イシュトヴァーンよ永遠なれ   作:デブレツェン

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いやああああああAaaaaaaaaaaaaaaa受験終わったよおおおおおおおおおおおおぽおぽおおおおおおおおおお
というわけでこの十日間は気が気では無いと思いまあああああああああああああああああああす
前から暴れ回っていた前書きと後書きはより荒ぶるものと思います。ご了承ください!


第六話 老ピューマはギムに飛ぶ

第六話 ギムに蘇った老ピューマ

「さあて、クワトイネの皆様。終わりましたので救助に行きましょう。」

ミドリは怪訝な顔をして反問した。

「え?しかし、ハンガリー海軍の損害は0人ですよね?」

「ええ。」

「では、誰を救助に?」

リヒャルトはやるせない顔をしながら言う。

「ロウリア海軍の軍人です。」

 

 

 

 

 

その頃、ギムへと向かうコロナ中隊はヘリコプターを側に止めて市街地を進行して居た。その中には、レーチェルとカナタの姿もある。

「やあやあ来たかギムだな。」

そこは悲惨な運命へと陥ったギムという街だ。勿論これから、我々の手へと回る。何故ならば、ここには精鋭たるコロナ中隊が有るからさ。

「よし、敵はまだこっちに気づいて居ねえ。」

ガサガサと音はするが、森というものの隠密性能が高すぎるのか。ロウリア兵たちは全く気づく様子はない。まるで無警戒の鯉のように、餌という餌にがっついている。

「パンがもうねえな。」

「また取ってくるかい?」

「お、いいな。」

そうして、小さな丸テーブルに食い散らかりを残したまま兵士は去っていく。これからどこにいくかは想像通りだ。

「敵の見張りは、10人です。」

10か。結構多いかもしれない。こっちにスナイパーがいたはずだ。

「おい、コロナ4、5。あれ、撃ち落とせるか?」

スナイパーが頷くと、その近くにまるでハイエナの如く隠れてきた。やがてもう1人も、葉音をがさっと立てて、森の中へ消えていく。

「さあて、そろそろ始めるかあ。」

レーチェルがそうしていこうとしたその時。

「ちっ、パンがもう無くなっちまった。」

「しょうがねえよ。そうだ!向こうにまで、遠征に行こうぜ。」

「ああ、そうだな。」

なんて胸糞の悪いものだ。こいつは見過ごせねえ。そういうレーチェルの、嫌な正義感を先読みしたエル隊長は止めに入る。

「おい大臣、まさか見過ごせねえから突撃とか言わねえよな。」

「言うさ。でも、バカな突撃はしない。」

レーチェルは指をポキポキ鳴らす。エルは少し機嫌の悪そうな顔をして見せた。

「どうするのです。」

「決まってる。まずは、スナイパーへ。合図があったら相手の見張りを全て撃て。」

スナイパーがこくりと頷き、窓枠に除く敵の弓兵に狙いを定めた。その場に、静かで重鎮な空気が漂う。しかしそれは死のリスクへの緊張というよりかは、目の前で人を殺すことに対する緊張だった。

「……それじゃあいいかい、まずスナイパーが飛び道具を潰す。次におそらくどっかに隠れているであろうから、そいつをA班が仕留める。B班は目の前の建物へ突撃。俺たちは気を引く。生きてれば向こうの地下牢前で合流だ。」

レーチェルの指示には正直全員が驚いた。即ちの所、それは自分が敵を牽制するというあまりにも危険な作戦だ。当然ながらエルは止めた。

「大臣!貴方にはまだ仕事がございます!ここで死んでもらうわけには行きません!」

だがレーチェルは一歩も引かない。どころか、より自分は戦う気になっているような気さえする。

「いや、大丈夫だ。決定打がある。」

レーチェルの顔はやけに紅潮して血が巡って居た。外では、瑠璃色の外套やら、銀色の鎧やらが跋扈するばかりで殆ど賑やかしくはない。

「……航空支援さ。時期にわかる。」

さらでも、空にはワイバーンが飛ぶばかり。これでは、さすがに堂々と航空支援なんてちょっと難しい話なんじゃないか。しかし、レーチェルの顔はやはり自信の二文字に満ち切っている。エル隊長は呆れたように目玉をくるりと回した。

