ここより遥かな欧州、ハンガリーという国が転移によって
理 不 尽 に も 島 国 と な っ た
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元ネタわかった人は感想で教えてください。スマホは横向きにするといいよ。
自由って楽しい。本当に。縛られないって楽しい。本当の話。
「大臣、もう出発ですよ。」
「分かってるって。」
「既に大統領も国防長官も乗っています。」
「大丈夫だって」
飛行場を使っていいか聞いたら向こうはそれはもう大層驚いたらしい。どうしてだろう。普通に使うだろ飛行場くらい。
「こちらの常識が通用しない世界だ。そういうこともあろう。」
まあ、それもそうか。と、レーチェルは顎をさすった。よく考えればワイバーンとかいうドラゴンに乗れるのはせいぜい2人が限界だろう。それなら、もしや私がワイバーンか何かに乗ってくると思っているのだろうか。まだ真っ暗の空を眺めながらレーチェルはまた物思いに耽る。どうすれば、この世界を生き残れるだろうか。
「あ、というかコンクリートの滑走路じゃ無いけど大丈夫なの?」
「だから回転翼機で行くんだよアホンダラ。」
国防長官も少しイライラしていたのだろう。顔が真っ赤で、眉が八の字によっているじゃないか。さすがレーチェル。国防長官の冷静さを無くすのは相当のやり手だ。もちろん、転移なんていう馬鹿らしいもののせいだろうが。おおかたは。
「まあ、とにかく行ってみよう。じゃなきゃ分からないさ。」
「そういえばソンバトヘイ君は?」
「お留守番だよ。誰が内政をやるんだ。」
あのソンバトヘイの泣き面がまざまざと連想される。きっと、ステンドグラスの前書類たちと睨めっこだろうな。そこにちょっと哀れに思う心と、少し傑作だなと思って笑ってしまう2人のレーチェルがいた。どうしてだろう。やっぱりちょっと笑える。
「おいそこ何笑ってんじゃ」
「げっソンバトヘイ貴様見ていたか」
テレビの向こうにソンバトヘイ。その、恨めしい顔ときたらまるで怨霊のようで。
「俺も行きたかったよ。全く。まあでもこれが異世界での初めての外交だ。頑張ってこいよ。」
「ありがとうねえソンバトヘイ」
そうして、黒いコーヒーを一口飲むレーチェル。思えば、ここには国際法も何も無いじゃないか。目の前には、脆弱な鎧と時速200キロの蜥蜴を捧信している国家群。この後は、私だけロウリアへ向かう予定だが、野心が私をにやりとさせてしまうのだ。
もしかしたら、ハンガリーが覇権を握ることも不可能じゃ無いのではないか、と。
「レーチェル。変なことは考えるんじゃないよ。」
「分かってます大統領。分かってますよ。」
停泊する古い防護巡洋艦の上を通過して、ヘリコプターを進める。いや、まだだな。早計だったな。だがその諸問題全てが解決するならば。空では、ようやく夜が明けようとしていた。暗い空に、少しだけオレンジの灯りが見え始めて居た。
一方クワトイネでは竜騎士3騎が護衛へと向かっていた。どうやら異国「ハンガリー」は、空から来るらしい。普通、船ではないか。
「隊長。」
「わかっているさ。言いたいことは。でも空からって言ってたんだ」
一体何だというのだ。文明圏外の蛮族は火喰い鳥で外交官を送るのが流儀なんだな。という皮肉をいうものまである。そのとき。
「お、おい、あれは…」
「…なんだあれは!」
そこに居たのは回転翼機。その異様な様は、彼らにとって言う「火喰い鳥」とも蚊や虻とも似て似つかない。無論、我々はそれをヘリコプターと呼ぶので、何も珍しいものではないが。とにかくその様子は、言ってしまえば「鉄竜」が飛んでいる状況。
「あ、あれがハンガリーのワイバーンか?」
「ああ。あの、赤城緑のは間違いなくハンガリーのそれだ。」
「速度こそ、頑張ればワイバーンより速そうですが、機動性や小回りは高くなさそうです。」
「馬鹿野郎。あれはそう言うんじゃない。」
