イシュトヴァーンよ永遠なれ   作:デブレツェン

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どうもこんにちはデブレツェンです。だんだん、あったかい日も増えて参りました。

現在、人気アンケート実施中です。暫定一位は三兆円です(絶望)

これからは、パーパルディア戦がより本格的に行われますよ。それでは、第二十五話。オペレーション・レザーフェイス。開始です。


第二十五話 オペレーション・レザーフェイス

第二十五話 オペレーション・レザーフェイス

「これより、作戦についての会議を始めます。」

いつもよりも真面目な雰囲気に包まれた、政治部の部屋。古びた長机に、数人が行儀よく座る。いつものおふざけ具合は何処へやら。アヴェ・マリアのステンドグラスが照らす下、みな石像みたいに、少しも笑ってない。ただ燃え尽きた暖炉の、灰の臭いだけが、彼らの鼻いっぱいに充満した。

「……さて、セブンブリッジ(エブリン)さんから送られてきた資料によると。敵戦力は現在、エストシラントを中心に集結しているらしい。」

「一体、何をするつもりなんだってばよ。」

「艦隊決戦さ。」

ふうっと、深いため息をつくヤーノシュ。奴さんはどうやら、わかっているみたいだ。こちらの船が、あんまりに少ないことに。そこに、パーパルディアがいつでも持ってる慢心とステレオタイプというスパイスを加えれば。

「………数は少ないが、少なくとも舐めてはいけないと考えている。監察軍みたいに戦力を小出しにすれば負けるのは、奴らだってわかってるみたいだな。それならば、一気に叩こうというわけだ。」

へにゃりとへたり込むソンバトヘイ。それじゃあ、こっちに勝ち目があるものかは。まして今、空いてる船なんざ何処にもないのだから。哨戒艇だって戦艦だって、まだ構想段階。え完成しけるその船を夢見たとてどうにもなるまい。

ヴィクトルはその目を西に向けた。そちらには、間違いなく敵が居る。ならばやるべきことは。

「……乗ってやる必要などないな。そんなものにわざわざ。」

「御名答だ。だって動きが筒抜けなんだから。」

なるほどさっきのため息はそういうことだったのか。呆れてたんだ。こっちのスパイなんてまるで無警戒に、着々と準備を進める向こうに。少し可哀想とさえ思ってしまったよ。

「それじゃあ、しばらくは現状維持ってことかい?」

「そういうことになるだろうな。しゃあなしよしゃあなし。とりあえず、我々が抱えてる戦線をちゃんと整理するぜ。」

一つは、アルタラス戦線。ここを落とされても、まあ正直あんまり支障はない。だからこそ、今送っている自走砲連隊と民兵団以外後続だってありはしないし、本気でもない。

「一つ、っていうかそれだけじゃん!」

そこで、ソンバトヘイが煙草臭い口を開いた。

「そうだ。だから要するに代理戦争がガチ戦争になっただけなんだよ。」

「あ、それじゃあセント・イシュトヴァーン級戦艦の建造も間に合うね!」

と、言ってみせたヴィクトルに、びしっと人差し指が突きつけられる。

「その小さい口を閉じろおたんこなす。そんなのは急務ではないし、何より無理よそんなこと。」

「とは言え。結局船がねえとどうも出来ん。ヴィクトルの言う通り、いつかはやらねばならん。戦艦である必要性は感じないが。」

それよりも、今は攻撃についてだ。と、ヤーノシュは言及する。そう言えばそうじゃないか。どうやって送るんだ軍隊を。

「………どうしよっか?」

苦笑いをしながら問いかけるレーチェルとヘッペシュ。それじゃあ作戦もクソもないじゃないか。だからと言って航空戦力で、ちまちまボスチクをするのも癪だし。いや、それでもいいのかも?

