木製輪ゴム銃を記念と言わんばかりに買ってみたのだ。要はこの構造、バリスタやカタパルトと同じ。それを、既に民間に回して差し支えないこの国は、少なくとも我が国より上なのだとまたもやシャークンは実感した。
「……そういえば、我が国の船は…」
「一部、接収させていただきます。何せ我が国が転移する前は、内陸国だったので。」
シャークンの中に、溢れんばかりの情報が入ってきた。どういう事だ。転移国家なんて、そんなの神話くらいにしか。何より、内陸国なら海軍も無かろう。とどのつまり、この国はでかいハンディキャップを抱えて勝ったのだ。
「て、転移ですと!?そんなのは、ムーの神話くらいにしか御座いませんぞ!」
「ムーとは?」
つい大声を張り上げてしまったシャークン。こうなれば、もう説明するしかあるまい。
「……実は、第二文明圏の列強国にムーという国があるんです。その国は、パーパルディアと違って誠実です。」
「なるほど、後ほどその話は伺いましょう。あ、そこにあるのは藍染ですよ。どうです?」
「これはまた綺麗な……」
こうして、風がひゅうひゅう吹き付ける中、クリスマスマーケットはまだ動き続ける。まさか、国家元首と他国の王がいるなんて知らずに。
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