デブレツェンです。毎日投稿なんて夢のまた夢っすね。2日に一回が限界。
と言う訳で、ロデニウス沖大海戦です。受験の2日前に僕は一体何をやってるんだ。
「うそだ…どうして…」
シャークンの脳裏には、数分前までこの「敗北」という文字は浮かぶはずもなかった。
蛮族の、しかもたった4隻に負けるなんて-
そして、旗艦の周りには燃え盛る木片があった。本来その一つ一つに名前のついた船だったはずなのに。今は見る影もなく、深い海へと沈んでいくのだ。
11月7日、すっかりと危険な海域と化したロデニウス沖を渡ろうとする無謀者がいくつか。その中にはキシュ・レーチェルの姿もあった。
「うっひょお〜、イタリアに行ったきりだねえ〜こんな綺麗な海は」
ここにはハンガリー軍に所属するヘリコプターが編隊を組んで飛んでいた。内訳は攻撃ヘリコプターMi –24P2機と輸送用ヘリコプターであるユーロコプターEC725カラカルが4機。
そこのお前!制空権もないのに、ヘリコプターを飛ばすなんて、自殺行為だと思っているだろう?しかし、軍部は完全にワイバーンを舐め切っているのだ。ソースとしては、ファーストコンタクトの時点で、ユーロコプターにクワトイネのワイバーンが追いつけて居なかったことがあげられる。
そういうわけだからこの海をどうどう飛んでも何も文句は言われないのである。あのワイバーンに見つかっても、迎撃するか逃げればいい。そんな呑気な思考回路だが、それでも今のところ避けられているのだった。
流石に向こうのワイバーンも一気に首都まで制圧する数と練度はないようで、クワトイネには難なく着陸する。
「カナタ首相ー!ご無事でしたか!」
「私を勝手に殺さないでください。とにかく、安全にこれて良かった……」
ゾロゾロと降り始める兵士に目配せするカナタ。どうやらその迷彩柄というにが見慣れないらしい。
「この柄、遠くから見つかり難いんですよ。」
だがそう言ってもしっくり来ないカナタにレーチェルは話を変えることを決意した。
「とりあえず、今回は連れて来れるだけ連れてきました。58人です。」
そして、その中隊が並び敬礼をし出す。名を、ハンガリー特殊作戦部隊通称「コロナ中隊」と言った。コロナってあれじゃないぜ。ウイルスでも太陽のやつでもねえ。王冠だよ、クラウンだよ。
「58人、ですか?失礼ながら、ロウリアの総戦力は…」
「存じ上げております。空輸で運べる限界までを積んできました。」
「なるほど?」
腑に落ちない様子のカナタ。しかし、現代の兵器を知らなければ無理もない。
「司令官、如何なさいます。」
一応言っておくとこのコロナ中隊の指揮権はこのレーチェルにこそある。この部隊の隊長、エルはそのため、レーチェルに釘を刺した。
「分かってますねレーチェル大臣。余計なことはしませんよね。」
「大丈夫だよ、戦力の消耗も内乱も望まねえさ。」
そして、カナタに向き合うと爆弾のような威力の発言をする。
「さあ、ギムを取り返しに行こうぜ。」
その場にいたすべての人がズザーっとギャグ漫画のようにずっこける。エル隊長だけが呆れた顔をしていた。58人がずっこけるのは中々に面白い絵面だな。
「あなた分かってます!?我々、攻撃ヘリがいるとは言え地上戦力は58人ですよ!?」
だがレーチェルは引かない。どころか訂正を加えた。
「いいや、60人だね。」
1人はレーチェルとして、もう1人は何者だ。どこにいると言うんだ。その心を読んだように、レーチェルはある一定の方向を見た。それを見たすべての人があんぐり口を開けたと言う。
「え?レーチェル大臣?なんで私を見るんですか?」
ニヤニヤしながらレーチェルが云う。これが、「破滅の序曲」を止めうる切り札に他ならない。
「さあ、一緒に行きましょうねカナタ首相♡」
「なんでえええええええええええ!」
