ツムツムって久しぶりにやると面白いですね。たまにリフレッシュでやってみます。小説ばかりでも疲れてしまうので。年末年始は、父親の実家に帰省します。故に更新は無理です(2度目)申し訳ございません。多少は進める予定ですが、何処まで行けるのやら……
みんなが別の場所に居る。それでも、皆んなは同じ空を見上げているんだ。きっと、そうだろう。この青い空を、例えどんなに離れてても。
「ついに来てしまったか………!クリスマスがっ!!」
ここはハンガリーの執務室。そんな狭い場所で、大声で叫ぶヴィクトル。翠星石(仮称)にとってその声が煩わしいのか。いや、きっと誰でもうるさいと思う。だからまるで八の字のようにその顔へとくっと眉を寄せていた。暖かい暖炉が、やさしくパチパチと燃える。どうやら私たちは、とても恵まれているらしい。だって、国民の家には暖炉がない家も多いから。
「薪もそうだし石油も鉄も。ロウリアに作った運輸会社でどうにかなったな。しかも当のロウリアだって、経済発展を遂げている。」
もちろん、現代技術を用いればペンキもマストもいくらだって工夫できる。こうしてロウリアは、無事に経済国家になりましたとさ。めでたしめでたし。まあ、実際にも過激派はいたが、そういう連中も経済で超えればいいやんけという考えにシフトしたのである。もちろん、軍隊を辞めた無職はみんな雇い入れる。こうしてこの会社は成り立っているのだった。
「それはそれとして、もうクリスマスか。家族にあまり会えなかったのが気がかりだな。」
ステンドグラスの聖母マリアが、なんだかこちらへ微笑んでくる気がしてならない。どうしてだろう。僕らはとてもいいクリスマスプレゼントをもらったのではないか。この、眩い光という。思い出は綺麗だが、それだけじゃお腹が減るとはよく言ったものだよ。出来ることならサンタさんには戦艦の一隻くらい寄越して欲しいもんだ。
「辞めとけ。そんな奇跡起きやしない。」
ヘッペシュが苦笑しながら言うと、翠星石(暫定)が続ける。
「絶望に苦しまずに済む方法は、諦めることよ。」
「黙れ歳食ったパイロットの腰巾着が。それはイザベラママが言ってるからカッコいいんだよ。」
「五月蝿えハゲ。」
翠星石(仮称)はやれやれと首を振った。こいつら、だんだん口が悪くなってないか?打ち解けているという意味では良いんだろうが。とりあえず、話題をもうちょっと大事な方に振るとしよう。
「………ところで、例のパーパルディア皇国についてはどうだったですか。何かあったです?」
手を組んで取っ組み合う2人をハッとさせる翠星石(仮称)の言葉。クリスマスって恐ろしいものだな。こんな政治屋たち相手ですら、一瞬物事を忘れさせるのだから。
「やべえ、忘れてた、ヘッペシュ。なんかあったかい?」
「ああ。確か現地のマールス外交官から、メールが来たよ。」
不躾と分かっていながらもスマートフォンを取り出すヘッペシュ。まあ、気にする間柄でないので構わないが。ヴィクトルのさっきの言葉。それにはなんと言うか、重みやら覇気やらが感じられなかった。平たく言ってしまえば、
「………えー、結構まずいことになっております。」
ヴィクトルはちょうどさっきの翠星石(仮称)のように、首を横に振った。まるで、大鏡に出てきた福足君の舞で言うなら、「さ思ひつることよ。」とでも言わんばかりに。パーパルディアが福足君か。我ながらよく言ったものだよとヘッペシュは思う。あんな暴虐無尽な帝国のその態度が、藤原家のボンボンにピタッとハマってしまって。それなら、びしっとやってやろうじゃないか。ヘッペシュの顔に笑みが漏れてくる。あの時の空を舞う快感。ああ、これがそうだな。そうなんだな。戦争依存症とでも言うべきだろうか。俺はもう、内政そっちのけでも空に行きたい。飛行機に惚れてたんじゃない。俺は、あの血飛沫の光景に見惚れてたんだ。
俺はクズかもしれない。でも、俺みたいなクズはきっとこれから必要になる。俺はただ、関白殿の拳になれば良い。ここにはよき政治家、キラーイ・ヴィクトルが居る。「王」の名を冠したヴィクトルに。彼に全てを任せてやろうじゃないか。ヘッペシュの耳にはもはや、報告が如何とかはもう入ってない。ただ、目の前に広がる暗闇とキラキラとに、見惚れているばかりだった。