「しょうがない…指揮官の命令だ!やるぞ野郎ども!」

「サーイエッサー!」

そして、草むらから飛び出そうとしたその時。レーチェルが手を突き出す。

「俺が先に行く。」

もはやカナタもエルも止めはしない。止めても無駄なのはもとより、結局彼は考えのあるおバカとでもいうべきか。ちゃんと、計算はされた行動をするから。

「あーあしけてんなあー。」

「女でもやりにいくかい?上玉が入ったそうだよ。」

「いや、今はいい。それよりパンだ。」

そこへ草むらから飛び出すレーチェル。居合わせたロウリア兵たちは一歩のけぞった。流石に、この奇行に驚いたのだろう。その動きは素早いあたり、練度は低くなさそうだ。

「な、なんだあんた…」

「パンがないんだって?ならば。」

かちゃっと、音を立てて拳銃が向けられた。それをさらに警戒して、ネズミの如くさらに1歩2歩とジリジリ下がるロウリア兵。ただの棒切れでないことは理解したようだ。判断力がいい。そして、レーチェルは勿論、この自分を舐めとるような不吉な視線にも気づいていたのである。

(今だ!)

目配せとほぼ同時刻、静かに金色の弾丸が窓枠へと飛んでいき、レーチェルを狙う弓兵に命中させた。そして、ぱっと赤い花を咲かして落下する。その様子に、まるで気絶後の蜂のように呆然と見つめたあと、ロウリア兵はハッとしてから判断した。

「て、てきしゅ……」

「させねえよ。」

パシャ、とサイレンサーに通されて音を消した球が隠密を決め切る。そうして、その場所には2体ほどの遺体が倒れきってしまった。

「さて、それじゃあ決めるか。こっちの偉人はこう言ったそうだ。」

恐怖に震えて地を這うように仰反る兵士。その様子がまるで蛇に睨まれたカエルのようで。

「パンがなければ、お菓子を食べればいいじゃない。ってね。」

こうして、彼は素敵な「焼き菓子」を死に際得たのである。

 

 

 

 

ギム手前の上空には異様極まりない光景が広がって居た。何しろ1機のbf109に、十数ものMigや旧式が追従して居るのだ。

「ヘッペシュ大臣、乗り心地はいかがだい?」

ヘッペシュ・フィルデナント。この男は老ピューマで知られたあのヘッペシュ・アラダールの息子にして、その1番の生徒でもある。彼は酒に酔うとよくメッサーシュミットの乗り方を、如何にかして教えてくれたそうだ。その記憶がまさかこういかされるなんて、夢にも思うまい。

「夢見心地だよ。俺はこの、憧れの機体で暴れるんだぜ。」

「分かってるでしょうけど、貴方はあくまで知識のみで動かしている。頼みますよ。」

「了解」

心配性な通信が、どこか優しい自分の母親のことを彷彿とさせて嫌だった。涙腺に涙が浮き出る。88年、親父の命日のことは片時も忘れたことがない。自分たちが、ナチの仲間であることを隠すため我々はあくまで事実婚を選んだ。そうして、私は生まれた地に戻ってきた。写真の中にあったからって、無理して貰ったっけ。そう、この機体の番号、わざわざ親父と同じに塗り替えて貰ったからな。ああ、どうしてだろう。目尻が熱い。母のこと、父のこと、今のこと、昔のこと。その全てが驟雨になって私に襲いかかってくる。目の前が、ぼやけて見えなくなってきた。全く、空戦の前なのに不便な体だ。

