イシュトヴァーンよ永遠なれ   作:デブレツェン

3 / 35
日本国召喚の二次創作です。転移によって理不尽にも島国となったハンガリーのお話。
因みに主はハンガリー住んでたのでその辺たまーに、いや、しつこい程出てくるので悪しからず。
ていうかそうじゃなきゃわざわざこの国で書くわけなきゃろう。
刺激がもっと欲しい♪(SEEDBODY)


序曲 転移の始まり
第一話 転移


ここは神の世界。薄暗い部屋の中で、行燈のようなぼんやりとした明かりがともる。中央にはぴちゃりと水を張った泉。上から雫が落ちると、ぴちゃんと波紋を残して消えた。そんな泉の中に、まるで水鏡みたいに世界図が映っている。あの、恐ろしい魔法帝国も。そしてそれを止める解決策も。またこの水に移っているのだ。

「お、この国でっかい。いいじゃん。」

「おいばかやめろそれはその100年後」

 

「あっ」

 

 

 

 

 

 

 

太陽が眩しい朝。ドナウの流れは絶えずして、今日もその宝珠に宝石をひとつまみ加えてくれる。そんな不思議な付加価値の中、今日も佇むブダの王宮が美しかった。きらきらと、水面で魚が輝く。ドナウの真珠って、そういうことか。そう言うふうに、また痛感させられた。こうやって、物理的にも輝いてるんだから。そりゃあ、世界遺産にも選びたくなるわな。

「綺麗だね。今日も。」

鎖橋の道のなんと長いことだろう。青いドナウに浮く白いクルーズのなんと良いことだろう。そうして、私は再び職務机にどさっと座り込んだ。それらも全部、僕には輝かしい祝福に見えている。例えばゴミや、文明と自然のギャップさえも。ただ、そこにあるだけだというのに。

「いやあ、僕は幸せだなあ。」

そう、しみじみと思った。だってこの小国とはいえ大統領に就任し、富と名声を手に入れたんだ。まるで僕だけのためにあるような豪奢な国会議事堂。その中に靴音を鳴らしながらつけつけと入る僕。今日からは、何も言われないだろうに。そう今日から僕は議員じゃない。大統領「閣下」であるのだ。初日っていうのは、やっぱり力を入れねばな。

「おはようございます閣下。」

「おはよう国防長官。」

国防長官が老兵で良かったと、つくずく思う。彼はこの初心者を手伝ってくれる仲間。彼はとても優秀だから。そしてどこかぎこちなく、慎重に国会議事堂へと入る私。それをじっと、孫を見るみたいに眺めるヤーノシュ。どうやら、向こうもちょっとだけ不安なみたいだ。

しかし僕はもう一つ感じていたんだ。何か舐め回すようなとても嫌な視線というか、感覚がしたのを覚えている。まるで、ヤーノシュの逆位置にいるみたいな視線だった。このとき僕は知る由も無かった。僕の初仕事が、今までないほどの困難であることなんて。こういう、嫌な予感って当たるんだなあと今更ながら。

例えば、突拍子のない出来事が起きたらどうするか。それこそ幽霊とか。多くの人は、多分何もできないで動けずいる。でも、それでも動ける男がこのヤーノシュだ。本当、いて良かったと思う。だって僕はそういう時きゃあきゃあ叫ぶばかりだもの。僕は、猿が追い詰められたみたいににっと笑うしかなかった。

「おはよう皆んな。いや、諸君とでも言ったほうがらしいかい?」

「ご冗談を閣下。野党ですら承知しないでしょうよ。」

どっとその場に笑いが起きる。とりあえず初動が和やかに進んでくれたのは、そこそこ良いことだとも言えるだろう。まるで、氷の山を溶かすみたいに。この、緊張した空気感もぱっと溶かそう。そういうのは得意だから。

「いやあ、さて。ではこの通りメンツは揃ったし、そろそろやろうじゃないk…」

その時だった。一瞬にしてぐわんと地軸が大きく揺れて、視界の先が揺れたのは。

「ぐっ地震!?」

バカな。このパンノニアの地は地震と無縁だというのも売りだぞ。ちなみに筆者の先生が一度だけ経験したそうだが、それも震度1に満たない。

要するにこんな、度を越した程度の揺れは何一つ起きないはず。そうして、ステンドグラスを良いだけ揺らした地ならしは、迅速に過ぎ去っていった。何てこったい。一周回ってもう何も怖くない。私はそっと、しかし素早く立ち上がり、服の埃を払った。全く、せっかく気合を入れて新調したスーツだってのに。誇りの臭いが、鼻をつく。

「くっそお、なんだ今のは……」

「攻撃か?」

窓を除けば先ほどと変わらないドナウの真珠。その景観は一才損ねられていない。本当に、ただ衝撃が加わっただけなのだろうか?