首相と、エル隊長の叫び声が空に木霊する。とてもとても涼しい、風の吹く日のこと。ハンガリー軍とカナタ首相は直々に、ギムを取り返しに行くのだった。
カナタは思わなかった。この機械龍がよもやこれほど速いとは。
「見えてきました!あれがギムです!この竜はとても速いのですねええ!」
「ヘリコプターですよ!いい加減覚えてくださああい!」
ダウンウォッシュの音に掻きせされるために彼らは大声で会話をするのが日常だ。カナタは、家宝の剣と盾、そして防弾チョッキとヘルメットを身につける。準備は着々としてくれているようだ。半ば信じられない様子だが。
カラカルのうち一機は物資をこれでもかと積んで縛り付けている。また、もし逃げ遅れたのがいる場合でも対応できるように一機がほぼ空で待機して居た。故にそこそこ積載の余裕があったし、元々カナタを連れて行く気ではあったのでもちろん逆算済みである。
「おおー燃えてるなあひでえや。」
「あ、あのーそろそろ閉めてください…というか本当にやるんですか?」
「やりますよ。あとこれドアガンっていってこのヘリコプターの仕様みたいな物なんで。警戒しないとワイバーンを。」
「ひい〜……高い……よくそこに乗れますね……」
こっちを見てくるカナタが、何を言ってるかも知らず銃手が右手を上げて親指をたてる。
「ああ!来ましたよワイバーン!我々を落とすつもりです!」
しかし、後ろについて追撃が来るか、というその時。
「………あれ?」
「大丈夫ですよ。奴らが馬鹿真面目にチェースした所でこいつには追いつけません。」
そうしてなんとか追撃を免れるが、今度は目の前にワイバーン。これでは挟み撃ちだ。
「エル隊長どうしましょう」
「何、パイロットに任せろ。」
パイロットはそのままぶつかる勢いでスピードを上げた。狩りをする竜騎士の群れが、前後からどんどん迫るが、パイロットは意にも介さない。
「ぶ、ぶつかりますよレーチェル大臣にエル隊長!」
「大丈夫だって。」
わざわざパイロットが振り返って、こちらに顔を向けにっこり笑って見せた。カナタはそれに少しだけ安心感を感じる。とうとう射程圏内。両側のワイバーンが火炎弾を口に溜めたその時。
「さあ、いくぞ!シートベルトご着用の上、何かに掴まってくださあい。」
「えっ何が」
卒爾機首が下へと向いた。ぐわりと負荷がかかって、頭が一瞬ノイズアウトする。
「だらっしゃあああああああ!FOOOOOOOOOOOOOOO!」
「うわああああああ墜落するううううううう!」
「ヘリコプターでこんな芸当できるわけねええだろおおおおおおお!」
そうワイバーンの下を潜り抜けるように急降下をしたのだ。こうして、サッカーのハットトリックよろしく切り抜ける。
「え嘘だろ嘘だろ!」
ロウリアの竜騎士たちは火炎弾を溜めていると目の前の敵がいきなり下に消えていったように見えて居た。そして目の前にいたのは。
追跡中追いつけないことに躍起になって、速度を最大まで上げて居た味方の味方ワイバーンだった。
「やったぜ。汚え花火だ!」
こうして或いは衝突し、或いはフレンドリーファイアを喰らって落ちていったワイバーンを眺める。どうやらレーチェルはそれをこう評価したようだ。まさか。こんな、脳筋な方法で解決するなんて。
「……本当に、やったんですか?」
「あたぼうよ。俺の操縦技術を舐めるんじゃねえよ首相。」
パイロットがまた笑顔を向けてウインクを添える。これならば行けるかもしれない。性能や技術以前、彼らには型破りながら状況を打破する力がある。もしかしたら、こうして楽しく過ごせているのも、きっとそういう所から来ているんだろう。
「あの。」
笑い喜ぶ彼らにカナタは声をかけた。剣を、かちゃりと構えて。
「私も、仲間に入れて貰えませんか?」
徐に言ったカナタに対する答えはひとつ。
「勿論だ!」
空には、プロペラの音がずっと響き渡って居た。
「暇ですね。」
航行を続けるハンガリー艦隊は、すでにクワトイネと合流すべく動いている。だが、悩みがいくつか。
