イシュトヴァーンよ永遠なれ   作:デブレツェン

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どうもこんにちはデブレツェンです。未だにさっむいですね。

ついに、この小説も30話となりました。これからも頑張って行きます。早くお気に入り登録20行きたいです。

というわけで、第三十話です。どうぞ。


第三十話 1対300

「間も無く、大統領キラーイ・ヴィクトル氏による演説が始まります。」

昼下がりの英雄広場。カラスがこかあ、こかあと鳴く少し前の話。鳥の囀りも、騒めく人の前ではあれどもなきが如く、とでもいうべきだった。

そんな中、皆硬い表情で演説台を睨む。まるで、憎敵でも見るほど慎重に、そして真剣に。

やがて辺りには、チュンチュンという小鳥の鳴き声だけが響き渡るようになった時。その男、キラーイヴィクトルは現れた。まるで、どこから現れるかわからない吸血鬼のように。

「…………皆さん。まずは、お集まりいただきありがとうございます。」

それまで、まごまごと手遊びをしていたとは思えない、はっきりとした声色。皆、教会のゴスペルを聞くみたいに目の色を変えて見守っていた。

「…………このたび、私たちハンガリーが、戦争状態に突入したことをご報告致します。相手は、第三文明圏の列強国、パーパルディア皇国です。」

ごほん、と静かな英雄広場に咳払いが響く。そして、ヴィクトルはまたそっと話を始めた。子供に優しく、何かを教えるみたいに。

「……彼の政府は、我が国の穏健な接触もしれず、まずいきなり属国化を要求しました!これに抗議したところ……」

英雄広場の傍に置かれた祭壇に目配せをするヴィクトル。そこには、簡易的な祭壇が。顔写真はいつぞやの職員や、ロウリアの戦士たち。

「CBAの職員を言わば人質に取り、我々にさらに属国化と降伏を迫ったのです!もちろん、解放を要求しました!しかし彼らは!解放するどころかこのような蛮行に出た!」

小鳥の鳴き声が、ちゅううっと響く。この場で喋っていいのはまるで鳥だけと言わんばかりに。

「………我々は許しません。許せません。許してはいけません!蛮行を行ったパーパルディアには、必ずや報いを!!これは戦争ではありません!駆除です!そして、最後にひとつ。」

すっと息を吸って、ヴィクトルは言い放った。その様子は、いつものヴィクトルじゃない。その様子は、獄卒のようだった。もちろん、いい意味で。

「Don't forget.Always,somewhere,someone is fighting for you. As long as you remember her, you're not alone………それでは皆さん。私たちに、協力していただけますか?」

小鳥の鳴き声も聞こえなくなった今、ヴィクトルはすっと手を上げる。手の形はチョキ。これが、ハンガリーの挙手の方法。

「…………」

「…………」

小鳥の囀りすら、遺族の啜り泣きすら聞こえない沈黙の中、1人だけが手を上げる。やがて、それに釣られたかひとり、ふたりと上がる手たち。そして、誰かが言い始めた。

「パーパルディアに天誅を!!Éljen Magyarország!」

「Éljen Magyarország!Éljen Magyarország!」

その声は、合唱のように固まって英雄広場に響く。そこにもう、小鳥の囀りはどこにもなかった。

やがて、ヴィクトルも、泣きながらそのフレーズを繰り返す。いや、ヴィクトルだけじゃない。そこにいた誰もが。みんなが、言っていた。

「Éljen Magyarország!Éljen Magyarország!」

マジャールのゴスペルは、英雄広場に響いた。そして、そのイシュトヴァーンたちの石像さえ、まるで笑いながらずっとそう言っているように見えたのである。ヴィクトルは、くるり振り返って、その石像に向き直った。イシュトヴァーン1世。この、ハンガリーを作った者。彼らの希望を、絶望で終わらせてたまるか。占拠と支配で終わらせてたまるか。ヴィクトルはにやりと笑い、涙を拭う。そして、さっきよりも大きく息を吸って、いうのだった。

「イシュトヴァーンよ!永遠なれ!」

 

 

 

 

 

 

「ついに来たな……」

ごくりと唾をのむリヒャルト。もう、空には鴎も海猫もいない。ただ、人間たちの歪み合いがあるばかり。月の光はさらなり。闇もなおまるで人間を見守るがため息を潜めているようだった。