息を呑んでいる隊長と、それが腑に落ちない周囲。その、胸のうちを読んだのか分からないが、隊長が続けた。隊長は、魔法に加えこっちで言う航空力学や気象学に近いものを少し齧っていたのだ。
「いいか?あれはあの大きな翼で無理やり風を作り出す魔道で飛んでいる。即ち、あのエネルギーを単に推進することだけに使えば、余裕でワイバーンよりも高速が出るはずだ。」
少なくともその技術はあり、敵に回すべきでは無い。隊長はそう結論づける。それを聞いた竜騎士は伝播するように戦慄いた。その突出した技術がある以上、自分たち航空戦力は無力かもしれないと言うことに。しかし、この国残念ながらそんな馬鹿らしいほどの戦力はないので、ワイバーンが数百あれば実は防衛に限定すれば脅威じゃなかったりする。
そうして、不思議で幻想的な「竜」はクワトイネへと遂に降り立った。妙に長い時間だった。
「大臣、どうしましょうか。」
「どうしようもクソもねえよ。まずは石炭への一時的な転換と、燃料と食料の配給制シフトだ。」
ソンバトヘイは書類と睨み合いながら処理を進めていく。石油を輸入するにしたって、結局港が無ければ詰みだ。この間簡易的な港が「カイゼリン・エリザベート」とともに完成したので、どうにかして輸送船でも作りたい。
「だが設計図は無いんだよ。どこでもいい。国中から関係の書物をかき集めろ!」
彼は舌打ちすると、煙草をポケットから取り出す。
「くそっレーチェルとヴィクトルのやつまさかロウリアに喧嘩売る気じゃ無いだろうな」
「いや、やりかねないですけども。此処は蛮族しかいないと思われている領域ですのでそもそも門前払いもあり得ます。」
「面倒臭え……どうするんだよケチケメートから届くっけ?」
「ギリギリ。」
「ならいい…いや良くない。」
そもそも石油もなくばガスも無いんだ。こんな所でグリペンをバカスカ飛ばせばどうなるかんて明白だ。民間のガソリンは今でも高騰を続けている。どうしたものか。
「しかし、この世界も悪くはない。悪く無いんだけど……」
全ての貿易相手を失ったが、それは言うなれば過去の軋轢も力関係も全部パーだ。これでうざったいかつての小協商とも、厄介なフランスとも、ハンガリーにとってブギー的な親玉であるロシアともNATOともおさらばさ。しかも、他の国家は軒並み格下ときた。まあ、その代償が重すぎるのだが。
「ちきしょう、何やるにしても八方塞がりだあ…」
ソンバトヘイは頭を抱えるのだった。
寒い初冬の日、私たちは世界で初めて異世界の土を踏んだ。
「ひゅう〜、北風が寒いね。」
「まだまだ秋だぜ。」
11月1日死者の日。ようやっとこの混乱から、我々の脳は抜け出せつつあった。そして、現実を受け止めつつクワトイネの奥地へと足を運ぶ。
「お待ちしておりました。ハンガリーの皆様。」
迎え入れたのはカナタ首相。クワ・トイネ公国の首相である。この男は丁寧な対応とそこはかとない優しげな雰囲気を併せ持っていた。さながら、「クワ・トイネ」という優しい雰囲気にマッチする首相だと、ヴィクトルは思う。
「ハンガリー大統領、キラーイ・ヴィクトル閣下御一行の御成。」
剣を持った豪奢な兵士が、煌びやかなカーペットへ左右対象に配置されている。耳が長く髪が薄い金髪や白。これが、よく見るエルフというやつか。
「ははは、素晴らしい。こんなに活気付いたお城なんて初めてだよ。ソンバトヘイが悔やまれるよ。」
「おい口を慎め外交の場だぞ。」
国防長官がまともで良かった。が、むこうは特に気にしていないようである。
とりあえず、午餐会という体で彼らの料理を振る舞われ、腹が膨れてからの会談。因みに飯はうまい。レーチェルはそこが1番ご機嫌な部分のようである。
「申し遅れました。改めまして、私はハンガリー首相のキラーイ・ヴィクトルと申します。」
パチパチと驟雨のように浴びせかける拍手。ヴィクトルはそれに、少し忸怩たる思いをした。
「私は国防長官のホルバーチ・ヤーノシュです。以後お見知り置きを。」
