イシュトヴァーンよ永遠なれ   作:デブレツェン

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どうもこんにちはデブレツェンです。

UA8000越え、ありがとうございます!この小説をここまで読んでくださり、感謝の極みです!

さて、今回からパーパルディアをボッコボコにしていきますわよ。ちなみに人気キャラ暫定一位は安定の三兆円です。


第二十六話 洪パ戦争

少しだけ薄暗い、不気味な部屋の中。マールスは真っ白のマージンにペンを走らせる。机には、小さな瓦斯灯と砂時計、不規則なコンパスだけがそっと座っていた。しいんとした部屋の中には、ガスの臭いが充満するばかり。くさめを一度してから、また万年筆を走らせるマールス。早く、ストーブにでも当たらねば。そこへ、こんこんとドアを叩く音。まあ誰でも止めるまい。いいさ、誰でも。どうぞ、と肯定する意図で黙っていると、やはりドアがガチャリと開いた。

「………マールス外交官。」

「何ですか。」

「……攻撃司令です。」

飲んでいたコーヒーをぶふぉっと吐き出すマールス。まさか。いやまさか。本当の本当に奇襲攻撃をするなんて。そんなことをするなんて。それこそ2度と相手にして貰えないぜ。いや、正直それでいいが。もちろんマールスの個人としての感は、もうあんなのを相手にしたくない。だがそうだとしても、色々とあんまりじゃないか。人道上もそうだ。と思いかけた所でやめた。外交の場で短筒を抜き、相手の外交官を撃ったような人間がいまさら何を。マールスは顔に手を当てて首を振る。まるで、自分に憑いている煩わしい疫病神を振り払いたい如く。

「ま、それもそれで面白いだろうな。」

ことんと砂時計を逆さにしたマールス。静かな部屋にさああ、と音がした。テーブルの上のこれが落ち切ったとき、エストシラントには砂が舞い、炎が巣食うだろうに。なんとも可哀想なものだよ。マールスはこんな状況なのに笑みが止まらなかった。だって、これから奴らに復讐できるんだぜ。マールスはごくりと唾を飲んだ。なんと言えばいいだろう。静寂の中、緊張と期待が入り混じっている。

「…さて、それじゃあ残りのコーヒータイムと行こうじゃあないか。」

「あ、今すぐですよ。」

またぶふぉっとコーヒーを吐き出すマールス。どう言うことであろうか。今すぐにと言うのか。全く、俺のコーヒーを返してもらいたい。最初からそう言ってくれ。

「………そうか、今から行くのか?」

「ええそうですよマールス外交官。何なら、今からでも攻撃して見せても?」

いや結構、と釘を刺して部屋を後にする。ドアを開けると、いつも通りの潮の匂い。そして、何も知らない海風と鴎が、空を悠々飛んでいた。

「さあて、やるとしましょうか。」

気づけば、リヒャルトがいつの間にやら横へ。ふざけた口調とは裏腹に。顔は真剣そのもの。

「碇をあげろ!!出航の準備や!!」

そうして、機関が声を唸らせる。準備をしていたんだろうか。とんとん拍子で、どんどんと距離が離れていく。やがて、その距離もそこそこに離れた時。

「主砲、目標はエストシラント都市部!!距離500m、仰角14度、方位は北北東、装填は済んでるはずだよな?」

「ばっちりですぜ司令!」

逆にやってないとでも?と言いたげな顔を浮かべる砲手。そうして、言われるがままに大砲がのろのろと上を向き始める。

「………よし、いいぞ。そのままだ。そのまま。」

ごくり、と唾を飲むリヒャルト。奇襲攻撃のリスクは、何も国際関係ばかりじゃないことを良く知っているから。机の上の砂時計が、波のせいかかたりと揺れる。砂の数は、あとわずか。

「……今だッ!撃てええええええ!!」

卒爾、エストシラントとその海に、ドオオンという音が響き渡った。通行人の全てが足を止めて、兵士の皆が銃を無意識に握るほどの音が。

それと同時に、カイゼリン・エリザベートの砲からオレンジの焔が飛び出す。それは、びゅうっと風を切り飛んでいった。早く、まるで流星のようにきらりと輝いたそれは、また大きな音を立てて爆ぜる。どうやら、無事着弾したよう。あれは、火事だろうか。家が燃えているようだな。