「リヒャルト司令〜お茶があがりましたよ〜」

「すまねえ!今は飲む気になれねえ!あと、あんまりあちいお湯沸かすんじゃあねえぞ!もう出るかもしれねえからなあ!」

「へーい!!」

そして、月夜のもと茶色く透き通るお茶を注ぐ。どうしてだろう。戦いの前夜だなんて思えないや。

「さあて、どうするかな。」

まずはこの数。これを減らさなくちゃどうともできない。リヒャルトは一枚紙をぺらり出すと、書き始めた。そして突破。この半包囲をどうにかして突破しなくちゃ。結局それなら、何処か一点を集中してぶっ飛ばすがいいだろう。

そう、独り言を決めながらお茶をくっと飲んだ。あっついお湯に乗っかってくる、芳醇な香りたち。どうやら、この未来のお茶はそこそこ美味いらしい。

「マールス外交官〜マールス外交官〜」

「はいなんですか?また戦略ですか?」

「だって駆け引きは外交官が1番やるでしょう。」

月風に髪を揺らしながらマールスに向き直るリヒャルト。そしてマールスは、勝手にその紙を覗き込んだ。

「なるほど。一点突破ですか。それもいいでしょう。」

ほうっとため息をつくマールス。その様子が、本当に安心したようで。

「それで、何か作戦はあるんですか?」

にやりと笑いながらこちらを見てくるマールス。ああ、そうだな。そういえばそういうやつだったよ。と、釣られたようにリヒャルトも笑った。

「ええ。ひとつだけ。」

何だと聞くマールスに、リヒャルトは笑ってみせた。

「それは秘密です。さあ、お茶とアップルパイが上がりましたよ。食べます?」

「いただきましょう。」

そうして、熱々のアップルパイにフォークを食い込ませる。その時だった。ぴーぴーと音がしてまた本国から連絡が出たのは。マールスは、さっきと違うため息をついてからその通信に出た。

「はいもしもし。今からアップルパイを食べる予定だった者です。」

と、一応オペレーターに不満をぶうたれてみせるマールス。

「それは申し訳ない。ところでご存知ですかね。本国が奇襲攻撃を受けたのは。」

「ああはいはい。だいたいは……って、え?まじですか?」

「まじです。威嚇とかじゃないと思いますそっちのも。」

マールスは額に汗を浮かべた。脂汗がどんどん浮かんでいく。

「えっこれって威嚇とかじゃないの?」

「威嚇とかじゃないと思います。」

ますます、そんな冗談と思いたいことに対して脂汗を浮かせていくマールス。

「分かりましたありがとう。………リヒャルト司令!

リヒャルト司令!!」

そうしてマールスは走り出した。呑気にアップルパイを食んでいるリヒャルトに向かって。

「なんですかあ。砲はまだ射程圏外ですから大丈夫ですよお。」

「ホッ、よかった……って、なんで気づいてるんです!?」

「そりゃあ、ここまで厄介な船を一気に潰したいに決まってるでしょう、攻撃するなら。オルフィー司令の、掃海艇も怪しいんじゃないですかねえ。きっと監察軍意外にも様々艦隊が集結してますよ。」

そういうと、リヒャルトはずずず、とお茶を人啜りした。どうやら、相当に余裕のようで。きっとこうなることを予測したんだろう。何が読み合いには外交官だよ。おめえがやれ面倒くさがらずに。

「で、一点突破の前はちょっと防衛して様子を見計らう。今に砲撃が始まるぞ。」

「分かりましたよ早く猪狩くらいおろしてください。」

「へーい。猪狩おろせええ!」

やっぱりこの声。これだけはどう取っても完璧に司令官なのに。静かな海に、その声だけが響き渡った。

「おい!パーパルディアの艦隊が動き出したよ!」

船員の声に振り返る2人。これじゃあアップルパイどころじゃない。急がねば。

「ミサイルは準備できるか?」

「訓練通りであれば……へへっ。未来の兵器、とくと味わわせてもらうぜ!」

舌なめずりをしながら、計器をガチャガチャ触る船員。とりあえず、あの奥にあるでかい船が標的でいいか。

「早速試させてもらうぜえ!エゲルの星、発射ー!!」

 

一方こっちはパーパルディアの艦隊。鴎も海猫も鳴かない夜に、ただ帆を張って敵に近づいていた。敵は、ハンガリーというそうな。何しろ我がパーパルディアの要求を突っぱねたそう。全く、上が馬鹿だと大変だ。ほらみろ、帆をおろし停戦してるじゃないか。これが末端と上の違いよ。

