半端な気持ちで入ってくるなよ……Lifeの世界によぉ!! 作:まさみゃ〜(柾雅)
「我が神グランデ・モナルクよ、裁きの鉄槌を振り下ろせ!!」
男の人の声が聞こえる。
「踊れ龍星ェ! 死のダンスを!」
その声を聞いていると、懐かしさが湧き上がると同時に胸が苦し無くなる。
「ヒャーッハハハハハ! 苦しめ! 怯えろ龍星!
恐怖に支配され、戦慄の業火に身を焼かれる生き地獄!
かつてオレが味わった辛酸を、キサマも味わうがいい!」
ボヤける顔の男と対峙する龍星と呼ばれた男。
何度も見た謎の夢。
「……またあの夢かよ」
怠いがベッドから身体を起こす。
カーテンの隙間から差し込む陽の光を前に、目の前に垂れる前髪をかきあげる。
時刻は7時。
学校までの距離は近い方ではあるが急いで準備をしなければと思い、ベッドから出る。
「…………あ、今日休日か」
が、ベッドから出てしまってから今日が休日だと思い出す。
二度寝するにも、戻るのが面倒臭い。
仕方なく顔を洗いに部屋を出ると、あのアマ……じゃなかった、母の買った通販の
それに、クソ……じゃなかった、父が昨晩晩酌したのか、酒とタバコの臭いが鼻を刺激した。
「……テキトーに外ぶらつくか」
私服に着替えて寝衣を纏める。
どうせ今日は家の洗濯機は使えないだろうから。
「あのアマはともかくクソ親父は今日はずっと家にいるだろうし……はぁ、憂鬱だわ」
夜にコインランドリー行く事を確定事項にしつつ外をぶらつくために荷物を纏める。
財布とデッキ、そしてボードをショルダーバッグに積める。
「後は鍵を掛けて……っと」
自室の扉の施錠がしっかりと行われた事を確認して俺は家を出る。
玄関までの間、父のイビキが今から聞こえて来る。
どうやら酔って寝てしまったらしい。
起こしてしまわぬよう、最小限の音を立てて、やっと外に出る。
「……さて、夜までどこほっつき歩くか」
ポケットからスマホを取り出してあらためて時刻を確認する。
この時間ならMeeKingへ向かえばちょうど開店時間だろう。
だが、行ったとして今日は誰かいるだろうか。
まぁどうせあの人はいるだろうし今日こそはリベンジするか。
店に入るとセト店長が出迎える。
何がとは言わないが相変わらずデケェ……。
「おはよーございまーす」
「おはよ〜。今日はまだフツオくん来てないよ?」
客に対して真っ先に出るのがそれか?
まぁ、最近は何度も常連の中学生の子と一緒にリベンジしてるから何も言い返せないんだけど。
「来てないなら来てないでいいですよ。てきとーにカード眺めてるんで」
ストレージコーナーでカードを漁ったり、ショーケースに飾られてるカードを眺めたりする。
特に使う予定のないカードでも見ていて楽しい。
普段使っているデッキとは違う動きを、テキストを読んで想像しながら店を回っていると店の自動扉が開く。
ピンク髪のポニテ中学生の女の子。
「おはようございまーす!」
「あ、ユウキちゃんいらっしゃ〜い」
多分、と言うか確実にこの前の男と関わりがあるはずのブレイバー使い。
中学生だと言えど、彼女のカードの腕は侮れない。
まぁその強さの要因はあの人……普夫なのだろう。
俺も彼と関わるようになってからそこそこ力がついたと感じている。
一度も彼にはまともに勝ててないんだが。
そう考えると彼女、ユウキは勝率が2割もあるため尊敬に値する。
「あ、キョウカさん!」
「……おっす」
それにしても朝から元気だなぁ……。
ここに来る前に家で不快な思いをしたから余計にそう感じさせているのだろうけど。
「……なんだ?」
人の顔をじっと見て来る少女。
……いや若干下の方?
