高校は冬休みへと突入し、眞は暇潰しに「キラ代行者」のスレッドを眺めていた。サイト運営はそこそこ上手くいっており、おかげで貯金も結構貯まってきている。
そろそろ値上げしてもいいかもな~と思いながら画面をスクロールすると、一通のメールが届く。明らかに使い捨てのアドレスから送られてきたそれを、眞は躊躇いなく開いた。
件目:匿名
01100100 01111010 01100111 01110001 01101101 01110011 01110010 01111001 01101001 01111001 01101100 01101100 01101000 01110011 01110011 01101100 01100111 01101011 01100011 01100111 01110101 01101101 01110001 01100111 01101011 01111001 01110010 01110011 01110001 01100111 01110010 01111001
メールの本文には0と1の羅列しかなく、横から見ていたオーエンは首を傾げる。
「何だよ、コレ。いたずらメール?」
「いや。キラからのメッセージだよ」
眞は数字の羅列をコピーし、パソコン内のメモ機能にペーストすると、何やら計算を始める。
それを横から見ていたオーエンは「何やってんノ?」と尋ねる。眞はオーエンに目を向けず答えた。
「2進数で送られてきた数字を直すと英語になる。さらに二文字戻せば、ちゃんとした文章になるんだ」
「……よくわかんないナ」
「別に理解しなくていいよ」
キラに関するメッセージのやり取りをする際は、必ずサイトを通して行う。それに加えて、メッセージは全て暗号化するという徹底ぶりだ。
オーエンはうへぇと顔を歪めて、画面から目を逸らす。そうして暫く、解読を終えた眞は神妙な面持ちで画面を見つめた。
「FBI12名を始末……」
思い浮かべるのは、バスジャック事件で出会ったレイ=ペンバーだ。月のことだから、抜かりなく捜査官達を始末したのだろう。
その点は心配していないが、キラが直接的に動き回るのは不安に思った。
眞は同じように暗号化した文章を送り、パソコンを閉じる。
そしていつものパーカーの上にコートを羽織った。
「出掛けるノ?」
「うん」
短く返事をして、外に出る。空はどんよりと曇っており、凍てつくような風が肌を突き刺す。
何の気なしに外に出たが、どこか喫茶店にでも入ろうかなぁ……と眞は空を見上げながら歩いていると、ふと、前方に見知った人影が見えた。
___夜神月だ。隣には見知らぬ女性を伴っている。
眞は大きく息を吸い、声を張り上げた。
「夜神君!」
「……あぁ、落合さん」
振り返った月は目を丸くした後、肩の力を抜いて息を吐き出す。いつもと様子の違う彼女に、一瞬誰だか判らなかったらしい。
月をじっとり睨み付けた後、眞は隣の女性ににっこり微笑む。
「こんにちは、落合眞です!夜神君のお知り合いですか?」
「えぇ。間木照子です」
いつもよりテンションが高い眞に、月が訝しげな目線を向ける。眞は気にせずニコニコ笑って、間木の隣に並んだ。
「二人はこれから、どこかに行くんですか?」
「いえ、彼とはもう別れるところだったの」
「間木さんとは、警察庁で会ったんだよ。父の衣服を届けた時にね」
「へぇ~!間木さん、刑事さんなんですか?」
「……似たようなものね」
和気藹々と会話をしながら、眞はちらりと間木を見る。
彼女の頭上に浮かぶ「南空ナオミ」という文字は、間木照子というのが偽名だと如実に表していた。
……恐らく、間木という女性はキラの捜査をしている。そしてキラに関する重要な何かを掴み、偶然にも警察庁で月と会った。
全ては推測だが、彼女が偽名を使っているならば、自分がやることは一つだけだ。
眞は自分の役割を十二分に理解し、そして間木照子の本名を月に伝えるため、動き出した。
「それにしても、こんなに寒いと嫌ですねー。南の方はやっぱり暖かいですかね?」
「昔に沖縄に行ったけれど、確かに冬でも暖かかったわね」
「いいですねー、空も海も綺麗なんだろうなぁ」
取り止めのない会話を始めた二人に、何だ……?と月は言い知れない違和感を感じる。しかし違和感の正体を探るより先に、もうすぐ警察庁が迫ってきていた。あと五分もすれば着いてしまうだろう。
間木照子を早く始末しなければ、キラの情報が警察本部に伝わってしまう………!!
と、そこまで考えて、はたと気付く。月は眞の方を見た。彼女は楽しそうに間木と会話している。
……眞は死神の目を持っている。彼女が、間木照子が偽名であると気付かないわけがなかった。
月は間木と眞の何気ない会話を思い出す。いつもと様子が違う眞。間木照子は偽名……会話の中に何かヒントがあるのか。
『南の方はやっぱり暖かいですかね?』
『空も海も綺麗なんだろうなぁ』
『友達のナオミが言ってたんですけど……』
___月は、自身の勝利を確信した。
そして、ノートの切れ端にペンを走らせる。
南空ナオミ 人に迷惑が掛からぬ様、自分の考えられる最大限の、遺体の発見されない自殺の仕方だけを考えて行動し、48時間以内に実行し死亡。
そう書き終えると、ふっと間木__いや、南空ナオミの目から光が消えた。様子の変わった彼女に、眞はあれ?と首を傾げる。
「どうかしましたか?」
「……やらなければならないことがあるんです」
「警察庁には、行かなくていいんですか?」
「……えぇ。もう、いいんです」
そう言って、南空ナオミはどこかへと歩いて行った。
その背を見送りながら、月はぽつりと言う。
「……帰るか」
「そうだね」
空からは予報通り、しんしんと雪が降ってきていた。
「キラだから」って言う所、めちゃくちゃカッコイイですよね。
本編では都合によりカットしてます;;