最近は時間が全然ありません。どうしよう。
アルバイトのせいもあってか、時間も体力も少ないです。というわけで、しばらく更新速度は落ちます。すみません。
第三十二話 パーパルディア占領計画
みんなが、同じ空を見上げている。いつでも、どこでも。
「いくぞ!」
シェイバーは相棒のグリペンに乗り込んだ。金属の匂いが少しだけする。ゆっくりと、まるで労るように優しく。
そうしてヘルメットを被ると、誰もいないことを確認してからエンジン。いつもやっていることのはずなのに、どうしてだろう。こうも、緊張してしまうのは。
そうして飛び出すと、見渡す限りの青空が。いつものように、真っ青な。まるでそう。晴天が顔を見せたみたいな。風が強い。今日は一段と。
「俺たちの目的をもう一度確認する!!制空権を取ることだ!オペレーション・レザーフェイス成功に当たり、制空権は必須!何故だと思う?」
無線はしばらく何も喋らない。だって、みんな緊張しているから。新兵ばかりならなおのこと。
「えっと……なんだろう……」
「正解は橋頭堡を作るからだ!そのためのコロナ中隊!そのためのヘリボーンだ!もっと言えば、そのための俺たちってわけだあ!」
そういいつつ、操縦桿をぐっと倒して右に旋回。捉えた。ワイバーンの群れだ!
「3時の方向にワイバーン目視!攻撃に入るぜ!」
「な、なんだあの速度は!」
蛮族と聞いていたはずのハンガリーが。こんなとんでもない兵器をぶっ放してくるだなんて。そんなの思いもしないから。
「な、何かが飛んできます!」
「ひいいいいい!くるなアアアアアアアア!」
ミサイルを避けきれずに、粉微塵に溶けていく竜騎士たち。その様子を見ながら、シェイバーは言った。
「汚ねえ花火だ!」
そして、数十分後。もはや、ワイバーンの影はどこにもない。ただ、静寂だけがそこにあった。
「制空権確保!大丈夫だぜえ!」
バラバラと、プロペラの音がする。さっきからうるさかったワイバーンの羽音も、もはやどこにもない。
「………いよいよか。」
見えて来たフィルデアス大陸の影に戦慄くエル隊長。ぐっと、手に持った銃に力を込めた。
「よし!俺たちはオペレーション・レザーフェイスに当たり最も大事なことを任された!何だと思う!」
「はい!橋頭堡の確保です!」
「よろしい!だがそれは即ち魔道砲の雨に晒されてマスケットの餌食になれということ!逆に言えばそれでも勝算のある相手として選ばれた俺たちってわけだ!」
「間も無くポイントに入ります!」
「対空砲らしきものを発見ー!」
「何い!今すぐに機銃で対抗しろ!」
すると、ヘリコプターがぐわんと揺れて、その後すぐに殲滅の音がする。対空砲らしいもの、とはあれか。ちらりと横目に見て、エル隊長は思った。可愛らしい抵抗だ、と。
「これでもう障壁はありません!一応、大砲もぶっ飛ばしておきました!」
「よくやった、それじゃいくか………」
バキバキと首を鳴らすエル隊長。その目には、復讐だけが写っていたという。
「攻撃開始だああああ!」
頭の中でファンファーレを鳴らすと同時に、ヘリコプターをまるで飛び降りるような勢いで降りていくエル隊長。そして、その一行たち。まるで蜘蛛の子供のようにざあっと散って行った。散開する、というのが良いのだろうか。とにかく、そうして散って行ったという。
「うおおおお!撃てえええええ!」
「撃ち返せえ!」
パパパ、と音がする戦場。そこに降り立った兵士たちは、なんというか。緊張を通り越した何かが、支配しているようだった。
撃ちながら、ざかざかと進んでいくエルとその仲間たち。もはや、止められていないパーパルディアの防衛軍。
「くそおお!なぜあんなに当たるのだああ!」
いや、当たるだけじゃあない。この呪いみたいに恐ろしい連射。悪魔っていうのは、こういう奴らに使うべき言葉なんだ。そう、若き防衛軍隊長は思う。
「撃て撃て!怯むな!」
「ひいい!逃げろおお!」
「逃すか!」
「撃てええええ!」
そう言いながら、エルはまた銃を構える。まるで、覚悟の決まったスナイパーのように。そっと照準を合わせて、撃つ。単純作業のはずなのに、こうも疲れるのはどうしてだろうか。
そしてついに。雨のような弾丸に気押されてしまったからか。パーパルディア皇国軍は、もう殆ど残っていない。ただ、残っているのは悲しい銃声ばかり。
「降伏しろ!」
こうして、パーパルディア皇国防衛軍は瓦解した。何も、成し遂げることはできずに。
ここは、神聖ミリシアル帝国ポルトアークの酒場。ここでは、なんといえばいいか。とにかく活気に満ち溢れていた。酒場で笑い合う人々。はずむ肴話たち。その全てに似合う言葉は「平和」そのもの。ハンガリーとはまた対称的だった。
「………へえハンガリーか。また変な国が現れたものだなあ。」
盃を傾けながらそういう、初老の男。変に平たい言い方すればおっさん。彼は、政治経済の話をするのが大好き。そう、それも酒場で。
「聞いた話だと、ロウリアを1ヶ月もかからず伸してしまったそうだぜ。さらにパーパルディア相手に善戦中、いや、圧倒的に有利だとよ。」