「あっ、いえ! えっと、そのぉ……そ、そう言えばキョウカさんとは一回もファイトしたことが無いなって思って!」
「そう言えばそうだな。まぁ俺はユウキよりも弱いけど」
何故か店長の方から信じられないような物を見るような反応をされる。
いや普夫との対戦の勝率見てみろよ。俺、勝率1割だから。
その1割も普夫の手札事故?なるもので俺の実力では無いし。
「何すか店長。その何か言いたげな表情は」
「ボクからしたら手札0でも動くデッキをまともに使う事ができる君が弱いなんて信じられないんだけど」
「そうです! だからそのデッキと一度ファイトしてみたかったんです!」
確かに変なデッキではあるけど、ただの<無手ノ悪魔>と<間抜け>の混成デッキだぞこれ。
いや、2種類のテーマを混ぜたデッキの前に『ただの』を付けるのはおかしいか。
「……そこまで言われたら受けるしかねぇか」
「っ! やった! よろしくお願いします!」
「GO! ブレイブ、勇気斬!!」
「ぐへぇ」
盛大に負けた。
今回のファイトはデッキとの共鳴はそこそこだったみたいだ。
序盤はしっかり土地や低コスト幻獣が来てくれていたが、やはり誘発札をデッキの性質上握れないのが辛い。
リベンジャーの自己蘇生効果やタフネスの高い幻獣でブロックしても、墓地に眠る仲間に支えられる
やはり全体除去を打つか刈り取られる前に相手のライフを刈り取らなければ勝ち目はないだろう。
「いやぁ負けた負けた」
「つ、疲れた……」
勝ったと言うのにユウキは疲れた様子を見せる。
確かに墓地効果のカードを考えないといけない分少しは頭を使うだろうが、それだけだ。
デッキを仕舞いながら店の時計で時刻を確認する。
「何で手札が0枚なのにあんなに動けるんですか!?」
「そう言うカードたちだからとしか言えないんだよなぁ……。まぁ簡単に言えば手札が0枚って言うリスキーな制約を課してる分デッキを直接操作する効果が多いんだよ、
あとコイツらがいるとライフデッキからカードがドロー出来なくなるし。
答えられる範囲で彼女の疑問に答える。
「デッキトップ操作出来るなんてズルい!!」
「だからそう言う奴らなんだよ」
それに手札0枚の時に発動しないと1ターン遅れて手札に加わることになるからいかに手札を早く0枚にするか考えさせられるし。
それのせいで魔石の<フェイク・ハンズ>が来てない状態ではキーカードを温存出来ない。
「そもそも何で手札を0枚として扱う効果が存在するんですか!!」
「言っておくがこの
あとパワーが強すぎてこの魔石、今制限カードだから。
流石に禁止カード送りはやめてくれよ。
「さて、そろそろ俺は飯にするけどユウキはどうするんだ?」
「え、もうそんな時間!?」
同時にユウキの腹の虫が鳴く。
少しの間の後、彼女は顔を赤くしながらお腹を抑える。
「あれだけ接戦したファイトだったしお腹も空くよね」
「……ファミレスでも行くか?」
俺の誘いにユウキは黙って小さく頷く。
店長にまた午後に遊びに来る事を伝えて俺たちはMeeKingを出た。
ファミレスまでの道中、ユウキからいつからカードをやっていたのか色々と質問される。
記憶が正しければ小学生の頃には触れていたはずなのでそう答えると、予想通りだったのか謎に納得された。
「まぁ昔使ってたデッキだし……あ?」
ふと、初めて触れたカードを思い出す。
何故かその時の記憶が曖昧だ。
それに、俺以外の人物の影がある。
「キョウカさん?」
急に立ち止まった事を心配してか、ユウキが声をかけて来る。
それと同時に俺の丁度横にある裏路地から見知った顔が現れた。
柄の悪い、ブレザーを着崩した金髪のやや筋肉質の男。
「よぉキョウカ」
「……?」
考えるのを一旦やめて、その人物を睨む。
覚えのある気配を纏う、俺の通う高校とは別の高校の制服を着た男子。
中学の頃絡んできた阿呆の1人。
確か……そうだ、葛屋だった気がする。コイツからの因縁は全く覚えてないけど。
「今日こそはあの時の雪辱を晴らしてやる!!」
「……ああ、まだあん時の事を根に持ってんのかよ。アレは元からお前が悪いんだろうが」
不穏な気配をユウキも察したのか、俺の方へと駆け寄る。
それと同時に男から、葛屋から闇が広がった。
「キョウカさん!!」
「下がってろユウキ」
面倒だが逃げられないためボードを構える。
もともと治安の悪い中学校、そして奴の進学先だったが、コイツが闇のカードを手に入れる事を想定していなかった俺が悪い。
まぁ、顔を合わせるまで忘れてたんだけど。
「違うんです! このファイトは──」
「俺が売られた喧嘩だよ。コレは」
葛屋の準備も終わったのか、奴もボードを構えて笑みを浮かべている。
以前のアイツのデッキは
だが、俺を捕らえるために取り出したカードは、一瞬だけ見えた限り記憶にないものだった。
「「ファイト!!」」
ボートが俺のターンを知らせる。
背後でユウキが何やら呟いているが、俺は今の手札から出来ることをするだけだ。
「レディ・アップキープ・ドローフェイズ。ライフデッキから2枚ドロー」
加わったカードはただの土地が2枚。
土地をセットして、1コストの<無手ノ悪魔 リベンジャー>を出して終了する。
「俺のターン、ドロー!! 土地をセットして、来い! <スーサイドポーン>!!