そして、ほぼ砂時計の砂が落ちた時。エストシラントの街から煙と炎がちらほら見え始めたと言う。

「まだまだっ!次弾装填急げえええ!!」

「次弾装填急げー!」

再び、その弾丸が砲に別れを告げる。この勾配の、なんと美しいことか。リヒャルトは思わず手を仰いだ。まるで、何かそこに浮かんでいるみたいに。

そしてその弾は、またドカンドカンと爆ぜていく。石畳を荒らし、船を木端微塵にしてもまだ気は済まないのだろうか。さらに、一発、また一発と船を壊し石畳を荒らしてを繰り返した。本当に、地図が壊れるほどの勢いで。まるで、この世を破壊するためだけにいるが如く。

弾は止まらない。一瞬にして、カイゼリン・エリザベートとその周辺は黒煙に包まれた。一方陸はというと、そちらは炎に包まれた地獄。ほら、言ったじゃないか。リヒャルトが自慢げに口の口角をにっと上げる。だから言ったろう。あれは地獄門だと。

「次弾装填!」

容赦のない爆発の雨が、エストシラントを襲う。もちろん、反撃しようとした者だって居るにはいた。きゃあきゃあという悲鳴に煽られながらも、その弾丸は文字通り弓矢のように降り注いで行った。だが、こうやって港も船も、その道も全てを木の片にされているのに反撃できるものかは。

なんというか、きれいな光景だった。こんなに汚くて恐ろしいはずなのに。言わばこれはパーパルディアという高慢ちきな国の丸焼き。それが存外笑えてしまうんだよ。炎に包まれた街に、さらに降り注ぐ赤い悪魔たち。その様はまるで地獄のよう。だがこれで終わりではない。

「最後、デザートと行こうじゃないか。プラセンタⅠに弾種変更!仰角、70度に変更!!目標、パラディス城!!」

そう、目標はこの轟々燃える中でも立っていられている真っ白な摩天楼。パラディス城に他ならない。

「……よくも、あんなふざけたことしてくれたな!!『蛮族』からの細やかなお返しだぜ!撃てええええええ!」

そうして、金色のギフトが白い城塞に向けて真っ直ぐ飛び出す。炎が、まるで雨のよう。だあんと言う音が、静かなエストシラントに木霊した。ここにはもう、マスケッターの1人も、竜騎士の一騎もいない。ただ、静寂の中防護巡洋艦だけの晴れ舞台といったところ。

そして、そのいわばギフトが届いたらしい。どかんという音と共に、愛すべきパラディス城は爆発に包まれた。そうして、暫くそれを見守る一同。地獄への増援は、もうない。ただ、そっと全員が甲板よりそれを見ているだけ。思ったより呆気のない最後だったな。と、リヒャルトは思ってしまう。そうして、全員が見る中。あの美しき城は、最後の爆発を起こしがらりと白屑に変わってしまった。

皆があっと声を上げた。しばらくは、ガラガラと崩れるパラディス城を、まるで張り付くように見ていた一同。その時、誰かが叫び始める。

「……やった…!やったぞおおおおお!!パラディス城は……パラディス城を破壊してやったぞおおおお!!」

「うおおおおおおおおお!!ばんざああい!!帝国に、ばんざああああい!!」

「Hurrá !!Éljen Magyarország!Éljen Magyarország!!」

「Éljen Magyarország Éljen Magyarország!!」

その後だろうか、徐にリヒャルトが目を閉じた。そして、口をふらりと滑らすみたいに歌い始める。まるで、子守唄を歌うみたいに優しく。

「……Gott erhalte, Gott beschütze……Unsern Kaiser, unser Land!」

お次にマールスが、全てを分かったように続ける。同じように。そっと、赤子に子守唄を歌うように。

「Mächtig durch des Glaubens Stütze,Führt er uns mit weiser Hand!」

船員たちも、どうやら分かったようで。そして、歌という歌を紡ぎ続ける。せめて祖国へと手向ける歌を。声に声が重なって、だんだんと大きくなっていった。合唱が完成するまでは、そう遅くなかったという。

「Laßt uns seiner Väter Krone Schirmen wider jeden Feind!」

「Innig bleibt mit Habsburgs Throne Österreichs Geschick vereint!」

リヒャルトは、帽子の唾をくっと下げて、エストシラントを見据えていた。燃え盛るエストシラント。ここで、きっと何人もの人間が亡くなったのだろう。それなのに我々ときたら。かすり傷の一つもないじゃないか。いや、別にそれはそれでいいのだが。

