Lと接触してから暫く。眞が自室でテレビを見ていると、唐突にニュースキャスターが「キラからのメッセージ」がディレクター宛に届いたと話す。眞は怪訝な顔をして、画面を見つめた。
まず一本目のテープには、捕まった二人の犯罪者の死を予告するもの。予告通り、犯罪者達は心臓麻痺で死んでいる。
二本目のテープは、世界の人々に向けてメッセージを発信するという旨だ。
その前座に、二人の人間がテレビ局で、リアルタイムに死んだ。
「……こいつがノートを持っているのは、間違いなさそうだ」
ただ、やり方がキラと違う。
そもそも本物のキラならば、このように目立つことをする必要はない。
だとすると考えられるのは、この騒動は「キラ信者」によるもの。
不味いな……と眞は下唇を噛む。偽キラと夜神月が接触し、夜神月が偽キラを仲間にすれば、Lとのパワーバランスが崩れる。
「……ノートは三冊も要らない」
その為には、偽キラのノートを回収する必要がある。それには所有者に所有権を放棄させるか、ノートを譲渡させるか……もしくは、殺すしかない。
だが今は何より、情報が少ない。
眞はパソコンを開き、「キラ代行者」のサイトを立ち上げた。そこには既に先程の偽キラのスレッドが立てられている。
それを無視して、眞はメールボックスを開いた。幾つか新しく届いているメールがあるが、めぼしいものは無い。
「……偽キラはこのサイトを知らないのか?」
知っていたとしても、キラ本人でなければ興味が無いという事か。
……まぁ、あれだけ大胆な行動をするのだから、相当なキラ信者なのだろう。
目下の問題は、偽キラの動向をどう知るかだが……。
そう考え込んでいると、机に置いていた携帯が震える。着信は非通知だ。眞は躊躇いなく電話を取った。
『テレビを見たか?』
電話の相手は夜神月だ。眞は頷き、これからどうするのかを訊ねる。
すると、意外な返答が返ってきた。
『僕はこれから捜査本部に行く』
「……あぁ。捜査協力の話、本当だったんだ」
気のない返事をする眞に、疑っていたのか?と月は呆れたように言う。
そもそもあの青年がLだという確証が無かったのは、夜神月の所為だが……眞はそっと言葉を飲み込み、思考を切り替える。
あの不気味な青年が本物のLなら、近いうちに眞にも招集が掛かるだろう。
そうすればキラとカインの両方に、偽キラとLの状況が恙無く判るようになる。
そんなふうに考えて、眞はそういえばと口を開いた。
「偽キラだけど、殺していいよね?」
『……どんな奴かによるな。だが独断では殺すな』
いいな、と念を押されるが、眞の中ではもう決まっていることだった。
偽キラの出現は、ゲームの面白みを半減させる。
眞は適当に返事して、通話を切った。そして、我関せずを貫いていたオーエンを振り返る。
「ねぇオーエン。死神を殺す方法はないの?」
振り返ると、オーエンはシュークリームを食べていた。
クリームで顔をベタベタに汚したオーエンは、鬱陶しそうに眞を見る。
そのシュークリームは私が半額で買ってきたんだぞと、眞も負けじと睨み返す。
オーエンは溜息を吐いて、頬に付いたクリームを長い舌でべろりと拭った。
「死神は寿命を奪う存在ダ。だけど一人の人間に入れ込んで、寿命を伸ばす行為をするとその死神は死ヌ」
「ふぅん?つまり死神は、人間に肩入れしちゃいけないってことか」
「安心しなヨ、お前のことは絶対に見捨てるかラ」
「………それはどうも」
つくづくオーエンという死神は嫌味ったらしく、憎らしいことを言う奴だ。
苛立ちを片隅に、眞は偽キラを殺す算段を考え始めた。
数日後。父・総一郎からキラ捜査本部に招かれた月は、早速L(本部では竜崎)から先日のビデオテープを見せられていた。
「どうですか、月君。何か感じましたか?」
ビデオテープを見終わると、そう竜崎から尋ねられる。
月はそれに答えようとして、他の捜査員が何も言わない様子に違和感を覚えた。
彼らはじっと、月の推理を待っている。
「(そうか……また僕を試す気だな、竜崎……!!)」
月は竜崎の思惑に乗ってやることにした。ビデオテープのキラは、普段のキラのターゲットではない人物を殺した。
故に本物のキラではない、という推理を披露すると、捜査員らはワッと歓声を上げる。
「凄いですよ、竜崎の推理と全く一緒です!」
「あぁ、流石は月君だ」
松田や相沢の賞賛を聞き流しながら、月は竜崎に歩み寄る。
「竜崎、どういうことだ?また僕を試していたのか」
怒った様子の月に、しかし竜崎は弁解するでもなく「はい」と頷いた。
「はい。私の推理と月君の推理が一致していれば、それだけ信憑性も上がりますから」
「……」
そうして、竜崎は部屋の一角に月を連れて行き、頼みたい事があると言った。
「偽キラ宛に、本物のキラを装ったビデオを流します。月君には、キラになりきって原稿を考えて貰いたいんです」
竜崎からの要求に、月は内心それが本来の目的なのだろうと荒む。
だが、優等生としても捜査員としても、夜神月は断らない。
「判った。今日中でいいか?」
「はい。お願いします」
___それから数時間後、月は原稿を完成させた。
それを竜崎に見せると、彼はじーっと原稿を見つめながら首を傾げた。
「凄いです月君。本物のキラが書いたみたいですよ」
「ははっ、期待に応えられたかな」
「はい。ただ、この"Lを殺してもいい"という文言は抜かないと、私が本当に殺されちゃいます」
「本物のキラなら、Lは絶対に殺したいだろうと思ってね。まぁ、あとはそっちで調整してくれ」
そう言って伸びをする月の背に、竜崎が声を掛けた。
「落合さんの捜査協力の件ですが、彼女も近々、本部に呼ぼうと思います」
「……そうか。彼女も同じように、今回のキラは別物だと考えているようだったよ」
「そうですか……それで、月君に彼女の連絡先をお聞きしたいんです」
何だ、そんなことか。と月は携帯を取り出し、竜崎に眞の携帯番号を教えた。
ありがとうございます、と言うと、竜崎は自身の黒々とした目を月に向けた。
その視線に、何だ?と尋ねると、竜崎は口を開く。
「月君と落合さんは、どこで知り合ったんですか?」
「彼女のバイト先だよ。店員の彼女から話し掛けられたんだ」
「そうですか……どんな話題を?」
「キラ事件に関することだよ。彼女も僕も、初期からキラについて調べていたからね」
「落合さんは何故キラを追っているのでしょうか?」
「……さぁ、それは聞いたことがなかったな」
何でそんなことを聞くんだ?と月が尋ねると、竜崎は親指を口元に当てたまま答えた。
「いえ……落合さんと月君は、お互い友達になるようには見えなかったので、少々気になりました」
「失礼だな……」
「月君は友達いるんですか?私はいません」
「何で僕に聞いた」
こうして夜は更けていき、キラを装ったビデオレターがテレビに放映された。
ストックが早々に尽きたので、更新遅くなります……。