イシュトヴァーンよ永遠なれ   作:デブレツェン

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どうもあけましておめでとうございます、更新速度が上がるどころかめちゃくちゃに下がっているデブレツェンです。年末年始の節はすみません!

現在、キャラ人気アンケート実施中です。一位は出番を増やします。皆さんの大好きなキャラの出番が、あなたの一票で増えるかもしれません!具体的にどの程度増やすのか、それはちょっとまだ未定ですがとにかく若干でも出番が増加します。

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というわけで、新年初の投稿です。22話、どうぞ。


第二十二話 交渉

 

「いやあ、どうしようか。本当に。」

暖かい部屋の中で、ぱちぱちと燃える暖炉。そんな中ヴィクトルはまた頭を抱える。自分の指示だし正当防衛とはいえ、パーパルディアに喧嘩を仕掛けてしまった。いざやって見ると、ちょっと緊張する。というのも、パーパルディアがあそこまでのクズとは全く知らなかったから。ヘッペシュが、嘲笑うように言う。

「アルタラス王国の国王から、以前いただいた国書を少し見せて貰いましたよ。まあひっでえ。パーパルディアがアルタラス王国に何を要求したか。当ててみろよ。」

「えーと………なんだろう………傀儡化とか?」

「そんな生ぬるいもんじゃねえよ。傀儡どころじゃない。属領化だ。まあ、こっち風に言えば、植民地になれと。」

「なんですかそれは!よくもそんなことをぬけぬけと、です!」

「しかも、王女様は奴隷として突き出せと。名指しなのを見ると、まあそういうことだろうな。個人的嗜好を、こういう国のいざこざに持ち込むのはやめた方がいいんだぜ。本当の話。」

ヴィクトルはというと、なんというか、とにかく変な顔を向けてる。まるで、最後の晩餐を食うキリストのような。

「これが石に口漱ぎ流れに枕するってやつです。」

「お前それちょっと意味違うぞ。」

と、言いつつもヘッペシュだって何か難しいような顔を浮かべていた。まあ仕方ない。パーパルディアの相手が厄介だと言うことが、十二分にわかったから。しかし今回は、高い勉強代で済ますべきでもなかろう。

「はてさて……真面目にどうしようか。」

言ってしまえば、防衛は多分できる。いや、本当どうにか。這々の体でという意味でだが。しかし危惧すべきはそっちじゃない。もし、我々が使っているエネルギー、石油という存在に手を伸ばされれば。輸送に使ってるロウリアの、3000隻ガレー船艦隊などドカンと一発だろうに。無論それを守れるほどの艦隊はない。というか、そんな余裕があるなら今ごろこのパーパルディア若きを相手にヒイヒイ言ってはないだろう。

「そういえばロウリア王国の運輸会社は?」

「ダブルヘイクを義務化、できることなら旧式の対空砲を。安心してくれ、第二次世界大戦レベルだ。パーパルディアなんてチョチョイのちょいだよ。」

「だといいんですけど……」

しかしヴィクトルは、やはり今ひとつ不安と言った様子。ダブルヘイクは、現代技術魔改造を受けてるから。パーパルディアのそれより遥かに射程で勝る。ただし、対艦用として申し分ない威力かと言われると。

「ま大丈夫でしょう。きっと。最悪、奴らの主力を壊滅させりゃあいい。そうすれば大人しくなる。」

「ヴィクトル大統領、なんのためのスパイですか。」

「まあそうだな。海軍の指揮系統なんかを攪拌させてもいい。」

と、言いつつもスパイにはあんまり指示を入れてはいない。いつだったか。コードネーム:セブンブリッジという奴から「スパイはスーパーマンじゃないのよ。」と、泣きの電話があったから。まあ年末年始くらいは、ちょっと休ませてやるか。という感じでまとまったのだ。