ぐほほ、とゲスな笑みを浮かべるはバーン。竜母艦隊の司令官だ。彼は、竜母と戦列艦による連携プレイを得意とする。そして、何よりそれが好きで。

「よし、まずは竜騎士たちを発艦させろ!あの船を一網打尽にしてくれる!」

なに、距離が近いが砲はどう足掻こうと届かんよ。このままゆっくり発艦してやれ。

そうして、紅茶をキメるバーン。しかしその時だった。何かが敵艦の甲板で光ったのは。

 

「退避〜!退避〜!甲板から退避〜!」

カイゼリン・エリザベートにも、実は奇しくも同じ雰囲気が漂っていたという。それは、いわゆる「楽勝ムード」というやつ。そして全員が退避した時。船員が叫びながらボタンを押した。

「エゲルの星、発射ー!!」

エゲルの星は、試作された対艦用ミサイル。対艦用だから、鉄と鋼でできた船すらぶち抜くというのに。もし木造船に使っちゃえば、生き残れるものかは。そんな中で、リヒャルトは言う。

「やっちまえよ!あんな偽物の正義なんざ!」

同時に、ボシュウと音がして、何かが天に打ち上がっていく。同時に、周辺の島の全てから鳥たちがばさっと飛び立った。その音は、キャアキャアうるさい海鳥たちをもかき消して、上に飛んでいく。そして方向を転換し………科学の槍が向かったのは、ただ一つ。パーパルディア皇国の竜母だった。

「もういっちょ行ってみよう!発射ー!」

そうして、二発目もずんずんと進んでいく。夜を明るく照らしたそれは、少し離れた場所で爆ぜて弾けた。そして、夜は一瞬昼のななりに明るくなったという。

「あとはひとつだけ。あれを起動しろ!」

それと同時だった。爆発音が遅れて聞こえたのは。

 

ドカアアアアアアアアン!!

 

音がするとともに、木端となって散るパーパルディアの竜母。どうして。この範囲ならまだ砲撃しないはずなのに。

「ま、まずい!このままでは!」

こいつは旗艦。やられると一瞬とはいえ指揮系統が崩壊する!

「怯むなー!水を掻き出せ!どうにかしろ!」

しかし、そんな時にまた何かがこちらへ。今度はなんだと言うのか。砲撃以外に、何をしてくると言うのか。

「これは………竜か!?」

すると、後ろにあった150門級の戦列艦がぼかんと爆ぜる。ミサイルを知る由もないバーンには、そうとしか思えなかった。そうとしか見えなかった。ただ、こちらの射程外から攻撃する手段があるということはわかったが。

「くそう……蛮族め!!まだだ!まだ竜母はある!」

しかしそのとき、自分の頭の上を掠めるものがあった。

「これは……?竜の子供だと!?いや、飛行機械か!?何をする気だ!」

そういう間にも、何機ものそれがヒュンヒュンと空を切っていく。その正体は、カミカゼ・ドローン。

 

「いいぞお!いい感じに対空砲火を抜けてるぜ!」

まるでゲーム機のような何かをいじっているのは、カイゼリン・エリザベートの船員。ガチャガチャと弄るたびに連動して動くものがひとつ。

そう、それこそが突撃ドローン「チャバ」。新たなハンガリーの兵器。それはたった今、とりあえず大型艦を狙って進んでいた。

「みんな悲鳴をあげてるな……なんか申し訳ねえし、一発でやってやるぞ!」

「おう!火薬庫はあの辺りだな、いくぞおお!」

「ほら、マールス外交官もやってくださいよ。私と一緒に罪を背負いましょう。」

「何ででしょうかね。まるで怪しい宗教の勧誘みたいに聞こえてしまうのは。あとシリアスを崩すのはやめていただきたい。」

といいつつもコントローラーの一つを操作するマールス。この人手不足じゃあしょうがない。

 

しかし一方のパーパルディア竜母は完全なる地獄。火炎が空を支配していて暑いこと。

「くそ!どうすればいいのだ!」

そうバーンは嘆くけど、せむかたなしといったところ。ただ、夜を支配する姦しい炎に包まれるばかりだった。その時。

 

ドッカアアアアアアアアン!ドオンドオオン!

