魔弾の王と戦姫 IF STORY   作:マシュ・マック

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皆さん、新年あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。
さて、今回から始まります、今作オリジナルストーリー、ティグルのジスタート放浪旅。その第一話を新年初投稿とさせていただきます。
また、今投稿に伴い、タグを追加しました。
それではどうぞ。


旅立ちと出会い

  NoSide

 

 朝日が昇ってまだ間もない早朝。ブリューヌ王国の北東に位置するアルサス。その中心都市セレスタの門の前に数名の人影があった。

 

「それじゃあ、父上、マスハス卿、ティッタ、バートラン。行ってまいります」

 

 必要最低限の荷物を纏めた袋と矢が入った矢筒、黒い弓を持った少年、ティグルヴルムド=ヴォルン。彼は今日、自分が生まれ育ったアルサスの地を離れ、遠い未知の場所に旅立つのだった。

 

「ティグル、道中気をつけてな」

 

「若、旅の無事を心から祈っとります」

 

「ありがとう。マスハス卿、バートラン」

 

「ティグル様・・・」

 

 初老の騎士と従者の間を抜けて、目に涙を溜めた少女がティグルの前に現れる。

 

「ティッタ」

 

「・・・、必ず、必ず無事に帰って来てください!」

 

 縋るように抱きつくティッタに、ティグルは優しい微笑みを浮かべながら彼女の頭を撫でる。

 

「約束する。俺は必ずここに帰る。だからお前も体には気をつけるんだぞ」

 

「・・・・・・、はい」

 

「ティグルヴルムド」

 

 ティッタの後ろから男性の声が聞こえる。声のした方を見るとそこにはティグルの父、アルサスの現領主、ウルス=ヴォルンがいた。

 

「父上・・・」

 

「ティグルヴルムド、此度の旅がお前にとって実りあるものになる事を、私は切に願っている」

 

 ウルスはティグルをじっと見つめ、自身の右手をティグルの頭に乗せ、優しく撫でた。

 

「父上・・・。行ってまいります」

 

 父の手が頭から離れた事を合図に、ティグルはウルス、マスハス、バートラン、ティッタに向けて頭を下げてから荷物を背負い、セレスタの街を後にした。

 

「ティグル様〜!! 絶対! 絶対帰ってきてくださいね〜!!」

 

 遠ざかるティグルに向けてティッタは精一杯の言葉を送る。

 ティグルもそれに応えるように、弓を持つ右手を空に向けて突き出す。

 

「・・・・・・。それにしてもウルスよ、本当に良かったのか?」

 

「ああ。この旅から無事に帰還した時、ティグルヴルムドは確実に成長している。あれが本気で将来私の後を継ぎ、アルサスを治めるというならその成長は必要不可欠だ」

 

「しかし・・・、何もわざわざ隣国のジスタートにやらなくてもよかったのではないか? それに家宝の弓まで持たせて、もし万が一の事があれば・・・」

 

「その時はその時だ」

 

 マスハスの言葉を遮るようにウルスは言葉を紡ぐ。

 

「もしあれが旅の途中で弓を無くしたならば、それもまた運命。少なくとも俺はティグルの成長にはあの弓が必要だと考え、同時にここブリューヌではその成長は成し遂げられないと考えた。ただそれだけだ」

 

「ウルス・・・」

 

「何、心配はいらん。あいつは必ず帰ってくる。一回りも二周りも大きくなってな」

 

「そうか・・・。お前がそういうなら、わしはもう何も言わん。お前がティグルを信じるように、わしもあいつを信じよう」

 

 言葉を交わしながら互いに笑いあうウルスとマスハス。

 彼らはティグルの影が見えなくなるまで見送り続けた。彼の成長と帰還を信じて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ティグルSide

 

 アルサスを発ってから十日が経ったある日、俺はジスタートを目指し、ヴォージュ山脈を越えようとしていた。

 

「道が下り坂になってきたってことは・・・、もうジスタートに入ったのか?」

 

 だとしたらここからは少し気をつけて進もう。俺はそう思いながら坂を下り始めた。

 しばらく歩いていると、少し離れた所から草の揺れる音が聞こえた。音のした方を見ると、そこには一匹の狐がいた。

 

「仕留めればしばらくは食べられるな」

 