「まいいじゃないの。ボスチクみたいに攻撃するのも。」

「それもそうだな。しかも、射程内にはデュロもある。」

確か、セブンブリッジからの報告ではデュロというのは工業都市らしい。士気と生産力を、まるでケバブするみたいに削ぎ落とせるだろう。だがしかし、その時ヴィクトルに電流走る。

「………みんな、見方を変えるんだ。柔軟にね。」

そうしてヴィクトルはエストシラントの場所を指す。皆、最初は髭をさすっているばかりだったが、またさっきのヴィクトルみたいにびくっと震えて顔を上げた。

「まさかお前。」

「ああ。そういうことだよ。」

冷や汗をたらりと流すヤーノシュとソンバトヘイ。まさか。こいつはまさか。

「ああ。そのまさかさ。」

ヴィクトルは、また皆に向き直った。まるで、覚悟をぐっと決めて崖から飛び降りる冒険家のように。外からは、ステンドグラスに通されて太陽の光がそっと浴びせられる。また、埃の匂いが鼻を通り抜けていった。

「カイゼリン・エリザベートに奇襲攻撃を命じる。」

雪のように冷たい空気がふっと、この部屋に通り抜けていく。それが意味することは、つまり。

だがしかし、裏を返せば意表もつけるし戦力をわざわざ送る必要もない。確かに、良い一手なのか。

「………ヴィクトル。」

「ああ。わかってる責任は全て俺が取る。その上での選択だ。」

それに、生ぬるいって言ったのはヤーノシュたち軍部じゃないか。それならば、とことんにそれを追求して見せてやるよ。ヴィクトルはニヤリと笑ってみせた。まるで、悪魔のように。

「……見ておれ悪魔め。わしは命ある限り戦うぞ。決して絶望はしn」

「おめえそろそろ他のキャラのセリフ定期的にパクるのやめろよ。」

後ろ頭をばりばりかいているあたり、悪気はあまりないらしい。それが帰って厄介といえば、そうなのだが。

「……とにかく、まだ奇襲には早い。これからも、交渉の場はある。マールスのことだし、変なことする気だろうなあ………」

その時。

「ほ、報告です!!」

「なんだね不躾に。」

「申し訳ございます急いでいたもので……その、ハンガリー沖に……監察軍が!」

主力艦隊の動きを読めてるのになんで予測できなかったかって?実は監察軍がここまで多いと思ってなかったから。

 

 

 

 

 

 

 

同時刻 ハンガリー海

「くそっ!やはり、喧嘩を売ってきたかっ!」

シャークンもまた、こうして窮地に立たされている。いくら、ハンガリーの武器で強化したとはいえ元は弱いガレー船。勝つどころか、五体満足で帰ることを能うものかは。

「ダブルヘイクと対空砲を出せー!合図と同時に発砲だ!装填を済ませろ!」

青い海の中。潮の匂いに汗臭さが混じる甲板の上、混乱だけがその中を包んだ。鎧甲冑に剣士たちの声も、もはやシャークンの耳には届かない。

(とはいえ、ここに積むのはハンガリーの超兵器。少なくとも足止めくらいにはなるはずだ。)

くっと帽子の鍔を下げるシャークン。相手は20、こちらは100と大船団。何故ならこうやって、まとまって動かねば狩られるから。というのもあるがどちらかというとモールナールとバルダールの存在が大きいが。

「おやおや、戦争とは物騒な。」

「モールナールさん、我々は邪魔になります。隠れておきましょう。」

「それはそうですね。」

そうして、そそくさ船の下に降っていく社長2人。どうしてこいつらは、こんな状況で落ち着いてられるのか。その精神力が欲しいよ。と、悩み額に手を当ててみせるシャークン。いけない。悩んでいる暇はないんだ。とはいえ、まだ向こうが攻撃してきたわけじゃあない。さすがに今回は相手が相手。専守防衛を取らねば国がどうなるかもわかったものではない。

ごくりと、シャークンは生唾を飲んだ。もう、汗の臭いも感じないし、木のギシギシという音も聞こえない。ただ、その目はパーパルディア艦隊にだけ張り付いていた。そのとき。

「うわっ!?撃ってきたぞ!!」

「怯むなー!撃ち返せー!ダブルヘイク、てえええ!」

ぼん、という音がして鉛の弾丸が飛び出る。ガレー船が、ダブルヘイクを積んで、鉛の砲弾を撃っている。そんな、チグハグ極まりない艦隊。それでも、パーパルディア相手には負けるわけには行かない。負けたくない。ちょうどいい機会だ。しつこいようだが、シャークンだってあの国には嫌気が刺していたから。

