前回の投稿から半年弱が経過しましたが、漸く完成しました。
久し振りの投稿であるにも拘らず、今回メインヒロインであるサーシャの見せ場はそこまでありません。
寧ろ別の戦姫の見せ場の方がメインです。
それではどうぞ。
NoSide
時はティグルがルーリックからアルテミシアの手紙を受け取った時まで遡る。夕食を食べ終えたティグル達は昔話を交えた談話を再開していた。
「それにしても本当に驚いたよ。まさかエレンやミラやリーザが戦姫になっていたなんて・・・」
「おいおいティグル。それはさっきも言っていただろう? また同じ事を言っているぞ。まあ、分からんでもないがな」
「当時の私も、自分が戦姫に選ばれるなんて、夢にも思っていませんでしたからね」
「あら、私は違うわよティグル」
「え? そうなのか、ミラ」
エレンやリーザとは違った返事をしたミラを、ティグルは意外そうな目で見る。
「ええ。私の場合、母や祖母も戦姫だったから、私もそうなんじゃないかって、何となく思ってたの」
「母や祖母も・・・って、戦姫って世襲なのか?」
「違うわよ」
さらりと返すミラに困惑しながらティグルはサーシャの方に視線を移し、そんなティグルの様子にクスクスと小さく笑いながらサーシャは口を開いた。
「ティグル、ジスタートの戦姫は
「え?」
サーシャの言った事がいまいち理解出来ず、ティグルは更に困惑する。
「えっと・・・、サーシャ。それってどういう意味なんだ?」
「言葉通りだよ。竜具が自ら主を選んで、選んだ者の前に現れて戦姫に選ばれた事を告げて、それを受け入れたらその時から選ばれた者が戦姫になる。これがジスタートの戦姫の選定法なんだ。故にジスタートの戦姫は全員その出自が異なるんだ」
「そんな中で私の家は何代にも渡ってラヴィアスに選ばれているのよ」
サーシャとミラの説明を聞いてティグルは感心する。
「象徴である竜具が自ら主人を選ぶ・・・、なんか不思議だな」
「そうだね。因みに戦姫に選ばれる前の僕は流浪の旅人で・・・」
「私が傭兵団『
「私はとある領主に仕える騎士の娘で・・・」
「私がライトメリッツ貴族の落胤」
「そして私はジスタート王家の傍系の貴族の娘でしたわ」
サーシャが戦姫になる前の自分を話したのを皮切りに、エレン、ソフィー、リーザ、ティナも順に自分の出自を明かした。
「因みにこの場にいないブレスト公国の戦姫、オルガ=タムはブレスト東端の草原に住む騎馬民族の長の孫娘だったと聞いていますわ」
「オルガ!?」
ティナの口から出たオルガの名前に反応し、ティグルは思わず座っていた椅子から立ち上がる。
「ティグル? 彼女に何か?」
「ティナ。もしかしてそのオルガ=タムという戦姫の特徴は、薄紅色の髪と黒真珠のような瞳じゃないか?」
「ええ、そうですけど・・・」
「どうしたのティグル? まさか、彼女とも面識があるとでも言うの?」
「ああ」
ティグルの予想外の返事に質問したミラは勿論、これにはサーシャ達も驚きを禁じ得なかった。
「放浪中、ブレストを訪れた時に彼女、というよりは彼女の身内に馬上での弓の扱いの指導やアドバイスをしてもらったり、色々と世話になったんだ」
「そ、そうなんだ・・・」
ティグルとオルガの意外な接点にサーシャ達は苦笑いを浮かべる。
「あらあら、これはつまり、ティグルは七戦姫全員と面識を持っている。という事になるのよね」
「七戦姫全員と面識を持つなんて、テナルディエ公爵やガヌロン公爵でも難しいというのに・・・」
「いや・・・、それについては俺もかなり驚いてる。少なくとも俺が四年前の旅の時に面識を持った戦姫は、アルテミシアさんとサーシャとソフィー、後ティナだけだと思ってたから・・・」
「「「「「「「「「・・・・・・・・・」」」」」」」」」
室内に何とも言えない気まずい空気が流れる。
「そ、それにしても! あの時は本当にお見事でした。ティグルヴルムド卿」
「あの時?」
場の雰囲気を変えようと、やや不自然ながらもルーリックが話を切り出す。
「訓練場で戦姫様を狙った刺客を捕えた時ですよ。三百アルシン以上の距離があったにも関わらず寸分たがわず足を射抜いたその技量。まるで魔弾の射手のようでした!」
「魔弾の射手? それは何だ?」
ルーリックの口から出た聞き覚えの無い言葉に、ティグルは首を傾げる。
「ご存知ありませんか? 魔弾の射手というのはここ数年ジスタート各地で流行っている類まれな弓の腕を持つ旅人を主人公にした物語のタイトルです」
「へぇ〜。ジスタートには弓使いが主人公の物語があるんだな。その辺はやっぱりブリューヌとは違うんだな」
「そうだな。だがルーリックが言った通り、確かにティグルはあの物語の主人公に似てるな」