そうしてあの時のように、リヒャルトは十字架を切る。彼らは、俺たちと同じ立派な人間だ。それならばせめて、十字架くらいを手向けようじゃないか。それに合わせてか、マールスも胸の上、十字をさっと切った。本当、こいつの憎めねえのはこういう所だよ。こうやって、誰にも儀礼を忘れない所。

静かな海の上。机の上に置いてあった砂時計が、床に落ちて壊れていた頃のこと。パラディス城が崩れて、街が燃える。その後に、エストシラント事件と呼ばれる事件が起こった。それは、ロウリアの時と同じ。言の葉を紡いだ童話として受け継がれているそうな。

静かな海には、悲鳴と、「神よ、皇帝フランツを守り給え」という歌だけが響いていたらしい。

 

 

 

 

 

 

「緊急発進!第二航空師団は即時、出撃を開始してください!」

とたとたと、軍靴の音を鳴らして走り来る人々。彼らはみんな、ヘルメットを携えている。その中には、ヘッペシュ・フェルディナントの姿もあった。今や、大臣とは名ばかりただの空軍じゃないか。と、ヘッペシュは苦笑する。苦笑しながらも、誰よりも早く操縦桿を握っているのだが。

「大臣!いえ、小隊長!今回も派手にやってやりましょう!」

メッサーシュミットだけじゃない。ミグ、ランセン、スターファイター。その全てが、滑走路にゆったりと走り出した頃。夕暮れ時に混じってか、まるでガラス細工みたいにものすごく綺麗。そう言えば、前もこんなことがあったような気がする。高速で走るなか、少しだけ遅れてその声が聞こえた。彼の声はまるで、洞窟の奥から跳ね返ってきてるのか。それとも電話越しだからか。なんだか、ものすごく返信が遅いような気がする。

「………ああ!やってやるぜ!」

そう言えば、今日も同じ。いや、正確いっちゃえばプラセンタⅠとは違う。だが下手するとそれ以上に残虐なものさえも積んでいるんだ。ヘッペシュはあの日のように、操縦桿をくいっと引いて見せた。すると、高速で動く機体がすっと上に持ち上がる。相変わらずの素直だなあ。ただ、こんな遅い機体でさえもあのワイバーンとかいうハエを叩き落とすには十分だそう。ヘッペシュはくすっと笑ってしまった。これから、私が望んだあの戦いの場にまた出れるのだから。

「……みんな、一応バトルプランを確認しとくぜ!」

すっと息を吸ってから、戦いの興奮に踊る胸に言い放つ。まるで、本当に自分に言い聞かせるみたいに。

「いいかい?まず俺たちは普通に効果して1番の爆弾を投下する。そうしたら、次に2番と機銃掃射や!わかったかい?」

「ヘーヤⅠ了解

「ヘーヤⅡ了解!」

「ヘーヤⅢ了解!」

「ヘーヤⅣ了解!」

「ヘーヤⅤ了解!」

待て待ていくら続ける気だよ。と、思った所でひとつぷつりと声が響いた。この新兵たちも、浮き足だっているのだろう。そんな状況で何か冷静な質問ができるならば、それはとても素晴らしいなって。

「こちらヘーヤⅥ。航空戦を行わないのですか?」

いい質問だな、とヘッペシュは返す。子供に言い聞かせるような口調だったから、少し腹立たしかったか?それとも考えすぎか。いや、いずれにせよ今はいい。それよりバトルプランを。

「それは、実は今日はやらなくていい。航空戦の訓練は?」

「1度だけ。」

全くこれでよく出そうと思えたものだよ。そうは言っても、大変だから仕方ないな。爆弾を落とすだけの簡単なお仕事。それなら、さしたる訓練もそこまでいらないだろうからな。

そして飛ばしていると、海がだんだん近づいてくる。見えたのは、かつてハンガリー沖と呼ばれた場所。ヘッペシュは一度、その窓を開けた。

「………」

ぷかぷかと浮かぶ木片に、フカが数匹。どうやら助からなかったのもいるようだ。ヘッペシュは両手でグッと花束を握ると、その海に向かって放り投げる。続いて、その隣をうろついてたメッサーシュミットもそうして花束を投げ入れる。塩気をぎゅっと吸った、ノースポールの花束たち。それが波に揺られていくのを、ただヘッペシュたちは黙って見ていた。