「対空機銃も撃ってしまえ!!」

どうせ、届いてしまうと付け足すシャークン。こちらは弾が高いのであまり使いたくないが、背に腹はかえられぬ。性能がいかんせん最高なのだから。

海面には、パーパルディア皇国の何倍もの水柱がばしゃりと迸る。するとどうだろう。どうやら、奴さんはまさか反撃が来ないとでも思っていたのだろうか。何だか統率が取れていないような気がしてならない。

「……舐められたものだ。反撃用意!てええええ!!」

「うわあああああ!!ベルドナがやられたああ!!」

「怯むなああああああああ!!訓練通りにやれば十分に勝てるっ!!」

こちらは、自分の思っていた何倍も早く敵の艦隊に穴を開けているではないか。威力は、確かにあのパーパルディアのが上。だがしかし、結局それは当たればの話。

ゲームなどでもいるだろう。上振れの良いキャラクターが。だが、求められるのは安定。即ち、結局軍配はこちらに上がるわけだ。まして数が多ければ。その時、遠くからどかんと音がして、強者の象徴たる戦列艦が爆散する。これは、いけるのではないか。震える手のせいか、シャークンは双眼鏡を取り落とした。自分が、自分たちがあの列強の船を沈めた。

「パーパルディア皇国監察軍、50門級戦列艦一隻撃沈………!!」

「やったぞ……やったぞおおおおおおおおおお!!パーパルディアの戦列艦を討ち取ったぞおおお!!」

しかしその時、マストから叫び声が届いた。

「敵のワイバーンがこちらに接近!数、120!」

旧式の竜母とはいえ、この数はきつい。実を言うと、対空機銃の訓練はあまりされていないのだ。弾を運ぶも一苦労、その上新しい不慣れな兵器と来たなら、そう易々使いこなせる方が珍しい。

「対空機銃よーい!!てええええ!」

竜騎士に向かって、その小さな弾丸がぶわっと炸裂する。練度は低いとはいえ、全くの当たらずと言うわけではない。そうして、2、3騎ほどが火だるまになった頃。ようやっと、ワイバーンの火炎弾がこちらに向いてきた。いけない。やはり、少し落としたところでどうしようもないだろう。

「い、いかん!!衝撃にそなえろー!!」

激しい音とともに、数隻の仲間たちが一気に燃え上がる。海の上に、木と人の焼ける臭いが充満した。

「……く、このままでは。」

シャークンには、恐ろしい言葉が浮かんでいた。それが、自分たちだけ逃げるということ。言わば、VIPだけを逃すための切り札。

「しかし、それでは戦友が……他の職員が!!」

積荷だってたくさんあるんだ。その全てを、管理するには多少なりとも職員が必要。そう言うことで、他の船にだってハンガリー人が。

「冗談じゃないよ!うちの職員はどうなるってんだ!」

そこで、ぶつっと音がして魔信が聞こえる。まるで、何か諭すみたいな声が。

「会長、私たちは大丈夫です。せめて生き延びてください。」

「馬鹿野郎!死のうってのか?」

「シャークン司令!どう致しますか?」

「うわああ!反撃だああ!」

「敵戦列艦一隻撃沈!されど我が艦隊損傷多数!」

(どうする……どうすればいい!!)

考えろ、考えるんだ。シャークンの脳裏は今、この世の何よりも早く回っている。この状況を打破するには。重人を無事に届けるには。

「………ジン・ハーク。戦線を離脱する。針路そのまま……ようそろ……」

ずきずきと心が痛む。それは、単に守れなかったという気分だけではない。敗北感、そして見殺しにするような気分。それらが全て襲いかかるからだろうか。空気がまるでカビのように重たい。

「司令!?本気ですか!?」

「……すまない…すまない…」

その時、少し離れた後ろの方でどかんと爆発が起きる。同時だった。その、爆発の音がやたら大きく魔信から下卑て響いたのは。そのまま、魔信がばちんと弾けて壊れるのを、ただ見守るしかなかった。