 

と、何発もの爆発音が静かな夜に響き渡る。振り返れば、後続の竜母たちが燃えてるではないか。ドローンが爆発しているとはバーンにはわからず。どうして。どうしてこんなことに。バーンはただ嘆き続けた。まずは、相手を蛮族と断定したこと。そして、舐めてかかったこと。

「うわあああああ!助けてくれえええ!」

「誰か!誰かああああ!」

叫び声のこだまする中、ただバーンだけが夜と同じく黙っていた。

「こ、これが……これがハンガリーなのか……?」

 

そんな中で、リヒャルトは再び司令を出す。

「魚雷を準備しろ!」

「了解だぜ艦長!」

魚雷。これを使って、今回は殲滅をする予定のリヒャルト。からくりは簡単。魚雷を発射してぶっ飛ばす。すると、脆い木造船はただ貫通するだけにとどまるというわけだ。

「魚雷発射ー!!」

同時に、しぽっという音が響き渡った。そして、海に魚雷が落とされる。静かな夜の中、まるでその化身のように魚雷は進んでいった。ただ、パーパルディアの艦隊を狙って。

 

ここは一方の大混乱中パーパルディア艦隊。バーンの指揮のおかげだろうか。燃えかけて沈みかかっているというのに、まだ持っているのは褒めるべきだな。

「おのれ蛮族ども!今度こそ反撃をしてくれるわ!」

そうさ。近づけば。近づけさえすれば。あんな砲の2、3門しかないような船などカップケーキを平らげるようにぺろりだろうに!

「全速力!マストを張れ!全力でっ!!」

マストが風を受けて、ぶわりと弓形に反る中、バーンは再び指示を出した。

「火災は止まったか!?」

「はい!なんとか!」

「よし!我が竜母パルキマイラは撤収する!指揮権はフィシャヌスに移行せよ!」

しかしその時。

「何かが接近しています!9時の方向ー!」

そして、その中でバーンが振り返るとそこには。いくつもの線を引く魚影が。

「な、何だこれは!?フカか!?」

「海魔だあああ!」

おのれ蛮族どもめ。ついには海魔爆弾まで手を出していたとは。まずい。このままじゃ、ほぼ航行不能のこいつじゃ避け切れるものかは。

「まずい!まずいいいいいいいいいい!退避いいいいいいいいい!」

 

バッコオオオオオン!!!メキメキ!!

 

魚雷が、舟底を削り取っていく。そしてそれは貫通してやがて他の獲物へと。そして、その魚雷が何隻も何隻も貫通して、混乱を作りまくった後。100ほどをぶっ飛ばした後に、ようやく落ち着いたのか爆発をきめるのだった。

「うわああああああ!!ミシェルがああああ!!」

「パルキマイラ、撃沈します!ひいいいいいいいい!」

「……おのれハンガリーめ!おのれええええええええ!」

こうして、竜母パルキマイラは撃沈した。古の超兵器の名を冠した兵器は、こうもあっけなく沈むのだった。バーンが最後に見たのは、夜の静けさに浮かぶ灯火たち。それだけだったという。

 

「よし、そろそろいいだろう。頃あいだ。機関全速前進!」

そうして、カイゼリン・エリザベートの機関が唸る。こいつは、改造をなされたからだろうか。石油と石炭、そして電池に電源をスイッチできるスグレモノ。

「主電源を電池にスイッチ!!主砲、副砲、全てに装填!弾種榴弾!」

そうして、ずんずんと進んでいく女帝。静かな海を、ただかき分けて。

 

「ひ、ひい!近づいてくるぞお!」

木片に捕まって、なんとか生き残っていた皇国兵たちはその御姿に背中を戦慄かせる。当然だよ。さっきまで戦っていたその張本人が、こっちに来ているのだから。だがしかし、それはすぐに覆されることになる。電光掲示板が、急に光を帯びたのだ。

「な、何かが表示されました!ト、ウ、コ、ウ、セ、ヨ、イ、ノ、チ、ハ、ト、ラ、ナイ、投降せよと迫っております!」

どうすればいいのだ。降伏すればそれは、皇国の威信にかかわる。だが、彼らに助けてもらうほかない。仲間たちも撤収してしまった。パルキマイラのメンツは皆、最も遠いところに位置していたせいか。みんな見捨てられてしまった。あとは、わずかに残った船たちがそれを見下ろしているばかり。もう、背に腹はかえられぬ。