「総員……敬礼!」

操縦桿を左手に、右手で敬礼するヘッペシュ。その様子が、まるでかつての英雄たちのようで。ヘッペシュはまた苦笑した。ヘッペシュ・アラダールもまたこんな気分で空を飛んでいたのだな。やがて全員がノースポールへの敬礼を終えると、そのまま速度をぐわんと上げて見せる。新兵どもが、ついて来れるかな?いや、大丈夫だな。さって操縦だけは俺が教えたんだから。そうして、ぐおおんと音を鳴らしながら右なりに曲がっていく機体たち。まだ、1時間も経ってないのに驚いたヘッペシュ。いかんいかん。ちゃんと集中しなくては。

「小隊長!あれって!」

「ああ。デュロの光だ!間違いない!」

そうして、ぐわおんとプロペラを唸らせながら今度は左に急旋回。夕方のデュロに、小さな黒点が6つ。それは、メッサーシュミットケットゥー。ハンガリーの飛行機。時代逆行もいい所だよ。本当。ヘッペシュはまた苦笑すると、無線機に呼びかける。

「……támadás!」

同時に、ダダダダダという音がプロペラ音に混じって聞こえてきた。パーパルディア人には、それが何かもよくわかってない様子。そして、何もわからぬまま肉体をぶちゃりと引き裂かれていった。

「う、うわああああああああ!敵襲だあああああああああああ!」

「軍は何をやってるんだ!!どうしてワイバーンが出ねえ!!」

そりゃあ何故って、セブンブリッジ(エブリン)さんがあなたたちの指揮系統を麻痺させてますからねえ。と、脳内で会話を作り朗らかに続けるヘッペシュ。

「いやっほおおおお!サイコーだぜええええ!」

右左から、僚機たちが迫り来て、爆弾を落としていく。そこには、無数の蠢く何かが。

「クーランチのプレゼントだ!クソパーパルディアどもめ!」

彼は満面の笑みを浮かべながら、窓枠に中指を立ててみせた。予防接種なしでは命にも関わるというクーランチ。パーパルディアが果たして、どうにかできるものかは。ヘッペシュはまたやれやれと首を横に振った。人間というのは、こうも脆いものなのか。もちろん、それは相手への嫌味でもあるし、自分たちへの皮肉でもあるが。

「あいつら、脳炎でちょっとは苦しむんじゃないか?」

おいよせ。そういう事を言うのは。と、ヘッペシュは言ってやりたかった。だがこの、イケイケどんどんの空気をぶち壊すのもそれはそれでまずい。言わば士気が落ちるのだ。そのせいで、何も言えない愛すべきヘッペシュは、ただ目の前の照準に人を捉えて撃つことだけを考えるのだった。

「………よしっ!命中!」

「すげえっす小隊長!!」

「さすが老ピューマ!そこに痺れる憧れるうっ!」

ヤジも気にせずぐうっと急旋回をするヘッペシュのメッサーシュミット bf109。上から見ると、これまた酷い様だよ。さあ、最後に仕上げといこうじゃないか。

「爆弾投下!」

「ヘーヤⅠ、爆弾、投下します!」

すると、すぐひゅうううと音がして一発の漆黒がちょうどそこまで降りていった。

「ドカン!よっしゃ!いい気味だ!」

ところでここにいるのが、だいたい志願兵という事察せているかい?そう。そういうこと。あの事件で憤ってきた兵士たちだよ。まあ、ハンガリー軍はそれ以前よりホームレスだの無職だの引っ張り出して軍事訓練を施してはいるが。軍隊の志願者は、以前より何十倍にも増えてるそうな。

「………ところでだいじ、じゃなくて小隊長!どうして、我々を迎撃しにワイバーンが来なかったのですか?」

「いい質問だ、それは指揮系統が奇襲で麻痺したというのもあるが、何より裏でいろいろやってくれてるからねえ。」

口角を不気味に広げるヘッペシュ。そう。全てはエブリンの仕込んだ事。エブリンが、穏健派の政治家に贋金をばら撒いてくれたからできた無茶。

そうして、オレンジの空の元、デュロは混乱の渦に飲み込まれたのだった。

 

 

 