「………ガレー船ブライト、撃沈……」

そうだ。これでいいんだ。これが本来与えられた任務。そして、最適解。そのままマストを全開に進み続ける。

「司令……」

「進路、そのままだ……」

シャークンはまた、その提督帽子をくっと下げる。だが、その様子や面持ちはさっきとは違った。さっきとは、違うその暗い顔は、涙にすら濡れていたという。

これが、ハンガリーが唯一敗北した戦い、ハンガリー沖海戦。そして、これこそがパーパルディアの命運を分けるだなんて、まだ誰にも分からなかった。

 

 

 

 

 

 

 

あれから、数日のこと。まだそうして負けてしまったことの知れない頃。

「何ですかね。これは。」

そこには、質の悪い紙。もはや実家のような安心感だ。何故だろう。あんだけ釘を刺しておいたのに。やっぱり、あのレミールとか言う奴はよっぽど心臓に毛が生えているような人間らしいな。肝試し感覚はどっちの台詞だというのか。

「お呼び出しですよリヒャルト司令。」

そして、リヒャルトもぬるっとドアから出てくる。その顔も、どこか驚いているようだった。

「ええ……あんなに失礼しちゃったのにい?」

「らしいですね。なんか嫌な予感がしますねえ。」

この間、はっきりNOと言った気がするのだが。この期に及んでまだ何か御用だというのか。

「……………なーんかガチのマジでほんまに嫌な予感がするのだがー」

「奇遇だね私もですよリヒャルト司令。」

その証拠と言わんばかりに馬車が迎えに来てない。自分の足でこいと言うことだろうか。そこに、小さな怒りや嫌がれせのニュアンスが見え隠れしてならない。

「……まあ最初も歩いていってたのでね。今更ですよ。」

「原点回帰しただけですから、ねえ。」

と言いながらも、スーツをなおすマールス。どうやら、格の違いというのを見せつけたいようで。

「さて、行きましょうか。」

また重苦しい足を引き摺るようにして坂道を登る。行先は、第一外務局。マールスもリヒャルトも、はっきり言って実はうんざりだったのは言うまでもない。何度でも言うがマールスたちにはもうこの国が厭で仕方がないのだ。そして、リヒャルトに至ればどの面を下げてきたのだとでも言いたい気分を味わっていた。言わば、まるで事故を起こした張本人が態度をも弁えず謝罪に来たような、そんな気分を。

「全く、今更何の用事だか。」

と言いつつもここで引くわけにはいかない。多分ないと思うけど、奴さんがもしかしたら此方と仲直りをする気になった可能性だってゼロじゃないから。

「ハンガリーの方ですね、こちらへ。」

そう言われてここまで通されるのも何回目だろう。引き伸ばした挙句に待っていたのが、あんな外交だったなんて。リヒャルトはつい苦笑いをしてしまった。これでは、まるで我々が格下みたいじゃないか。カイオスとかいう局長。あいつは残しておいてやろう。まあ、こうやって勝てるのもカイゼリン・エリザベートのおかげだが。彼女にはご足労をおかけするよ。木屑を鎮めるだけの仕事だから。目の前には想像通り、ソファーに掛けたる女の赤いドレスを着たるがそこに鎮座していた。

「……さて、貴様らハンガリーの船団を襲った。ここまで突っかかるのに、まさかロウリア程度の技術力とは驚いたぞ。まあ、砲の射程は褒めてやっても良いが。」

けたけたとしどけない笑いを浮かべながら、レミールが言う。リヒャルトもマールスももはや怒りすら感じてなかった。むしろ、莞爾の顔まで浮かべるほどに。

もう一つメンションするならば。そうだな。このおバカがあの船を我が国の本気の艦隊だと勘違いしていること。

「……まず申し上げます。」

マールスが言った。まるで、聞き分けのない子供に何か言うみたいに。

「あのですね、貴国が沈めたのはあくまでロウリアの艦隊で」

「喋るな蛮族。だとしても、これはどうだね?」

そうして、彼女はまたこの間見せつけた液晶テレビをオンにする。そこには、いつやったのだろうか。あの時倒したであろうロウリアの艦隊と、その捕虜が。中には目立つ制服の男女も見られる。まさか、あれは。