2025年12月24日 パーパルディア皇国
とりあえず上に登ってきた彼らにかかった言葉は、文字通り意外。本当、なんと言えば良いか。予想の斜め上を通ってくるような言葉だった。
「ご機嫌、麗しゅうございます。ところで皆様は、ムー国の同盟国もしくは傀儡国でございましょうか?」
「え?」
ただの兵士と目を合わせただけのはずなのに。それなのに、まるでゴルゴンと目を合わせたみたいに固まったリヒャルト。そうなるのも無理はない。彼のせいじゃないな。そう心の中でだけ呟くと、ようやっと口を開くマールス。
「私たちは、ハンガリーという国の使者にございます。この度は貴国パーパルディア皇国との国交樹立交渉に参りました。」
「そうか新興国か。それならば、このまま丘を上がってください。第三外務局が対応にあたります。」
マールスはぴくっと眉を顰める。こいつ、今敬語の使い方が少し雑になったか?杞憂だと良いのだが。とりあえず兵士に例を言ってその場を後にした。何やら無線機の様なもので連絡をしているみたいだが今はいい。それより、一刻も早い国交樹立を。そうして、登りきった頃にはようやくこの白くて、綺麗な建物が現れたのである。この建物、言うなればまるで宮殿。どうして、ただの外務局にここまで金を使うんだろう。何がしたいのかさっぱりわからないリヒャルトだった。一方でマールスにはだいたい察しがつく。そして、マールスの顔はますます暗くなっていく。その顔はまるで死亡フラグを見た観客のようで。特に深読みとかはできなかったが、その顔でリヒャルトも嫌な予感がすることは、だいたいわかったのである。こうして、思い木の扉をぐっと開けるリヒャルト。中はやっぱり綺麗で仕方ない。そういう事だろうな。
「………とりあえず窓口行くか。」
「ああ。」
そうして、隅々までピカピカの館を進んでいく2人。なんというか。申し訳ないがこんなにキラキラされたんじゃ帰って落ち着けないや。マールスはまるで社長との会食に行くサラリーマンのような顔をしながらも、窓口を探して彷徨っていた。不親切設計だな。地図もなくば、案内もないなんて。
「……ええっと窓口窓口………あれ?どこやねん。」
「おいマールス外交官!こっちじゃね?」
リヒャルトが指差す方向には、本当に銀行みたいな窓口が。でかしたリヒャルト。この前、なんで外交に連れてくるか聞かれたが、こういう事があるから連れてきたんだよ。リヒャルトは言わば、逆ドラえもんだからな。いざと言うときには、ものすごく役に立つ。それに何気に護衛も欲しかったし。
「……さて。それじゃ、行ってくる。」
「おん。行こうか。」
そうして邸(?)の中を、つかつかと窓口に向かって歩いていくマールス。まるで、何か戦争にでもいく兵士のように。
「すみません、国交樹立の手続きをお願いしたいのですが……その、局長がもし不在でしたら課長でも……」
「ええ。でしたら、まずは国書を拝見致します。少々お待ち下さい。」
慌てて黒い鞄から、紙を取り出す外交官。すぐに、その紙を見た女性職員は驚きの表情を浮かべた。新興国が、文明圏外国が、こんな質の良い紙を持ってきたんだから。とりあえず、動揺しながらも冷静な対応をする。きっと、この紙は輸入品なんだな。きっとそうだな。そう、自己管理をしてさっさと対処に当たる職員。しかし、その文面を読み進めるに連れて、またその顔が驚愕に包まれていく。
「………只今貴方がたの、国書を拝見いたしました。しかし、その……これはかなりハードルが高いと言わざるをえないでしょう。」
またさっきみたいにくっと眉を寄せて見せるマールス。そんなバカな。おたくらと違って俺たちは国書にそんな無茶苦茶を書く様なやつじゃない。仮にあったとしても、それは何か説明のつく事のはず。そんな態度を、外交官ながら顔に出してしまうあたり、このパーパルディアという国がどれほど腹立たしいか分かると思う。そして、マールスはハッとした。いけない、ここは外交の場でした。
