イシュトヴァーンよ永遠なれ   作:デブレツェン

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どうもデブレツェンです。UAが6000を超えました。ありがとうございます!

最近は第五人格、ファイアーエムブレム、そして艦隊これくしょんをずっとローテーションしてます。ある意味そのせいで更新が遅延してます。すみません。でも楽しいんだよ!楽しいから悪いんや(暴論)

今年もクリスマスがやって来ました。私はその日に探究の発表があります。ゴ○カ○ですね!!

あと年末年始は流石に更新休止します。忙しいからむりぽ。

そういうわけ(?)でついに20話です。どうぞ。



第二十話 パーパルディアという国

 

ここはパーパルディア皇国の近くの海。そこを小高い塔から、いつものように見張る兵士たち。いつもならその目には戦列艦が映るばかりで、本当につまらない。だってただ青くて同じように波打つだけの海。それを半日かそこいら眺めるこちらの気にもなってみろ。つまらないなんてレベルじゃない。

しかしその時。このいつもの暇すぎる時間を壊してくれるのが見えてきた。あれは、機械文明の船。しめた。珍しいムー国の船だ!と、希望を抱いて望遠鏡を覗き込む見張り。しかし、その目に映っているのは、ムー国の旗じゃない。そして、心なしかその口元もさっきのように暗くなっていった。

「な、なんだあの旗は!?」

しかも位置的に、ムーがいつも使うのと逆の港。だからこそ、ここまで来るのはちょっと珍しいのだ。そして何より、その後ろに掲げられた赤、白、緑の三色旗。それが赤白の海軍旗とクロスして立っている。こんな旗は、見た事ない。もちろん、両方とも。だが見張りの歴だって相当に長いはずなのに、どうして自分の知らない国が来るだろう。もしかして、新しい会社か何かか?それとも新興国か。

「とにかく上に報告だ!」

そして、望遠鏡を胸元にしまうと、魔信を取り出す。

「こちら2番監視塔、未確認国家の船舶が入港しようとしている。」

「了解。そのまま監視を続けろ。」

それが終わると彼は、右手にあったマスケット銃をぐっと握りしめる。まるで、本当に命綱かのように。

「くそ、まさか攻撃してくるんじゃないだろうな。」

いや、流石にないだろう。そうだと信じる。とはいえ、きっと新興国かつ文明圏外の蛮族。だから大丈夫なはずだ。

「……果たして、どうなるやら。」

どうしてだろう。さっきまであんなに嬉しかったのに今や不安だ。待ち望んだはずだったのに。その嬉しい退屈凌ぎだったのが、一気に変わってしまったのだから。もちろん、よくない方向に。

 

一方ここはカイゼリン・エリザベートの艦橋。すぐ近くに迫った陸地が見える。潮風も、少しだけ弱まってきた。そして、自分たちが騒がせてるなんて夢にも思ってないらしい。もちろん、自分たちがムーのそれだと勘違いされかけてることも。リヒャルトは、すっと空気を胸いっぱいに吸い込む。とても、涼しくて清々しい気分だ。しかも目の前には、夢にも見たあの船たちが。思わず陸の方を指差すリヒャルト。

「おい!あれ見ろよ!パーパルディア海軍だぜ!」

「………すげえ…!!」

言葉を失う一同。みんな狂ったようにマストを閉じた船をじっと見つめる。まるで、最後まで求めていた宝を見つけた冒険家みたいに。人間は、本当に求めている物を見つけた時、かえってだんまりになる。あまりの感動を、表現しきれないから。だが陸では、てんやわんやの大騒ぎ。そんな大変も知れず結構呑気にやっているみたいだ。本当に、この陸と海がまるで鏡合わせのようで。