「ロデニウスに渡る予定だったCBAの職員!?」

「ああ、そう言えばそうとも名乗っていたな蛮族。監察軍を卑怯な手を用いて20隻以上沈め、しかもこの様なことをするのは本来許されん。ただし、皇帝陛下はいつもより機嫌が良かったらしい。ハンガリーに最後の慈悲を与えるとのことだ。さあ選べ蛮族!もう一度だ!」

だがリヒャルトはそこに一歩どしんと歩み寄る。まるで狼の威嚇の様なことをしながら。

「そんなことはどうだっていい!今すぐ解放しろ!」

さっきまで黙ってたはずのリヒャルトが急に口を開く。その一言を噛み締めるたびに、レミールの顔が暗くなる。この女、一体何をするつもりだ。なんだか厭な予感が的中する気がしてならない。

「………そうか、国力の差も、皇帝陛下の慈悲も分からぬ本物の蛮族めっ!!」

そうして、彼女は杜撰に通信機を取り出すと、その向こうに投げかけた。

「処刑しろ!」

『はっ!』

その時。ビデオ越しにぱあんという音が響いて人が倒れた。あの、目立つ制服を着た職員が。

「ひいいいいいいいい!助けてくれえええええ!」

「いやあああああああ!誰かああああ!!」

「殺さないでえええええ!」

その拳がまたわなわな震える。随分と、油を注いでくれた。そう言えばこういう人間もいたと言う。銃声の中、マールスは誰よりも冷静だった。なぜかはマールスにもわからない。人間は理解できるキャパシティを越えると固まると言うから。

「………めろ」

「ん?何か言ったか?」

 

「やめろと言っているっ!!」

 

そうして、右腰の拳銃を取り出してはっとするマールス。そうだ。ここは外交の場。いくらナショナリズムにかけられたとはいえ。いくらこんなモノを見せられたとはいえ。外交の場を弁えず武器による解決をしようとしてしまった。その時点で、我々も失敗なのだ。へにゃりとへたり込むマールス。リヒャルトだけは、ただ茫然と立ちすくむばかりだった。

「どうした?それを撃つのではないのか?」

また、さっきのようなケタケタ笑いを浮かべるレミール。

「最初から気づいていたぞ?外交の場に武力を持ち込む気であったことはもう既に読んでいた。だからこちらも同じ手段に出たわけだ。これが正しいギブアンドテイク。そうではないのか?」

「………」

マールスはただ歯軋りをするばかり。リヒャルトはハッとして画面の前まで駆け寄った。

「今すぐに中止しろっ!」

「中止しろだと?蛮族が何を言っている?命令するだと?」

ぎろりとレミールは睨みながら言った。そのまま、リヒャルトの胸元を掴む。

「蛮族の分際で何を」

その時がしゃんと音がして、赤い服の女が水瓶にがしゃりと落ちる。そのまま、左腰のロス・ステアーを構えてリヒャルトは引き金を引いた。ぱあんという音が響いた後のこと。袖を直したんだろうか。右腕にまで、その真っ赤が及び始める。レミールにはその事が何か、理解できていない様で。映像ではその「処刑」は済んでしまったよう。

「貴様っ!蛮族の分際で、しかも外交の場で皇族を撃つなどイカレて……」

卒爾、ドンという音がまた響いて護衛が倒れる。青い制服に、レミールの色が滲み出した。煙を吹く短筒も他所に、リヒャルトは言う。

「その小さい口を閉じろ蛮族。もう、十分だ。もう十分俺たちは『慈悲』を与えたと思うんだ。多少のしっぺ返しだよ。ああ、レミール。君はまだ必要だから殺さない。よかったね。」

「本音を言うと、顔の皮を剥いでブダ城に引っ掛けてやりたいですけどね。」

流石に命を前にして、がたがたと歯を鳴らすレミール。りいんと音がして、金色の薬莢が床に落ちた。

「………このことは本国に報告します。我々も、これで終わりですねマールス外交官。」

「ええ。」

でも、とマールスは付け加えた。自己弁護でしかないが、それでも。我々は人として。ハンガリー国民としてやるべきことをしたと。そのまま2人は部屋から出ていく。

そして、誰もいなくなった。ただ1人、レミールを除いて。

 