「へえ。しかも聞いたところじゃ戦死者はいないそうじゃないか。あくまでパーパルディア戦に限った話だがな。」
からり、と氷が冷たく揺れる。そうして、男たちはもう一杯酒を頼んでからまた話を始めた。
「何でも、聞いたことあるかい?流星兵器を持つっていう話。」
「聞いたぜ!『流れ星の夜』だろう?ありゃあ悲しい事件だった……」
グラスの氷が軽くからりと揺れたあと、照明がきらりと輝く。まるで、太陽のように明るく。
「ああ。そうだ。それに、飛行機械を使うそうじゃないか。」
「飛行機械っていうと、科学文明か?どうして科学なんて研究するんだ。まるで後進国だろう。」
「でも現にパーパルディアをまろばかすほどの実力を持っているんだよなあ。」
「ほえ…よくわかんねえや。何だそのハンガリーって。」
「あとは民主主義とは聞いている。下手に俺たちと対立しねえと良いけどなあ。」
「飛行機械も何だか妙な形らしいぜ。あとは、ものすごく小さいのも作っているそうだ。」
「考えれば考えるほどわかんねえな。」
「これもうわかんねえな」
と、机に伏していく男たち。まるで、スライムのようにだらりとするそれは少し面白かったという。
「そっして、西の方にも変な国があるそうじゃないか。グラ・バルカス帝国だったか?何しろ戦艦一隻でレイフォルを滅ぼしたという。」
「列強最弱とはいえレイフォルを!?そりゃあまずいな。」
「ハンガリー含めて、世界のパワーバランスは確実に崩れるな………」
深刻そうな顔を見かねたのか。男はぱっと笑い、言った。
「まあ、ハンガリーやグラ・バルカスがどれだけ凄かろうが、我らがミリシアルは安泰だよ!魔帝が復活でもしねえ限りな!」
男たちは盃を交わした。未来への希望を願って。
ここは、レティニエの港。そして、すべての始まりの土地。
「上陸部隊、出航開始!」
合図と共に、海の水が白く切れていく。鴎が、きゃあきゃあうるさくなく中で、それに混じってエンジンの音。どうしてだろう。まだ、行きたくはないはずなのに。自転車部隊の隊長はそう心の中で思う。だって、そうじゃないか。誰も戦争なんてしたくない。俺だって、きっとこれがなくば競輪選手だったのに。ぐっと、銃に込める力が大きくなっていく。風が、彼の横を通り過ぎて行った。
「おい、いくぞ!」
小さな船に乗り込む彼。その目には、その夢以上にパーパルディアへの復讐が写っていた。真っ黒な目。そしてその手に携えられたのは、母親のものと見える遺影。もう一度風が、そこを通り過ぎていく。銃を握る手汗は増えて行った。どうやら、風は僕らの敵らしい。
「行こう、パーパルディアへ!」
「おお、そうか!成功したんだ!よかったぜ!」
また、ワインを並々に注ぐヴィクトル。外の光は、ステンドグラスを通してこの部屋を照らしてくれていた。とても、ものすごく明るく。まるでこれを祝福するみたいに。
「やったよお!パーパルディアに勝てるぞお!列強国に!な!よかっただろう喧嘩を売って!」
「国内のダメージはむしろ広がるどころか癒えている……ロウリアのビジネスで、か。しかも制海権を失ったパーパルディアはそれに口出しできない、と。」
ふっと息をつき、手を組むヤーノシュ。薪の燃える匂いが、すっと鼻を通り過ぎて行った。実際その通りで、パーパルディアを倒したことによってより経済が良くなっていることは言うまでもなくて。そして何よりこれからまた莫大な資金が入ってくるのだから素晴らしい。これじゃ、戦争やめられないよ。とヴィクトルは思ってしまうのだった。
「そう言えば、神聖ミリシアル帝国なる国から連絡があった。今度は記者じゃねえ。使者だ。」
ワインをぶっと吹き出すヴィクトル。やがて咳き込みながらも、なんとか向き直って言った。
「え!この世界のアメリカみたいな国から!?そりゃあ二つ返事でいいだろ!」
「ああ。私もそのつもりだ。」
「うっひょお〜!パーパルディアさまさまだねええ!」
列強国を打ち倒し、アメリカ的存在から認知。しかも聞くところ、このミリシアルというアメリカみたいなやつ、どうやらそうアグレッシブには動いてない模様。つまり、国交を結んでない国もいるってこと。とにかく、そう言うわけでパーパルディアが黙認されていたわけか。なるほどなるほど。まあ、この世界の弱肉強食もあるだろうけど。ヴィクトルはぱっと顔を明るくしながら、またワインを飲み直した。外の雪は、もう溶けて来ている。1番嫌なのって、実はこの溶け掛けの雪なんだけどなあ。
「さあて、どうして脅かしてやろうかなあ。」
「まずグリペンとミグは送ろうと思う。奴らびっくらこくぜえ。あれかにもあらずと言った顔が見てみたいね。また、あの時みたいな。」
「いいね。記者たちよろしく戦車を見せるのもいいと思う。」
ばきばきと首を鳴らすヤーノシュ。その様子からするに、どうやら相当疲れてた模様。だがそれでも止まらない。それがヤーノシュという男。
「ふはは、夢が広がるなあ。」
「なんかこういう話昔もした気がするな。」
ステンドグラスの外を見据えるヴィクトル。外では、まだ風とドナウの流氷が。暖炉に感謝せねば。転移から半年くらい。この世界の覇権を手に入れるのももしや?