「……本当に、本当に戦列艦がここにあるんだな。」

みんながその、懐かしくも優しい色合いにうっとりする。まあ、その色とは全くもって逆の国だと知るのは、もう少し後の話。

「おお!噂通り確かに美しい!ブラボー!」

そしてこの私もまた、このとにかき美しい景色に見惚れていたのだ。青い海と白い鴎。そして、それを反射させたみたいに群青の空。そこに浮かぶ船の美しいことときたら。

「こんなのと戦争するなんて勿体無い。何なら同盟でも結んでやろうか。」

そうしてニヤリと口角を上げる私。何というか、とてもワクワクしている。こんな風に、言葉を失いかけるほど。何故ならこれから、未知の国をしれる。その栄光を私は掴み取ることができるのだから。

失礼、自己紹介が遅れた。私はニーメット・マールスという。いわゆる外交官というやつ。趣味は旅行。仕事と娯楽の区別ができてないのがちょっと玉に瑕だけど、これでも結構イカした男だと思うぜ。本当の話。

「マールスさん、ところで私も着いていくというのは本当ですか?」

そんな中、はっとしたように振り返るマールス。そういえば、そうだったな。この陽気な艦長を、連れて行けと申していらっしゃった。全く、やむごとなき人の考えることは私には分からんな。そう、心の中でぶうたれて肩を窄めるマールスだった。

「あの、マールスさん」

「ああ、ごめんなさい。海が思ったより綺麗で。」

私は黒いネクタイをきゅっと締め直す。実は特に触る必要も無いのに。まあリヒャルトであれば、この言い訳も大体察してくれることだろう。だって、この男こう見えてわりとやり手だから。

「……そうですか。我々も、昔を思い出しましてねえ…」

リヒャルトはじっと水平線を眺める。青い水平線。それがパルサーのように横に広がっていた。まるで、無限に存在するみたいに。その後ろを振り返れば、どんどん近づく異界の国。何といえばいいんだろうか。変な喩えかもしれないが、まるでサンタの正体を知った子供のような。そういうベクトルのある種絶望が私たちに突きつけられている気がしてならない。

そうだった。今まで忘れていたが、この陽気な男たち。この人たちは本来、私たちの先祖であるべき人たちなんだ。となると、タイムトラベルまでしてきたわけか?いや、そこはいい。そんなことを言い出せばきっと頭がごちゃごちゃになる。

問題はそこじゃあ無い。そう、彼らはある意味奪われた。家も、家族も、知り合いも財産も全部。こうやって特殊な状況だから海軍として重宝されているが、そうでなかったらどうだったろう。ただ、自分には出来ないと感じた。その理不尽と戦いを繰り広げるのは。

「……ま、まあとにかく!今は目の前の障子をぶち破りましょうよ!」

「なんつう例えをしてるんじゃお前は。」

帽子に手を当てて首を振るリヒャルト。しかし目は笑っている。やはり冗談の通じる男だな。

「ところで何で軍人が外交に同行するんだい?」

「ああ。一応、兵器についての見解が必要で。」

そうか、とリヒャルトは軽く頷くとまたその船たちを眺め始めた。

「餅は餅屋、古い兵器は老兵ってとこか。」

気を悪くしないでくれ、とリヒャルトは付け足す。それはわかっているつもりだ。決して嫌味じゃないことは、流石に読めるから。

「おーい!おーい!そろそろ着岸するぞ!錨を下げるぞ!」

「行きましょうマールスさん。我々の次の戦場へ。」

そう言うリヒャルトが、何だかとても落ち着いている。そして、何と言うかさっきからあっさりといろいろ振り切っている気がしてならない。そして私もまた、好奇心だけを持っているわけじゃなかった。いや、きっと列強だから。このパーパルディアという国を信用しているから。噂が全くの嘘じゃ無いにしても、さすがに僕を八つ裂きにして貼り付けることはないだろうに。

「もしそうなら、リヒャルトさんと道端でタンポポでも吹いてた方がマシだな。」

そうして黒スーツを再び治すと、前へと向き直った。新しい、戦場があるその大陸に。

 

 

 

 

 

 

「タイムリミット、か。」

緑の丘の美しかった、アルタラス王国。ここには手のひらを黒い空に低く掲げるエマが居た。その目には少しだけ迷いというか。いや、曇りがあった気がする。まるで曇りガラスのようにすっとその瞳が暗くなったのだ。そう、その黒い空に「タイムリミット」が訪れたその時。