「大臣。大丈夫ですか。」

「……オールグリーン。」

「はは、そうですか。」

何を笑っているんだ、こいつめ。帰ったらこづいてやる。

「隊長、お願いしますよ」

「そうですぜよ隊長?まだ若いのには負けねえって決めたろう?」

このMigを操縦するのは勿論老兵たち。彼らにとって、戦闘機に残した自尊心というのは、大きい。

「ああ、分かってるさ……行くぞ!」

「おう!」

そして翼を揺らし合図をする。全機が左右へと展開した。目の前にはワイバーンが飛ぶ。ヘリコプターは思いのほか苦戦を強いられているようだ。

「待たせたな、オメーら!ハンガリー建設・運輸省大臣!ヘッペシュ・フィルデナントだ!」

そして、無線機を再び取ると、涙を拭い取ってはっきりと言い放った。

「いや、今だけはこう呼んでくれ!『老ピューマ』と!」

この時あたり一面はまるでモノトーン世界に戻り、時間がよりゆくりと進んだという。機銃の音、ワイバーンの羽ばたき、プロペラの心地よい回転。ああ、全てがゆっくりだ。見える。目に、血なんて巡らせなくても、まるで止まってるように。黙ってトリガーに指をかけるとその時に橙の閃光が雲の間を通過した。そして、黒い機体が埋めるように通る。竜騎士は唖然とするしかなかった。この、非常事態に如何すべきか分からないのだ。

「ヘッペシュ大臣に続くぞ!かかれええええええ!」

「うおおおおおおお!」

続く旧式Migの群れたちが、ワイバーンを狩りに向かう。他勢に無勢、その言葉はこの場には一才の通用を見せない。

「ま、まずい火炎弾の一斉射でたいsh……」

「させるか!」

後ろから迫るは無論メッサーシュミットbf109。ジェット機に比べて旋回性能の高いプロペラ機。こいつらは多少学んだようだが、今回は雑多な編成が皮肉にも聞いたらしい。まるで、蜘蛛の子を散らしたように逃げていく。同時に、その連携という毛糸もぷつりと途切れたのだ。

「ま、まずい……このままでは……」

だが竜ではその最後の一撃を回避することは能わない。こうして、我々にとって朗報でもある、最後の断末魔がギムにと響いたのである。

「化け物め……竜騎士だ……黒い竜騎士だあアアアアアアアア!」

パアアンと音が響いて、羽と内臓が爆裂した。決着は、既に付いたようである。

 

 

 

 

レーチェルに向けて弓を引くのは何も見張りだけではない。スナイパーが処理できないのを対処するA班。彼らが携帯するのはMP5。軽機関銃だが十分軽装甲は抜けよう。

「大臣を死なせるんじゃねえぞ!ファイアー!」

刹那、無数の閃光が敵兵に向かって炸裂した。敵はその余りにもダメージの大きいシャワーに耐えられず、立ち往生するばかり。

「ぐ、ぐああああああ!」

「ち、近づけない?」

「何をしている!盾を構え…がはっ…!」

実を言うとこの技術差で圧倒することによって、悦に浸っている者も少なからず居る。そういう油断から死者が出ると考えると薄寒い気がするが、そう言うことは今は眼中にない。

「クリアです!」

「よし、広場へ行け!あそこに牢獄がある!」

だがその時一本の弓がこちらへ隼の如く飛びたち、1人に命中した。

「ぐあああ、くそ!」

彼は無理をして拳銃を放ち、それを絶命させる。倒れ際、何かに祈る顔をしたのが後味の悪い。

「くそっ!ヘリコプターまで下がらせろ!」

A班の隊長は的確な指示を飛ばしつつ、市街地を進行する。ワイバーンが飛ぶと、その都度ストレラかRPGで対処した。軽武装でも、案外どうにかなるものだな。

 

「突撃!」

まるで銃声のようなけたたましい音がバンッと木霊する。その部屋では数人の兵士が飲んだくれていた。蝋燭の光が不気味に照らす。

「な、なんだなn」

しかし叫ぶことも許されぬまま本物の銃声が響き渡り、誰もが死因を理解する前に、まるで蝶のようにひらひら斃れていく。

「クリア!」

「クリア!」

「ルームクリア!」

そうしてB班は施設内を蹂躙するごとく、コッソリゆっくりとしかし大胆に進んで行った。蝋燭の奥の暖炉が、妙に明るかった気がする。

 