少し前のこと。ここは、工業都市デュロ。ふわりと湯気が上がる紅茶に、唇をゆっくり浸ける女が居た。やがてその、まるで薔薇みたいに赤い唇をすっと離す。

「………」

「どう?協力する気にはなった?」

私は彼女の顔をまじまじ見つめるばかり。どうしてだろう。こんなに、佇まいも綺麗だし、こんなに丁寧なのに。こんなに美しい者なのに。なんだかこいつから胡散臭いペテン師のような気配がしてならない。

「………つまり。貴国はここを攻撃すると。パーパルディアの工業都市、デュロを………」

私はポツリと呟き、窓の外を見上げる。いつもと変わらない太陽が、そこにはあった。彼女は自分の杖で床を小突きながら、私の元へ歩みよる。まるで、本当に忍び寄る死神みたいに。ああ、やめてくれ。やめてください。その、こつり、こつりという音が本当に死神の鏡合わせのように見えてならないんだ。

「ま、そうね。」

そうして彼女は煙草を一本咥えてから、こちらにもう一本を突き出す。私は窓を見たまま首を横に振った。太陽が、こんなにも眩しいだなんて。仕事詰めの日々じゃあなかなか気づけないものなのだな。

「……貴国、ハンガリーは凄いのですね。その、一瞬で魔道を用いず火をつける道具。そんな代物、我が国では到底。」

「お言葉に感謝します。子爵殿下。」

と、言いつつもこの女の不躾と言ったら。まあ、別に私は気にしないのだが。兎に角向こうさんの提示する条件とやらもしっかり確認せねば。それを見なくちゃ決めようもない。ふわっと彼女の口から、煙草の匂いが漏れてくる。やっぱり、私も頂いておけば良かった。どかりとソファーに座ると、また彼女に向き直って言う。

「…………それで、裏切りの条件は?」

「金よ。金。それも貴方が一生を賭けても稼げないような。」

私は流石にイラッときたが、それでも我慢だ。こういうところで堪え性がなくちゃ、どうにもできん。

「27億パソ。これでどう?」

その瞬間、私はパッと顔を変える。27億というと。国家予算がだいたい100億というからその4分の1にも当たるじゃないか。そんな金が何処から湧いてきたか。私はぎりりと歯を軋らせる。やはり、当初の予見は合っていた。こいつはペテン師の類だ。

「察してる様子ね。ええ、これは偽札。でも大丈夫よ。貴方にはきちんとハンガリーの護衛が付く。マネーローンダリング?ってやつもしてやったから貴方の通貨はどこでも通用するわ!その上で、私たちの用意した別荘地へいけるのよ!まあ、なんて素敵なのでしょう!」

手を組んで1人オペラを繰り広げるエブリンを、ぽかんと見つめる私。つまりそれじゃあ、この金を受け取ればハンガリーの管理下という事じゃないか。そんな自由を制限されるようじゃ話にならん。例えそこに、国家予算4分の1の偽札があったとて、この工業都市に築いた全てを捨てるよかいいものだろうか。

「………そりゃあ、私を徹底管理するって事だろう?」

「ええ。そうね。一時的に。でも必要な側面もあるでしょう?」

貴方きっと命狙われるわよ、とエブリンは付け足した。

「………面白い。気に入った。いや、それ以上にパーパルディアの現政府が気に入らないのだが。」

そうして、彼は紅茶のカップをことんとテーブルに置く。外を見れば、兵器を作る煙ばかり。こんなのは私も嫌だった。であれば、いい。私とそれに付き従う者だけでこの街をでてやろう。私は今、まさに悪魔のような表情を浮かべていた。

「………だが足りねえな。もう少しもらえるかい?」

私は少しだけ引き下がって見せる。もし、相手が本当にパーパルディアを倒せるならこのくらいの条件即決だろうに。果たしてどう出るか。

「………構いませんよ。それじゃあ30でどうでしょう。」

「ああ、よかろう。これで同盟締結だな。私兵は好きにしてくれていい。」

「ありがとうございます。」

エブリンは煙草の残りをゆっくり置くと、踵を返して行った。まるで、本当の勝者は私とばかりに。

 

 

 