ヤーノシュは相変わらず冷静な様子だったが、それでも彼らは嫌な顔をしない。唯一不安なのは、奥に鎮座する外務卿。顔をむすっとさせて、どこかあかない様子だ。
「私はハンガリー外務大臣キシュ・レーチェルです。申し訳ない、余りにもこの国の料理が美味いもので。」
その場にどっと笑いが起きた。例の外務卿もふっと笑いを漏らす。アイスブレイクは成功しただろうか?とりあえず、これで一旦ターンを向こうに返そう。
「ありがとうございます。私はクワ・トイネ公国首相、カナタです。今日は遥々クワトイネまでお越し頂き、ありがとうございます。」
「私は外務卿のリンスイだ。よろしく頼む。」
高圧的態度。やはりたんこぶはこのリンスイとかいう外務卿で間違いないだろう。レーチェルは心の中で覗き見て、すでにロックオンをしていた。
「して、今日は何の用かな?」
リンスイが口を開く。ここはテンプレートなので、ヴィクトルが担当する予定だ。
「はい。まず単刀直入に申し上げますと、哨戒の中途、貴国の領空を侵犯してしまいましたことを謝罪しに参りました。どうか、謝罪を受け止めて、国交の樹立をして頂きたいと考えている次第です。」
するとリンスイはいきり立って言った。
「あれだけ白昼堂々と領空侵犯をしておいて謝罪だと!?文明圏外の蛮族が!」
「落ち着いてください外務卿。彼らは謝罪しに来ていて、我々と戦うつもりも争う気もないのです。何より、礼節をわきまえております。此処は一つ、まず聞いて見るのが良いでしょう。」
「そ、そうだな。それもそうだ。失礼取り乱した。現在我が国は危険な状況下にあり、空気がピリついているのだ。私も頭を悩まされている。申し訳ない。」
「お気になさらず。」
リンスイがこほんと咳払いをして、今度はカナタが付け加えるように話し始めた。
「失礼ながら、我々はハンガリーの事を殆ど知りません。リンスイ外務卿も、未知への警戒をして居られるのです。どうかお許しを。」
「いえ。説明を怠ったこちらの落ち度です。それでは、まずは我が国の資料をご覧ください、」
しかし、それを見るなり訝しげな顔をする一行。レーチェルが思わず問うてしまった。
「あの、何か?」
「失礼、この文字は読めません。言葉が通じるので、文字も読めると思ったのですが…」
「ええ!?我々からはハンガリー語を話しているように聞こえますよ!?」
柄にもなくヤーノシュが大声を出す。リンスイはため息をついた。如何にすべきか。
「そ、それでは口頭でのご説明を行います。まず我が国の政治体制は共和制です。国土面積は93039㎢。956万人の国民を抱えております。産業はワイン、パプリカの農業、養蜂、機械工業など多岐に渡ります。」
少し居竦まる様子のヴィクトル。だが、相手は歯牙にも掛けないで続けるのだ。その辺り、本当に余裕が無さそうだなと思うヴィクトルだった。
「ありがとうございます。不躾ですが我々は、貴国の武器と機械について、特に興味を惹かれております。」
やはりそう来たか、という顔をする国防長官ヤーノシュ。彼にとってそれは最も恐れていたものだ。無論、我々の力を見誤ってくれればこのまま大人しく異世界スローライフを送れると、呑気な思考を巡らせてもいた。だがしかし、そこまでこの紳士たちは甘くなかったようで。この道数十年の自分の腕を見せる時が来た。レーチェルとヴィクトルは、これをアテにして俺を連れてきたと言っても過言ではないのである。
「申し訳ございませんが、武器に関しては国家機密となりますので、重厚な審議のもと後日返答を送りたいと考えております。しかし、機械やインフラについては、即刻のご準備ができる面もあるでしょう。しかし最大の難点があるのです。」
「難点?」
いいぞ、いい調子だ。とらえたい獲物を順調に罠へ誘導できている。このまま行ければ、幾分マシな方向へ転倒することもできる。行けるぞ俺。頑張れ俺。この秘密(?)を見せるのは極めて危険といえばそうだが、諸共死ぬより遥かにましだ。