「エマ」

「分かってる今更反対はしない。」

「ああ。それならいい。でもな、今回は新兵器もあるんだぜ。あと兄さんも」

そこまで言うとアンドルの口にすっと手袋が当てられた。エマの温かい手が、そして目の前にまるで子供のような笑顔が。きっと、読んでいるんだろう。何が言いたいか。

「分かっている。」

「そうだな。それでこそ妹だぜ。」

それだけ言うと灰色の軍艦に、ジャンプで飛び乗るアンドル。どうしてだろうか。みんな、いつにもなく手がぶるぶる震えている。まるで、蛇に睨まれた鼠みたいに。手の震えが止まらない。ロウリアの時だってここまで緊張しなかった。思えば私は、敵のためだと言ってもしかしたら1番に怖かったのかもしれない。実際、パーパルディアという国を相手にしてこうやって戦慄くのだから。ロウリアという弱い相手には、こうもいかなかった。だから、きっと。

「……」

私は小さな縄で結ばれた鉄線に、ぴょいと飛び移る。奥にはもう、アルタラスの海軍たち。ダブルヘイクなんかを積んだのが、たっぷりと。私の重みのせいか、この黒い空のせいか。船がぐわりと少しだけ揺れた。

「とんだクリスマスプレゼントだね、本当。」

エマは懐中時計を胸元から取り出す。この二つの針が重なり合う時。その時にこそ、私たちは決めなくちゃいけない。私は宛ら慌てん坊のサンタクロースといった気分。ちょっとでもこの苦しさから早く解放されたい。そんな思いが、どうしてもこの懐中時計を持つ白手袋をわなわなと振るわせてならないのだ。そこに加えて、緊張も。そのせいだろうか。金色のチェーンがかちゃかちゃ鳴っている。

「………艦長、時間です。」

「分かっている。」

時計は、23時58分。もういくしかあるまい。やるべき事は決まった。

「抜錨。これより掃海艇マルギットは、パーパルディア皇国軍と思しき敵対勢力への警告を開始する!」

「………オルフィー了解。行ってこい、エマ。それと、忘れちゃいねえな。お前のやり方が通らなかったら。」

「分かっている。『無双を楽しめ』でしょう?」 

「ああ。」

そうだ。それでいいんだ。せめてここからのワンサイドゲームを楽しめ。じゃなきゃ兵士に救いなんて無いんだから。

 

「……マルギット出航しました!」

「続けて、我々も出る。プラセンタを撃ってからダメ押し、だったか?エマは大丈夫なのか?」

まさかオルフィーが実の妹ごとクラスター爆弾をぶち込むなんていう冗談をかまさなければいいが。オルフィーに一応確認を取るか。

「聴きたいようだね、ノープランだよ。」

「おいおい冗談よしてくれよ兄さん。まさか逃げるだけってのかい?どっ早い化け物戦列艦相手に?」

「……だったらどうしたらいいか分からねえんだよぉ…ヘリコプターあれば良いが、それもない。アルタラスのワイバーンじゃ絶対にすぐ落とされる。こっちの掃海艇でまずはインパクトを与えてやろうじゃないか。」

いや、その掃海艇が逃げる方法がねえんだよ。とは結局言えず。しかし流石のオルフィーもそういう事は分かっていると思うので、敢えて黙っていたというのもあるが。

「大丈夫だぁ。エマはああ見えてめちゃくちゃしぶといぞ。」

それは分かっている。なんせ、5歳の時川で溺れて400mほど流されたがご存命で何もなかったという過去まであるのだから。まあ、それがトラウマでもう自分は墓守業を継ぐとめちゃくちゃなほどに言っていたが。それが今は海に出るほどだなんて。いや、そういう問題ではないのだが。