「………とは言え、スパイだって休暇はいるよな。それに……」

ヘッペシュはくるりと暖炉に背を向けてみせた。そして、ちょうどヴィクトルに向かってぴしっと向き直る。

「年末年始が終わった後、直ぐに仕事って方がダルいだろう?セブンブリッジさんの反応が面白いと思うんだ。」

「おめえとことん性格悪いな。」

暖炉の火が、少しずつ消える頃のこと。なんでだろうか。とんでもないやつが政治部の中枢に居たんだなと今さらながら。そうして、ヴィクトルは手を顔に当てて、頭を左右に振って見せた。消えそうだとは言え、まだ暖炉の炎はパチパチと燻っている。何より太陽みたいにじんわり暖かい。ステンドグラスに透ける光は、だんだんと弱くなってきている。それでも、この暖炉みたいに暖かい光をちょっと送ってくれた。

「………さてさて、まあでもやろうってならやるぜ。」

そうだ。俺たちハンガリーは、皆んなが思っているほど生ぬるかあない。売られた喧嘩は、喜んで買ってやるさ。パーパルディアだか何だか知らねえが、いつだってこっちにかかってきやがれ。返り討ちにしてくれる。ヘッペシュは、顔いっぱいに笑顔を浮かべた。まるで、お年玉でももらった子供のような笑顔を。

「……強がってもしゃあない。さあ、作戦だけでも立てとくぜ!ヤーノシュが帰ってくるまでに、な!」

「おうよ!ところでヴィクトル大統領。」

ヘッペシュがまた、口の口角を上げる。いや、正確に言えば、口だけの口角をくっとあげたんだ。即ち、目は笑ってない。その手には白い紙。それも、見覚えのある。ヴィクトルもまた口の口角を上げて見せた。まるで、追い詰められた猿が喧嘩相手にするみたいに。

「………この造船計画は何ですかい?」

そこには書かれていた。様々な図面が。そして、ヘッペシュが見た事のあるそれと、ちょっと違うものも書かれていたのである。そう、哨戒艇とフリゲート。それは今まで通り。ところが、それですら無理があった計画が、このせいでメチャクチャじゃないか。いや、まあ言ってしまえば元々めちゃくちゃだが。

「………てへぺろ」

「てへぺろじゃねえよ。」

ヘッペシュは顔から笑みを消すと、暖炉にまた背を向けてため息をついた。葉巻タバコの煙よりずっと深くて甘い、ため息を。

「……さて読み上げて差し上げましょう大臣直々に。えーなになに、海軍増産計画『薔薇計画』とな。発案者はリヒャルト・マクス・フォン・ゲイゼル。ああ、リヒャルト司令の本名ですねこれは。で、とにかく。問題はその先。哨戒艇3隻とフリゲートという、限りなく反実仮想に近いことが書かれてますねえ。そして大問題。こりゃあなんだい?」

ヘッペシュは、さっきの悪魔の如き笑みを浮かべながらヴィクトルに迫る。それを見るヴィクトルは、ただまた猿みたいに心にもない笑顔を浮かべるしか無かった。無論、ちゃんと後退りもしながら。

そしてそのヘッペシュの指差す先。それは、紙だし図面設計図に他ならない。ただ、他にないのがとにかくそれが大きいという事だ。

「……何ですかねこれ。セント・イシュトヴァーン級戦艦?」

ヘッペシュの口角がさらにくっと上がってきた。これは、何だろう。そうだきっと戦艦という男のロマンに沸いているんだきっとそうだ。いや、そうだと思うしかない。

「ど、どうだい格好いいだろう?」

「ああ格好いい。」

「それじゃあ…」

「いいわけねえだろおおおおおおおおおおおおお!」

新年の近づく、クリスマス終わりの冬のことだった。

 

 

 

 

 

 

ここは、アルタラス王国。その中でズカズカと、まるで怒っているように草むらを歩く女性が1人。いや、実際怒っている。聞いていないじゃないかこんな話は。こんな、酷いことをするなんて。ハンガリー軍とあのエマとかいう女司令官を一度とっちめなくては。いいや、殺す必要はない。ただ、『話』を聞ければそれでいいのだから。そうして、丘の上をぽかんとする男どもを押し除けつつ進んでいく。いたじゃないかエマ司令。お疲れのようだが、少し話を聞かせて貰おう。これが、たとえ国際問題になるとしても。長い目で見て我々の利益になるとしても。あれは人間として間違っている。