レーチェルたちも時を同じくし、ロウリア兵のお相手をする。特に、ここは人が多い。剣士に加えて、ここには魔獣なる者もいるらしいが、如何だろうか。

「レーチェル大臣、いかがなさいましょう。」

「RPGは有限だぜ。」

「大丈夫だ。あと、そうだな。30分!いや、20分時間を稼げ!」

無理だろ。ここは敵陣のど真ん中ぞ。だが、確かさっき「アテがある」と言って居た。カナタやエル隊長には、これが単なる無謀な攻撃に過ぎないとは、到底思えない。目の前には、魔獣がたっぷりと居座っている。こっちの武器はちょっとのRPGに、軽機関銃のみ。スナイパーがちょくちょく撃ってくれているが、こうしている間にも「ある人物」の、処刑台への道は完成していくのだ。

「どうするっピか。まずいっピよ。」

「黙れタコピー。こちとら真剣に考えて……まて、タコだと?」

エル隊長がニヤリと笑って見せた。なんだろう。嫌な予感しかしない。そこへ巻き込まれるかの如く仕事を終えたB班がやってきたのだ。

「隊長、これからはどうするのです?」

「大臣くんが、ギムの総指揮官を助けたいとよ。」

エル隊長はまたニンマリと莞爾の顔を見せる。また、兵士たちにぞくっと寒気が走った。

「レーチェル大臣、こんなのどうでしょう」

耳を貸して小声で聞くレーチェルだが、そのレーチェルさえ少し苦笑いする作戦が、そこに聞こえて居たのである。

「……みんな、いくぞ。この作戦で。投げるんだ、スモークグレネードを。」

そうだ。まるでタコが墨で欺くように。その時スナイパーから報告が入った。B班の残存からも同時に。

「隊長まずいです!敵の、敵の援軍が!」

まさか。そういえばさっき突入後、制圧してからやけに暖炉が明るかった。まさかそれはSOSを知らせる最後の狼煙だったのか。

「しまった……」

「総数3000ほどです。援軍ってレベルじゃないっすよこれ。」

無線機の向こうで、親を失った小鳥のように咽び泣く声がした。兵士のすすり泣きか、それとも逃げ遅れか。何れにせよまずいことに代わり無い。

「そこまで計算済みよ。」

魔獣、処刑の進行、そして援軍。美味しく無い要素しかないがやっぱりこの大臣は自信を喪失しない。どころかこれに呆れるどころかインスパイアを受けて自らを鼓舞するものまで現れた。

「ははははははそうだそうだいけえういける」

「あかん、タコピーが壊れた。」

そこに口を開くレーチェル大臣。

「まずい時こそね、ああだめだできないあれは無理でももし不可能とか。そんな言葉が1番役に立たないんだぜ。」

レーチェルは血塗れの広場と対をなすほど青い空を仰いだ。それは、どこまでも続いている、瑠璃色の空。そして、皆が胸に手を当てて考えてみる。その弱音こそが自らを欧州で最も矮小な存在にして居たと気づくのは、もう少し先。エルはそっと徐に、まるで誰かをあやすように言った。

「……ですが、レーチェル大臣。勿論、履き違えてませんよね。前向きと無謀は、全く別です。」

しかしエルの顔は意外ながらぱっと笑っている。兵士たちも、理解できたものから怪訝な顔を脱出していった。カナタは当然、それを飲み込んでいる側である。

「ああ、分かってるさ!さあ、突撃だ!」

同時に、エル隊長と数人が何かを投げる。すると灰色の煙が辺り一面に、まるで更科のように充満した。

「ごほっ!何だこれ!目が見え」

「突撃いい!」

A班はロウリア兵の周りを駆け巡ってその全てを殺し、かたやレーチェルたちはそそくさと地下室へ向かう。

「あ、この、まて!」

そこに居たのは、いつしかのコンサートマスターとも例えた、あの将軍。ロウリア王国副将、アデムだ。相変わらず顔からは、まるで何か、霊障のような邪気を放っている。早い話、悪巧みに長けたような顔だ。であるから、きっとこの煙が辺り一面に充満するのも何か小賢しい細工だと一発で判断できたのだろう。魔獣が混乱して暴れる中、アデムは剣を取り、牢獄へと続いた。