「ええ。どういうことだってばよ」

今は、それが1番信じられないけど、事実なのである。こんな、国家が転移するなんて馬鹿馬鹿しい。でも、本当の事なんだ。この日中欧に位置する小国「ハンガリー」は、突如として異世界の干戈の中へと、揉み込まれた。

 

 

 

 

 

「どういうことだってばよ(2回目)どうしてパイプラインが止められてるんだ」

あれがなくばハンガリー経済は最悪詰む。だからこそ、ハンガリーはロシアにおべっかを使わねばならない立場であるのだ。しかし後ろを向けばNATOのこわあい目。まるで四面楚歌。本当、進むは虎で下がるは海といったところ。あ、海はそもそもないか。

「これ、やっぱりロシアの攻撃では?それならパイプラインの停止にも合点がいく。」

いや、それはない。何故ならばロシアが我が国を攻撃する旨みがないから。工場も、攻め込むほど肥沃な大地もない。何よりアルミ以外の資源が雀の涙ほどしか取れないのだ。というか、取れるならばとっくにこのロシア依存からは抜け出せている。そうして若き大統領ヴィクトルは再び頭を抱えた。この事態に対する言わば答えが欲しいのだ。ただそれだけ。でも、そんなのが見つからない。ヴィクトルは、それはもうたくさん考えた。まるで、性懲りもなく迷路を回るダンゴムシみたいに。

「大統領大変です。他の国との連絡が一切取れません。国境は謎のオーロラに囲まれています。」

「冗談よしてくれ。僕が今日初めてだからって揶揄っているだろう。」

「いえ、本当です。」

すっと映ったタブレットの映像には、確かにCGと思えない光のカーテン。その様子は、まるでオーロラのよう。まるで祝福するような光に、思わず見惚れてしまった一同。いけない。こんな事をしている暇はないんだ。さっさと、解決せねば。向こうにあるものは何も見えず。そして、兵器を構える兵士たち。このカーテンは、どうやら超えれないらしい。なるほど、よくありがちなバリアという奴か。

「とりあえず、オーロラが消えるまで待とう。今の所幸い被害報告はない。で、ドナウ川は。」

「え?」

さすが、大統領はドナウ川を毎日見る程の物好きだけある。彼は、早くもドナウ川の異変を感ぜとっていたのだ。実際、川に異変が起きることもある。でも、それはあの青くて綺麗なドナウから予測できなかったことは、言うまでもない。

「例えば何か地震ならきっと融解だったり塩水の混入だったりするだろう。」

「はっ。すぐさま調べて参ります。」

そうして、憲兵は部屋を去っていった。しいんとした部屋の中に、ぱちぱちと拍手が木霊する。拍手がこんなに煩わしいのは、初めてだよ。

「さすがは大統領だ。」

「そんなに買い被らないで頂きたい。」

そうはいうけど、これはだいたい3割くらいは本音。

因みにそう褒めたのは国防長官ホルバーチ・ヤーノシュ。彼の戦略は天才的であり、チェスで勝つことはまず不可能。その頭脳にあやかり、ヴィクトルが進んできた面も少しある。まあ、それくらいの英才とだけは覚えておいてほしい。

「分析成功しました!やはり海水が混入しています。」

「ほら見ろ。僕にはドナウの心が手にとるよう分かるようなもんさ。」

ふふんと自慢げに鼻を鳴らすヴィクトル。それを静かに無視して、ヤーノシュが続けた。何だこの不躾な男は、と怒りたい気持ちを抑えてヴィクトルも話を聞く。

「おそらくこれは、まあ地震でしょう。オーロラも何某かの異常気象で間違いな……」

しかしその言葉は直ぐに途切れ、その視線は、それを映し出すタブレットへと向いた。そこに、彼の仮説を簡単に覆しうるある物が写っていたのである。あったのは、動き回る兵士と、混乱する部隊。そして、後ろに映る、果てしなく広くて青い青い海があったのだ。