暇。あれからしばらくピリピリしてたけど、終わると本当に暇。どうしようかまたトランプでもしようか。
「艦長、どうですトランプ」
「いいやダメだまた感想で怒られてしまうっ!」
「またメタい発言を……」
「お黙り戦時にトランプしてる方が変なのよ!」
「前まで楽しんでたくせに。」
水兵が見張る中、アンドルは掃海艇ティサを進め続ける。左には大きな防護巡洋艦が居る。
「それにしてもいまだに信じられない。本当に、オーストリア・ハンガリー帝国の船なんだな。」
と言うことは、彼らはやっぱり過去から来たのか。どうしてだろう。不思議にはあまり思わない。
「まあ、でも気楽に行こうぜ。」
「おバカ。気楽すぎるんだよ。」
するといきなり無線から声が聞こえた。
「お前ら五月蝿えぞこっちに丸聞こえだ。」
「えっいつの間に無線ONに」
「聞こえてるぜドナウでも」
水兵たちは全員で顔を見合わせた。そうして大笑いする。
「おいコラ何笑ってんじゃ。」
「ははは、いいじゃないか。まあでも不安だから気を保ちたいのは分かる。それじゃあ、一杯やるか。」
「おう!」
そうして皆んなでウイスキーを持つ。
「俺たちの勝利に、乾杯!」
「乾杯!!」
そしてウイスキーを飲み干すとアンドルは口元を袖で拭いた。
「あーあ、はしたないぜ。」
「軍隊にお淑やかさがあったら、それはそれで気持ち悪いだろう。」
水兵は肩を窄める。暇になったのか、高いところに登って遠くを見通すのも出てきた。するとそれが大声を出す。
「おい!見えたぞ!クワトイネ艦隊だ!」
しばらく経てば徐々に木造船の艦隊が見えてくる。こうしてクワトイネとの逢瀬を果たすことに成功したのだ。
「リヒャルト司令。」
「ああ。分かっている。」
そうしてその中に間を縫うように生えている港の桟橋へと向かった。ここは、ロデニウス沖。これから、戦いが始まる広い広い霊障の地だった。
軍船ピーマの艦長であるミドリはついにそのハンガリーとの会談を果たす。
「ミドリ様ですね。よろしくお願いします。私はハンガリー海軍のリヒャルトと申します。以後お見知り置きを。」
リヒャルトが手を突き出すと、彼は黙って手を取り握手を交わした。
「あの、失礼ながらお聞きしますがロウリア海軍の規模はご存じですか?」
「ええ。存じ上げております。」
その回答に驚いたのかミドリは驚愕しそのまままろびそうになる。しかし、その衝撃を何とか飲み込んで反問した。
「えっと……ロウリアは4400隻、貴国の船はたったの4隻ですよ?」
「ああ、申し訳ございません。我々は転移国家でして。かつて内陸国だったもので。」
とは言え、この変わった弩弓を乗せた小さい3隻(掃海艇)を除けば、立派な船だった。これだけ大きな船を運用できるのだから恐ろしい。
「そろそろ出航でしょう。私はあそこに船を停泊させておりますが、どうしましょう?」
「ああ、勿論すぐ出港するよ。」
こいつは状況を理解しているのか。そんな顔をしながらミドリはそそくさ去っていった。交代するようにそこにやってきたのはパンカーレという男。このクワトイネ第二艦隊の提督である。
「君が確か、ハンガリーの提督かね?ようこそ。クワトイネに。こんな形になったことは心底残念だが。」
そうしてパンカーレがもう一度船に戻ると、リヒャルトもまた小舟に戻る。
「どうでした?」
「向こうは驚愕してるよ。こっちが4隻しかないことに。」
しかし彼は陸の方へと向かい申し訳なさそうに肩を窄めるしかないのであった。
ここは、ドナウの美しいハンガリーという国。現在は島国となっている、元内陸国だ。
「ではまず作戦を説明いたします。4400隻の対処は簡単ではありません。なので、海と空の連携は必須となります。空軍は正直石油カツカツですので、さっさとやってやるです。」
「ちょっと待って君、何で最後翠星石みたいな喋り方したの?」
