バズジャック事件から数日。
警察庁に配備されていたキラ事件の捜査本部は解体され、捜査員も五名へとかなり少人数となった。
キラ事件に関わることは、自らの死をも意味する。皆、命が大事なのは仕方ないことだった。
しかしこれは僥倖でもある。
何と、これまで画面越しでしか会えなかった「L」とついに対面するのだ。捜査員五名は、あるホテルのスウィートルームへと案内される。
持ち物検査など最低限の警備を抜け、部屋に入ると___
「お待ちしてました。私がLです」
目に濃い隈のある、不健康そうな青年が出迎えた。
草臥れた白のTシャツに、腰辺りで履かれたジーンズ。それにスリッパも履かずに素足と、とても世界的な名探偵とは思えぬ出立ちだ。
「……私は警察庁の夜神です」
困惑する面々の中、先陣を切って名乗ったのは、彼らの上司でもある夜神総一郎だった。それに続いて、他の面々も名乗っていく。
「ばーん!」
すると唐突に、Lは拳銃を形作った指を彼らに向けた。子供の遊びのようなそれに、警察の面々は困惑する。
Lは彼らの反応を観察するように、ぎょろりとした黒い目でじっと見た。
「私がキラだったら、あなた達は死んでいましたよ」
「なっ……!?」
そんなことはあり得ない、と言える状況ではなかった。
名前と顔が判れば、キラは人を殺せる。これまで、間違った名前を報道された犯罪者は殺されていないことが、それを証明していた。
「今後は不用意に名前を明かさないでください。命は大事にしましょう」
Lは続けて、横にあるテーブルを指し、そこに電源を切った携帯やパソコンを置くように指示した。そして彼らをテーブルセットに通し、自身の前にあるカップにコーヒーを入れる。一口飲むが好ましくなかったのか首を傾げ、ドボドボと角砂糖を入れた。
「あの、L……」
「私のことは今後『竜崎』と呼んでください」
Lはそう言いながら、ティースプーンでコーヒーをかき回す。
松田は続けて述べた。
「殺人に顔と名前が必要なら、犯罪者の報道を規制すればいいんじゃ?」
「そんなことをすれば、一般人が殺されます」
一般人が……?と疑問を浮かべる面々に、キラは幼稚で負けず嫌いだとLは言う。自分は同類だから解るとも。
Lの替え玉を殺し、挑発にはさらに強気な挑発で返す。自身に逆らう者は残らず殺す……と言わんばかりの相手に、報道規制をしたらどうなるか。それは火を見るより明らかだ。
そうしてキラの簡単なプロファイルを述べ、警察の面々から好感触を得られたLは、次にキラ事件に対する見解を述べた。
「キラは単独犯、前の捜査本部の情報を得ていた……そしてつい最近、協力者ができた」
協力者、という言葉に総一郎らはざわつく。
Lはマッキーを持ちテーブルに時系列を書き込んだ。
「12月14日FBI捜査官12名が日本に入り……12月19日にキラは死の前の行動を操るテストをしている……」
その間の5日間で、キラはFBIの存在に気付き、FBIの顔と名前を知るために実験をする必要があった。そして27日、FBI捜査官12名が抹殺されている。
「19日から27日……この間で、解っているだけでも23人が心臓麻痺で亡くなっている。この23人は、今までのキラのターゲットではない者も含まれています」
つまりキラは、FBIを消すのに罪の軽い者も殺す必要があった。23人も殺したのは、誰を使ったか解らなくするため……実際に利用したのは数人だろう。
故にキラは、14日から19日の間にFBIが調べていた人間でまず間違いないとLは言った。
そうしてこれまでの捜査を纏めた資料を渡すと、警察の面々は興奮気味に盛り上がる。それを呆れた顔で見ながら、Lは話を続けた。
「そして、協力者に関してですが……FBI捜査官は全員、偽のID手帳を持ち歩いていました。にも関わらず、12人全員が死亡している」
これから考えられることは……とLはコーヒーを啜る。
「キラにFBIの本名を知る手段があったか、もしくは協力者によって本名を知ったか……まぁ、前者の可能性は低いでしょう」
「しかし何故、協力者の存在があると判ったんです……?」
相沢の疑問に、Lはこれを見てくださいとパソコンにとあるサイトを表示した。サイトには大きく「キラの代行者」とある。
Lは「依頼」という欄をクリックした。
出てきた画面には、人物の名前、顔写真、指定の金額をサイトの管理人
キラによく似た手法の悪趣味なサイトに、総一郎らは顔を顰めた。
「このサイトに書き込まれた20人のうち、11人が前科付きの者でした。そして全員が心臓麻痺で死んでいます」
俄かに信じ難いことを告げられ、室内は再びざわつく。
Lの言うことが正しければ、そのカインという人物は、キラと同じ人を殺せる能力を持っていることとなる。
「唯一の救いは、カインはキラと違って金儲けが目的なことでしょうか。まだ交渉の余地があります」
「こ、交渉って……竜崎、殺人鬼と交渉する気ですか!?」
松田が食ってかかると、総一郎がそれを制した。
そして、Lに確認するように尋ねる。
「竜崎。もしカインに交渉の余地があれば、我々の側に引き込むということですか?」
「はい、そうです」
あっさり頷いたLに、松田は開いた口が塞がらない様子だ。
そしてLが推理の全貌を話すと、側に控えていた老紳士が手帳のようなものを配る。中を見ると、顔写真はそのままだが、名前だけが偽の警察手帳だった。
「捜査でやむを得ない場合は、これを使ってください。決して警察庁内では出さないようお願いします」
「わかった。竜崎、これからよろしく頼む」
総一郎が頭を下げると、それに続いて部下達も頭を下げる。
Lは変わらぬ表情で、「はい、よろしくお願いします」と頷いた。