「えっと、私たちの見解ですとそう言った部分は見当たらないのですが………」
すると女性職員はあからさまに、さっきのマールスが如くぴくっと顔に皺を寄せた。まるで「はぁ?」とでも言いたげに。
「あなた方は、もしもパーパルディアの民があなた方……ハンガリーでしたか?の中で、犯罪を犯したとして、治外法権を認めないと言ってらっしゃるので。」
「………それが何か?これは国際常識に他なりません。」
凛として動かぬマールス。それに女性職員は嫌気が刺したのだろうか。それとも単なる蛮族(と思っている。)への嫌悪か。いずれにせよ、まあ碌なもんでもない。
「我が国は列強ですよ?」
「それが何か?例え列強国であっても法規と常良識には則るべきです。国王といえども神と法の元にある。そういう論理に基づかない国であると?」
あたふたしだすリヒャルト。それがまるで恋人の喧嘩に挟まれた友人のような顔で。このままじゃ、外交の場で喧嘩しだすかもしれない。そんなのはシャレにならないことぐらいは、リヒャルトにもわかる。だがやっぱり、リヒャルトも度重なるイライラに耐えかねてたみたいだ。それが今噴火したらしい。
「あなたの国は、出来たばかりですか?文明圏以外の国とはいえ、国際常識を知らないにもほどがある。」
それは、向こうだって同じなのか。本当、苛立たしそうに口調を少し強めてきた。そうして話は続く。まるで、マシンガンのように。
「いいですか、今、世界において、治外法権を認めないことを我々が了承している国は、4カ国のみです。つまり、列強国のみなのです。列強国でない、まして文明圏にも属していない、国際常識すら理解していないあなた方の国が、治外法権を認めない、対等の国として扱えとか、列強国のごとき要求をしている。…………課長は明日には空きますので、もうしばらく待って下さい。ただ、私としては、これはかなりハードルが高いと言わざるを得ません。」
そう言われちゃあしょうがない。というのも、問題はハンガリーの置かれた位置。いや、立場の暗喩とかじゃあない。本当に位置。地理的な位置にこそ問題がある。そう、この場所は、言わば文明圏の外側。ハンガリーの場所はいわゆる文明圏外と言われる場所。その辺は、あまり強くない国がたくさんあるに過ぎない。故に、その文明圏外の国は弱いと言うステレオタイプが根付いていた。だから、無理もないな。
マールスは面食らった。帰るしかないんだろうか。とはいえもう裏で戦いが起きてしまっている。どうすれば良いんだろう。ヴィクトル大統領って、こんな気分だったんだな。それならロウリアが我が国を大して問題としなかったのも納得できる。この、文明圏外国が文明国に勝てるわけないという固定観念。これほどまでに厄介とは思ってなかった。まあ、とりあえずあの職員がまともな方でよかったよ。多分権限がないだけだろうけど、めちゃくちゃな要求をしないで。そう言いつつ、トボトボと港へと降るマールスとリヒャルト。潮風が、マールスの顔をそっと撫でていった。
「……さあて、これからどうすっかな。」
空を見れば、いつのまにか太陽が高く登っている。一体全体、これから、この猛獣をどうやって扱うべきだろうか。
「てな感じらしいです。」
「うおォン……そりゃあひでえやあ……」
マールス外交官には頭が上がらん。だってあんな言わば怪獣を相手取って貰ったのだから。思えば会っていの1番に大砲をどかんとしてくる国。そんなのまともであるはずがない。なんというか。とりあえず、まだこれが序の口のような気がしてならない。ヴィクトルは、気難しそうな顔をしながらも指をポキポキ鳴らして見せた。この、パーパルディア相手の外交。思ってた何倍も難しいやもしれない。というか、アルタラスにいる掃海艇はどうした。やつらが戦ってしまったらかなり面倒になるぜよ。
「……ああ、それもあるです。」
「えっ、嘘おん………」
そうして、翠星石(暫定)は話し出した。何か、昔のまずい話でもするみたいに。
2025年 12月25日 アルタラス沖
「……やっちゃった……やっちゃったよ……」