「アデム将軍に続くぞ!かかれぇー!」

ロウリアの一部重装歩兵がこちらへと向かい、地下の入り口は決戦の地と化した。その扉の前に立ち塞がるは、レーチェル、エル及び十数人の兵士だ。

「レーチェル大臣、居るのだろう!我こそはロウリアの副将、アデムだ!一騎打ち願おう!」

「どうしますか大臣。」

ここでもし行かねば、きっと大軍を突撃させる。のみならず、どこか腑に落ちない思いをカナタ首相含めてこの場の全員に残すだろう。これを断ることはいわば、仁義なり礼節なりを弁えたあの時のファーストコンタクトを台無しにするも同義。

「………分かった、行こう。俺にサーベルを。」

言われた通り兵士のうち1人がサーベルを渡す。本当にやる気なのか。この前近代的な戦いを。一国の将と首脳が今から斬り合うのだ。取り囲み固唾を飲んで見守る一同。この円陣には今だけ敵も味方も壁は無かった。魔獣も落ち着きを取り戻し、どうにか形になっている。このまま、やるのか。先に剣を抜いたのはレーチェルだった。

「俺は一応ハンガリー剣術の大会で優勝していてね。」

「ほう。面白い。強者であることは確かだろうな。」

「保証する。このような再会になったことは残念だな。」

「いやあ、全く残念じゃない。むしろ、こうして剣を交えることができる、こんな風にっ!」

急に、一振りのロングソードが防弾チョッキを掠めた。よろけるレーチェルだが、ロングソードに二発目を出す力はない。

「どうした、大丈夫か?」

「ああ、大丈夫だとも。」

レーチェルは構え直す。体を横にして左腕を後ろに置き、右腕を頭上へと大きく振り上げて。

「さあ、やろうじゃあないか。」

これがハンガリー剣術の要である構えだ。ハンガリー剣術は大きく脇を広げ隙を晒す代わり、二連撃と近接戦攻撃力が魅力。加えてフォアハンドの1〜4番斬撃によって利き手への攻撃をできる。それを活かすにあたって、このロングソードというのはある意味最悪でもあり、最高の相手だ。

「ふんっ!」

力任せの一撃をよろけながらも受けたレーチェルは反撃に転じる。まずは上から切り上げる2番の斬り付けを行った。だがそれは無情にも剣体で防がれる。レーチェルがまず悟ったのはパワーで勝つのは不可能である。ならば。左足を前へと突き出したレーチェル。そして、サーベルを4番の方向からくり出した。すかさずアデムが防御耐性を取って受け止める。だがハンガリー剣術の恐ろしいのはここから。なんと彼はそのまま手首を翻し、そのままアデムの顔面へと刃が向かう。アデムはポメルを叩きつけて抵抗するが、それでも頬の肉を削がれてしまった。

「くそっ!中々やるな。だが俺の利き手を切るのは不可能だぜ。」

この防御力。近接戦に全振りしたハンガリー剣術を、初見で容易く防いでしまった。さすが副将だけあって、強さは欲望に飲まれた訳ではない。

「くそう……」

もう一撃を放つが、すでにハンガリー剣術という初見殺しは殆ど読まれてしまった。加えて、こいつは弱点を突こうと積極的に脇腹を狙う。あとは時間の問題だろう。

「ははは、これまでだなキシュ・レーチェル!俺の勝ちだ!」

誰もが覚悟を決めて目を瞑ったその時。

「もうすぐ、20分だぜ。」

その時遠くからプロペラ音とジェット音が混じって聞こえてきた。無線が爆音で話し始める。

「遅くなったなレーチェル!俺が、ヘッペシュが、老ピューマが帰ってきたぞ!」

「こいつすげえぞ。見込みあるぜ本当。」

「そうだな。ジェネリック老ピューマくらいなら名乗れると思うぜ。」

「誰がジェネリックだ。まあ、そうなんだが。」

冗談を交えつつ、今度は声色を硬くして話し出した。

「いくぞ!奥にいるんだろう、奴らの援軍!」

「航空支援はできるだけするぜ!出来ることは機関砲くらいだが」

そして銀翼という銀翼が急降下ののち森へと機銃を乱射した。その様子をアデムは黙って見ている。レーチェルが言って居たアテとはこれか。エル隊長以外のそれは、ようやく気がつくのだった。この人間の、まるで占い師か何かのような洞察力に。