「……あいつはな、問題解決能力に加えて悪運もいい。俺があれやれこれやれって指揮するより、咄嗟の判断くらい任せた方が上手くいくんだ。」

さらでも、やはりこの仕打ちはあんまりな気もするが。

「とにかく予定では1時きっかりにプラセンタでボカン!だ。そうそう、ハンガリーにお客さんが来るそうだぜ。俺たちには何一つ関係がないが」

アンドルは呆れたように目玉を回してみせた。こう言う所だ、本当の話。このオルフィーという兄さんと一緒だとやっぱり、何も敵なしな気がして。そう本当に、パーパルディアという国すら掠めて見えるほど。

 

 

 

 

 

 

 

ここはハンガリーのレティニエという街。この街では、今や港湾が主流。そのおかげでか、ちょっとずつ儲かってきてもいるそうな。

「ここかあ、テンション上がるなあ。」

そう言いつつカメラを手にして歩き出す、なんというか変な格好の記者たち。その姿は、我々に言わせれば「道化師」。いや、そうとしか形容できない。何だよその仮面は。これからお城の舞踏会ですか記者さん。と、そんな皮肉を溢しそうになったソンバトヘイがぐっと口を紡いだのは、秘密の話。ちょっと間違えれば、隣にいるヤーノシュに軽く叩かれる所だったな。

「皆様ようこそおいでくださいました。わざわざ、遠方から足を運んでいただいて光栄です。」

とりあえず、社交辞令も兼ねて労いの言葉を述べるソンバトヘイ。というか、皮肉というのもある。記者如きがこうやって歓迎を受けてるのに、まるでさも当たり前のように済ました顔しているのだから。お前らはお内裏様とお雛様か。いや、この態度を見るに実際上そういう扱いを受けたのだろうが。もちろんそれには訳がある。

「熱烈な歓迎をありがとうございます。私たちは、神聖ミリシアル帝国の記者団です。今回は、東のニューカマーという題材で取材をさせて頂きたく思い伺いました。ロウリア戦役での勝利を、心からお祝い申し上げます。」

そう、丁寧に言うがやっぱりソンバトヘイにとってはムカつく。何故なら国の一大事をまるで一企業の偉業化のように扱っているから。そりゃあ戦勝はめでたい事だし、お祝いを言ってくれるのは悪い気はしない。まあ、取材内容によりけりだな。そう思うとソンバトヘイは、自分の中の怒りを無理やり片付けてやった。外交団じゃないあたりも、国の政府自体はあんまり興味がなさそうだし。

「……それで、本日はどのようなことを?」

「はい。実は我々は、ロウリア戦での真実を伺いたく参りました。その時に使用なさった兵器についてお伺いしたいのです。」

ヤーノシュが露骨に苦笑いをする中、ソンバトヘイは冷静に答えた。これでは、きっと一線を越える事を許されまい。

「ああ、あれは大体本当ですよ。国家機密ですのでいろいろとお話しできない事はございますが、答えられる範疇で。」

「……そうですか!ありがとうございます!今回、ソンバトヘイ大臣にお伺いしたいのは『流れ星の夜』についてです。あの事件は本当ですか?」

「はい。その事実はございますし、我が国の攻撃です。」

「星を落としたのと言うのは本当ですか!?どうしてその様なことが可能に!?本当に隕石を落としたのですか!?」

「いえ、それについては機密情報も含まれますのでお答えできません。」

「そうですか、やはりそうですよね……しかしソンバトヘイ大臣。我々は記者団とはいえ列強ミリシアルの婉曲表現的な使者という意味でもある。機密情報は仕方ありませんが、あまり物事を韜晦しない方が身のためにもなりますよ。」

チクショウ、そういうムーブが始まったか。ミリシアルは聞くところ、まだ最近らしい。拡大政策から脱したのは。こういう末端の部分には、俺たちを下に見下すドクトリンが根付いているんだな。これに関しては誰が悪いと責めることはできまい。まあ、この記者がたまたま右寄りだということを願うしそうである可能性のが高いが。それか、そういう風に試しているのか。

「……我が国は貴国含め各国家へと敵意を向けることはございません。しかし、それは敵対しないならばの話です。例えどんな敵が相手でも、我がハンガリーは立ち向かいます。誉れ高き、イシュトヴァーンの王冠へと誓って。」