「この大統領、結構ニッチで古いもの知ってるですね。褒めてやるです。」
「何様だよお前。」
大統領はこほんと咳払いをすると、続けるよう促した。
「はい。では、真面目に作戦を。空軍では、退役したMigと現役のグリペン14機含めて、用意できた合計20機を作戦に投入します。他にも、いろいろな機体が混じっているですよ。」
「ちょっと待ってくれ。それじゃあ本土の防衛はどうなるんだ。」
「大丈夫です。いろいろありますので。退役したMigもまだ3機予備がありますし。それに、何よりも対空連隊があるじゃあありませんか。警察隊や民兵団も馬鹿ではありません。徹底的に隠密し、空軍に連絡するよう訓練しております。」
一度息を吸うと、この翠星石のような人員が話し始めた。
「続いて、攻勢作戦。ハンガリーっていろいろごっちゃごちゃに持っているんですよ。J32E ランセン、ホーカーハンターF Mk58、F-104Gスターファイターが2機、JA37DI ・ビゲン、MiG-15bis、MiG-17PF、MiG-19PF、MiG-21F-13、MiG-21PF、MiG-21MFが2機、MiG-21bis2機、つまりMiG21が6機ですね。続いてMiG-23UBなどがあります。合計するとええと…」
パチパチとそろばんを数秒打って結論を出す。
「15機です。どれもエンジンなどを復活させて武装なども換装済みです。」
「え?換装って復活ってまさかお前」
思わずヤーノシュを見るヴィクトル。彼が不敵に笑った。
「無論、航空博物館のオンボロを再利用させてもらったよ。ほとんどが骨董品だがな。」
「よく復活できたな。」
「何、エンジンは大抵の場合どこかに保存してあるものだ。」
彼は背伸びをすると、首を横に曲げる。ポキポキという音がした。
「そいでもう一つ、ちゃんとしたひでぶ〜がある」
「ええ!?まだあるの!?」
ソンバトヘイとヘッペシュが驚いた口調で言う。
「ああ。こいつだ。説明は私の方から。大統領の思考通り、今ハンガリーに必要であるのは『十分ワイバーンと渡り合えて、いや、圧倒し無双できて、かつ燃費のいい戦闘機』だ。そして、我々はその条件を満たす戦闘機を見つけた。」
周りからおお〜という拍手が浴びせられるが、ヴィクトルたちは嫌な予感がしてならない。特に、ヘッペシュに至っては顔が真っ青になって居た。
「こちらでございます。航空博物館で、パーツを組み合わせて展示に成功したプロペラ機。それを、この天下に甦らせることに成功しました。今更ながら、旧式兵器に頼り、ガレオン船に怯えるのは忸怩たる思いであり、我々としても断腸の決断であります。しかし、それでも必要なのです!この戦闘機が!そう、ハンガリーの空を最も誇り高く舞い上がった戦闘機、メッサーシュミットbf-109です!」
そして、幕が外されるなりヤジが飛んできた。
「ちょっとまて!それは、燃料の消費を単に数量で見た話だろう!グリペンの方が任務の成功効率などを考えた場合、性能あたりの燃費が良いのではないか!それに、こんな戦闘機では歯が立たないだろう!」
「仰る通りです。しかし、それは不確定要素のある場合。翠星石くん、スライドを。」
「すっかり通ってしまったですねえ。このキャラでいきましょうかねもはや。はい、変えましたよ。」
ヤーノシュが咳払いをすると、全員が固唾を飲んで見守る。そこに、疑いの目はなかった。ただ、純粋な疑問が彼らに残って居たのである。
「えー、こちらはワイバーン。我々の恨敵であるロウリアの主力生物です。これの時速は235km!」
会場がざわついた。メッサーシュミットでも十分に追いつけるではないか。いや、もはやミサイルを長距離からぶっ放すのが馬鹿らしい。ジェット機を出すだけリソースの無駄だろう。
「詰まる所!このプロペラ機であっても十分に対処できる。ならば、純粋に燃費のよい機体を使った方が良いと判断した次第です。」