泣きながら、燃え盛る船を見つめるエマ。
「違います艦長。」
船員がそれを眺めながら言う。まるで、子供に言い聞かせるみたいに。
「やったんです。やってやったんです。聞いていたはずでしょう艦長!」
誇れ、と。楽しめと。そう付け加える船員。だがエマは首を振った。さっきの、船員みたいな顔をして。
「……違う。これじゃあ外交問題にも発展するよ。」
そう、言い返すエマ。そうは言っても船員にはやはりパーパルディアとかいう国がどうしても信用ならなかったみたいで。今ひとつこころえずと言った様子でエマの方を見すえていた。その、真っ黒なサングラスの向こうにある瞳で。
「……分かんないの!?そんな国が、いうこと聞かないくらいで軍隊を差し向けるような国が、負けたんだよ!?プライドの毀損でしかないでしょう?」
「た、確かにそうですが……さすがのパーパルディアでもそこまで迅速に戦争とはならないはずです。」
とは言え、ハンガリーの準備だってまだ万端じゃあない。このままプラセンタを一撃ぶち込めば観察軍はきっと全滅する。幸い、竜母は今回はいないらしい。ワイバーンロードが飛んでこないだけましか。とにかく、これは倒せるだろう。そう、『第一波』は。
地震にP波とS波があるみたいに、国の戦争だって順序がある。そして大抵の場合、P波は小手先調べ。負けてもリカバリーの効く範囲でしか戦力を出さないのだから。エマは、いや、エマ艦長は恐れてるんだ。その、いわば『S波』を。
「………認識が甘かったです。」
「……いいえ、パーパルディアが異常なだけよ。誰もその想定で予想なんざできやしない。」
エマは、紙を海風に揺らし続ける。船もそれと同じように、ゆらりと揺れた。
「………さ、1時ぴったり。そろそろ汚い花火が見れるわよ。」
しかし、誰1人として見るものはいなかったという。
一方で、ここはパーパルディア皇国の艦隊。こっちは本当に、まるでハンガリー艦隊の鏡合わせのようにてんやわんやだった。混乱、死、絶望。全てが混じり合う、混沌の地。
「いかん!戦列を乱すな!頑張れ、ここが踏ん張りどきだ!」
だがしかし、結局弾の雨が止むことはない。言うなればこちらが反撃の狼煙を上げる前に、そのための暖炉をぶっ壊し要員をぶっ殺されるみたいな。そんな、一言で言えば理不尽。それがポクトアールの頭に、まるで腐敗液のようにしつこくこびりついてきやがったのだ。まだ、火災は起きてない。魔信を返してくる余裕はあり。こちらの装填手さえ済めば、あんな小さい船蜂の巣にしてくれる。そう思った時だった。前の戦列艦が、炎に包まれて爆破したのは。
「うわっ!!」
「目がっ!!」
熱と、爆風と、塵の痛いことと言ったら。いわば最高の目眩し。こんなんでまともな大砲が打てると思うな。そのせいか、打てても頓珍漢な方に進むばかり。しかも相手、こちらより早い。みるみるうちに、射程から逃げてくじゃないか。一隻を早々にやられてしまった。だが一隻。されど一隻。皇国の観察軍はまだ居る。一隻の被害くらい覚悟の上だ。
「………こちら皇国監察軍東洋艦隊。一隻撃沈。繰り返す、50門級の戦列艦が一隻撃沈。ワイバーンロードと竜母を要請する。繰り返す、こち……」
その時だった。時計の針が、1時に重なったのは。
男たちが、夜中の真っ黒な海を見据えている。こうも暗い中で、よく活動できるものだ。ハンガリー海軍は。
「プラセンタN、発射ー!」
すると、暗い夜闇に勾配を描いて飛んでいく一本の星。それを見て、思い出した。そう言えばロウリアでこんなことがあったと。やがてゆっくり飛んだそれが、いきなりぐわっと弾ける。そこから燃え盛る火の玉が。ぶわっと大きな尾を引いて落ちていった。まるで、そう。「流れ星の夜」と言った感じに。自分すら見失いそうな。パレットに黒絵の具をぶちまけたようなくらい空に、一筋の光が刺す。ああ、これが兵器というものか。
「な、なんだこれは………これがプラセンタの力、なのか……?」