私、リルセイドの目だって節穴ではない。どういう物なのかも粗方理解した。あんな性格の悪い兵器を見せられたのだ。例え使うのがパーパルディアだとはいえ、おいそれと使ってたまるか。それに、若干ではあるがあんな破壊兵器をいくつも使うのは多少申し訳ないとも思っているのだから。空を見ると、白い月が綺麗に出ている。それは、何度見てもやっぱり冬の月。さっきまで、爆弾のせいでものすごく明るかったのに。今は、月明かりだけになってしまった。その目の前には、月風に三つ編みを泳がせる、軍服を着た少女。本当に、少女に見えるほど小さくてあどけない女性だなと私、リルセイドは思った。そうして、私は剣のポンメルあたりに手をかけながら、そろりと近づく。まるで、何か悪いことでもしたみたいに。

「司令!エマ司令!」

「ああ。リルセイドさんですか。こんばんは。」

「こんばんは。ところで、あれがプラセンタNの?」

「ええ、素晴らしいでしょう。あれが所謂汚い花火ってやつなの。」

と、言いつつエマは火の燻る煙草を少し下に向ける。やがて、ハッとしたようにそれの火を消し始めるのだった。

「ああ、いいんだ吸ってて。それより意外だな。貴女が吸うなんて。」

「柄に合わないってよく言われます。」

「じゃ、そうやって敬語を使うのもやめやめ、柄に合わないよ。」

そう言いながら、肩に手をかけるリルセイド。そして、今度は顔を真面目な顔に急に変えてくるから驚いた。本当、変面のような速さだ。

「……それで、あのプラセンタとやらの阿鼻叫喚の地獄。まさか私が気づいていないとでも思って?」

「いいえ?」

また、エマはにっこりと笑って返して見せた。まるで、偽造品のような笑顔をぴったり貼り付けて。その白い手袋に包まれた指の間には、まだ火のついた明るい煙草。それがまるで、この月灯の鏡合わせのようだった。

「……そうか。それならいい。ただし、分かっているだろうな?」

「分かってますよ。貴女はきっと、本当は優しい方なのでしょう。パーパルディアへの怒りで我を失うこともなさそうですし。」

エマは、心の中でやれやれと首を振った。私はまるで、気分だけは夫を宥める妻のようだ。本当、気分だけは。もちろん失礼だということをエマはわかっている。だからこそ、これを心の中に留めておいたのだ。

「……それで?それだけじゃないでしょう?」

「ああ。バートリ・エマ艦長。私とて合わせ願いたい。」

また急に言われるのだから、思わず何気なく口に運んでいた煙草の煙をむせさせてしまったじゃないか。ごほ、ごほと小さな咳をしながらもう一度向き直すエマ。

「え、えっと、その手合わせって?」

「無論、一騎討ちだ。ああ、殺しもしないし殺される気もない。ただ………」

そこまでいうと、リルセイドは自分の剣を鞘ごとベルトから外す。

「…踏ん切りをつけてやりたくて、な。」

そう言いながら、鞘に収まったままの剣を構えるリルセイド。月を背にするその背中には、なんというか。優しさと責任が写っているような気がした。その時。

「敵襲!敵襲!」

「……どうやら、仲間内で遊んでいる暇はなさそうですね。」

「ええ。そのようです。」

しかし一体どうして。どこから沸いたというのだ。まさか。あの、監察軍の艦隊にはあれがいなかった。そういえば、パーパルディアは竜母なる空母のようなものを持っているらしい。と、いうことはこれは露払いに過ぎないのか。連絡途絶と、この大爆発を不審に思った後方の竜母たちが、こっちに向かっているのではないか。それなら、この速さでの敵襲も納得がいく。詰まる所、それはワイバーンロード。詰まる所航空戦力が来ているから。航空戦力は、船に比べて圧倒的に足が速い。きっと、そういうことだ。まずい。そういう事ならさっさと迎撃をしないと。