「どうしましたアデム将軍。続き、どうです。」

アデムの怒りのボルテージは、火山の如く一気に点火して爆発した。そうして、剣を持ち直すと叫び出す。

「ええええい姦しい!!八つ裂きにしてくれるわああああ!」

こうして最後の一太刀が振るわれた。レーチェルはその須臾に、どうすべきかを考える。1番、2番。適切なものはなんだ。選択肢は、まるで紐の如く無数にある。その中に、正解は1つか2つしかない。

「………」

だがレーチェルが繰り出したのは誰もが予想しない最後の手段。その一撃を両手で耐えたのだ。びりりとした衝撃が直に伝わる。そして、そのまま拮抗状態を続けて最後には。

支えていた左手を外し、サーベルでその一撃を受け流したのである。勢いの余ったアデムは転倒し、最後の抵抗を放つが意味はない。そして、首にあえなくサーベルをかけられてからようやく気付いたのだ。すでに、作戦で嵌められていたと。ここでもし、このレーチェルという人間を殺しても代わりがいる。であれば、この時間稼ぎに付き合うのはギャンブルでも何でもなく、「破滅の序曲」に過ぎなかったのだ。

「……くそっ!」

悪態を吐くアデムをよそに、残存兵の処理は進んでいった。青い空には、相変わらず銃声が響いている。

 

 

 

 