驚愕するのはリルセイド。この国の女騎士。彼女だって、「流れ星の夜」くらい耳に入れてるし、軍事兵器だって人並みに見てきた。だが、これは初めてのもの。気づけば、その「流れ星」にまろばかされたのか。戦列艦がまるで暑さで蒸し返ったエビみたいに、ぷかぷかと浮かぶ。驚愕と恐怖。そこに安心は一切ない。そこへと、トボトボ帰ってくるエマ。彼女の目には、絶望のみが写っていた。ドス黒い、絶望のみが。
「うおォン……そりゃあまた……」
「うるせえよおめえは井之頭五郎か。」
「まあそれは置いといて。」
「おいとくなよ。」
まあいいが、とヘッペシュは付け加える。プラセンタの実力確認はできたし、これならパーパルディアにも十分通用しよう。
「で、なんだっけ。そうだクリスマスおめでとう。」
「ん。」
と、無言でを手を出すヘッペシュ。
「ああ、プレゼントかい。僕からはとびきりの愛を差し上げよう。」
「お前きしょ。殺すわ。」
こうして、いつもの何気ない日々が過ぎていくのだった。白い雪が、ちょっとずつ降り始めた頃だった。
白くて暗い部屋の中。少しだけ白い光がすっと刺す。眩しい。カーテンくらいかけてくれよ。そう思いながら狸寝入りを決める私。ここまできたら、意地でも寝てやろうか。というか、どちらかというとこの眩しい光が太陽のように暖かくて。
しかしその時、奥の方からだろうか。あどけない笑い声が聞こえてきた。目を慌てて、しかしそっと開く。目の前には、黒くて大きいグランドピアノ。私はどうやら、行儀悪くソファーで寝てしまわれたらしい。
「………あら、お客様がお目覚めよ!」
そう言ってメイド服を着た女が私の頬へ無遠慮に触れる。だが私には抵抗する気力もなかった。なんというか、ただ、無気力。なんというか、どうにも力が入らないような。手持ち無沙汰な休日のような。
「……あ、マーサちゃん起きたの?」
「…あ、え、ええ。」
あの時のような、懐かしくも眩しい光景。そしてそれは、いつだって求めてたアガペーに満ち満ちている気がしてならない。目の前の少女は、さらりと長い髪の毛を重力に従って落とす。同時に、白のワンピースがそっと揺れた。どうしてだろう。なんだかこれが、記憶に新しいことの気がする。
「ね、ピアノ聞いてマーサちゃん。」
「え、ええ、良いわよ。」
驚きつつもなんとか答えを返す私。なんでだろうか。こうやって優しく、ぽてぽてと歩く姿さえも。その視線さえも。憎らしくて、冷たい雨霰のようでならない。
「………」
静かな部屋に、ぽろん、ぽろんと静かな音が響く。私だって昔からピアノくらいやっては来た。だからこそわかる。いいピアノだな、と。そしてそれ以上に、この少女の弾く旋律の数々が、とてもきれいで。
「お嬢様は、ピアノがお上手なのですね。」
すると、にこっと愛想良く笑ってくれるメイドと少女。しかし、私はその笑顔をぶち壊す如く急に立ち上がって言った。当然、同時にぎろりと睨んで。
「………ところで一体何処で私の名前を?」
すると、いきなりその光がぶわっと消えてきた。まるで、蝋燭の火が消えるみたいに。そして、彼女らがこちらに向き直る。さっきとは違う、下衆な笑みを浮かべながら。
「ひっ…!」
その顔を見て思わず目を塞ぐマーサ。だってその顔が、まるで蜜蝋が溶ける如くどろりと溶け出してくれおったのだ。
「……なんでって?だって私たちはあんたに殺されたんだからね?」
「マーサ。おはよう。」
さっきと違う暗い部屋の中、小さな声がそっと響く。さっきのは、夢だったみたいだ。それにしてもこんな時間に起こすなんて誰だろう。まあ、1人しか居ないが。私はまるで亀のように布団からのそりと顔を出す。部屋はまだ、まるで氷の様に寒い。こんなのならきっと、もの凄い朝早くだろうに。
「エブリン……?何だってこんな時間に?」
私はふと、時計を見てみれば午前4時。いや、確かに私たちは密偵だよ。だからといってこんなバカに早く起きる必要もないって言うのに。私は目が冴えてしまったので、腕を上にぐっと伸ばして見せた。どうせもう、寝れないだろうから。外はまだ真っ暗だった。あの時、確かここまで逃げ仰たときと同じ様に。
「まだここに来て間もないので。少しは休みたかったものです。所でどの様なことが?」