「………いや、やめとこう。今はそんなのいい。」
すると、にやりと笑って見せるヤーノシュ。本当、この二十面相には驚かされるよ。
「おや、何か考えてたろう?」
「いや?別に?」
「ほんとかなあ。」
「やめろゴロリ。」
「誰がゴロリじゃ!」
こうして、ふざけてるうちにも、戦況はどんどん有利になっていくなんて。考えただけでゾワゾワするよ。ああ、本当堪らないや。
「それと、ロウリアの企業、かなり収益を出しているそうだぜ。」
「そりゃそうだ。あの数の船で運べねえものなんてないもんな。」
「それと、ロウリア、クワトイネ、クイラだが………パーパルディアに宣戦布告するそうだ。」
ぶっとワインをまた吹き出すヴィクトル。それはあれか。いわゆる。
「漁夫の利ってやつかよ………もう………」
「げんなりするなって。味方が増えるんだよ。」
「ああ。それは強い。確かにそれは強い。それは……」
「大丈夫か?なんか変なことあるかい?」
「あるよお、配分が減るじゃん。」
「いいじゃあないか。別に。賠償金の母数をもっと上乗せすればいいんだよ俺たちの取り分が減らないくらいな。」
「お前悪魔だな。」
ヴィクトルは肩を窄めてまたステンドグラスの外を見る。気づけば、もう夜。こんなすぐに昼夜って変わるものなんだな。と、ヴィクトルは思った。そこで、ヴィクトルは一つ違和感に気づく。とても、大きな違和感に。
「このままいけばハンガリー、世界列強入りしちゃうわけ!?」
「なんだよ嬉しいことじゃん。」
「嬉しいけどさあ!ちょっと不味くないかいそれは!パーパルディアと同じ轍を踏む気がしてならないよそのルート!」
「大丈夫だ軍拡計画は出来てる。」
「そういう問題じゃないよ………さすが悪魔だ。」
「ああん?やろうってのか?」
「嘘、嘘、ごめんってもうジョークが通じないなあ…」
とりあえずヴィクトルの言いたいことは、軍拡し過ぎるときっと後々面倒になると言うこと。パーパルディアみたいに、資金稼ぎの戦争に出ていかなくちゃいけないかもしれない。それはちょっとまずいな。と、ヤーノシュも思うのだった。
「なるほど一理ある。ただし、これから列強になるやもしれないのだ。それならそれなりの他所行きを着たくもなるだろう。トゥンデールの量産くらいはさせて欲しいものだ。」
「それは別に構わない。ただ、やり過ぎるな。そう言えば、レーチェルはどうした。」
「それが……最近姿を見ない。どうやら世界を回って外交をしているようだ。フェン王国ともじきに連絡が取れる。」
「そうか……そりゃあよかったよ……」
ほっとため息をつくヴィクトル。どうして気がかりだったのかは、結局分からず仕舞いだが。
「それで、兵器の量産計画に戻る。今考えているのはXNI トゥンデールの量産。哨戒艇、フリゲートの生産。そして、陸軍一個師団の増産だ。」
本日3度目にワインを吹き出す。一個師団……一個師団だって!?!?
「ごほっごほっ………ちょっと聞こえなかったからもう一回言ってくれ国防大臣どの………」
「ああ。陸軍一個師団の増産だ。おめえ何回ワイン吹きこぼすんだよ。」
こぼしたワインを、雑巾で拭いてくれるヤーノシュ。いや、その人柄はいいんだけど。いきなり爆弾をぶっこむのはやめていただきたい。
「そんなのダメよ!人的資源が足りないわ!」
「なぜ女口調に?まあそれはいい。とにかく、人的資源は今が旬だぜ?」
「芋掘りじゃねえんだよ。……と思ったが意外とそうかも?」
だって、パーパルディアへの憎悪のせいか。志願者数が鰻登りなんだよ。おかげで徴兵事務所は大混乱だ。
「それじゃ、今のうちにやっちまうか。それでよろし。」
「なんでちょっと古い喋り方してるんだよ。まあいいが。」
2人はステンドグラスの外を見つめた。ドナウの流氷が、とても綺麗な夜のことだった。
いかがでしたか?
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それではみなさん、また会いましょう。
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