それを言うとにやりと笑う記者団たち。そうだった。これを見ている人間がいるかも知れない。言葉遣いには気をつけねば。だが、意外にも記者たちは我々を悪く報道する気は無さそうである。

「皆さん、これが新興国ハンガリーの心構えです。この愛国心は、我々にも引けを取らないものかも知れません。」

カメラに向かって話し続ける記者。どうやら、1番最後の過程だったらしい。そうして、それが終わるとまたマイクを突きつけられた。こいつら、どうしてこの長い船旅の後にこんなに元気なんだ。ヤーノシュもそれに半ば呆れている様子だし。

「ああ、えっとですね。それで、次はハンガリーについてですが。ハンガリーとはどの様な国でしょう?」

「はい。ハンガリーは、転移国家です。2025年の10月31日、私たちのハロウィーンという祝日の日にこの世界へと転移しました。」

「となると、護衛の海軍がなかったのはもしや。」

「ええ。内陸国でしたので。」

ああ、やはりそこまで読まれてたか。勝手に来てそこまで見るあたりはそこそこ優秀と伺える。

「なるほど。失礼ながらムーといい、荒唐無稽な話だと考えておりましたが、そう言われると妙に現実味をおびてきますね。」

さらさらとメモ帳にペンを走らせる記者たち。ヤーノシュがこちらをぎろりと睨んだ。これはまずい。だいぶ弱みを握られる事になるだろう。

「……ま、まあ、海軍が皆無という訳ではございません。我が国には元より所有していた河川掃海艇と、旧式巡洋艦が海を守っております。」

いけない。少し言葉遣いがおかしくなってきた。見かねたヤーノシュがこちらの肩をぐっと掴んで前に出てきた。もう、限界なんだろう。

「我が国は一度ロウリアに勝ちました。それは事実です。ロデニウスでの海戦も、既に我が艦隊が圧倒的勝利を納めました。ガレオン船に負けるほど脆弱な艦隊を持っている訳ではございません。」

漣の音が聞こえる中、また記者たちがペンを走らせる。さらさらという音が、波の大きな音にそっとかき消されて行った。

「ハンガリー海軍は、現在は出撃しているのですか?」

「ええ。ハンガリー海軍は現在、パーパルディアという国への護衛艦隊を組んでおります。」

実際それは事実。しかし、艦隊とはいっても1隻だけだが。というかそれはもはや艦隊と言うのか。まあそんなことは今はどうでもいい。今は兎に角この暴走機関車に対処せねばならない。

「我が国は、海軍以外の二軍が充実しております。特に、陸軍。」

「内陸国であれば、自然と陸軍に目が行くものですよね。」

「ええ。よくご存知で。軍人の方が向いているのでは?」

「ご冗談を。」

ヤーノシュが会話を繰り広げる間にも、着々と後方準備は進んでいく。オルガとスタメナが、もう良いかと言わんばかりにこっちに目配せをして来た。

「……そんなミリタリー大好きな皆さんには、これから我が国の陸軍を見ていただきます。こちらへ。」

言われるがまま、カルガモのようについてくる記者たち。その先には先ほど待機済みのオルガとスタメナ。記者たちが早速2人に取り付く。まるで、エサに集る金魚みたいに。

「あなた達が、ハンガリーの軍人ですか?」

「はい。私はオルバーン・スタメナと言います。自走砲連隊の指揮官です。少し前までは少佐でした。」

「と、いうと今は?」

「ロウリアの上陸時、その功績が認められて中佐へと昇進しました。」

「大佐にはなれず、ですか。」

「ええ。そこは軍隊ですよ結局。」

「大佐になると同時に同時に星になってないだけマシでしょうに。」

「おい。」

白手袋の拳が、隣のショートヘアをごちんと軽く叩く。いてっと軽く声を上げる中性的な兵士。くすっとその場に笑いが起きる。ソンバトヘイは頭を抱えた。これが、ライブじゃなきゃどれだけマシだったものか。

