処女作ですので、お手柔らかにお願いします……。
デスノートという、名前を書き込めばその人物が死ぬ__まさに、神の如く簡単に命を操れる代物を、夜神月が手に入れてから二週間。
この日、月はノートを隠すための仕掛けを作り、その作業が一段落した所だった。
ノートの元持ち主である死神リュークが、仕掛けについてあれこれ聞いてくるので一通り説明してやり、月はパソコンを立ち上げる。キラの情報源は専らインターネットかテレビ、新聞から得ていた。
そうして、服役中の囚人以外の情報をインターネットで探していると……ふと、ある掲示板サイトが目に留まる。
サイトの見出しには「キラの代行者」とあり、どうやら匿名掲示板らしい。
サイトをスクロールしていくと、書き込み以外に「依頼」という欄がある。そこに人物の名前と顔写真、そして指定の金額を、管理人のK__カインに送ると、対象を殺してくれる。殺害対象はキラ同様、指名手配犯や前科者に絞っているようだ。
「フン……よく出来たサイトだな」
月は管理人Kの文字を睨み付け、鼻を鳴らす。キラと似た手法を取っているが、金儲けしたいのが丸見えだ。誰でも入りやすい額は詐欺の常套手段である。
月はこれを詐欺サイトだと断定し、興味半分でコテハンを「キラ」に変えてコメントを残すことにした。
59 キラ:お前は誰だ?
その瞬間、スレッドが高速で動き出す。自称キラの登場に、掲示板はワッと盛り上がった。
60 匿名:キラ!?
61 匿名:本物?
62 匿名:本物のキラ!?
63 匿名:特定班はよ
しかしどうやら、キラを名乗る者が現れるのは初めてではないらしい。
掲示板では本当にキラか?と早速考察が始まっていた。
彼らの予想通りの反応を鼻で笑い、そのままサイトを閉じようとして……しかし月は動きを止める。メンションでURLが送られてきたからだ。
送り主は、管理人のカインからだった。
87 K:是非この問題を解いてみてください
「問題……?」
不審に思うが、勝手にキラの代行者を名乗る不届者には裁きが必要だ。月はURLをクリックする。
<問1> キラの殺害方法は?
初めに出てきた問題に、月は片眉を上げる。馬鹿にしているのか?と思ったが、淡々と「心臓麻痺」と書き込んだ。それから、キラのニュースを追っていれば誰でも答えられるような問題がいくつか続く。
<問5> キラとLが対決した日付は?
<問8> キラによって犯罪発生率は何%減ったか?
しかし、10問目から問題の毛色が変わったことに気付く。
<問10> キラは心臓麻痺以外でも人を殺せるか? はい or いいえ
「……へえ」
ニュースだけでは知り得ない情報に、月は感心する。それから、デスノートの存在を確かめる設問や、デスノート所持者にしか解けない問題が続き易々とクリアしていく。
そうして、月は最後の問題に辿り着いた。
<問30> 死神は実在するか?
その質問に、月はフッと不敵に口角を上げる。そのままカーソルで「はい」のボタンを押し、これまでの回答を管理人のカインに送信した。
すると再び、カインからリンクが送られてくる。
「明日17時、新宿駅にて待つ……」
そこに書かれていたのは、待ち合わせの知らせだった。月は画面を睨み付け、思案する。
「(カインの目的は何だ?キラの熱狂的な信者なのか?……いや、それは無いな。完全にキラのやり方を真似している訳でもないし……やはり金儲けが目的なのか?)」
だがキラに会おうとする目的が判らない。幾らか予想はつくが……それでもやはり、本人に確かめる他ないだろう。
月はリンゴを貪るリュークを横目に見る。そして口端を吊り上げ、呟くように言った。
「まぁいい……全ては明日解ることだ」
翌日。学校帰り、月はカインとの約束通り新宿駅に来ていた。
携帯を弄りながら、周囲の人間を窺う。月の予想通りならば、相手もまたデスノートの所持者であり、死神を連れているだろう。
問題はどう相手を見つけ出すかだが……と、ふと目を上げると、目の前に人が立っていた。
顎下で揃えられた黒髪に、顔半分は黒いマスクで隠されている。
服装も、体型を判りにくいようにする為かオーバーサイズのパーカーを着ていて、性別がどっちかは判別が付かない。
月は訝しげに見遣る。すると、その人物はパーカーのポケットからリンゴを取り出した。そして徐に、月に向かって投げる。