 

 

 

 

 

 

そのことはすべて具にヴィクトルたちに伝えられた。もちろん、マールスの凶行も含めて。

「ヴィクトル………」

「もう良いだろう。もう十分だ。これ以上こけにさせてたまるかってんだっ!!地獄の果てまで奴らを追いかけてやる!!」

ヴィクトルは少々乱暴に、ぐいっとマップを取り出した。そしてその中に赤いポインターを当ててみせる。

「………あいつらの罰則とか、そういうものは後。」

とにかく奴らをぶっとばさねば腹の虫が収まらんという様子。それに応える様に、まずはデュロにレティクルが合わさった。

「まずはデュロより。ここはこっちの戦闘機が届く。だから、ボスチクをするぜ。新たにトゥンデールと、メッサーシュミット航空師団を加えて、ね。」

ヴィクトルは口角を少しずつ上げながら、レティクルをすっと滑らせた。次に刺されたのはパールネウス。パーパルディアに取っての、京都に当たる存在。ここには穏健派が沢山いるという。

「そういうわけだから、ここはスパイのセブンブリッジさんたちに任せる。」

次に、レティクルは何かを囲むみたいに動いた。それを、追跡する目、目、目。そこは、属領と呼ばれる範囲。

「ここで、レジスタンスを起こしてもらう。セブンブリッジさんたちに任せよう。過労死しちゃうねえ。ごめんねえ。」

「笑うとこじゃないぜ。」

やれやれ、と首を振る一同。とはいえ、ヴィクトルにだってわるい気はないのだから。

「…………気を取り直して。次は首都エストシラント。ここは、もうわかってるね?」

今度は下衆な笑みを浮かべるヴィクトル。この二十面相は、本当困ったモノだよ。

奇襲攻撃。それは、すなわち騎士道を捨てると言うこと。だがそれは、騎士道を捨てた相手に対しても与えるべきものかは。まして、あのパーパルディアという国が相手ならば。

「……もういるじゃないか。騎士道精神を踏み外した、2人は。」

ふと、2人の背中が浮かんでくる。そうだ、あの2人ならきっと。

「………作戦は以上。あとは、適当に上陸だが……エストシラントにでもいいな。その後、航空戦力の届く場までおびき寄せつつ、戦力を終結。艦隊決戦をしてやろう。お望み通り。」

それまでのマストは、少なくとも掃海艇の改造。アルタラス戦線から早く撤退したいモノだ。まあそれはそれとし、彼は恐ろしいことも考えたという。

「プラセンタだけじゃない。奇襲攻撃だけじゃない。他にも色々なモノを使う。」

そして、ことんとガラス瓶を置く。中には、小さな胡麻塩くらいのがぴょんぴょんと元気そうに跳ねていた。これは、一体。

「クーランチだよ。吸血ダニだ。発熱と脳炎を起こし、最悪の場合死に至る。これをも上からばら撒いてやろう。何、どうせ我が国では予防接種も済んでるんだ。こっちにゃ効かねえよ。」

これをメッサーシュミット航空師団にくくりつけて、町中に落とすという。あるいはスパイを用いて。

「………確か、マールス外交官は言っていたそうだね。顔の皮を伸してやる、と。」

「ああ。確かな。」

「決めたぜ。バカな主人公に、恐怖を思い出させてやろう。作戦名は、オペレーション・レザーフェイスだ。異論はないね?」

こうして、ドナウ川に燦々と太陽の光が注がれる冬の昼。積もった雪が、ただきらりきらりと、輝いているばかりだった。

その日、マールスの発言が元となる作戦「オペレーション・レザーフェイス」は始まった。ただ、パーパルディアへの復讐を成すために。

 




いかがでしたか?

次回より、オペレーション・レザーフェイスが始まります。ちなみに、レザーフェイスが何かわからない人は検索してみれください。

励みになりますので、是非とも感想とお気に入り登録、お願いします!それでは、また次回に会いましょう

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