なるほど単純な消費量であれば、このメッサーシュミットというのはグリペンよりいい。グリペンが3000L/hに対してこれは250L/hくらいで動けるじゃあないか。
「で、攻勢作戦に戻ります。グリペンたちの部隊を、第一航空師団と呼称します。続いて、先述の雑多な戦闘機たちを集めた部隊を第二航空師団と。第一航空師団の仕事は、ロデニウス沖における制空権の確保です。ガレー船です。どうせ弓も弓弩も当たらないので多少ちょっかいかけて帰ってきても良いですよ。ていうかむしろやってください数がべらぼうに多いので。第二航空師団は大きく3つ。F-104Gスターファイターを中心とするロウリア艦隊への爆撃と攻撃、航空基地の無力化とレーチェル大臣率いるコロナ中隊の援護です。どうやらギムを攻撃するトチ狂った作戦をやるようなので。」
ヤーノシュはまた騒めき始める周囲を抑えて言った。
「まあ、こうなった以上しょうがない。全力でキャリーするしか無いだろう。それに、ギムの奪還は我々の本意でもあった。」
「そりゃあそうだ!あんなの見過ごせるか!」
「そうだそうだ!行くぞお前ら!今すぐにも戦闘機に乗ってやる!」
「静粛に!静粛にするです!」
翠星石が場を和ませ、再び話を始めた。
「あと、最初の艦隊攻撃は添えるくらいでいいです。最後にがっつり、カイゼリン・エリザベートと第一航空師団がやってくれます。あ、情報によれば、ロウリアはエルフ狩りとかいうタチ悪いことをしてることもあるそうです。そう言うのはできればお掃除してください。まあ、戦闘機には難しいと思いますが。屋上に行きましょう……久しぶりに……きれてしまいました……死ぬほど嫌いです、彼らのような……生命を弄び」
「ああ〜めんどくせえモードだあ……」
そうしてニュアンスを読み取ったヤーノシュがマイクを奪い取る。
「え。以上になります。何か質問は?」
「質問ですが、第二航空師団の負担が大きすぎやしませんか?彼らは旧式です。」
「ご質問ありがとう。そうです。旧式です。しかし、パイロットは劣化しません。そう練度の高い者たちが操縦するMigなので、初心者もエスコートできるのですよ。また、主力であるグリペンはなるべく敵ワイバーンの殲滅に使いたい。それ故に、それ以外の役割が回ってきているという現状です。なので、その質問は至極真っ当でございます。申し訳ございません。」
しかし誰も非難するものはいない。完全に納得できる訳ではないが、信じるしかないことは彼らもわかっているのだ。
「あ、最後に。メッサーシュミットですが、誰が操縦を?私の調べた限り、操縦できる人はあまり見えません。」
「いいえ。ここに、1人だけ居ますよ。」
するとヤーノシュがにやっと莞爾の顔を浮かべる。ヘッペシュはうすら寒い気がした。そして、目が合ってしまったのである。
「そうですよねえ。建設・運輸省の大臣、ヘッペシュ・フェルディナントさん。そして、あの老ピューマのご子息。」
ヘッペシュの冷や汗は止まらない。凍てつく空気の中、口を割ったのはヘッペシュだった。
「やっぱりバレてたか。僕はいかにもハンガリー空軍のエース、ヘッペシュ・アラダールの息子さ。」
そうしてヘッペシュは立ち上がる。その目には、まだ覚悟の火は灯っていなかった。
「ヘッペシュ頼む。君しか居ないんだ。頼む、この通りだ。」
ヤーノシュと翠星石が彼に頭を下げた。そうして、伝播するように周りも頭を下げ出す。
「お願いだヘッペシュ。大統領として命令しているんじゃない。お願いしているんだ。」
「………」
「私からも頼むヘッペシュ。私も探したが、操縦できるのは1人も居なかった。君は老ピューマの息子で、彼はメッサーシュミットの乗り方は息子に教えていたと聞いている。」
ヘッペシュは重い口を開いた。
「………僕が知っているのはあくまで知識・技能だぜ。それでもいいかい?」