「………わかった降伏する!」

「降伏するならば、白旗を振れとのことです!」

「よし、これを使おう!全員、降伏せよ!」

折れたマストの白い帆をちぎり取って振るバーン。それは、カイゼリン・エリザベートにも見えていたのだろうか。すぐにハシゴが下されて、ヘリもやってくる。ちなみにこれも改造によるもの。

「こちらはハンガリー軍です!降伏を確認しましたので、救助に参りました。」

「え?何もしないの?」

「?はい。何もしませんが?」

バーンはぞっとした。いや、助けてもらえるのはありがたいけど。そういうことじゃあない。この国、一体どんな考え方のもとで成り立ってるんだ。勝者として、当たり前に最低限あるはずの権利を、全て放棄している。この国は、もしや。バーンはそう思いながらハシゴを駆け上がるような勢いで登って行った。そこに待っていたのは、紅茶を片手にアップルパイを齧るリヒャルト。そしてそれは、こちらを振り返ると言った。

「ようこそ、カイゼリン・エリザベートへ。私が艦長のリヒャルト・マクス・フォン・ゲイゼルです。以後お見知り置きを。」

「ありがとうございますリヒャルト艦長。私は竜母艦隊司令のバーンと申します。この度は人道的な救助をしていただき感謝の極みです。」

「何、前の世界では普通でしたよ。食べますか?アップルパイ。」

やはり、このハンガリー。転移国家で間違いないのか?バーンはジトっとした視線をリヒャルトに向けた。ただ、冷たい風だけが夜に吹き荒れていた。

 

 

 

 

 

 

「ラッサン、さすがにこの時間座るってのはきついな。」

「ああ。マイラス。これは答えるぜ………」

そう言いながら、腰をさするラッサン。仕方がない。仕事といえど、体はやっぱり素直なんだから。そういえば、ハンガリーが何か余興をしてくれるそうだが何だろう。きっと、並走してくれるだろうけど、この飛行機にまず追いつけるものかは。ラッサンはため息をついた。これじゃあ、まるでベビーシッターだ。

「おい、ラッサン!みろよ!」

と、まるで子供のようにはしゃぎ回るマイラス。ラッサンは苦笑した。これじゃあ、さっきのベビーシッターという皮肉が言霊になってしまったようで。

「おいおい、一体何がそんなに凄いっていう………え?」

外を見ると、何かが一緒に飛んでいる。そこにあったのは、なんと我が国も実現してない単葉機。

「単葉機だと!?嘘だ!ここは文明圏外じゃ……」

やはりハンガリー、パーパルディアを相手どるだけあり、一癖も二癖もあるのか。ちなみにそこにあったのは、メッサーシュミット・ケットゥー。それだけで、ムーのマリンならぶっとばせるだろうに。そこにいたのは、少し年老いたパイロット。こちらに手を振ってくれたので、手を振替してやった。すると、まるで犬のように喜び、ご機嫌にエンジンをぐうんとならせて、曲芸飛行を見せてくれるという。

「この速度と旋回性能………!ハンガリーはすごい国かもしれねえ!」

するとそこに、びゅっと飛び掛かる影が。それは、今見ているメッサーシュミットの何倍も速い。その名前はサーブ39グリペン。ハンガリーで運用されている航空機。彼らからすればそれは未知のもの。そう、ジェット戦闘機という。

「は、速い………」

マイラスは、なんというか。もう絶句していた。さっきの生やさしい速さじゃない。言葉も出ないほどの、圧倒的な速さ。それだけが、目の前に現実として立ちはだかっていた。

 

 

 

「ようこそ、ハンガリーへ。」

そうして迎えられるのは、もう何回目だろう。いや、かつてはパーパルディアにこうして行ったっけ。まああのプライド故にトンチキをやらかす国は正直あまり好きではなかったが。