そうして三つ編みの少女たちは、血の滲む軍靴も知れずに草原を駆け降りていくのだった。

 

 

 

 

 

 

ここは、パーパルディア皇国の首都。そして、その綺麗な港だった。まるで、ヴェネツィアを彷彿とさせるような。そこに一隻、一風変わった珍しい船が停まっている。その近くの椅子に座って見張る、酒臭い男が1人。酔っているのか私を見るなり、何やら変な銃を持ち出して言ったのだ。磯の匂いが、もうしない。だってこの男が、思ったよりものすごく酒臭いから。

「君、なんだい。ここはハンガリー王国の船だよ。」

「あ、まだ王国ではないぜー。」

「そうかそうか。しゃあなし。」

そのよくわかんない言葉をスルーしつつ、話し出すハキ。そんなことに付き合ってる暇なんてない。早くこの国から離れて、クーズの復興をせねば。反撃の狼煙を、ハンガリーに乗じてあげねばならないのに。

「……あの、合言葉はアウグスライヒ。」

すると、さっきまでふざけ散らかしていた太った兵士の声色が変わる。そして、神妙な顔をしながら言い放った。そう、まるで、呪いを祓う神官が如き真剣な顔をして。

「………てことはあんたが噂の亡命者ってことでいいんだな。セブンブリッジさんから話は聞いている。紙は?」

「どうぞ。」

そして、その質の良い紙をまたハンガリーの手へと戻す。それを、しっかり真面目に確認したのちにそのデブな水兵はまた口を開いた。

「うん。偽造品じゃないな。さ、こっちに入るんだ。」

そうして、海の上に堂々とある船へと行こうとしたそのとき。

「おい。貴様、何をしている。」

奥から忍び寄る、青い服の兵士。手には重そうな、どす黒い銃口のマスケット銃を持っている。後ろを見ると、まるで皇国兵の服みたいに青い海。逃げ場はない。なんと言うか。潮の臭いが、一気に良くないものに変わった気がする。ハキと太った水兵の口に鉄のような酸っぱい味が充満した。どうしようか。下手に逃げれば、刺激するばかりだと言うのに。その時。

「やあやあ皇国兵さんじゃあないですか。お疲れ様でございます。」

いきなり急なことだったので、びくっと震える一同。そこには、マールス外交官とリヒャルト司令。何故だろう。リヒャルトの方がこちらに目配せしてきている。しかも、顔に苦笑いをふっと浮かべながら。そしてそんな飲み込めてない皆を置き去りにするごとく歩くマールス。歩み寄る先は、皇国兵。その耳元に、こそっと小さな声を立てる。すると、みるみる青くなる皇国兵のなんと面白いことか。ハキにとって、文字通り脅威という存在だった皇国軍が。こうやって、一言で黙らされているのは大いに面白い。まあ、だからと言って詮索はしないが。きっと、さぞ恐ろしい話なんだろうし。

「……いいかい。君はこのお金をもらってパトロールに戻る。それでいいね?」

「は、はいいっ!大丈夫ですっ!」

慌てふためき、まるで生まれたての鹿のような足取りで逃げてく皇国兵。あの札束、多分偽札だろうな。ダメだ、まだ笑うんじゃない。ハキは自分に言い聞かせるのに必死だった。だって、繰り返し何度でも言うが面白すぎるのだから。

 

「………ふう、手荒なことをしてしまってすみません。これで許して頂けますかね?」

と、言いながら温かいココアを差し出すマールス外交官。船の中といえば、湿っぽくて暗い場所というのがセオリーだったというのに。だがしかしこの船は全く違う。明るくて、暖かくて、そしてあまつさえこんな美味しい飲み物まで作れる。技術面でいえば、きっとパーパルディアがびっくりするものだっていくつもあるはずだ。この調子なら。