___リンゴには「K」という文字が彫られていた。
それを見た瞬間、月は目を見開く。だが動揺も一瞬で、直ぐに優等生然とした微笑みを浮かべた。
「何だよ、遅かったじゃないか」
そう言いながら月はカインに近付く。カインはにこりと目を細めた。
「ごめんごめん、人混みで見つけにくかったんだ」
声も中性的で判別付かないな、と思いながら、月は話しかけ続ける。
「あまり時間がないけど、喫茶店にでも行く?」
「そうしようか」
そうして二人は、カフェチェーン店へと足を運ぶ。そんな二人を後ろから眺めながら、リュークはケケケ……と笑みを漏らした。
人が賑わうカフェに入り注文を済ますと、月はカインに鋭い視線を向けた。
「どうやって僕を見つけた?」
「……その前に、先ずはお互いの死神を見せよう」
心配ならノートを出すのはこっちだけでも構わない、と言うカインに月は逡巡するが、いいだろうとデスノートを取り出す。
そして、机の下で互いが互いのノートに触れると、漸く死神の姿が見えた。
カインの背後に憑く死神は顔半分が骨で覆われており、服装は全体的に黒い。同じく真っ黒なカインの背後に居ると、尚更背後霊のようだ。
骨の死神は月を見てニタリと笑う。
「ドーモ、オーエンだヨ」
「リュークだ、ヨロシク」
死神同士の挨拶を済ませると、カインはそれで……と背もたれに寄り掛かりながら月を見る。
「どうやって君を見つけたか、だっけ」
「……あぁ」
「そんなの簡単だよ、夜神君」
___名前を知られている!
その事実に緊張が走る。動揺を悟らせないよう平然を装うが、一気にあちらに天秤が傾いたことに、冷や汗が背を伝う。
焦りを隠そうとする月の様子に、カインは目を細めた。自分より優位に立つ人間に、だが無様を晒さぬよう月は構える。カインは笑いを噛み殺すようにして言った。
「死神とは"目"の取引ができる。この目で見た人は本名と寿命が判るんだ」
「……成程、ノートの所有者は寿命が見えないのか」
今度はカインが目を見開く番だった。少ないヒントから答えを導き出した月を見て、頭が良いんだねぇと感心したように呟く。
思ったことがそのまま口から出た様子は、ただの間抜けにしか見えない。気を取り直して、月はカインに尋ねる。
「僕が聞きたいのは3つだ。お前の名前と目的、そして動機だ」
「まるで警察の取り調べみたいだなぁ……」
カインはダルそうに頭を掻くと、ポケットから身分証を取り出して月に見せた。
「(黒鷲高等学校……公立の高校か。1989年生まれ、名前は落合眞……女?)」
学生証の顔写真には、今より髪が長いカイン__落合眞が写っている。
今はマスクのせいで顔半分しか判らないが、目元が同じだから本人だろう。
学生証を隅々まで確認し、カインに返す。
それで?と話の続きを目線で促すと、カインは話し出した。
「キラの代行者を名乗っていたのは、私がキラ信者だからじゃない。端的に言うと、金稼ぎとキラを見つけることが目的だった」
金稼ぎが主目的で、キラはその隠れ蓑に丁度良かったとカインは言う。
「キラを見つけたかったのは……単純に、どんな人か気になったからかな」
思ったより優等生で驚いたけど、と肩を竦めるカイン。そんな彼女を、月は内心で軽蔑した。
キラには「世の中を変える」という使命がある。しかしカインはただ「金が欲しいから」という理由で人を殺していたのだ。それはキラが今までに裁いてきた犯罪者達と何ら変わらない、最低のクズだ。
「(だが……こいつは使える)」
月には当然ながら劣るものの、頭の回転は悪くない。それに、デスノートが増えるのはかなりのアドバンテージだ。
利用出来るだけ利用して、用済みになったら切り捨てる。
そう考えた月は腕を組み、カインを見下ろした。
「僕と協力しないか、カイン」
「いいよ」
あっさり頷くカインに、月は虚を突かれる。ポーションをたっぷり入れたコーヒーを、カチャカチャ掻き回しながらカインは言った。
「キラとLなら、私はキラに賭ける」
「どうして?」
「同じノートを持ってるよしみだよ」
にんまりとカインの目が歪む。嘘くさい言い分だ。だが、協力してくれるならそれに越したことはない。
一先ず月とカインは連絡先を交換する。そして一言二言今後の予定を話し合った後、二人は解散した。