「…………てな感じのことがあったってわけ。」

「はえ〜小隊長さすがっすね〜」

「おうよ。さあ、爆弾投下は終わったか?それじゃあとっととずらかるぞ!」

こうして、またそれらの銀翼は黒点に消えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

ここはある訓練場。だだっ広い緑に、ひとつだけ変な色のものが。

「な、なんだこの兵器は……!」

ぐわんと唸るのは、ハンガリー陸軍のレオパルト2A7HU。たった12両だけだったはずなのに。なぜか倉庫に44両もあったという。

それらが草木を踏み締めて、大地を揺るがしながらも進撃する。止まったと思えば、ドカンと一発の砲弾を放った。それを見て、あんぐりと面白いほどに口を開ける記者団。彼らはそう、神聖ミリシアル帝国の記者団たち。

「我が国の主力戦車、レオパルト2A7HUです。貴国でも戦車は運用していますか?」

それに対して、こくりと首を縦に振る仮面の集団。

「はい。なのですが、少し……いえ、殆ど貴国のこれとは違う代物です。」

曰く、それは二足歩行で動くモノだとか。聞いたところだと砲塔に足が生えたような姿らしい。ソンバトヘイはやれやれと首を振った。これじゃまるでファンタジー映画。美しさも現実性もまるでない。

とりあえず、いろいろ忙しかったとはいえここまでお預けくらわせたのは謝ろう。

「………本日まで、延期してしまい誠に申し訳ございません。」

「いえいえ。パーパルディア相手ならば仕方ありません。貴国も災難でしたな。このような、プライドの塊から喧嘩を振りかけられるのだから。」

そこはソンバトヘイ。はあ、とつかれた彼らのため息を聞き逃しはしない。ただこの戦争相手が相当に嫌われていることはなんとなく察したのである。

「……それで、こちらの兵器はパーパルディア戦線へと送る予定です。もちろん、上陸のための。」

すると、まるで目の玉がぎょっと飛び出たみたいな顔をする一同たち。こんな化け物を奴らに使うのは勿体無い、という意味の顔か。それとも、単なる驚きか。まあ、いずれにしたってどうと言うことはないが。

「………これで確信しました。貴国は必ず勝つ。最後に、本国へ送る映像インタビューを撮りたいです。よろしいですか?」

「ええ。構いませんよ。」

そうして、スーツのネクタイを強かぐっと直してからカメラに目線を向けるソンバトヘイ。きらりと大きなカメラに自分の顔が映った。

「………世界のみなさん。これを、見ているみなさん。パーパルディアの蛮行により、我が国は貴重な国民を何人も失いました。彼らは我々を蛮族と断定し、その悉くの外交においてまるで天と地のような差があるように振る舞いました。我々は、報復を忘れません。我が国はかつて山脈を乗り越え、かつて世界一の大帝国を打ちのめし、欧州最強の陸軍ともいわしめた国。その、マジャールの血を、彼らは無謀にも蘇らせたのです。我らイシュトヴァーンの血を継ぐ者たちは、例え最後の一兵になれども許しはしない!パーパルディアには、全力を持って潰されてもらう。」

訓練場には、さっきの砲撃音が消えて静寂だけが生き残っていた。

 

 

 

 

 

 

ここは、アルタラス王国。ここには、数百人の兵士たちがゾロゾロと降りていってた。どうやら、到着したらしい。そう、ハンガリーの兵士たちが。

「やあ。こんにちは。貴方がリルセイド司令ですかね?」

「はい。私が騎士団長のリルセイドです。現場指揮官を任されています。」

「そうですか。」

それだけ言うと、自走砲から降りてきた部下たちに、命令を下すスタメナ。どうやら並べと言っているみたいだ。何をする気だと見ていると、いきなりビシッとこっちへ向き直すからびっくりしたよ。本当。

「総員、敬礼!」

「うわああ!びっくりしたあ!」

「ははは、失礼。リルセイド司令はまだ知りませんな。」

「知らないって、何が?」

これは敬礼だよ、とスタメナは説明する。この額に手を当てる行動。これを敬礼というらしい。だがやっぱりリルセイドの顔は曇りになるばかり。どうしてこんな行動をするんだろう。よく、わからんと言った様子だ。呆れたように目玉を回すスタメナだが、そこまできてやめた。どうせこの行動の意味なんざわからないだろうから。

「………兎に角、私たち自走砲連隊は貴方がたをお守りします。」

しかしその一言、その一言だけを聞いて。スタメナはまるで銃で撃たれたみたいに仰け反るのだった。

「スタメナ司令!一つだけお願いします。プラセンタとやらは使わないでいただきたい。」

 

 

 

 

 




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