「あ、そこなんだ。」
「そこだよ。むしろ嬉しいぜ。」
そうして徐にメッサーシュミットを撫でる。
「親父と同じように空へ行けるんだからな。」
夜を越したロデニウス沖、彼らは明け方ゆっくりと慎重に港を出て合流した。この、約50隻ほどの艦隊こそが、ロウリアに抵抗する手立てである。カイゼリン・エリザベートくらいだろう、アウトレンジに期待できるのは。本土では民兵の組織と警察の武装が進んでいる。要は、最悪の場合どうなるかというのは、全員わかり切っているのである。
「俺たちゃ捨て駒なんだよ…うう…」
「いかんアンドル艦長が面倒くさいモードに入った。」
「どうしよう。とりあえずオルフィー大佐に伝えてくれ。」
「イエッサー。」
そうして1人の水兵が無線機へ走っていった。だが、正直言って自分たちが死んだら、という想定が為されているのは良い気分ではない。ましてや相手が4400隻の大艦隊。彼らの緊張のボルテージはマックスになって居た。
「……来るぞ……気を、引き締めていけ!」
航空戦力がそろそろ来るはず。奥には、まだ見えないがきっといるのだろう。ロウロアの4400隻が。一方航空機からの景色では奥に予想通りのロウリア艦隊が居る。それを見据えたハンガリー空軍と、気付かぬシャークン。
「この4400隻の艦隊…素晴らしい。これなら、パーパルディアさえ倒せそうな気分だ。」
いや、と自制を働かせた。そういう野心的なことは一旦捨て置き、目の前に集中しようと。そう思った時分だった。
「ん?なんだねこの音。」
ごおおおおお、という唸り声のような大きな音が聞こえる。その方向へ目をやると、そこに黒点が無数。
「敵機、高速接近!数20!」
そう、ハンガリーのMig29とサーブ39グリペンだ。
「は、はやいっ!ワイバーンを要請しろ!あんなもの、すぐに焼き払ってくれる!」
だがその言葉と裏腹に、攻撃が始まった。
「行くぞ!お前ら!」
「おう!」
F-104Gスターファイターからミサイルが放たれ数発が命中する。その威力に呆気に取られる暇もなきまま、今度は次の艦へと目移りを繰り返した。シャークンにとっては、空いた口が塞がらない非常事態だ。蛮族と思っていた国家のワイバーンが、これほどとは。
「ええい何をしている!弓弩は!」
「当たりません!」
もちろん命中率が低いのは当然のこと。まして音速で飛ぶ戦闘機にはほぼ当たるまい。
「まだまだ!機関砲はそんなもんじゃ終わらないぜ?」
練度は決して高くない筈だし、リハビリ戦のやつもいる中、すでにロウリア艦隊は数十隻を失った。もちろん、こちらは無傷。
「しめた!ワイバーンだ!」
しかしその脆い機体は打ち砕かれることとなる。グリペンとMiGはこのためにミサイルを温存していたのだ。
「FOX2、ファイア!」
「FOX3!」
「FOX3!」
ワイバーンの数は決して少なくない。具体的には、250騎もの竜騎士がいた筈である。それが、初撃で数十吹き飛んだのだ。絶望のドッグファイトは勿論蹂躙に終わる。
「追いつけない!追いつけない!うわあああああ!」
「やめてくれええええ!」
「勝てる相手じゃない!」
シャークンは思わず耳を塞いだ。そこへ、黒ローブは駆け寄る。
「随分苦戦してらっしゃるようですねえ。アレを、使っては如何でしょう?」
「アレをか?しかし……」
「出し惜しみは時に負けの要因になりますよ。」
歯を食いしばってシャークンはアレを使うことを決める。
「いけ!艦載騎、前期発進!」
それと同時に艦に収納された小さな籠からワイバーンが現れて、風魔法に乗り疾く飛んでいった。
「これぞパーパルディアの技術!」
しかし、それがわかると放置するハンガリーじゃない。そうして、今度は籠のついた艦は狙われる羽目になった。
「こっちは空母型の対処にあたる。頼んだ。」
すでに半数が殲滅済み。そうして、ワイバーンが150ほどになってやっと撤退をしたのである。