「………ところで、外交では何を言われたか聞きたい?」

「ええ。パーパルディアが、外交ではどのようなものか。非常に気になります。ただ、だいたい予想はついてますが。」

 

ここは、第三外務局。パーパルディア国内で、文明圏から外れた国を相手する場所。行われるのは外交とは名ばかりの詰問ばかり。まあ、彼らに言わせれば蛮族だから何してもいいらしいが。とにかくそういうことらしい。とはいえ背に腹はかえられぬ。窓口にもう一度出向いてみよう。

「……すみません、あの、昨日伺ったものですがぁ……」

「ああ。どこでしたか。は……」

「ハンガリーです。とにかく、本日中に外交に対応していただく約束ですので。」

すると、やっぱり露骨に顔を暗くする女性職員。全く、相変わらず無愛想な奴だよ。まあ、約束を破っていいとは思ってないらしく大人しく通してくれた。

「ええと、ここに行けばいいんだな。」

そうして、木の扉に向かってノックをする。リヒャルトは苦笑した。まるで、面接じゃないか。後はこの木の色が無駄に暖かいから。こんな国で、凍れる思いをしているというのに。

「どうぞ。」

「失礼します。」

そうして、リヒャルトもいつもの剽軽を抑えつつ入室する。奥には、3、4人くらいの『面接官』。手前に二つの粗末な椅子。いや、粗末に見えてしまうという方が適当か。

「ここです。ここで、まず自己紹介をしてください。」

マールスは驚いた。さっきは冗談と冷笑半分に、面接だ面接だと心の中で騒いで見せたが、まさかこんなことになるとは。マールスは口内をぐっと噛む。暖かい空気をすっと吸い込と、木の香りが鼻の奥を通り抜けていった。

「……私は、ニーメット・マールスと申します。ハンガリーの全権大使です。以後、お見知り置きを。」

「私はハンガリー海軍防護巡洋艦カイゼリン・エリザベート艦長のリヒャルト・マクス・フォン・ゲイゼルと申します。今回は、補佐と護衛を務めて参りました。」

「遠方から遥々お疲れ様です。よろしくお願いします、マールスさん。リヒャルトさん。私は第三外務局局長のカイオスと申します。」

そこまでいうと、目をふっと瞑ったまま手元の紙をぺらりと捲る。

「どうぞ、かけてください。……ええと、それで。我々はまだハンガリーについて良く知りません。よろしければ、ご説明願えますか?」

「はい。ハンガリーは、貴国から東にある島国です。面積は、93,030 km²ほどで、人口は1000万人ほど。そして、ロデニウス三国との国交を現在結んでおります。名産品は、医療用品、モビリティ、そしてはちみつなど多岐に渡ります。」

マールスがそう言いながら、リヒャルトが紙をさっと配っていく。これぞ、チームワーク。そう、自画自賛に近いものを感じて、顔をにやけさせるリヒャルトだった。

「……なるほど。ところで、貴国は最近有名ですな。あのロウリアを下したのですから。そして、今アルタラスにある我が観察軍。それにも、貴国は攻撃を仕掛けたそうではないか。まあ、とにかく事情を聞きたいと思います。」

「はい。あれは、不幸な行き違いです。我々は、電光掲示板でのやり取りと、音声での警告をしましたが、貴国の観察軍は容赦なく攻撃を仕掛けて参りました。したがって、やむなく攻撃を行ったのです。」

「なんだとっ!!! 不幸な行き違いだぁ!!監査軍に攻撃を仕掛けておいて、何事も無かったかのようなその言動!タダで済むと思っているのか!!」

みてみると、カイオスはまるで針のような視線を向けている。その視線の、なんと痛いことか。本当に針で刺されているみたいで。

「はて?なんの事でしょうか。我が国はそもそも、アルタラスに対して外交団を送ったに過ぎません。そも我が国はあなた方と違い比較的平和主義。である以上、言わば我々は降りかかる火の粉を払ったに過ぎない。詰まる所自業自得。先制攻撃を仕掛けた貴国にこそ帰責性があるべきですよ。本当。」