「意味不明だ。」

「確認だがうちって内陸国だよね?」

「馬鹿野郎小学3年生でも分かるぞ。」

陸軍に続き、パニックを起こす政治部を取りまとめたのは大統領ヴィクトルの一言。とにかくこの現状、情報もほしいし、混乱も抑えたい。国民はどうにかしてもらおう。

「静粛に。まずは、とにかく情報が欲しい。とりあえずユーロコプターでも上げて哨戒をしようと思う。」

「大統領、僭越ながら。石油の備蓄は如何程ございますか。」

そこは、突かれると痛い所。こいつは−内務大臣ソンバトヘイ・ラースローはちょうどツボを突いてくる男なのである。しかし、ツボ押しは良い効果をも齎す。これが、このソンバトヘイのアイデンティティ。言わばこいつが、整体師みたいな不思議な役目を果たしてくれるのだった。

「…2ヶ月持つかも分からない。周りは全部海?」

「はい。ということはおそらくパイプラインは止められたのではありません。いわば、消えたのです。」

ヴィクトルはぐったりと椅子に倒れ込んだ。力無い体に、温かい日がさす。馬鹿馬鹿しい出来事の数々に、とうとう限界を迎えたのだ。

「大統領!内務大臣の仰る通り資源はカツカツです。だが、ここで油を出し惜しみするなど、破滅の先延ばしに他なりません!」

そこまで追われてようやく気付いた。自分は、大統領だ。どんなシチュエーションにも、対応しうるべきだと。そう、自分は臨機応変に。僕はさながら、シャーロックのような気分だった。鼻息を鳴らしつつ、仕事に取り掛かる。

「わかった。よし、行こう!ホルバーチ君には空軍のヘリを手配して欲しい。また、ソンバトヘイ君には国内への報道を行ってもらう。このことは恐らく混乱を招こう。しかし遅かれ早かれ言わなければ……」

「破滅の先延ばし、ですね?」

ヴィクトルがこくりと頷くとソンバトヘイは小走りで準備を始めに行った。続くホルバーチを呼び止めると、耳打ちをする。まるで、何か思いついた子供のように。ヤーノシュもまた、それを聞く祖父みたいにそれを聞いてやるのだ。

「はい!?本当にするんですか!?」

「ああ。今は大変な事態だ。でもね、私は夢を捨てられないんだよ。」

彼は碇があしらわれた、紋章をなぞる。そこには、同時にハンガリーの紋章も書かれていた。赤白緑のその国旗。ドナウと同じか、それくらいに青くて美しいその海。ブダペストの風をすっと吸い込むと、深呼吸をするヴィクトル。これから、僕は大仕事をするんだ。

「ホルバーチ・ヤーノシュ国防長官。今、大統領キラーイ・ヴィクトルの名を持ちハンガリー海軍の設立を、ここに命ずる。」

 

 

 

 

クワ・トイネ公国の日々は、いつも変わらない。良く言えば変わらない日常とも言えた。

そんな、平和な日常を崩すマインドブレーカーが1人。それが、謎の国籍不明騎である。この第三文明圏では、火喰い鳥やワイバーンといった航空戦力が使われていて。中世ヨーロッパに値するかも怪しい技術を持つ不思議の国たちは、そんな軋轢の中「制空権」という概念をしっかりわかっている。我々に言わせればなんて、デコやボコの多い軍隊だろか。偏りが凄い。まるで、ムカデの足に蜂の胴体でもくっつけたみたいだ。何というか、考えるだけで頭が痛くなりそうなドクトリン。

鎧甲冑に身を包んだ兵士が、赤く輝く龍の背中へと跨っていた。そっと両手で手綱を握り、竜を最高速度まで加速させる。綱をばっと引くと、相棒はさらに翼をばたつかせて加速した。竜騎士の名はマールパティア。クワトイネ公国に属する竜騎士。青い空は、彼の龍と対比を成して広がっている。