眠気眼をぐっと擦ると、ベッドから足を投げ出すマーサ。冷たい空気が、まるで針の様に肌を突いていった。エブリンの方だって、まだ寝巻きから着替えてすらいないのに。偉そうに足を組まないでくれ。あ、いや、上官は向こうだよ。だとしても流石に腹がたったから。だって、想像してみて欲しい。寒い寒い早朝に、こうやって叩き起こされるんだから。そして見上げれば腹立たしい足。もう少し間違えていたら、右懐に心込んだナイフで刺してやろうかとも思ったくらいに。
「そう怒らない頂戴。今日は何の日?」
マーサははっとした。そうだった。どうして今まで気づかなかったんだろう。そういえば今日は。
「クリスマス!」
「正解。はしゃぐなんてまだまだ子供ねえ。」
「ちょっと前まで未成年ですので。」
エブリンは私のベッドに歩み寄ってくる。一体、何があるんだ。仕事じゃないと信じたい。そしてエブリンはマーサのちょうど隣、ベッドの後ろの方にどかっと腰掛けた。古くて黄ばんだベッドが、ぐっと柔らかく、重く沈む。思わず口に手を当てるマーサ。だって、あんまり埃がひどかったから。自分はこんなので寝ていただなんて。まさに狸寝入りだったな。
「クリスマスまでに帰れなかったね。……今日一日、思いっきり楽しみましょう?」
「ばか、何を楽しむんですか。」
(……そういえばかなり魘されてたわね。ストレスのせいかしら。)
マーサに何があったのかは、実のところエブリンにも良くわかってない。それは教官として、少し歯痒いところももちろんあるけど、人のプライベートにずかずか踏み込むのもまたちょっと。
「……ね、マーサ。クリスマスプレゼントがあるの。」
そうして、ベッドの下あたりを漁るエブリン。黒い銃と、よそゆきの服?一体どうしろと言うんだ。
「ひとつは、銃ね。」
機嫌良さそうに銃を抱えるエブリン。いや、そんな魚釣った時みたいに持たないでよ。縁起でもない。どうやって反応したらいいのだか。そんなマーサとは裏腹に、エブリンはにぱーっと笑うばかり。
「これなーんだ?かわいいマーサちゃん。」
「AKM−63ハンガリーがAK47のライセンスとして作った銃性能は普通普通普通というかAKに言うことなんてない。」
「随分と早口ねえ〜、筆者のなまじいな津軽弁がうつった?」
「何言ってるんですか貴女。」
マーサはため息をつきながら首を振る。そして、息が白いのを見て初めて気付いた。やっぱり、ちょっとどころじゃなく結構寒いんだと。
「で、もう一つがね、お金。これをとにかく不特定多数にばら撒いといて?」
「地味な仕事ですね。」
「ああ、気付いてるんだ。」
そう。これは偽札。経済を混乱させる気なんだろうけど、私たち2人の生活費だけじゃあそんなの遠く及ばない。一体どうすると言うんだろう。
「そこでゲストのお出ましよ。入って、どうぞ!」
すると、木のドアがぎりっと音を立てて開いた。そこから覗いたのは、ロングソードを携えた藍色外套の男たち。うち1人は、なんというか軽武装。ああ、こいつがドンか。
「いらっしゃーい、私たちがハンガリーの、まあ、スパイ?なのかな。とにかくÁVH……のそうね、私のことは『セブンブリッジ』とでも呼んでちょうだい?この子は……いえ、自分で言えばいいわね。」
そうして、やっとお喋りがだまってくれる。私はすっと息を吸い込んでから言い放った。
「同じくのÁVHの密偵。私はそうね、ペンタクルとでも呼んで。」
腕を組みながらも、AKMを手放すことはない。もちろん、この剣という間合いへの警戒。すると男の方が、剣を床に投げ出して話し始めた。まるで、昔の屈辱を話すそのもののように。
「………私はハキと言います。クーズの、元騎士です。今日は、劣悪な環境であった魔石鉱山を抜け出してきました。ところで、あなた方ハンガリーが我が国クーズの独立を支援するとは、本当でしょうか?」
「ええ。私たちも早い話、うんざりしてるの。あの国の暴虐無尽に、ね。」
エブリンの顔がどんどん暗く落ちる。それでも顔は、顔だけは笑っているのが本当逆に不気味で。
「……そう。ですか、では私は何を差し出せば良いでしょう。」