「貴様ぁ!生えある皇国観察軍を火の粉だと!?自業自得だと!?」

「先に攻撃を仕掛けたのはそちらです。」

マールスはやはりシラを切る。というか、毅然として譲らない。ついに、舐め腐った発言の数々にいきりたつ職員。まあ、それも仕方がない。このマールスという人選は、やっぱり失敗だろう。彼には、何よりなんというか、ナショナリズムというものが根付いてしまっている。自国を侮辱されたその気持ち。それだけがまるで、亡霊のように彼に取り憑いてしまうのだから。言わば今の彼は、「ナショナリズムの権化」。何を言ってもだいたい無駄だろうに。ここは冷静な軍人として、一つ助け舟を出してやろうか。

「マールス外交官、今回は喧嘩をしにきたのではありません。……失礼しました。これからは、関係修復に向けて歩みを共にしたいと考えております。彼は、少し愛国心が過ぎるのです。申し訳ない。」

まあ、いくら言ってもこうやって外交の場で侮蔑する方が悪いと言われればそれまでだが。なんといっても、こいつらの口が悪いのが全ての発端だぜ。マールスの悪い口より、むしろ俺はそれをカバーしてるんだ。

「いえいえ。こちらも、部下が失礼した。何しろ喧嘩っ早い部下でね。なるほど……関係修復、ですか……」

そこで、マールスが口を開く。もちろん、さっきよりかは落ち着いた口調で。

「はい。お互い、余計なトラブルとは無縁でいたいと思いませんか?」

「それも、一理ありますな。我が国のことを、よく知っていらっしゃる、」

どうやらカイオスというやつ、結構な有能らしい。ちゃんと、言葉の面と裏を理解しているじゃあないか。

「……それで、先ほどの話を聞く限りではありますが、貴国と関係修復を行うメリット。そこに関して申し上げますと、どちらとも言えないでしょう。」

「あ、すみません。実は我が国の写真というものを持って参りましたので、どうぞ。」

そうすると、手元の紙を今度は真面目にめくり始めるパーパルディアの人間たち。本当、こういう所だとおもうぜ。こいつらが滅びない理由は。

「………なんだこれは!?」

資料を読み進めるにつれて、みるみる顔が変わっていく相手方。そして、恐る恐るこっちへと顔を上げる。まるで、何かホラー映画の変な化け物を恐る恐る見上げるみたいに。

「……こ、これは……なんという街並みだ……!」

これがもし本当なら、どうして皇国が勝てよう。例え、噂通り4隻としてもそれでロウリアを倒したんだ。その上で、この根底にある経済力。それだけならば、皇国が勝てる要素がない。即ち、このハンガリーはさっさと潰さねばならない。その言葉に尽きる。やるなら今だ。やらないのがベストだが。

「………貴様!皇国をコケにしているのか!?なんだこの国ごと転移というのは!!」

「この魔写もにわかには信じられん。」

そこでマールスの目が、ぎらりと輝く。同時に口角もくいっと上がって。不気味なくらいに、露骨だったからみんな震えていたよ。本当、待ってましたって感じだったから。

「そこで!我が国に!使節団を送っていただきたいのでございます!」

だがやっぱり引かないそこはパーパルディア。職員のうち1人が、またいきなり立ち上がってきた。

「はっはっは!!!第3文明圏最強の国であり、世界5列強に名を連ねるパーパルディア皇国が、文明圏外の蛮族に使者を送るだと!?少し質の高い軍を持っているようだが、お前たちが戦ったのは旧式兵器を持った軍だ!!本軍の装備と規模であれば、こうはいかんぞ!?」

局長カイオスは、東部担当部長を睨みつける。まるで、虎か何のように。そして、さっき我々に向けたように。

「おい、言い過ぎだ。ハンガリーとの関係は、皇帝の御意思も入っている事を忘れるな」

「は、はっ!!」

そして再び席に着く部長。その姿がまるで蛇に睨まれた蛙といった様子で本当面白くて。とは言え、ここはカイオスの言う通り外交の場。笑うわけにゃあ行かない。それをリヒャルトもマーールスもしっかりわかっているから。