「くそっ!もう燃料が持たない!」
「仕方ない……引き上げですね。」
こうして、悪夢たるハンガリー空軍が去っていった。しかし、シャークンは知らなかった。この先に待ち受けている運命を。
こシャークンが艦隊は損害を出しつつも前進する。幸い、その数は4400隻という圧倒的なマジョリティにおいて、微々たる数値だ。だから大丈夫。そう思って進んだ矢先の出来事だった。艦隊が、一瞬のうちに溶け切ったのは。
「いました!ロウリア艦隊です!」
既に大体の位置は掴めているがあえてその姿を見せることにした。勿論、雄大さを魅せて威圧する目的もあるし、ちゃんと目視できた方が着弾の観測がし易いとも言える。だが、何よりもの目的は「相手の常識に合わせて戦うことで、戦力差を見せつける」ことにあるだろう。「宇宙戦艦ヤマト2199」で何故人間はガミラスに対して酷い嫌悪感と恐怖心を抱くのか。それは、こちらの攻撃が通用しないこと然り、向こうがわざと、こちらの射程に合わせているから。その歴然としている埋め難い差に、我々は恐れ戦慄いていたのだ。
なにはともあれ、これは同じような目的である。例えば、見えないところから攻撃が来れば「?」で終わるだけだし、謎の事故で片付けられる。だから、まずは姿をあえて晒すのだ。無論アウトレンジ攻撃手段が限られているのもあるが。
「敵ロウリア艦隊、射程圏内にとらえました。」
「撃ち方始めっ!」
その瞬間砲塔が火を噴き出し金色の荒鷲が飛び立つ。高速のそれが目指す先は一つ。ロウリア艦隊だけだ。
「だんちゃーく、今!」
それと同時、ロウリア艦隊のいくつかは沈み、水柱に濡れる旗艦。シャークンは何がなんだかは理解できていない。ただ、相手からたったの2〜3海里の海。
「すげえ!俺たちもやるぜ!」
「え、やるって届くの?」
「気合いで届かせるんだよ!」
ドナウの水兵たちはやれやれという態度で目玉をくるりと回した。
「しゃあない、多分4000キロくらいだな。最大射程は。」
そうなると、命中率が極めて心配だが、それでもやる気である。
「司令!こっちの機関砲で、やっちまってもいいですかね。」
リヒャルトはもちろん乗り気だ。
「ああもちろん。やっちまえ。」
「待ってました!エマにアンドル!てめえらもやれえええ!」
「へいへい。」
「兄さんにはついてけないわあ。」
「いくぞ!撃ち方はじめぇ!」
機関砲が炸裂し、空に放物線を描き下りる。その様は、さながら光の矢とも、「檸檬」でいう「驟雨のように浴びせかける絢爛」とも言えた。そんなものが頭上から降ってくるシャークンは少し気の毒だが。
「な、なんだこれは?光の雨!?」
そして、その雨粒に触れれば漏れなく沈む僚艦たち。シャークンには、この兵器の命中精度があまり高くないことは何となく感ぜられてはいた。だからこそこの馬鹿のような球数でカバーしているのだ。シャークンという異国の将軍は。曲がりなりにもそう解釈する。彼の目には木片の他、質素な鎧だとか赤いマントだとかしか写っていない。
「こうなれば!航空攻撃だ!ワイバーンを呼び戻せ!」
こうして、耐久している間にも数十隻が海の藻屑と化していた。既に、艦隊中400隻ほどが沈んだ。心なしか、近づけば近づくほど命中の精度が高い気がする。当然と言えば当然だが。バリスタは以前全く役に立ってない。
「よしきたワイバーン!これでまた逆転の芽はある!」
だがしかし今度はその仰角が上に向けられて、ワイバーンの群たちを狙い始めた。連続する発射音ののち、見た光景は鉄の臭いが残る青空が広がるのみ。
「なぜだ、何故だ何故だアアアアアアアア!文明国でも目を見張る我が国のワイバーンが、どうして…どうしてこうもいとも簡単に落とされているのだアアアアアアアア!」
無論文明に圧倒的な差があるからだ。加えてハンガリーの練度が少し高いほどにあったのも一因である。こうして考え萎えている間にも、その差は一隻また一隻と広がっていった。