「そうなのかエレン?」
「ああ。物語の中に、主人公が三百アルシン離れた的に矢を命中させる。という場面があるんだが、昼間のお前の様は正しく物語の主人公のそれに近かったぞ」
「へぇ〜。・・・って、どうしたんだティナ? そんなにニコニコして」
ティグルがふとティナの方に視線を向けると、何故かニコニコ顔をしたティナがティグルを見ていた。
「ああ、ごめんなさい。予想していた言葉が出てきたのでつい・・・」
「予想していた言葉?」
「ええ。ルーリック、エレオノーラ。あなた達は先程ティグルが魔弾の射手の主人公のようだと言いましたね?」
「え? あ、はい!」
「ああ。それがどうかしたのか?」
「あなた達が言ったことは当たらずと
「逆?」
「ティグルがあの物語の主人公に似ている。のではなく、そもそもあの物語自体がティグルをモデルに書かれている。という事です」
「何だって?」
ティナの言葉に最初に反応したのはエレンではなく、サーシャだった。
「どういう事だヴァレンティナ。あの物語がティグルをモデルに書かれているだって? もし仮にそれが本当だとして、どうして君がそれを知っている?」
一見平静を保っているように見えるサーシャだが、内心では驚きを隠せずにいた。
そんなサーシャの内心に薄々気付いているティナは更なる事実を告げる。
「知ってて当然です。あの物語を
「何だって!?」
衝撃の事実に今度こそ驚きを露わにし、椅子から立ち上がるサーシャ。
更にエレン、ミラ、リーザもサーシャと同様に驚きの余り椅子から立ち上がったおり、リムとルーリックも立ち上がってはいないが、驚きを隠せずにいた。
「それは本当なのヴァレンティナ!? あなたがあの物語を編纂したって・・・」
「ええ。正確には私一人ではなく、私以外にもあと二人、あの物語の編纂に携わった人物がいますわ」
「誰なんですの? その二人というのは?」
ティナを睨むように見るリーザ。そんなリーザを全く気にせず、ティナは平然と話す。
「一人は先代のライトメリッツの戦姫アルテミシア」
「アルテミシア様が!?」
思わぬ所で自分の嘗ての主の名が出てきた事に驚くルーリック。
「そしてもう一人が・・・」
途中まで言った所でティナは一度区切り、ある人物に視線を向ける。
「そこにいるソフィーヤ=オベルタスです」
「何ぃ!?」
「それは本当なのソフィー!?」
ミラからの問いに対し、ソフィーは困ったように、それでいて愉快そうに微笑んだ。
「どうして教えてくれなかったんだソフィー!?」
「どうしてと言われても・・・。誰も訊かなかったから、としか答えられないわね」
「「「「・・・・・・・・・」」」」
あっけらかんと答えるソフィーを、エレン、ミラ、リーザ、サーシャは非難するように睨み、リムとルーリックは驚きの余り呆然とし、ティナはそんな彼女達の様子を愉快そうに眺めていた。
「え〜っと・・・、すまん。状況がよく分からないんだが・・・」
心底困惑したような表情で手を挙げるティグル。
そんなティグルに微笑みながらティナが口を開く。
「順序を追って説明するとこうなりますね。まず第一にこのジスタートにはあなたに似た弓使いを主人公にした作者不明の物語があり、それはジスタート各地で読まれている。第二にその物語は元々あなたの四年前の放浪の旅をモデルに描かれていて、物語の編纂者の一人である私はそれを知っていた。最後に私以外に先代戦姫アルテミシアとソフィーヤが編纂に携わっていて、その事を知らされていなかったエレオノーラ、リュドミラ、エリザヴェータ、アレクサンドラの四人が黙っていたソフィーヤを睨んでいる。というのが今あなたが置かれている状況です。お分かりになって?」
「あ、ああ。ありがとうティナ。分かりやすく説明してくれて・・・」
「どういたしまして」
若干表情を引きつらせながらも礼を言うティグルと、再び微笑むティナ。
そんな二人の状況が面白く無いサーシャは口を尖らせながら言葉を発した。
「それよりもヴァレンティナ。どうして君はティグルの旅を物語にしたりしたんだ?」
「確かにそれは俺も気になる。何でなんだ?」
「そうですね・・・。初めはただの余興のつもりでした」
「余興?」
「ええ。ティグル、あなたはアメスの村を覚えていますか?」
アメスの村。その名前が出た時、ティグルは少し目を見開き、同時に当時出会った子供達と、その保護者の女性の姿が、彼の脳裏に浮かんだ。
「ああ。覚えているが、それがどうかしたのか?」
「あの物語のそもそもの始まりは、あの村の教会の子供達が書いた絵本なんですよ」
「なっ!? あの子達が!?」