「ところで、ハンガリーの方々よ。我が国には文明圏内に5カ国、文明圏外に67国、大小の差はあるが、計72カ国の属国があるが、貴国は何カ国属国をお持ちか?」

「属国……?」

リヒャルトが首を捻っているのに見兼ねたのだろうか。ついに、マールスがその口をまるで機関銃のように捲し立てる。

「我が国に属国は存在しません。……しかしそれは前近代的な侵略的思想ではなく、平和的な思想を手に入れたからに他なりません。採算の取れない植民地経営など自尊心の保全程度にしか役に立ちませんよ。」

「な、貴様……!よくもそんなことをつらつらと!!」

「属国もない国が何を偉そうに!」

だがしかし、それでもカイオスだけは咎めない。むしろ、部下を宥めて回る。だって気づいているから。この国の、底力に。この不等号が、自分たちに向いているということに。だからマールスだって、こんな高圧的に振る舞っている。だって力関係をわかっているから。このままじゃ、戦争になる。少なくとも拡大政策の邪魔になることは確定。何ならば負けてしまうことだってあり得るだろうに。カイオスの顔には、脂汗がだらだら浮いていた。無論、部下たちとは違う意味の。

「失礼。ところで、皇国からハンガリーへの人員派遣については、2週間ほど待っていただけますか?こちらも色々と内部事情がありますので………。2週間後に、また第3外務局へ来ていただけますか?宿はこちらで手配しましょう。」

「………わかりました。」

そう言うことなら、そうするしかない。お預けをまたくらっちまったじゃないか。まあ、マールスという奴のせいだが。リヒャルトとしては、これは不可解極まりない。だってパーパルディアとやり合っても旨みはないし、勝てる気はしない。なのに、どうしてヴィクトル大統領は戦争する気なのか。そして、その入れ知恵だろうに。このマールスの態度は。

「ふ……それでは、2週間後が楽しみですな。」

と、言いつつ腑に落ちない様子の部下たち。そのギャップが、パーパルディアの現状をなんとなく表していた。

 

「………という感じですが、どうでしたか。予想通りって顔してますねえ。」

ハキは、まるで外に降る雪みたいに白い顔になっていた。本当、魂が抜けたというか。無気力というか。とにかくそういう顔をずっと浮かべている。寒さのせいだろうか。もう既に、湯気を放ったココアはない。ただ、寒い潮風だけが、この部屋に突き抜けていった。

 

 

 

 

 

 

 

ここはパーパルディア皇国第三外務局。ここでは、アルタラス王国という国に2度目の監察軍を差し向けていた。というのも、アルタラスはいうことを聞かぬ所か、生意気にも抵抗してきやがったのだから。仕方なかろうそうでもせねばメンツは丸潰れさ。

職員は、やれやれと言った様子で椅子に腰掛ける。今日は、ハンガリーなる新興国のお相手で忙しかったというのに。奴らは本当、贅沢なものだったよ。こっちだって怒鳴るのに必死さ。全く蛮族は相手にしていられん。そう、どこか思ってしまう職員だった。この職員はいつも陰口のように心の中で囁く。それが悪い癖なのは分かっていたが、口に出さないのは幾分マシだろう。いや、「蛮族」相手であれば別ではあるが。

そして、気だるそうに報告書をぺらりと捲る職員。暖かい暖炉の火が、部屋を強く明るく照らしていた。

「………何だこれは!?通信途絶!?」

「はい。後方で待機していた竜母とその護衛艦隊合計10隻を除きその全てがやられたものと考えられます。」

「………おかしい。アルタラス如きにここまで手こずるものだろうか。」

「それはあり得ません。ですから、きっと嵐や台風に巻き込まれたものかと…」

職員はまたはあっと思いため息をつく。ため息がまるで、冬の寒い白息みたいに重くて冷たい。

「……とにかくカイオス様に報告だ!残存する艦隊も、捜索を開始しろ!そして、アルタラス。」

そうだアルタラス。つまり、彼にとってアルタラスが全ての元凶。罰すべき存在。ここまで我がパーパルディアをコケにするとは。そう、意気込みつつ今度は立ち上がって見せた。その、重くて疲れた腰を自ら起こして。明るい暖炉が、だんだんと弱くなってきている。このままではまずい。これは、皇帝陛下にも報告せねばならぬほど重要だ。