「ところで、その方は。」

「ああ。こいつはセーチェニ・オルガ。民兵団の団長だ。今は正規軍として認められている。」

「なんだよ、上官ぶりやがって。」

「上官だろう仕方ない。」

「あ?」

「あ?」

睨み合う2人を見つめて慌てる記者もあれば、ただ真面目にメモを取る記者も居る。苦笑する記者も居たりした。そうしているうちにソンバトヘイはまた額に手を当てて首を振った。だめだこいつら。いつの間にこんな父娘みたいな関係になりやがった。

「お二人の関係は?」

「「戦友。」」

「ずいぶん仲が宜しいようで。」

「まさか。」

そんな記者の笑みを一蹴するオルガ。続き苦笑するスタメナ。ソンバトヘイにとっては地獄絵図そのもの。ヤーノシュも隙を見て逃げてやろうかと思っていた。こんな空間居てられるものか。

「……と、と言う訳で我が陸軍の能力をお見せします!」

ソンバトヘイが震えながらも言い出した。ヤーノシュが心の中でガッツポーズを決める。

「さあ、こちらへどうぞ。」

こうしてミリシアルとの交流は始まった。パーパルディアという国について知るための、大きな鍵となるのはもう少し後の話だったという。

 

 

 

 

 

 

 

暗い海の上に、20隻ほどの木造船がずらり。そこへ向かうのは、まるでこの雲のように灰色の船舶。

「こちらハンガリー海軍!貴艦はアルタラス王国の了解を侵犯している!繰り返す!貴艦はアルタラス王国の了解を侵犯している!」

曇り空がまだ止む気配はない。そんな中でエマの声だけが無情に響く。この、数百メートルという距離。それはもはや刀か槍かの間合いに居るに等しい。そんなところにずっと居続けるエマ艦長という奴。彼女はやはり冗談の領域を超えているな。そう思った船員だった。パーパルディアからしたらさぞやうっとおしいだろうに。だって目障りなハエがぶんぶんと目の前で飛んでるのだから。想像してみてほしい。こういう状況を。

だけどもそれはハエからすればどうか。目の前で粘着したとて、何かできうるかというと残念ながらそんな事はあんまりない。その上、潰されてしまうリスクだってある。この時エマは初めて知ったらしい。自分が下にいるという恐怖を。エマにとって、パーパルディアという国が、いつぞやの川と同じくらいに怖く見えて来たのだ。

「返答、ありません。」

「威嚇射撃!」

そうして、対空機銃をぐわんと動かすと、それを戦列艦に向ける船員。黒光りする銃身が、まるでこの晴れない空の写しのようで。

「……ファイア!!」

その時、エマの声以外がぐわっと響いた。その音は、ダダダと空間を切るように響き渡る。それが向かうのは、その戦列艦のちょっと手前。船員はそっと対空機銃を下げてみせた。多分見えないと思うが、今は本気で当てる気はない、というセリフのつもりではある。

「………ダメです!どころか向こうも大砲を!」

エマは額に手を当てて首を振った。やっぱり、国や兄貴分たちのいう通りだったのだ。このパーパルディアという国。これが、結局現実だったんだ。船員は頭を下げる。まるでさっき、対空機銃を下げたみたいに。その現実を知るにはエマは何というか、ピュアが過ぎたから。その間にも窓から覗く黒い影。時間はもうない。

「艦長!」

「分かってる!全砲門、撃ち方始め!そのまま後退する!」

「了解!とーりかーじ!」

そして操舵手がそっと舵を取る。左にくわんと傾いた船を支えるのはさぞ大変だろうに。彼含めて全員に、冷たい飛沫が降り注いだ。まるで、雨のように激しく。

「……敵艦発砲する模様!」

「撃たれる前に撃つのよ!てぇっ!」

エマの顔をふと見た船員は、全員が戦慄したという。いつもの可愛らしき、純粋な、子供みたいなエマはもうそこに居ない。その人はまるで、獄丁のように恐ろしくて。船員は引き金を引くしかなかった。だって、こういう状況だから。