黄金色に輝く牧草地帯を超えて、さらにぶわっと空を飛ぶマールパティア。風を切り、太陽がすっとさしてマールパティアを照らしてくれた。まるでスポットライトみたいに。そして白い雲を突き抜けて、さらに先へと進む。

このクワトイネという国、中々の曲者で何しろ種をまけば勝手に作物が生えてくる土地があるとか。その同盟国であるクイラ王国は、『黒い燃える水』が無限に湧き、食料を育てるのが困難だそう。だからクワトイネから援助してもらってる節がある。

さて、マールパティアはお隣にこちらの小国が越してきたとも知れずその国籍不明騎を探していた。先に言えばこれはハンガリーの派遣したH145Mなのであって特に問題はない。でも彼らの認識だとそちらは蛮族がいるだけの島々。だから本来何もないはずの場所からワイバーンが飛んでくるという、ホラーも良いところな出来事だった。ということで、この転移による混乱はハンガリーに限った話ではなかったのである。むしろ、ヴィクトルの打った正解の一手が、周辺国をちょっと怖がらせてしまったのは、秘密の話。青い海を超えて、その先を見据えた時。

「あ、あれは!」

白いヘリを見据えるマールパティア。青い潮風に揺られる中、ワイバーンをさらに飛ばして見せた。ビリビリと風が顔に吹き付ける。同時に、塩気が鼻の中を抜けていった。やがて、風の流れが変わる頃だった。いよいよすれ違おうという時。互いに、その顔を見合う。そして、互いの顔が驚いていたのを、どっちも覚えているらしい。

「……まずいそっちは首都だ!」

方向を転換すると、マールパティアはその白いワイバーンとチェースを繰り広げる。青い水面のスレスレを飛ぶ中、吹き付ける風はやっぱりちょっと痛い。

「いくぞ!」

竜の口に、赤い炎が渦巻き始める。あたりが、ぽっとあかりに包まれた。ヘリコプターのパイロットはまだ気づいていない。これが、はじめであることに。

 

 

 

 

ヘリコプターを操縦する若いパイロットたちは、今日一生の宝を目にした。それはドラゴン。そして、もっといけないことを見た。そのドラゴンがこちらに攻撃してきたのだ。まるで、煉獄のように赤い炎が、ぼっと此方に向けて吐かれる。

「やっべえ回避するぞ新人捕まれ!」

「そんな無茶なアアアアアアアア!」

叫ぶ新人を他所に彼は操縦桿をぐいっと引きその火炎弾を避ける。すんでのところだったが、どうにか回避した。だがこのままじゃジリ貧だ。青い海面も、実はそこまで遠くもない。こういう、攻撃的な戦力だと伝えようか。それとも、迂闊に領土を侵犯した自分達に非があるか。しかし竜騎士に追撃の意思はすでに砕けていたのである。

「避けた!?そんなバカな!」

これ以上踏み込めば海でなく陸地。さっき通った金色の農地を火の海にするのはさすがに気が引ける。こうして、彼らとの睨めっこが始まったのだ。進めば引くし、引けば進む。さながら、千日手といった様子。

「向こう、通信してるっぽくね。どうにか周波数拾えねえの?」

「無理っすね先輩。電波の系統が根本的にちが……おっ?なんかいけた。」

「いけるんかい。こちら、ハンガリー空軍。貴方はハンガリー空軍に攻撃している。繰り返す。貴方はハンガリー空軍に攻撃している。そうぞ。」

「通じるわけがな…」

「こちら、クワ・トイネ公国竜騎士団のマールパティア。貴公はクワトイネの領空を侵犯している!」

「通じるんかい。申し訳ない。今直ぐ退避する。誘導を頼む。繰り返す。今直ぐの退避につき、誘導を頼む。」

「マールパティア了解。」

こうして、紙一重であり間一髪のところで、戦争を防いだのだった。

 

 

 

 