しかしながらこの職員にもハンガリーが全てのマスターマインドとは思えないのだから。とはいえ、職員だって分かっている。何れにせよ、このパーパルディアにとってメンツ丸潰れはまずいということが。

「………さあてどうするかな。」

これからは、当分忙しくなるだろうに。ああ、疲れているんだ休ませてくれ。職員の悲痛な叫びは、誰にも届かない。この、大きすぎるマジョリティでは。

ここからの数週間。年末年始という忙しくも楽しい時期。それは、パーパルディアにとって最も重要な時期になっていたのだと。彼らはまだ知らない。その、重要な時期に関連する大事な国を追っ払ってしまったことを。破滅の序曲は、自分たちに演奏されているものだと。

 

 

 

 

カイオスは、その第三外務局の床を歩く。赤いカーペットが踏まれるたびに、かつかつと革靴の音がした。

「局長!どうしてあんな蛮国に譲歩を!?」

「少し考えがあってね。ああ、詮索は無用。」

そう言いながら、暖かい部屋へと入るカイオス。その背中には、まるで何か取り憑いているみたいで。彼もまた、ナショナリズムという亡霊にかけられたのか。それとも。いや、やめよう。絶対に。嫌な予感しかしない、な。

 

 

 

 

 

 

以下番外編 全員集合!ゆるゆるお正月スペシャル!

 

 

ヴィクトル「あけましてええええ!」

 

ヘッペシュ「おめでとおおおおおおおお!」

 

翠星石(仮称)「ハンガリー語で言えですううううう!」

 

ヴィクトル「と、いうわけで無事に飽き性の筆者がこの小説を続けることができました!パチパチパチパチー!」

 

翠星石(仮称)「書いてて悲しくならないですかああああ!」

 

ヴィクトル「と、いうわけで無事にイシュトヴァーンよ永遠なれは、年越しを迎えることができましたー!パチパチパチパチー!」

 

エブリン「はぁいこんにちは〜?『イシュトヴァーンよ永遠なれ』のヒロイン、エブリンよ?」

 

ヴィクトル「おっ!セブンブリッジさんも来てたか!人数多い方が楽しいよねえ!だよなあマーサ?」

 

マーサ「どうもこうも。初期の脚本ではもう死んでる予定だった女に言われたくないです。」

 

エブリン「そーゆーことは言っちゃダメなのよマーサ。」

 

ソンバトヘイ「ふはは、目が笑ってねえな。」

 

ヤーノシュ「いいぞもっとやられろ。」

 

マーサ「ポカポカ殴ってて可愛いですねきょうか…いてっ!!」

 

エブリン「褒めてくれてありがとう」

 

ヴィクトル「えーというわけでですね。人気アンケート開きました。あと、感想にてキャラクターへの質問も受け付けます。ネタバレにならない程度にですが。それではこれからも、イシュトヴァーンよ永遠なれをご支持くださいますと幸いです。サラダバー!」

 

ヤーノシュ「何がというわけ、なんだか。とりあえず前書きの通り作者は今、三兆円の出番をどうするか悩んでらっしゃる。教えてやってくれ優しくな。」




いかがでしたか?次回から、ハキと神聖ミリシアル帝国の記者団視点で庶民生活も描写して参ります。ミリシアルの記者団、そしてオルガとスタメナもどうにか出したいのですが、いかんせんパーパルディアが忙しい物で……

よろしければ高評価とお気に入りに登録、よろしくお願いします。感想も大歓迎です。次回もお楽しみに!

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