<スーサイドポーン>は出したターンでも攻撃できる! やれ!」
目隠しをした血塗れの兵士が現れる。
速攻能力を持っているのか、出したターンですぐに俺のライフを削りにきた。
「ライフで受ける」
土地が1枚増える。
手札がまだある状態でリベンジャーでブロックしても盾が無くなるだけだ。
今はどう早く手札を0枚にするか動かなければ。
「俺のターン、レディ・アップキープ・ドローフェイズ。メインデッキから1枚ドロー」
ライフデッキは引かない。
土地をセットして現在の使用可能コストは3。
現状、俺の手札は5枚。
「1コストで<間抜けな傭兵>を召喚。自分の手札を2枚捨てる。俺は<招来の契約>と<二重底の罠>を捨てる」
捨てるのは魔法2枚。
残りは2枚。何とかこのターンで手札を0枚に出来る。
「コスト2で魔法<葬送の契約>を発動。手札1枚捨ててデッキからカードを1枚墓地へ送る。俺は魔法<潜伏機関>を墓地へ」
下準備は終わった。
後は次のドロー次第。
本来なら確定でコーラーが引けるだろうが、このファイトではあり得ない。
だが今墓地へ送った魔法カードで無理矢理デッキを回すのだ。
「俺のターン、ドロー!! 土地をセットして<滴る血涙>を発動! 更に土地を増やす! そして<濁る儀式>だ!!」
あの時の男もそうだけどお前ら都合良く<濁る儀式>を引き当て過ぎだろ!!
増えたコストで騎士の姿をした幻獣を葛屋は召喚する。
「<ヴァルガーナイト>の召喚時効果、お前の土地一つ、次の俺のターンまでステイ状態にする! そんでやれ! <スーサイドポーン>!!」
「流石に<無手ノ悪魔 リベンジャー>でブロック」
悪魔と血塗れの兵士が死ぬ。
手札が0枚のためリベンジャーは蘇生されるが、なぜか葛屋の場には攻撃可能の状態で<スーサイドポーン>が立っていた。
「ハハッ!! <スーサイドポーン>は墓地へ送られたら後続を呼ぶんだよ!! やれ!!」
「チッ……ライフだ」
ライフデッキが削られる。
捲れたのは土地。
これで次の使用可能な土地は3つ。
葛屋はそのままターンを終えた。
「俺のターン、レディ・アップキープ・ドローフェイズ。ドローフェイズ開始時に墓地のコスト2魔法<潜伏機関>を除外して発動。コストは土地で支払う代わりにメインデッキのトップを3枚墓地に」
潜伏機関の効果は単純なデッキトップ操作。
選んだカードのクリーチャー・タイプが機械だった場合は追加効果があるが、そんなタイプのカードなんて入っているわけがないのでそこは無視をする。
「デッキのコスト4以下の幻獣カード1枚を選びデッキトップへ。そしてドローフェイズ、メインデッキから1枚ドロー」
仕込んだカードは当然<無手ノ悪魔 コーラー>だ。
手札に加わった瞬間、俺の場に悪魔が現れる。
「手札が0枚の時にドローで加わった<無手ノ悪魔 コーラー>はコストを支払わずに召喚できる。
そして召喚時効果を起動。ステイ状態にしてデッキからこのカードのコスト以下のカードか、名称に契約と記されているカードを1枚手札に加えるか墓地へ送る。俺はコスト3の魔法<昇格の契約>を手札に加える」
葛屋の様子を確認する。
奴はまだ余裕そうな表情を浮かべている。