「いくぞ!まだまだ!ストレラ発射!」
ピィーともキィーとも聞こえる音とともに、白い光の矢が炸裂する。その矢がワイバーンに突き刺さっては堕ちていった。
「リヒャルト艦長、いえ司令。この対空兵器は素晴らしいですね。」
「ああ。手も足も出なかったワイバーンを、まるで蠅のように叩き落とせている。少し申し訳ないが気分がいいな」
そうして、ワイバーンが30ほど減った頃、ようやくハンガリー艦隊に初弾が到達する。
「ああ!回避不能!」
「衝撃に備えろー!」
しかし、軽巡の計算された装甲には殆ど水に溶けてしまうが如く、ゆっくりと消滅していく。
「助かったか……!反撃じゃ、撃てええ!」
そうして反撃の一撃が炸裂する。
「やったぜ。」
ロウリアの竜騎士で逃げていく。これで、勝敗の大方はついた。あとは、敵がどうでるのか。
「まだだ。白兵戦に持ち込めばまだ……」
が、すでに損害は800をゆうに超え、1000隻にまで及びそうである。このまま如何にか押し切れば。しかし、その悪あがきをすればするほど事態が悪化する。距離が縮まり、射程圏内に入った武器という武器が、彼らに牙を向いたのだ。どうすればいい。ワイバーンも殆ど全滅必須。絶望感。まるで、何かタワーディフェンスでひたすらプレイヤーに突撃を駆けるゾンビのような気分であった。他勢に無勢。数あれば勝つことができると考えていた、シャークンのプランとドクトリン。それは、すでに読まれて元々の性能を活かした攻撃により完膚無きほどに打ち負かされた。シャークンは負けたのだ。あらゆる方面で、この「ハンガリー」に。
ロウリアの提督であるシャークンは、既に抵抗の意思もカードもすべて挫かれていた。あらゆる戦法での抵抗を試みようと、近づく前に吹き飛ばされる。この旗艦が残っているのも正直奇跡だ。自分は、敗戦に名を連ねる愚将として語られるだろう。それでも、兵士を悪戯に死なせることはよりシャークンにとって許し難い事実だったのである。
「………撤退だ。全艦、撤退……」
かくして、非常に不安な要素であった海戦は終了した。妙に明るい夕方の中、踵を返すガレー船たち。
「お、おい、ロウリア艦隊が引いていくぞ。」
意味がわからない。まだ絶対に当たらないはずの距離から撃ったと思えば、いつの間にかこれだ。ワイバーンの飽和攻撃に耐え、というかそもそも寄せ付けずに終わらせ、その上にあの圧倒的な戦力差を覆したのだ。これにより。ハンガリーは制海権を確保した。戦術的な勝利だけではない。完全勝利だ。ミドリはその様子をどうとも捉えられて居なかった。よく消化しようとしても、まるで頭が消化不良を起こすよう。
「これが、ハンガリーという国か」
「しかも彼の国は内陸国で、小国であったそうな。」
それが、ミドリにとって二重の衝撃となったのはいうまでもない。ミドリは甲板上で酒を飲んだ来れている水兵たちに慄きを感じた。この練度と、狂気と技術に。
「かんぱーい!カイゼリン・エリザベートは不敗だ!」
「ドナウたちの初陣を勝利で飾れてよかったです。ずっと川で縮こまってるよりも幸せでしょうよ。」
アンドルに続く向こうのエマ。
「そうだね。まるで私たちの写しみたいだよ。この船は。」
「そうだ!どんな時にも、乗り越えていこうぜ?」
「おいおい、俺を、総司令官であるリヒャルトを忘れるんじゃねえよ。」
「もちろん歓迎しますよ司令!」
「それじゃあ、とりあえずやろうか。改めて。」
「ええ。」
全員が酒瓶を持って、甲板へと向かっていった。
「ハンガリー海軍の初陣。我らがロデニウス沖大海戦の勝利に、乾杯!」
『乾杯!』
喉をむせ通るウイスキーが、やたらと暖かかった。空は、もう暗い。
ありがとうございました。
受験頑張ってきます。
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