「こちら本部。シャルカニュ1がファーストコンタクト。」

「入れろ!」

「……どうやら平和的な接触に成功したそうで」

「よかったぜ…しかし、どういうことだ。もとの国家がないぞ。」

ヤーノシュの頭には冷や汗が出ていた。ヘッドホンも、心無しか汗だらけ。まるで、滝のように流れ出た汗を拭うとヤーノシュはソファーから立ち上がる。何か、飲み物がほしい。

「ホルバーチ閣下。どうやらソンバトヘイ氏が、『面白いもの』を見つけたそうです。」

「ええ?絶対めんどくさいことじゃねえか。もしくは最高なことか。」

彼は比喩なんてオシャレはしないし、下手な諧謔心は持ち合わせてない。だから、そんな彼がそういう言い回しをするのは。たいてい最高か最悪かの二択だった。

「安心してください。いい方だと思うので。ちなみにジェット機はもう用意しましたよ。」

「早いねえ準備が。雇って正解だわ君。」

「恐縮です。まあ、半分はうちの腐女子の目が怖いと言うのが理由ですが。」

そして、彼が1人の女を指差す。腐女子、というのは単なる侮蔑かそれとも事実か。どちらにせよ碌なことじゃない。こいつは、後で叱咤してやろう。青い空とドナウに誓って、な。

「好きなカプは?」

「ホルバーチ閣下とキラーイ大統領です。」

「君。下手な嘘は傷をつけるだけだよ。後で私の部屋に来てもらおうか。」

「いや、マジです。あいつ職場で同人誌描く勇者ですもん。」

「雇って正解だわ君。やっぱ前言撤回。」

そうして、それよりも重要な仕事をこなしつつエアバスへと向かった。わざわざあんな言い方するんだから、きっとヴィクトルも居る。そっと、スーツケースを掴めばその冷たさが感じられた。

「ああ、国防長官。こちらに。」

「さあて。少し休みながらソンバトヘイの言う『面白いもの』を見に行こうか。」

深くシートに腰をかけると、窓の外をみた。まだ、夜にもなっていない、青い青い空が広がっている。

 

「おーい!おーい!」

彼が必死に両手をふっているソンバトヘイ。でも、2人はもうソンバトヘイなんて眼中にない。青い海。これはもう見たから別にいいんだよ。でも、さらに先には。その先には黒い煙をもくもく上げる蒸気船が、ぐんと鎮座していたのだ。さらに何人もが手を振っていたのである。そして、謎もう一つ。オーロラの溶けた瞬間そこそこの港が1人でに出来上がっていたのだ。ここは、国境の街レティニエ。緑と赤のコントラストが美しい、田舎町だったのに。これからは都会まっしぐらじゃないかとヴィクトルは少し眉を寄せた。

「ああ、やっと来ましたか大統領に国防長官。ほれ双眼鏡。面白いぞ〜」

「あれはまた異世界の代物か?」

「いや、あり得ん。聞いたところ中世ヨーロッパ程度の文明だ。あの蒸気船が作れるほど高度じゃない。」

隣ではソンバトヘイがにやにや笑っている。あたかも人狼ゲームか何かで、全てを知るゲームマスターのように。青い海は、白い波を立ててこっちにやってくる。不思議な物だな。こっちにきた瞬間、あんなに青いのが透明になるだなんて。

「おいおい、そんな頑なに考えなくたっていいんだぜ。要は暗記物だよ暗記物。」

「暗記物?」

そうして、双眼鏡を覗き込みと、あることに気付く。錆びついた船体、古臭いセーラー服。その不可思議な筒の向こうにそれはいた。なんだか、全部が古くないか。そう言えば、この煙突だってそう。こんな、黙々と黒い煙をあげる船今はもうない。まして、内陸国ハンガリーには特に。ヴィクトルはバリバリと頭をかくばかりだったけど、ヤーノシュは違った。何か、見つけたみたいに言う。

「おい、あれ」

「ああ。間違いない。オーストリア・ハンガリー帝国の、ハプスブルク家紋章と海軍旗だ。」

前提に至り驚愕する中、ソンバトヘイは悠々と結論を話し出した。一同に、まるで電気を流したみたいな衝撃がはしる。

「まず起きたことを話そうと思う。この国は異世界に転移した。あの衝撃はその時のもの。ドナウの塩分濃度が上がったのは卒爾海水が流れ込んだから。もとの国家がいないのもそのせい。そして、転移したのは何も我々だけでない。例えば、青島で自沈したとされている……」