「そのままコスト3を支払い<昇格の契約>を発動。場の幻獣一体を破壊して、その幻獣のコストより2つ大きい幻獣を手札に加える。コーラーを破壊して俺が加えるのは<無手ノ悪魔 ノーチス>だ。そしてノーチスは手札が自身のみの場合コストを支払わずに召喚できる」
「なっ!? 何なんだよその効果は!!」
やっと葛屋の表情が歪んだ。
どうやら俺のデッキがここまで動くとは想定していなかったらしい。
「どうした? 急に慌て出して何かあったか?」
奴の慌てる様に思わず笑みを浮かべてしまう。
「コレは闇のファイトなんだぞ!? 何でそんなに動けるんだよ!! 話が違ェじゃねぇか!!」
そういえば闇のファイトは共鳴率を奪うんだったけか?
その考えは間違えでは無い。実際普段よりも回りくどい動きをしているし。
だが、あえてそれを伝える必要はないだろう。
「さぁ? 何でだろうな?
ノーチスの召喚時効果、デッキからカードを1枚トップへセットする。そして、俺の手札が0枚ならドロー出来る。まぁ今回は置くだけでドローはしないがな」
コーラーをもう一体出して召喚しても、コストが足りなくて手札に加えたカードをプレイ出来ないし、次の返しのターンに使用したいカード的にも墓地で使用できるものではないからな。
それと、コーラーのサーチ効果は召喚したタイミングでしか発動出来ないから壁要因で出すのが勿体無い。
「……バトルはしないでこのまま俺はターンエンドだ」
攻撃可能な傭兵も今は壁要員に回す。
そう言えばさっきからユウキが何か独り言を呟いている気がするんだがどうしたんだ?
視線だけ背後に向けると、彼女の隣に何かがいる。
正確には何も見えないのだが、確かに何かが存在する気配がするのだ。いや、こっわ。
「俺のターン……っ!!」
不意に葛屋が笑みを浮かべる。
どうやらいいカードを引けたようだ。
「土地をセット!!」
これで葛屋の土地が4になる。
攻撃しなければ相手の土地が増えるスピードが抑えられるため、大型幻獣を召喚させにくく出来るが、土地が3つ以上になると最低限できることは出来てしまう数だ。
「やれ! <スーサイドポーン>! <ヴァルガーナイト>!」
メインで何もせずに攻撃を行う。
ポーンは後続を呼ばれるのが面倒なため通して、ナイトの攻撃をノーチスで阻む。
「バカめ!! <ヴァルガーナイト>には【必殺】能力がある!!
そして<スーサイドポーン>が相手のライフを減らしたこの瞬間! コスト3支払い、瞬間魔法<ブラッド・プロモーション>を発動! ポーンを墓地へ送って手札・デッキのいずれから<ジェノサイドクィーン>を一体召喚!!」
血塗れの兵士が苦しむと、破裂して中から異形が現れる。
大剣を地面に突き刺し、騎士の様な荊の甲冑を身につけ、光背を持つ辛うじて女の体型の幻獣。
「<ジェノサイドクィーン>は全ての
つまりポーンの【速攻】、ナイトの【必殺】、そしてまだ見えていないビショップとルークの効果も持っているということになる。
9/9のスタッツにコストは9という大型の幻獣。
ブロックしようにもノーチスはナイトによって破壊されたため、ライフを守る幻獣は無い。
「ライフだ……ぐっ!?」
「キョウカさん!!」
衝撃で一瞬、視界が歪む。
それを気合いで踏ん張り、捲れたライフデッキを確認する。
土地が4に呪言も4、そして魔石が1……!!