高速で地下牢を駆け降りるレーチェルとカナタ、そしてエル。この三人しか入れないほど、この城の通路は狭い。そして、奥へとずんずん進むとそこにやはり居た。

「モイジ将軍!モイジ将軍!私です!首相のカナタです!」

そのおどろおどろしい姿のカナタに驚きを隠せないモイジ。

「え!?カナタ首相!?レーチェル大臣!?何故ここに!」

「まあ、いろいろあるんだけどね。話せば長くなるけど…」

エルがそこで遮った。申し訳なさそうにレーチェルへと会釈する。

「話はあとです。それより、早くここを出ましょう。どうぞ、お召し物と武器です。」

「気が利くな。」

「食べます?まともに飲み食いして居なかったでしょう。」

レーチェルは水筒とパンを渡した。あまり食う気分でもないが、それに耐えきれず行儀悪く齧り付くモイジ。それを食べて気付いたのだ。

「これは、エレシアのものじゃあないか。」

レーチェルは驚愕の顔を浮かべた。

「え!?どうしてご存知なのです!」

「あいつは、よく兵舎にパンを売りにきた。だから味を知っている。これはエレシアのパンだ。」

その顔には少し、涙が浮かんでいた。

「あいつの父親は、死んだんだ。この戦いでな。」

「………」

しかしその時崩壊の音がした。この建物はいずれ崩れる。その時。

「いけない!ここには、魔獣を捉えてあるんです!」

「まずい!まさかそれが出てくるってわけじゃあないよね?」

「そのまさかが…」

カナタが言うと同時にレーチェルの肩に生暖かい液体が垂れる。恐る恐る振り返るとそこには。

「ウガアアアアアアアアアアアアアアアア‼︎‼︎」

「ピャアアアアアアアアアア出たアアアアアアアア!」

「落ち着け大臣!あれは魔獣だ!殺せば死ぬ!(?)」

「落ち着けみんな!私の盾ならば、魔法で防げる!」

有言実行。その通りに盾の力は絶大で、魔獣の邪悪なブレスは防がれた。

「今度はこっちの番だ!ファイア!」

エル隊長のスコーピオンが炸裂し、さらに続くレーチェルのショットガン。最後に決まったのは、モイジとカナタの斬撃。

「よおしっ!」

殊にカナタの剣は特別で、魔獣に対し特に強い。その光といったら、まるで太陽のように輝き眩く見えた。

「……いや、まだ生きている!」

近接二人組が危ない場面に、すれすれでエル隊長のスコーピオンが間に合い、魔獣は仰反るがまだ勝ちではない。

「ぐあああああああ!」

そうして、魔獣が暴走し始めカナタとモイジの剣を振り払った。残るは銃だが、弾がない。レーチェルも首を振るばかり。サーベルがあったはずだが、何処かに置いてきてしまった。

「どうしよう。」

「大丈夫だ!俺のナイフで刺す!カナタ首相、これになんかこう、つよーい魔法とかかけて!」

「分かりました!」

何やら呪文のようなものを唱えるカナタと、光を帯びてくるただのナイフ。それを医療用のテープで銃の先に巻き付ける。これで、簡易的な銃剣だ。

「よっしゃあああああ!いけえええ!」

噛み付く魔獣も知れず突撃する。そうして、死の読み合いが始まり、そしてすぐ終わる。その牙は、とうとうエル隊長の体を貫くことはなかった。代わりに、彼のナイフが魔獣突き刺さっていたのである。

「ふう……さすがカナタ首相だ。」

「え私なにm」

「そうですよカナタ首相素晴らしい!」

そして、あの時の様に耳を貸させて小声で伝える。

「貴方が、ギムで戦ったという事実が大事なんです。これで士気は爆上がり間違いなしですよ。」

全くこの型破りには、本当に呆れた。そして、牢獄を出ようとする。

「おい、卵だぜ。」

エル隊長が余計なものを見つけてくれおった。

「これは…あの魔獣がいつの間に?」

「おう、親殺し。」

「言い方やめてくれ。」

「責任持って面倒見ろよ!親殺し!ゴールデンカムイの杉元はちゃんと面倒見たぜ。」

レーチェルが変に揶揄うが、こちとら笑いごとじゃあない。こんな化け物の面倒なんて御免だ。

「食費が建設・運輸省の負担なら考えてやらんでもない。国防省ももちろん。」

あのヤーノシュがどんな顔するか見ものだ。

「と言う訳で、これ貰っていいです?」

カナタには、まさかいいえと言えるはずもない。ギム奪還、ロデニウスでの制海権、上空の安全。ここまでやってもらってどうとも言える立場じゃない。

「ええ、大丈夫です。大丈夫です。」

何より。疲れたのだ。

 

 

 

 

 

大統領府では、ヴィクトルとヤーノシュが大量の書面と向き合っていた。それは、この度捕虜から聞いたことの調書だ。

「また面倒なのが出たね、パーパルディア皇国。」

「ああ。頻繁に出てくる訳でないが、この国の名をピンポイントで出すと皆んな知っていると言う。」

ある書類には、こうも書かれて居た。「ロウリアの戦力は、パーパルディアの支援により成り立っている」とも。

「厄介だな。しかも列強で、周りの国を悉く植民地にし、他の国を蛮族と馬鹿にするそうだ。」

列強。何者かは存ぜぬし知らぬが、厄介な存在だと言うことは代わりない。ましてロウリアにヒーコラ言っている我々がどれだけ戦えるか。

「俺はわかったことがある。レーチェルが、これを『破滅の序曲』と例えて居た。」

ヴィクトルの言いたいことはわかって居たが、それでもヤーノシュは何も言わない。いや、言えなかったのだ。

「それを演奏するマエストロは、ハークロウリア34世じゃない。パーパルディアだ。」

そよ風が体を生暖かく撫でる。ドナウ川は、少し濁っている気がした。




あははははははははははは不合格だったらどうするのがいいんだ諦めるっていうのがぼかぁ出来ないんだあああ


すみませんでした。とりあえず、これからはなるべく早く上げます。これからも、「イシュトヴァーンよ永遠なれ」をご支持して頂ければ幸いです。

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