だん、と音がして、畝る波の上を金色の砲弾が走っていく。はやく、そして正確に。ただでさえ一寸の狂いもない砲弾が、この1kmもない範囲で当たらないものかは。船員たちは苦笑した。自分たちの、この危険な状況がちょっとだけ武器になってしまったから。

「……命令覚えてるな?無双を楽しめ!!」

それと同時に、火を吹く機関砲。どうやらこの機関砲ですら、無双を楽しめるらしい。そして、まさにさうなしといった様子の掃海艇。相手の戦列艦を見上げれば、もう何が何だか分からない様子だった。それを見て、いつもなら可哀想だと思うだろうに。だが今は戦争なんだ。船員たちにはただ速力を上げつつ、引き打ちをするしか無かった。そして、「無双を楽しむ」事しか。

「よっしゃ!一隻撃沈!」

声がしたのは、機関砲の音が消え、距離がだいぶ開いた頃。機関砲からは灰色の煙がふわりと上がっている。エマは、金色の懐中時計を開いた。時計の太い針はもう、1時に迫りつつある。どうすべきか。この速度で逃げていればきっと間に合うだろう。大丈夫さ。眠い眼を擦ると、指をピストルの形にして戦列艦に向けてみせた。無双を楽しむって、こういう事で良いんだよね。きっと。

「……止めを刺して。うちぃかたはじめえー!」

「うちぃかたはじめええええ!」

それと同時に、また金に光る砲弾がぶわっと炸裂した。ただ一発だけの弾が、綺麗な光を描いて飛んでいく。その花火を見てエマはちょっとだけ微笑んでみせた。もう、私にとってこのパーパルディアという国は、川と同じ存在じゃあないと。

白いマストがばきっと折れて、火災に犯されつつある船体に、最後の切り札が飛んでくる。まるで、ボウリングのピンに止めをさすみたいに。

その瞬間、ぼうっと燃え上がったと思うと爆ぜる戦列艦。木の片と風がぐわっとエマの髪を撫でていく。そうか、もう終わったんだな。海風はすべて消えて、塩の香りはもうない。ただ、煙と火薬の臭いだけがつんと鼻を抜けていく。エマは右手をまるで銃を撃つみたいに動かすと言った。

「ストライク」

 

 

 

 

 

パーパルディアという国は、やはり何度も見ても美しかった。なんというか。レトロな景観に青い空。汚染のない美味しい空気。全てが私にとってものすごく良いものだった。本当に、苦労して高めた語彙力を失うほど。

「……あ、四葉のクローバーみっけ。」

「艦長!遊んでるんじゃありません。」

やれやれ、と首を振るマールス。これじゃあまるで母親じゃないか。もはや外交官とは名ばかりだなあと。

「さて、いきましょうか事務所っぽい所に。」

そうして小高い丘へと歩き出す。石畳が少しの狂いもなく並べられていて、周りには色んな人たちが。これだけ見ると、ただ普通の国だなと今更ながら私は思った。まあ、服装がまるでメルヘン童話から飛び出したみたいなのを除けば、だけど。

「よし、文書も持った。いけるぜ!!」

「バカに張り切ってるな、マールスさん。」

「あたぼうよ。前回は何故かレーチェル大臣が自ら行ったからな。」

まあ、これは仕方のない所もあるにはある。というのも、異世界でほぼ初めて接触した国。もし機嫌を損ねればきっととんでもない事になろう。まあ、とりあえずそういう重職を送ればまあまあ良い扱いされてると思うだろうから。とにかくそういう事情で、大臣が出ていたのである。

「初めて異世界へ行く一般人になれたぜ!やったぜ。」

「そりゃあ良かったのう。」

と、言いながらさっき拾った四葉のクローバーを手渡すリヒャルト。そんなに俺が嫌いか。

「まさかな。純粋に、幸運を祈っているだけだよ。」

そうして2人は、また石畳の道を登って行った。外交という戦いのために。胸のポケットには、一輪のクローバーがあった。




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元気がない時にはこれを見よう!私も行き詰まったときよく見てますよ。勢いに押されて可愛く見えて来ます。

https://www.youtube.com/watch?v=G8kKiSO6nV8

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