「呪言<焼畑>で効果の無い土地3つをライフデッキに、そして<錬金術の下準備>……!!」
「ちっ、運の良いやつめ……」
墓地の魔石を回収してデッキトップを<契約>カードに仕込み直す。
残りの呪言は発動する必要はないため発動はしない。
そして葛屋がターン終了の宣言をする。
「俺のターン……!!」
いつもの宣言も忘れてメインデッキからカードを引く。
手札に加わったのは呪言で仕込んでおいた契約の名を持つカード<未来視の契約>。
効果は2ドローの後、2ターンの間ドローが出来ないと言うもの。
「まずは魔石<フェイク・ハンズ>をセット。この効果により俺の手札は自分のターンの間0枚として扱い、相手ターンに次の俺のレディフェーズまで手札を好きなタイミングで全て除外できる」
クィーンの前にポーンの攻撃で土地が1増えていたので現在俺がこのターン使用可能な土地は6つ。
妨害が怖いが今使える手札は1枚しかない為関係無い。
「コスト3支払い魔法<未来視の契約>を発動。効果で俺はメインデッキから2枚ドローできる」
僅かに鼓動を感じる。
「ドロー!!!!!!」
鋭い銃声と共に、葛屋の<ジェノサイドクィーン>が倒れる。
俺の背後には死神を連想させるような装いの、悪魔の角を生やした骸骨頭のガンマンが銃を片手で構えていた。
その銃口にはすでに硝煙が立ち上っている。
「コスト1魔法<クイックドロー>の効果は幻獣の破壊。だが、手札が0枚の時に加わったこのカードはコストを支払わずに即時使用でき、如何なる耐性を無視して破壊する。そして破壊した幻獣の効果を無効にして除外する」
手札はあと1枚あるが、魔石<フェイク・ハンズ>の効果により0枚のため、この魔法は本来の
「なっ!? だが俺の場には【必殺】を持ってる<ヴァルガーナイト>がいる!!」
「コスト3支払い、魔法<魔抜けし者の招喚>を発動」
効果はデッキから<間抜け>または<魔抜け>の名称を持つ幻獣のリクルート。
この効果で俺はデッキから<魔抜けし降霊術師>を場に出す。
「<魔抜けし降霊術師>の効果、俺の墓地の魔法を一枚除外してその効果を得る。俺は<招来の契約>を除外してその効果を発動!!」
自分の場の幻獣を破壊してデッキから大型の幻獣を呼び出す。
破壊するのはもちろんリベンジャー。
そしてデッキから呼び出すのは──。
「
破壊を司りし神に従う聖なる三叉の
<魔滅ノ槍 トリ・スーラ>!!」
本来なら発動前にコストを支払わなければならないが、コピーによる効果の発動の為対価は踏み倒せる。
そしてその身に絡まる鎖を壊しながら現れる白銀色の三つ首の龍。
「トリ・スーラの第一の効果! 召喚時に相手の手札・場・墓地からカードをそれぞれ1枚ずつ除外する!!」
「なっ!? <無手ノ悪魔>じゃないだと!?」
トリ・スーラから光の槍が三つ放たれる。
一つは残る手札2枚のうちの1枚。
一つは場に残っていた<ヴァルガーナイト>。
一つは墓地の<スーサイドポーン>1枚。
「これで俺はターンエンド。そしてエンド時に<招来の契約>の効果により呼び出された幻獣は墓地へ送られる。が、ここでトリ・スーラの三つ目の効果が発動。場から離れる場合、俺のメインデッキのトップ3枚を墓地へ送り、トリ・スーラ自身を場に残す」
召喚酔いの為、トリ・スーラを場に出しただけで終わったが奴の布陣は崩した。
それに、手札もそこまで良くなかったようで、エースを消しただけで奴の表情は焦りで満ちている。
「お、俺のターン!!」
葛屋の土地が増えるが……幻獣を出すべきか迷っているらしい。
確かに今のライフなら俺の場にある幻獣で全て削り切ることはできないだろう。しかし、俺のデッキトップがそれを解決する札だったら? 墓地にはアイツにとって幸いな事に、デッキトップを操作する効果を持つカードはない。
「……クソッ!! <ウッスールーク>!!」
判別不能までに腐った肉体の動物と、それが牽引する砦のような車。