そこまで言うとソンバトヘイは海をにらんでにちゃあと笑った。その笑みが、まるで悪魔か何かのようで。ヴィクトルはその所作に、ただぶるっと体を振るわせるしかなかったのである。

「カイゼリン・エリザベートとかねえ。」

そこにいた船は、まさにその帝国の亡霊。軽巡洋艦カイゼリン・エリザベートに、瓜二つだったのである。ヴィクトルが口を開いた。潮風が鼻を抜けていく。思わず、慣れない匂いに鼻を摘んだ。

「……あるいは神からのプレゼントじゃないかい?戦艦です。何なりとお使いくださいっていう。」

「ああ、それはあるかもな。いや、そう思おう。じゃないと頭がパンクしそうだ。」

「おいおい、せっかくの防護巡洋艦のご登場だぜ。もっと歓迎しようぜ。」

ソンバトヘイのパワーにはついていけない。このまま無視を決め込むか。やがてその船は、自らが王手の状態にあると判定し、こちらへ近づいて来る。だからこっちがどうとできると言うわけじゃないけど。でもまるでそれが、野生動物が最後に出すSOSのように見えて。この船、後ハンガリー海軍の旗艦にるんだ。皮肉な神話である。

 

 

 

 

他方で石油の確保を進めるにあたり、外務省は疲労困憊。本当、何もかもが大忙しだ。油を一滴でも手に入れたいなら、キッチンにでも行ってサラダ油でもとってこい。心の中でそう、ぶうたれつつも外務大臣キシュ・レーチェルは書類を片付ける。こいつは小野妹子と同じで、そういう名前をして男。レーチェルは、再びその椅子にそっと腰掛けた。パソコンの中には、もう見たくもない文言がいくつも表示されていて。できるなら、全部捨ててやりたい。それがせきればどんなに気持ちいか。でも、実はそういう鬱なことばかりじゃない。ちゃんと、やり甲斐だってあるんだ。

「大臣、クワ・トイネとの会談が決まりました。」

「どこで?」

「空中です。」

「草。ヘリコプターのパイロット様様だわ。あいつ昇進させようぜ。一応ヤーチンには掛け合わせるさ。」

ヤーチン、とはヤーノシュのあだ名というか、通名である。筆者に懐いた数少ない犬もヤーノシュだったりした。犬もわかるほどそれだけ浸透しているのだ。

「まあ、とりあえず向こうさんを驚かせようぜ。俺がグリペンと一緒に行くだけで相当びっくらこくだろうよ。あ、もちろん予算は空軍で付けとけよな。それとダッソーのファルコン7Xも手配して。今確か、ソンバトヘイに振り回されていて一機使っているけど、もう一機は暇だろ。あ、それも空軍の奢りね。」

「はいはい勿論。」

彼は、彼の周りをイエスマンで固める。無能というわけでもないし、独裁的でもない。ただ、しょうもないことをしたいだけである。勿論なるべくイエスマンという基準だけで、殆ど違う人が占めてる時期もあるし、逆も然り。とにかく、この人物のばらつきが凄いのは、かつてヨーロッパ中に知れ渡っていたという。彼は何と言うか、とてもざっくばらんな人物だ。まるで、ヤギみたいな。

「さあて、クワトイネ行き高級航空券グリペンのショー付きはまあだかあ。」

御年50とは思えぬ様に、今日も呆れる外務省職員だった。今日もまた、青い空が広がっている。

 

 

 

 

 

もはや何年ぶりだろう。こうやってハンガリー領に船を迎え入れるのは。その事実が、歴史でのこと全部を物語っていた。青い海から、鎖を用いて船を引き上げる。ざざあ、と音がして土に船が乗り上げた。

「カイゼリン・エリザベートですね。存じ上げております。私は、ハンガリー大統領キラーイ・ヴィクトルと申します。以後お見知り置きを。」

「あの。私たちはまだ状況が把握できていません。」

ええ。私たちもです。何て言えないので、あのソンバトヘイの仮説と史実を踏まえて話をしていく。艦長は鳩が豆鉄砲を食ったような顔をするが無理もない。だってこっちもわかんないだもん。やめてください艦長、そんな怪訝そうな顔をしないでください。

