喫茶店の奥まった席に、三人は座る。
頼んだコーヒーが届くなり、ミルクをドバドバ入れる流河に眞は内心げんなりした。
流河はカチャカチャとティースプーンでコーヒーを掻き回し、ぎょろりと隈の目立つ目を眞に向ける。
「それじゃあ、まずは落合さんに、キラの調査がどこまで進んでいるのかお聞きしたいです」
いきなり話を振られ、指先が強張る。
何から話すか……と考えながら、一度コーヒーに口を付ける。まずは段階を踏み、無難なことから話そう。
「私と夜神君の調査では、キラは単独犯。名前と顔が判れば人を殺せる……まぁ、ニュースで出ている以上のことはなかなか知れないかな」
「でしょうね。警察も情報規制していますから」
「……流河さんって、警察関係者なの?」
眞が月に尋ねると、月は苦笑して頷いた。眞はふぅんと頷き、引き続きキラの調査について話す。
「ニュースで知れないなら、後はネットでの調査が主かな」
これを見て、と携帯に「キラの代行者」のサイトを表示させる。流河がちらりと眞を見た気がしたが、眞は気にせず話した。
「このサイトに書き込まれた人は、ほとんど死んでることが判った。サイトの管理人がキラとは考えにくいけど、キラに関係があるんじゃないかって、調査中だよ」
「……成程。凄いですね」
それはどういう意味だ?と眞は片眉を上げる。だが表には出さず、全然進展がないけどねと困った表情を作った。そんな眞に、流河はニヤリと僅かに口角を上げて言う。
「もし、夜神君がキラだったらどうでしょうか?」
踏み込んだ質問だ。だが想定内の質問でもある。
眞は至って落ち着いて答えた。
「夜神君が?……まぁ、有り得ない話ではないよね。キラはなかなか尻尾を出さないし、犯罪者裁きを行っていることから正義感が強い。頭の良い夜神君なら、キラを完璧にこなせそうだ」
「落合さん、僕はキラじゃない」
「解ってるよ」
そう肩を竦めて、流河を見ると彼は不気味な目で眞を凝視していた。思わず目が合い、何?と首を傾げると、流河は親指を唇に当てたまま、面白がるように言った。
「落合さんは、夜神君がキラだとしてもおかしくない……そう言うんですね」
「……そうだね。夜神君なら可能かもしれない、という話だけど」
「十分です。それじゃあ、次は夜神君に聞きたいことがあります」
流河はそう言うと、ポケットから三枚の写真を取り出す。写真には遺書のような文面が写っており、それはデスノートを使って月が囚人達に書かせたものだった。
眞はそれを横目で見ながら、成程と思う。
写真の裏にあるプリント番号に気付かず、遺書を初めから意味の通る並べ方をしたらキラ濃厚……という訳だ。
だが、それを推理したとて、夜神月=キラにはならない。
どうするんだ……?と月の推理を聞きながら顛末を見守っていると、流河は「不正解」だと言った。
「不正解です。実は四枚目の写真があるんです」
四枚目の写真を加えると「Lしっているか りんごしか食べない 死神は 手が赤い」となる。明らかに偽物で、キラが送った文章ではないのだろう。
食い下がる月を見ながら、これは推理力ではなく月の反応を見ているんだろうと、眞は推測した。
それに月も気付いたのだろう、肩を竦めてコーヒーを啜る。
すると、流河は月にこんな事を訊いた。
「夜神君は、自分がLだとして。キラだと思われる人物に相対した時、どう確認しますか?」
「一般には報道されていない、キラにしか知りえない事を喋らせる……今、流河がしていることだ」
「……凄いですね」
流河は感心したように息を漏らす。曰く、警察関係者に同じ質問をした時、彼らは答えるのに数分を要した。
しかし月は間髪入れずに答え、そして流河の意図も見抜いている。
こりゃあ二人とも、互いを面白い存在だと思う訳だ……と眞は観察しながらコーヒーを啜った。
「はは、あんまり卓越した考えをしていると、キラだという疑いが深まるみたいじゃないか」
「はい、3%に」
しかし同時に、キラであってもなくても、夜神月と共に捜査したい気持ちが深まったと流河は言う。
そうして、流河が月に捜査協力を取り付けているのを静観していると、不意に流河と目が合った。
「私はできれば、落合さんにも協力してもらいたいと考えています」
「……私に?」
「はい。夜神君にキラの可能性があると考えたのは、落合さんだけでした。それに、先程見せていただいたサイトについて、我々も調査中なんです」
月と共に捜査本部に潜り込めるなら、願ってもない話だ。
しかし……と月を横目で見ると、彼は厳しい顔をして言った。
「流河、捜査に本格的に協力するなら命の危険が伴う。彼女をそんな危険な目に遭わせることはできない」
「……大丈夫だよ、夜神君。私もキラは捕まえたいし。流河さんが本当にLなら、捜査に協力するよ」
「ありがとうございます」
そう話が纏まったところで、流河と月の携帯が鳴った。
どうやら、月の父・総一郎が心臓発作で倒れたらしい。二人は急いで病院に向かうとのことで、この場は解散となった。
二人が乗ったタクシーを見送りながら、眞はぽつりと呟く。
「一瞬、夜神君に凄い剣幕で睨まれたんだけど……疑われた?」
「ククク、ざまぁないネ」
当然、この件はカインの所為ではない。