操縦者は既に事切れているのか、骨のような何かが車に引っかかっているだけ。
持っている効果は【守護】と攻撃ができないと言うテキスト。
ただし、攻撃できない代わりにターン終了時に同名幻獣の攻守を共に2ずつ増えていくようだ。
現在はまだ1体かつスタッツが0/4なので、エンド時には2/6となる。
同名の幻獣を出される前に俺のターンで退場してもらおう。
「俺のターン、レディ・アップキープ・ドローフェイズ。
トリ・スーラの第二の効果、墓地の魔法1枚を除外してメインデッキからカードを1枚ドロー……!!」
引いたカードを確認する。
そのカードは兄が遊びで入れていたカード。
他に見かけた<無手ノ悪魔>使いは入れていないテーマ内カードの一つだ。
念の為相手の残りライフを確認する。
……俺のリーサルターンは近い。
「コスト3支払い<無手ノ悪魔 デス・ガンナー>を召喚」
現れるのは<クィックドロー>の効果発動時に現れた死神ガンマン。
彼、デス・ガンナーは召喚時、俺の手札が0枚なら相手の手札を一枚墓地へ送る効果を持つ。
その効果で奴の少ない手札を撃ち落とし次の効果を起動する。
「幻獣カード、ヒット。よって追加効果で自身を破壊して相手の場の幻獣1体を道連れにする」
「なっ!?」
<ウッスールーク>をデス・ガンナーが自身の命を銃弾にして撃ち抜く。
銃弾が命中した<ウッスールーク>の足元からは大量の亡者が溢れて、墓場へ引き摺り込んでいった。
それを見ていたユウキは口を抑えて吐き気を催していた。ゴメンね。
「バトルだ。リベンジャー、トリ・スーラ」
リベンジャーの1点とトリ・スーラの7点で合計8点のダメージ。
一気に葛屋のライフを削ったが、若干残してしまった。
だがこれで良い。既に仕込みは終わった。
「……クソッ、なんで回復用の呪言が来ねぇ!!」
土地に4枚、魔石が3枚。そしてドローを行う呪言が1枚。
しかし、ドローしたカードが良かったのか、カードを確認した葛屋は笑みを浮かべる。
「ターンエンド。エンド時、トリ・スーラの第二の効果の続きが発動する。俺はデッキの上からカードを1枚墓地へ送る」
「ハハッ! このターンで削りきれなくて残念だったなぁ、キョウカァァアア!!」
葛屋にターンがまわる。
メインデッキからドローを行い、土地を増やす。
先ほどよりもプレイイングに勢いがある。よほど良いカードを引き込めたのだろう。
俺の背後からはユウキが心配そうにこちらを見ている。
「コスト7魔法<最期の血弾>!! このターン攻撃ができねぇが相手ライフに3ダメージ!!
そして俺の場か墓地に<ジェノサイドクィーン>が存在するならそいつを除外して攻撃力分上乗せだ!!
ハハッ!! ザマァネェなキョウカ!!!!!!」
「キョウカさん!!」
前のデッキもそうだったが、葛屋はバーンカードをよく使っていたために今回もそんなカードを使うと思ってコイツを墓地に用意しておいて良かった。
……序盤に墓地に送っておかなかったのは決して忘れていたわけでは無い。
「【瞬間発動】だ。墓地の<無手ノ悪魔 デス・ガンナー>の効果。俺が効果ダメージを受ける際、コイツ自身を除外してバーンダメージを0にする。そして相手は以下の効果を適応するかどうか選択できる」
俺の目の前に現れた<ジェノサイドクィーン>が大剣を振り下ろす寸前で静止する。
そして、葛屋の顳顬に銃を突きつける骸骨ガンマン。
「なっ……!? どうなってやがる!!」
「1つ、即座にエンドフェイズに移行する」
デス・ガンナーがリボルバーの撃鉄を起こす。
「1つ、俺にドローをさせる。もし、俺が引いたカードが幻獣カード以外なら俺は無効にした効果ダメージ分のライフを失う」
耳音には自分の心音、腹の底からは熱を感じる。
何故か葛屋が怯えているが大した事では無いだろう。
「もし、幻獣カードならば無効にした効果ダメージの倍のダメージをお前に与える」