「ハンガリーの、兵器や機械類はすべて『石油』という動力源で動いております。具体的に言うと、黒くて飲めず、生物も住めない燃える水です。」
レーチェルが思わずこちらに獄卒のような顔を向けた。そちらに向かって静かに人差し指を鼻に押し当てる。彼はそれを、考えのある行動と解釈してくれたようだ。
「燃える黒い水……まさか!」
「心当たりがありますか!?」
「ええ。此処から南に存在する、我が同盟国クイラにそのような物が。」
「詳しくは現地に行かねばわかりませんがな、我々も手をつけたことがない。」
「ヴィクトル。」
「ああ。」
彼は即座に手帳にクイラ行きの便を追加した。これで諸問題が解決する。下手すればガスも出るやもしれない。
「それで、貴国ではどのようなものを?」
硬直していた我々に変わりレーチェルが話し出す。
「我が国は農業大国です。変な話ですが、奴隷と家畜も良い飯が食えるとまで言われているのですよ。」
その生産力は脅威だとレーチェルは痛感した。しかし、ハンガリーは元来より食料自給率100%を超過している。海沿いになったことで、農耕に向かなくなった土地もあるにはあるが、それでも食料面での苦労はまるで無いのだ。強いて言えば、転移のことを聞いた国民が金や食料を書いに殺到する事件もあったが、特に多発や被害を受けた事例はない。ハンガリー人はどこまでもとことん適当で楽観主義者なのだ(筆者の主観)。
「うーむ、しかし、貴国の技術はすごいですなあ。味は落ちるが小麦を自動で脱穀したり、害虫を寄せ付けない薬。明るく昼のように照らす電気。捻るだけで水が出てくる蛇口というもの。プロパンガスという一瞬で火を付ける魔道。」
プロパンガス?そうだそれがあるじゃないか。リンスイの言葉にヒントを見出したぞ。
「失礼。今度貴国に科学調査を行なっても?」
「ええ?構いませんが」
レーチェルはにやりと笑った。買ったぜソンバトヘイ。これからはロシア産のガスなんざ、頼まれても使ってやるもんか。
夜。夕暮れの中国交を無事に樹立し、ハンガリーもクイラへの食糧輸出を行うことを誓うからその旨を伝えてほしいとクワトイネに頼んだ。あとは帰るだけではない。もう一仕事嬉しい仕事が増えたのだ。
「そういえばレーチェル。あの質問何の意味があるんだ?」
ヴィクトルからは予想通りの説明が飛んできた。もちろん答えはある。
「あんだけ肥沃なのは正直おかしい。だから、もしかしたら途轍もなく質のいい堆積盆地なんじゃねえの?って思った。ほら、だってちょうどオーハンの船を攻撃したロウリアや石油国家クイラとは山を隔てているじゃないか。そして堆積盆地には多くの場合あれが眠ってるんだよ。」
何も合点がいかないヴィクトルの代わりにヤーノシュが答える。
「天然ガスだな。テキサス州なんかは昔から農業が盛んだし、今でもガス田と共存している。まあ、今がどうかは分からんが。」
彼は異世界の空を見上げた。月が二つも出ている。この世界ではこれが普通らしい。前の普通は、すでに甘えにすぎないのだと痛感させられたヴィクトルだった。
「とにかく、そうすればクワトイネから輸入できる。そうすればクイラの石油と合わせて燃料問題、晴れて1日解決だ!」
思えば、ありえないほど早い対処だった。こんな2日でどうしてここまで来れてしまったのだろう。この2日間は、人生で最も長い2日間であった。
「いいや、まだ終わらねえぜ。これから、人生最も長い日は、3日目に突入するんだ。」
こうして満点の星空のもと、カイゼリン・エリザベートへと向かうヴィクトルとヤーノシュ。此処からは、頼りになる仲間と別れなくてはいけない。
「しっかりやれよレーチェル。」
「大丈夫大丈夫。」
そうして、晴れ渡った満点の夜空を歩いていった。妙に綺麗な星空であった。
沢山の閲覧ありがとうございます。
次回から、あの国との接触です。そろそろ、戦争が始まるぜ。
主はもう限界なので寝る。
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