というわけで、第二十九話です。今回もみじかめです。次回が長くなる(予定)なので、勘弁してくださいなんでもしますから。
それでは、どうぞ。
外はもう暗く、鳥がほうほう鳴くばかり。満月が水の上に浮かんでいた、そんな夜のこと。
「急げ!急げ!スクランブルだ!」
そう言いながら、滑走路から飛び立つワイバーンたち。へえ、そうするんだ。それにしたって何処に。と、思いながらエブリンはパンを齧った。指揮系統が麻痺しているはずだろって?ここで、ちょっとまずい事になってしまったの。というのも、金を貰った貴族どもはすぐ逃げるでしょう?そうすると、一時的には麻痺するけど、こうやって時間をおけばそれなりに回復しちゃう。だって代役を立てればいいだけだもの。
「あら、もうなくなっちゃった。まあまた買えばいいか。」
もちろん、偽札で。と、エブリンは微笑んだ。泥棒ってこういう気分だったんだな。そりゃあ盗みだって働くわけだよ。
「とりあえず、本国に報告ね。マーサ!」
「分かってますって大きな声出さないでください。」
双眼鏡を覗き込むエブリンに、そう言うマーサ。そして、通信機を面倒くさそうにいじった。茂みに隠れているっていうのに、この馬鹿でかい声出さないでほしいものだよ。
「こちらペンタクル。オスマンは東に飛ぶ。繰り返す。オスマンは東に飛ぶ。」
とりあえずこれでいいとして、どうするんだ。早く対処しなくちゃ、ワイバーンといえどまずい。
「ま大丈夫でしょ。本国の空軍を信用しましょう?」
「そうは言っても……あ、あとこれ言われてたパンです。一体何個食うんですか。」
「さあね。」
そう言いながら、またパンを齧るエブリン。どれだけ腹が減ってるんだよ、こいつ。
「ねえ。面白い事になると思わない?」
また、マーサは眉を顰めた。まるで、何か言いたげに。
「何ですか藪から棒に。」
「いいえ?これは引用だけどね、戦乱っていいと思わない?」
パンをもう一口食べてから、エブリンはにやりと笑った。悪魔の如く、下衆な笑みで。
「だって、力さえあればなんでも手に入るの。」
そうして、さっきまで齧っていたパンを茂みに放り投げる。マーサは察した。この女も、戦争という魔法にかけられた1人だったんだと。
そして、そのエブリンからの報告はもちろんハンガリーに送られてきた。
「ほ、報告です!ワイバーンが、ワイバーンが現れました!」
「何だと!?あいつら、血迷ったか?」
「どうやら、奇襲に出たようです!」
あいつら。何をやらかすと思えばそんなことを!
「急いで第一航空師団に連絡を!ワイバーンを一騎残らず叩き落とせ!」
ヤーノシュは、その顔を真っ赤にしながら指示を出す。その様子が、まるで鬼のよう。
外はすでに、黒色に塗りたくったみたいに真っ暗。宛ら夜襲にはうってつけの空色だろうに。さっきまで聞こえていた、木兎の囀りさえももはや耳には入っていない。ただステンドグラスから刺す寒々しい月の光だけが、その場を支配していた。
「頼むぜえ…!成功してくれよ!」
とそこへやってきたものが1人。それは、キラーイ・ヴィクトル。この国の大統領。
「おう。明日記者会見の男じゃないか。寝なくていいのか。」
だがヴィクトルは何を言わずに、暗いカーテンをざっと開けた。
「いやあいいんだよ、それにしてもテンプレートだね向こうも。」
はっとするヤーノシュ。まさか。こいつまさか。
「パーパルディアとドンパチする口実。向こうから作ったわけだ。圧倒的な力を見せれば、夜襲に走る。予測くらいできるのだよ。相手が玉虫色の戦力を保有しているなら尚更ね。」
そうして、かつかつと音を立てながらこちらによるヴィクトル。外は未だ暗い。ここを照らす暖炉の温かい光も、ただすでに消えかけていた。
「既に第一航空師団を送った。今回は戦争じゃない。」
ヴィクトルはゆらり、とまるで蛇のような視線を向けた。
「駆除だ。」
ここは、ハンガリー沖の上空。ここでは総数20にも上るグリペンとMiGが、共に編隊を組んでいた。
外はもう暗くて寒い。そんな中、幽霊たちは何をも知れずぐわんと飛び続ける。ただ、パーパルディアを撃ち落とすため。
「あいつら、一体何を頼りに操縦しているんだろうな。」
部隊長シェイバーがそうこぼす。その梟の囀りが如き声は、誰にも届かなかったのだろうか。皆、操縦に集中してまるでマネキンみたいに動かない。
「………レーダーに感あり!!」
「すぐにFOX2を用意!」
そして、まだ見えもしない相手に向けて照準を合わせる。慎重に、慎重に。
「センレム1、ファイア!」
「センレム2、ファイア!」
そうして、科学の槍たちを夜に送り出す。それと、同時に遠目に灯りが見えた。さっきまで何処にもなかった、光がわっと。
「命中を確認!」
「推定30騎はやったな!」
しかし時間は待っててくれないよう。間も無く、接敵。
「センレム2からセンレム6は左に旋回!センレム7以下は正面から攻撃しろ!ミグも同じく続け!」
そうして、夜の闇に紛れて旋回する銀翼たち。蝙蝠のように静かに、そっと。
何もいない空の中で、ただ沈黙を破く戦闘機。そしてそれはついに………
「センレム1コンタクト!左から奇襲する!」
「了解!頑張ってください隊長おおおおおお!!」
そして、ぐわんと一瞬だけその翼とすれ違う。そのすれ違いざま、シェイバーは見てしまった。まるで、蛇に睨まれたみたいなその顔を。
「くそっ!あいつらなんだ!何をしやがった!」
一瞬、何かが見えたと思ったら僚機が肉片に加工された。そうとしか言えないし、そうにしか思えない。パーパルディア兵は歯をがたがた言わせながらも、手綱をしっかり握る。
やがてそれが終わったら、ごおおお、という音ととも豪速で進んでくる飛行機械が!もうどうなってるんだ。一体全体、全てわけがわからないよ!