「独立後の同盟と貿易の優先、てとこかしらね。まあ、後者はできればでいいけど。」
するとハキの顔が、驚愕に包まれた。それだけでいいのか、とでも言いたいのかな。この世界はいろいろおかしい。このパーパルディアが、そのでかい具体例だから。
「………セブンブリッジさん。貴女は連れて行かれた母に似ている。おしゃべりで、一緒にいて楽しくて、でもそこはかとなく怖くて、それでも憎めなくて……」
騎士らしからぬ涙を浮かべるのを見るあたり、今までのがぷっつんしたんだろう。その時マーサも決めた。戦争が嫌とかじゃない。遅かれ早かれパーパルディアは牙を向く。つまりこのパーパルディア、絶対に殺るしかないって。
「……貴女は保護するわ。日用品とお金は、全部支援する。それと、活動資金を配ってきたいの。ごめんね偽札で。」
はっとするマーサ。そうか、経済混乱というのはこういうことか。大口で、ニセガネを使ってくれる取引先。それがここにいるじゃないか。ジュラルミンケースを慌てて持てくるマーサ。どうやら私はちょっと読みが甘かったらしい。
「……どうぞ」
「気がきくじゃないマーサ。……ところで、お母さんも泣いてばかりじゃ悲しむわよ。それに死んだと決まったわけでもない。それなら、私たちの国においで。私たちの国民はまだ、パーパルディアの恐ろしさを知らない。むしろ、戦争に反対している。でも、あんなのを野放しにできないでしょう?」
ハキは、はっきりと意思を持って首を縦に振った。
「いいわね、それ。………この港にこの紙を持って行きなさい。制限時間は明後日の真夜中。その間、私たちは貴方のお仲間にボイコットを仕向けてくるわ。あと、なるべく抵抗組織に偽札もばら撒く。あなたの息のかかったところを中心に、ね。」
こくりとまた頷くハキ。その目には、本当に騎士のような燃える目が宿っていた。
「…これもなるべく、不特定多数にばら撒いて使ってちょうだい。本国に持って帰っても仕方ないから。差し当たり1億パソ貴方1人の宿賃に。1組織最低10億パソと旧式武器を配っておく。あと、貴方のお仲間さんの分も。安心しなさい。ここに武器もあるわ。」
マシンガントークだな、とマーサとハキは目配せしてみる。マーサのお喋りは、やっぱり長いな。でも、それも今は悪い気がしない。
「皇国兵を倒すより、絶対にこの港に行くことを優先して。合言葉は『アウグスライヒ』。さあ、早く。」
そして、急かされるまま行こうとするハキ。しかし、最後振り返って、エブリンに言った。
「セブンブリッジさん、ありがとう……本当に……」
そうして、あのドアはまた閉まってしまった。まるで、私たちの方を締め出すみたいに。
いつだって、そうだよ。世界は回ってるんだ。ヴィクトルはステンドグラスの外を見てみる。ドナウ川が、いつもみたいに綺麗だった。
『あっ、雪だ。』
僕らはいつだって、同じ空を見上げている。いつでも、きっと、誰であっても。しんしんと白雪の積もる中、祈るもの。戦いを繰り返すもの。巡り会った、大切なものを失いかけるもの。変わらずに、おバカを交わすもの。国の復興に励むもの。敵国の暴虐無尽に怒るもの。あるいは、密偵を働くものも。きっと、そうなんだろう。
「みんな、おめでとう。本当におめでとう。」
「ああ。おめでとう。」
そして、全員。きっとみんな同じ時間にこの盃を持ってくれるはずさ。だって、僕らは同じ空を見てるんだから。
『boldog karácsonyt!!』
聖夜への祝いは、かちんと音を立てた。みんな、同じ時に。
いかがでしたか?
ちなみにタイトルにもあるboldog karácsonytは、ハンガリー語でメリークリスマスに当たる言葉です。
まどマギ、面白いですよ。とりあえず3話まで見て合うかどうかだけ決めてみるのがおすすめでございます。私の推しが3話でゲフンゲフンなんでもないっす。
というわけで、次回もお楽しみに。励みになりますので、よろしければお気に入り登録と感想、高評価よろしくお願いします。
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