「ご機嫌ようございます。あなたは、レーチェル大臣ですか?」

「はい。いかにも私はキシュ・レーチェルにございます。マイラスさん、ラッサンさん、よろしくお願いします。」

レーチェルはそうして握手を交わした。相当に長いフライトに、せめてもの余興を添えられたら良かったが、どうだろう。

「ええ、とても良い余興でしたよ。退屈していた私たちと、私たちの腰によく効きました、」

ははは、と笑いがその場を包み込む。そして、すぐにその場所に第二のひでぶーがやってくるのだった。

「おっ。メッサーシュミット・ケットゥーが着陸しましたよ。」

「あの飛行機はメッサーシュミット・ケットゥーというのですね!!あの速さに旋回性能と来たら!」

「やはり分かりますか!!あれは美しい!!」

「ええ!もちろん!あれは、もしや輸入できたりは……」

「現状ではまだ言い切ることはできませんが、前向きに捉えてもらって構いません。」

よし、とガッツポーズをするマイラス。それだけでもはやハンガリーに来た意味は十分。このメッサーシュミット・ケットゥー。これがあればマリンより先のその一歩を踏み出せる。そう、単葉機という夢を。

「ところで、パイロットは誰ですか?あれだけ素晴らしい曲芸飛行ができるのです。きっと、よいパイロットなのでしょう。」

と、メッサーシュミット・ケットゥーから1人が降りてくる。その男は、手を振りながらこちらに迫ってきた。まるで、さっきのななりに。

「やあこんにちは。マイラスさん。ラッサンさん。私は、ハンガリー建設・運輸大臣兼メッサーシュミット小隊隊長、ヘッペシュ・フィルデナントです。以後お見知り置きを。」

思わず顔をしかめてしまうマイラスとラッサン。どういうことだろう。なぜ、建設・運輸省の大臣が、ここに座すのだろうか。目をまんまるにしてこちらを見るマイラスとラッサンに、種明かしをしてやることにした。

「ああ、実はあのメッサーシュミット・ケットゥーですが、いろいろあってまだ作られたばかりです。実はこれには元の形があります。それがメッサーシュミット。それを操縦できる唯一のパイロットが………」

そして、視線をヘッペシュに向ける。そこまで行って、ああ、と納得したように手をぽんと叩くラッサン。

「ヘッペシュ大臣だったというわけですね。」

「そういうことです。あ、ちなみにケットゥーとは、ハンガリー語で2を意味します。つまり、そういうことです。」

こくりと頷くマイラスとラッサン。そうして、すぐに空港内に入って行った。何故ならば、寒いから。

 

 

 

 

 

「こちらカイゼリン・エリザベート。捕虜と拿捕した船数隻をそちらにお願いしたい。」

そう電話するのは、リヒャルトでなくマールス。マールスはすぐに、レティニエに連絡をした。だってそうでなくば、この人数の捕虜受け入れの準備など出来ないだろうし。

「やあマールス外交官頑張ってるねえ。バーン司令とは仲良くなれたぜえ。」

「やっぱりあなたキャラ変わりましたよね。前半と比べて。」

やれやれと首を振るが、もう後の祭り。とりあえずこいつらを売って外貨を獲得するチャンスでもある。あの時のロウリア船でさえ実はまだまだ余っているから。さっさと売っぱらってスッキリしたいものだ。

「やれやれ、フェン王国に干渉している時間がありませんでしたから。」

「しょうがないっすよ。あ、個人的に売るのはやめてくださいよ!バーン司令はお友達ですから。」

こいつ本当に何者だよ。と思ったが考えても仕方ない。外では、海鳥がまた鳴き始めていた。いや、それだけじゃない。もう、朝じゃないか。朝日が、東から登ってきているじゃないか。

「おお、朝日だ。」

「あ、あなたはバーン司令。」

「おお、すっかりここの司令官に嵌められてもうたわ!いい意味でな!はっはっは!」

「やっぱそうだよ、捕虜には優しく接するのがいいのでね。」

マールスははっとした。パーパルディアも、ハンガリーも、アルタラスも。一皮剥けばただの人間じゃないか。同じなのに、ここまで仲良くなれるのに争わねばならぬとは。世の中は皮肉なものだな。

「私も酒盛りに混ぜてもらっても?」

「ああ。大歓迎ですとも。ねえバーン司令?」

そうして、酒盛りの仲間は1人増えた。散らかった艦長室の中に入ると、酒瓶がいくつか。こうして、1人1人の将兵をもてなしてるから凄いってものだ。

「お酒です。どうぞマールス外交官。」

酒を持たされるマールス。自分から言ったのに、ちょっと困惑してしまった。その勢いに。朝が来ると同時の時。リヒャルトは盃を上に掲げた。

「私たちの未来に、乾杯!」

「乾杯!」

もはや、マールスに迷いは要らなかったという。




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