「ええ。四年前、あなたに救われた子供達は、救われた恩とその勇姿を忘れまいと、出来事を絵本にしました。それを私と、偶然その場に居合わせたアルテミシアとソフィーヤの二人が目にして、その時にソフィーヤ達がティグルと顔見知りだと知って興味を持ち、子供達に許しをもらって、私達三人でそれぞれ知っている事を文章に起こし、編纂したのがあの『魔弾の射手』です。その後、完成した物語を各々の公国に持ち帰って、それとなく広めたのですが・・・」
ここでティナは一度区切って、一息つく。
「予想以上に物語が評判になり、気が付いたらジスタート国中に広まっていた。というのが実際の所です」
「そうね。実際私もシアさんも魔弾の射手の流行り具合には流石に驚いたわ」
「因みにですが、アメスの村では現在、あれを読んだ吟遊詩人が作った歌が人気を集めていますわ」
「歌!? そんな物まであるのか!?」
エレンが再び驚きの声をあげ、サーシャ達もエレン同様に驚きを露わにしている。
更にこの事は知らなかったのか、編纂者の一人であるソフィーもエレン達と一緒に驚いている。
「既にオステローデ各地で歌われているらしく、物語同様、国中に広まるのも時間の問題かと」
何て事無い様に言うティナにどう返していいのか分からないティグルは困った様な顔をする。
「もし私でよろしければ、今ここで歌って差し上げましょうか?」
「えっ?」
「いいのかい? ヴァレンティナ」
突然のティナからの提案に訝しげな顔をしながら尋ねるソフィーとサーシャ。
「ええ。実は私もあの歌を気に入っているので。それでどうします?」
「どうしますって・・・」
ティグルは頭を掻きながらサーシャ達の顔を見回す。
ティグルにはその顔に「ぜひ聞いてみたい」と書かれているように思えた。
「えっと・・・、じゃあ、お願いしようかな」
「承りましたわ。では・・・」
笑顔で椅子から立ち上がったティナは数回深呼吸をし、息を深く吸い込み、歌い始めた。
ここでは『Schwarzer Bogen』(TVサイズ)をお聞きください。byマシュ・マック。
ティナが歌い終わった後、ティグル達はティナに心からの拍手を送った。
「驚いた。凄く良かったよ、ティナ」
「まさかあなたにこんな才能があったなんて・・・」
ティグルとソフィーの賛辞に微笑みながらティナは席に着いた。
「ヴァレンティナの歌も確かに良かったけど、この歌も素晴らしい物でしたわ」
「ええ。あの物語にピッタリの。正に名曲と言える物だったわ」
「君の言う通り、確かにこれは間違いなく流行るよ。ヴァレンティナ」
リーザ、ミラ、サーシャも歌を高く評価している。
「それはそうとティグル。先程から話に出てきたアメスの村というのは何だ?」
「え? ああ。アメスの村は「待ってティグル」ティナ?」
エレンの質問に答えようとしたティグルにティナが待ったをかけた。
「実は、私が今回あなたに会いに来たのは二つ理由があるの。一つはあなたをオステローデに迎え入れる事。まあこの話については追い追い進めて行くとして・・・」
「進めんでいい!」
ティグルの勧誘を諦めていない事をさらりと口にするティナに、エレンが釘を刺す。
「もう一つの理由なんですけど、ティグル。あなたに頼みたい事があるんです」
「頼みたい事? 俺にか?」
「ええ。ティグル、あなたの四年前の旅の話を聞かせてほしいの」
ティナの突然の頼みに、ティグルの思考は一瞬停止した。
「え〜っと、ティナ? 何で急に俺の旅の話を聞きたいと思ったんだ?」
「簡単ですわ。あなたが私の歌を聞きたいと思ったのと同じ様に。興味があるからです」
「・・・・・・・・・」
屈託ない笑顔で答えるティナに、ティグルは困惑する。
「それにどうやらあなたの話を聞きたいのは私だけではないようですよ?」
「え?」
ティナに言われてティグルがサーシャ達の方に視線を向けると、サーシャ達の目がキラキラと輝いていた。
丸で「自分も聞きたい!」と言うように。
「・・・・・・・・・。はぁ〜、分かったよ。ただ、言っとくけど、面白いかどうかは保証出来ないぞ」
諦めたように言うティグルに、サーシャ達は「構わない」と言うように頷く。
こうして、ブリューヌの若き伯爵、ティグルヴルムド=ヴォルンは自分が四年前の旅の中で見聞した事を語り始めるのだった。
魔弾の王と戦姫 IF STORY。久し振りの最新話でした。読んでいただきありがとうございます。
本当ならもう少し早く投稿したかったんですが、就活で執筆時間が中々取れず、更に間が空いた所為でスランプになってしまい、思うように進みませんでした。
次回の投稿は全くの未定ですが、それでも構わないという方はどうか気長にお待ちください。
感想、誤字脱字指摘等、お待ちしています。