「お前……!! 何でそんな状況で笑っていやがる……!!」
確かに口角が釣り上がっている感覚がある。
ファイトは大詰め。今の効果でどちらかが確実に負けることは確定している。それを運に任せる馬鹿と思われているのだろう。
「何怯えてるんだよ葛屋。お前だって中学の頃センコーに隠れて学校内でファイトギャンブルを運営してただろ。負けたら全てを失う馬鹿げた遊びをよぉ……。
あ、そういやお前、イカサマがなききゃギャンブルもまともに出来ねぇ腰抜けだったか」
思い出してきたアイツの過去の栄光で煽る。
そして奴の指を引き金まで誘導させるのだ。
「安心しろよ。トリ・スーラの効果の所為で俺のデッキは削れ過ぎた。
だから幻獣があと何枚か、正直俺もわからない。
ならばお互いの勝率は半々、そうだろ?」
初めはイカサマ無しで賭け事が上手かった奴ならば必ず乗る。
未だに縋っているであろう過去と、自覚しているであろう己の醜いプライド。
それを刺激してやれば……。
デッキに指をかける。
これで俺の勝利は確定した。
「ドロー……。引いたカードはコイツだ」
葛屋に見せるように引いたカードを掲げる。
コスト1、
「……チッ、ヤキが回ったか」
銃声が響くと同時に葛屋が膝から崩れる。
そして、パラパラと俺たちを覆っていた闇が崩れて外が見えてきた。
誰かが通報したのか、既に周囲にはファイトポリスが待ち構えているようだ。
「いやー……マジで巻き込んですまんかったわ」
「い、いえ、大丈夫です! って違くて何で闇のファイトなのに勝てたんですか!?」
アクシデントの所為で昼時がズレて、やや人が少ないファミレスでユウキと駄弁る。
彼女はどうして俺が共鳴率を奪うと言われている闇のファイトで勝てたのか不思議なようだ。
「あー、共鳴率だっけか? あれって都市伝説みたいなものだろ?
まぁ最近の研究じゃ実際にあるみたいだけど」
あ、初めて頼んだけどこのパスタ美味しい。
「そ、そうですけど……怖くないんですか? 実際にダメージ受けたら痛いですし……」
「……何故かはわからんがここ最近そう言った輩に絡まれるんだよ」
因みに先日は君に因縁持ってたであろう奴をぶっ飛ばしたよ。
その事を伝えると、やはり初心者狩りをしていた阿呆を成敗したのはユウキだった。
「それにしても最期の引き、凄かったですね!」
「あーアレ? アレ、確定で幻獣カード引けてたんだよ」
そう言いながら俺は一枚のカードを机に出す。
そのカードは序盤墓地に送っていた魔法カード<二重底の罠>。
「瞬間魔法ですか?
えーとなになに? 効果は……『①相手ファイターがカードをドローする時に発動できる。そのカードを墓地へ送る。②自分がドローを行う時、墓地のこのカードともう一枚カードを除外して発動できる。自分墓地のカード1枚を自分のデッキトップに置く。』……はぁあ!?」
イカサマをしていたんだよね。
因みに聞き取れなかったのは宣言する時に葛屋が大声で叫んでたから聞こえにくかった。
だから俺は悪くない。
「因みにこのイカサマギャンブル、茂札には初見なのに普通に対応されて負けた」
この後再戦したが普通にユウキに負けた
【補足】葛屋の使用カードについて
登場パック:鮮血の盤上遊戯
モチーフ:チェス
テーマ名こそ存在しないが、名称からチェスがモチーフだと分かる。通称、血ェス。
同パックの収録カードにはチェスモチーフの他に将棋モチーフが本パックのストーリーで敵対国として収録されている。
幻獣はそれぞれ駒の点数がコストであり、キングはプレイヤーが該当するため存在しない。
魔法の一部にはチェスのキャスリングやプリモーションなどの特殊ルールの名を持つものがある。(例)<ブラッド・プロモーション>
2026/01/22(改稿)
カード名の記載ミスのため修正
2026/01/26(改稿)
前話含めライフドローに関するルールミス発覚のため修正
・ご指摘ありがとうございます!