魔弾の王と戦姫 IF STORY   作:マシュ・マック

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第一章 蘇る魔弾
若者は戦場でかの国に思いを馳せる


  NoSide

 

「敵軍およそ五千に対してこちらは二万五千以上・・・か。よくもまあこれだけの兵をかき集めたもんじゃ」

 

「レグナス王子殿下の初陣だから、というのは本当なのですか?」

 

 ブリューヌ王国とその東の隣国、ジスタート王国が刃を交える戦場、ディナント平原に向かう途中、青年ティグルヴルムド=ヴォルン、ティグルと、初老の騎士、マスハス=ローダントは、馬を並べて進ませながら話をしていた。

 

「事実じゃろうな。国王陛下が王子殿下を溺愛されているのは誰もが知っている。今度の戦にしても、子供の喧嘩に親が出てくる様なものじゃが、殿下の初陣を飾るには丁度良いものじゃろう。まあ、わしらは後方でおとなしくしておればいいのじゃからな」

 

「・・・・・・・・・」

 

「ティグル?」

 

「え!? あ、ああ。そうですね・・・」

 

「・・・・・・、ティグル」

 

「はい?」

 

「やはりおぬし、今度の戦は気乗りしないのじゃな?」

 

「ッ!」

 

 マスハスの問いにティグルの表情が陰る。

 

「・・・・・・・・・、思う所が無い、と言えば嘘のなります。ジスタートには色々と世話になりましたし・・・」

 

「やはりか・・・。それだけ四年前の旅がお主に大きな影響を与えたという事か」

 

「はい。ところで今回の戦、敵の指揮官は・・・」

 

「うむ。ジスタートの七戦姫の一人らしいぞ。十六という若さでありながら常勝不敗。剣の腕も優れており常に先頭に立ち剣を振るう様から『銀閃の風姫(シルヴフラウ)』、『剣の舞姫(メルティス)』等と呼ばれているらしい」

 

(ん? 十六? 風? 剣?)

 

 ティグルはマスハスの言葉に出て来た単語の幾つかが気になった。

 

「マスハス卿。その戦姫の名前、あと治めている公国は分からないでしょうか?」

 

「名はたしか、エレオノーラ=ヴィルターリアといったの。類い稀な美貌の持ち主だそうじゃ。治めている公国はライトメリッツ。お主のアルサスとヴォージュ山脈を隔てて接している国じゃ」

 

 返って来た答えにティグルは目を見開いた。

 

「どうしたティグル、この戦姫がどうかしたのか? もしやお主、会った事があるのか?」

 

「いえ。俺がジスタートを旅していた時、最初に訪れたのがライトメリッツなんですが、その時に公国を治めていたのは、アルテミシアという女性だった筈だと思いまして・・・」

 

「ほう」

 

 ティグルの言葉を聞いたマスハスは興味深そうな顔をしながら自身の顎髭を撫でる。

 

「ふむ・・・。わしはジスタートの事には詳しくないから何とも言えんが、恐らくお主が旅を終えてブリューヌに戻ってきた後で変わった、と考えるのが妥当であろうな」

 

「かもしれませんね。そういえばアルテミシアさん、生まれ付き体が弱いと言っていました。母上と同じで・・・」

 

「ティグル・・・」

 

 ティグルの脳裏に四年前の思い出が蘇る。当時、自分に良くしてくれた姉・・・、いや、彼女の大人びた雰囲気から、自分が九歳の時に亡くした母の面影を見た女性の姿が。

 そしてもう一つ、マスハスの言った中に気になった名前があった。

 

(エレオノーラ・・・)

 

 その名を聞いたティグルの脳裏に、今度は旅の途中で出会った傭兵団の中にいた銀色の髪の少女の姿が浮かぶも、ティグルはそれを打ち消した。

 

(まさかな・・・。単なる傭兵団の一員でしかない彼女が公国を治める戦姫になるなんて・・・)

 

「まあ、いずれにせよ。後衛に配置されるわしらは余程の事が無い限り、戦姫に会う事は無いじゃろう。ならばせめて口に出さず、心中で無事を祈る位なら誰も咎めんじゃろう」

 

「そうですね・・・。ありがとうございます。相談に乗ってもらって」

 

「何、気にするな。さて、もう間もなくディナント平原が見えてくる。気を引き締めよ」

 

「はい!」

 

 マスハスからの激励を受け、ティグルは気持ちを新たにし、ディナント平原を目指した。

 

 

 

 

 

 この後、平原に到着したブリューヌ軍はジスタート軍の奇襲を受け大敗。ティグルはジスタート軍の指揮官の捕虜となる。

 そしてこれが、新たなる英雄譚の序章(プロローグ)である事を、まだ、誰も知らない。

 

 

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