「くっそおおおお!ハンガリーめえええ!」
また、あの音が近づいてくる。あのごおおといううるさい音が。どうすればいいんだ。あんな化け物に、勝てるわけがない。体は寒さのせいではないけど、ずっとぶるぶる震えるばかり。その様子は、そう。幽霊とでもいうしかない。
「奴らは……ハンガリーはまるで幽霊だ!ば、化け物め……化け物めええええええ!!」
「おいどうした!報告せよ!報告せよ!」
その時、右から今度はいくつもの小さな閃光がほと走る。こちらは何も見えないというのに、向こうは暗視でもできるのか。全ての攻撃を、一切外してはない。
「指揮権、継承しました!奴らを蜂の巣にしてやる!」
だが、もう既に30はやられているのにこれから勝てるものかは。どうやら、相手は本当に幽霊で間違いない。こちらの攻撃は、ひとつも当たってないから。
「くそう!火炎弾、発射ー!」
同時に、ワイバーンの口に何かが集まる。そして、それが放たれると、今度はお返しとばかりにまた閃光。
「くそおおお!どうして当たらぬのだああ!」
竜騎士はそう悶絶するが、それもそのはず。だってマッハなんだもの。当たるはずもない。こうして有視界戦に持ち込むことで、向こうのルールにてプレイする。そうして、より深い絶望を味わせるヴィクトルの作戦。
「まずい!まずいいいい!」
いる。そう、直感的にわかった。後ろに。絶対にいる。
「う、うわあああああああああ!」
後ろから、ばらららと音がすると、一瞬にして意識が落ちていく。ひとつ、ふたつとワイバーンの羽音が空に消えていった。
「くそう…くそう…どうすべきか。」
気づけば、先ほどの副官1人だけ。しかも、本隊もミグも来るときた。
「ハンガリーめえええええ!蛮族めえええええええ!」
こうして、パーパルディア皇国の竜騎士団の奇襲攻撃は、失敗に終わった。ただ、今は静けさを取り戻した夜があるばかりだった。
「ブラボー!素晴らしかったぞみんな!」
したたかの歓声の中で、シェイバーの叫びが夜に消える。まだちろちろと燃えるワイバーンたちは、そのまま海へと落ちた。彼らには、それでもざばんという最後の喘鳴は聞こえなかった。だって、彼らは蝙蝠であり、幽霊なのだから。
ここは、ハンガリー海軍のカイゼリン・エリザベート。
「おい。なんじゃあこれは!」
気付けば、周りに戦列艦が。それもただいるんじゃあない。明らかにこっちを包囲しようとしている。こりゃあまずいことになったんじゃないか。さっきまできゃあきゃあうるさかった海猫も何かを察したのだろうか。今や、ただ夜の静けさが残るばかり。
「これはやられましたね、包囲ですよ。包囲。」
そんなことはわかってる。それより何より、ここを突破せねば。
「とりあえず、いつも通り電光掲示板と口頭での警告といきましょうか。」
というわけで以前よろしくやってみた。しかしそれをしてもやはり引かない。どうしよう。本国からも攻撃があるまで何もするなと釘を刺されているから。
「ところで、マールス外交官。これは明白な敵意ですよね、」
「いや流石にやめてください面倒なので。」
しいんと静まり返る海の上を、ただ停泊する船、船、船。みなマストを降ろすこともない、いわば仮眠の状態なんだろうか。その時。静かな海にピーピーという機械音が響いた。
「………おっと、通信のようですね。」
出ると、いつものオペレーターの声。
「どうしましたか。」
「本国より連絡です。たった今、ハンガリー沖で交戦がありました。敵対の意思ありと見做して構いません。」
「よっしゃやろうぜマールス外交官!」
「いやあそうは言っても……」
「やってやろうぜマールス外交官。」
マールスはぐるりと目玉を回した。ああ、そうか。それならいいよ。そういうタイプね。とことん付き合ってやろうじゃないか。マールスは、静かな夜の中、まるでそこの怪物かのように口角をにやりと上げた。
「いいんですかリヒャルト司令。私は容赦しないタイプですよ?」
「無論だ。」
それなら、よろしい。ざっと数えて300程度。どうしてだろうね。ハンガリー人って数学がそこそこ得意なんだよなあ。
「いいでしょう。300vs1も。こんな誉は2度と手にすることはできないでしょうし。」
こうしてマールスは、通信機を切った。通信を読まれるなんて、正直言い訳だと思っている。だって、そんなこと一度もなかったから。
「おい、向こうは二つ返事だったぞ!」
喜ぶマイラス。だがしかし、ラッサンは未だ顔の皺を戻すことはなく。
「ハンガリーか、一体どんな国なんだろうか。」
一瞥の不安が残るラッサンだった。
いかがでしたか?
最近、更新速度も文字数も減ってる気がします。がんばりますね。
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