「いやあ、そんなこと言われても。」

「とりあえず、石炭を補給しましょう。話はそれからです。」

かつてこの国には炭鉱があったし、船一隻分ならどうにでもなる量は確保されている。石油がない以上石炭は必要だ。故に炭鉱町なんかを復古させて、発電所も石炭だけ動いている現状。黒い石炭たちを、がらがら音を立てて持って来る軍人たち。ヴィクトルは苦笑した。こんな、馬鹿げた光景あるんだと。

「ありがとうございます。そんな、突拍子もない話ですが、私たちも信じます。それが、きっと正しいので。」

どうやら彼らも似た経験らしい。青島で地鎮することに反対した艦長リヒャルト・マクス・フォン・ゲイセルは、そのまま抜錨し最後の突撃を敢行しようと試みた。しかし、その時地震のような揺れとともに世界が暗転したのだ。気付いたら、竜騎士の攻撃に耐える日々だったと言う。今日で3日目。よく耐えた方だ。赤い炎が空から放たれ、此方は金色の弾丸を持ってしてうち落とす。それを、ずっとやってたんだから本当に凄い。

「俺たちがやられたのは……ロウリア王国って奴らだ。俺ら見るなり蛮族蛮族って叫びやがって!」

「どうやって対処したんですか?」

ソンバトヘイは食い気味に聞く。

「砲を最大仰角にして撃った。それくらいしか無いんだ!」

リヒャルトの無力さ、というかその白い背中に諦めまでもが潤っている。目の中に涙が溜まっているのが、目に見えた。海の波音が、少しだけ悲しく、そして寂しく変化した気がする。

「……大丈夫です。先述の通り私めは未来の者です。勿論空も知り得ています。それより……」

ヴィクトル海の向こうをぎらりと睨んだ。同時にぎりりと歯を食いしばる。先ほどのソンバトヘイのとは全く違う、怒りの眼光だ。これを、使わない手はない。でも同時に、もしかしたらこういう勢力が居るんじゃないか。そんな不安も、まるで幽霊みたいにヴィクトルに粘着してきてならない。

「僕たちの英雄に随分ぞんざいな扱いしてくれたじゃないか。ロウリア王国。ちょうどいい。確かクワトイネとの間に軋轢があるんだろ。その辺、レーチェルに電話してくれ。」

「はっ」

「おい、大丈夫か?そんなことして。」

「これは外交じゃ無い。戦争じゃ無い。これは、最大級の侮辱だ。僕はナチなんて嫌いだし、戦争なんて大嫌いだよ。それでも、この惨状を見てくれ。」

目の前は真っ赤に血濡れた包帯と、唸り声を上げる水兵。それが、狼の如く彼にとって大きな侮辱として襲いかかったのである。ヴィクトルはとても優秀な人間だ。だが、ちょっと感情に飲まれやすい。こう言う人間が大統領をやるのに、ソンバトヘイみたいな抑止剤は必要だ。

「……分かった。ただし最初から喧嘩を売る気はハナからない。それだけは勘違いするな。」

こうしてソンバトヘイは徐に受話器をとった。いわば、史実への復讐を果たすため。

 

 

 

 

続く。




これは何をかきゃいいんだ。主初心者だからわかんなーい。とりあえずアソパソマソ載せとくね
     ___
    /     \     ________
   /   ∧ ∧ \  /
  |     ・ ・   | < 読んでくれてありがとうよオメーら
  |     )●(  |  \________
  \     ー   ノ
    \____/

好評なら続くよん

「イシュトヴァーンよ永遠なれ」人気キャラクターランキング

  • キラーイ・ヴィクトル
  • ホルバーチ・ヤーノシュ
  • キシュ・レーチェル
  • ソンバトヘイ・アラダール
  • ヘッペシュ・フェルディナント
  • バートリ兄妹
  • リヒャルト・マクス・フォン・ゲイゼル
  • オルバーン・スタメナ
  • セーケイ・オルガ
  • ナジ・マーサ
  • パプ・エブリン
  • エル隊長
  • ニーメット・マールス
  • 三兆円
  • その他
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。