 矢筒から矢を一本引き抜いて弓につがえ、狙いを定め、矢を放つ。

 矢は吸い込まれるように狐に向かって飛んでいき、見事命中した。

 

「よしっ!」

 

 直ぐさま俺は狐が倒れた所まで行き、狐が息絶えている事を確認すると狐を持ちあげて辺りを見回し、すぐそばに小川の流れた開けた場所を発見。俺はそこで先程の狐を解体し、食事にする事にした。

 俺は狩った狐を毛皮と肉と骨に分け、骨を近くの川の水で丁寧に洗い、数秒ほど手を合わせてから骨を川に流した。

 これは昔母上に聞いた異国の猟師の習わしで、猟師が狩った獣に対して自分が生きていく為に命をもらう事への感謝の気持ちを伝える為のものだとか。

 骨を川に流した後、俺は火を起こして狐の肉を焼き、十分火が通ったのを確かめてから塩を振って味を整える。

 狩った獣の肉を焼いて塩を振っただけの単純な料理。だが俺はこれが好物だった。ちなみに俺は肉では鳥肉が一番好きだ。

 食事を終え、残った肉を袋に仕舞い、後片付けを済ませた俺が再び山を下り始めようとした時だった。

 

「何だ? 向こうの方が騒がしいな。しかもこの音、動物の足音じゃないな。これは・・・、人間? しかもかなりの人数だな・・・」

 

 通ろうとした道から少し外れた獣道の方から物音が聞こえてきた。その音は普段の狩りの時に聞く動物の足音とは違っていたため、俺はそれが人間の足音だと分かった。

 

「集団の狩猟者、・・・じゃないな。幾ら何でも音を立て過ぎだ。何かあったのか?」

 

 音の正体が気になった俺はその方に目指し、獣道を進んで行った。

 しばらく進むと少し開けた崖のような所に出て、俺はそこから崖下を覗いた。

 

「あれは!?」

 

 そこには正規兵と思わしき装備を身に纏った三十人ほどの集団が、十人ほどの盗賊と思わしき薄汚れた身なりの集団を取り囲んでいた。

 そして盗賊のリーダーと思わしき男が、集団の先頭で女の子を捕まえ、首にナイフを突きつけていた。

 その光景を目の当たりにして俺はおおよその状況を理解した。

 恐らくあの正規兵と思わしき集団はジスタートの軍隊であの盗賊達を追っていて、盗賊団は女の子を人質にとって彼らから逃げようとしているのだろう。

 

「完全に囲まれているな。状況的に見て盗賊団が逃げ切るのはほぼ無理だろうけど、いつ盗賊が女の子に危害を加えようとしてもおかしくない。下手をすればやつらはあの子を・・・。よし!」

 

 俺はある事を決意し、行動に移した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  アルテミシアSide

 

「近づくんじゃねぇ!! こいつがどうなってもいいのか!?」

 

「くっ・・・」

 

「見苦しいぞテメェら! お前らは完全に包囲されてる! もう諦めろ!」

 

「うるせぇ!! それ以上近づいたらこいつを殺すぞ!!」

 

「ひっ!」

 

「なっ!? テメェ!!」

 

「止めなさいアシュリー!」

 

「でもよセシル!!」

 

「・・・・・・、どうしますか? アルテミシア様」

 

 どうしますか? ね・・・。それは私が訊きたいわ、セシル。

 まさかほんの僅かな取り逃がしが、こんな事になるなんてね・・・。

 

「ア・・・、アルテミシアさまぁ・・・」

 

「大丈夫よミキーシェちゃん。必ず助けるから・・・」

 

 とは言ったもののこの状況、正しく最悪ね・・・。

 

「全員武器を捨てて道を開けろぉ!! こいつがどうなってもいいのか!?」

 

「うっ、うぅ・・・」

 

「止めなさい!!」

 

 どうする? 一度泳がせて・・・、駄目。ここで逃しても、次にミキーシェちゃんを助けられるチャンスがある保証は無いわ。どうしたら・・・。

 ミキーシェちゃんの身の安全を最優先に考えながら、どうにかこの状況を打開しようと思案を巡らせていたその時だった。

 何かが風を斬るような音が響くと同時に・・・、

 

「ぎゃあっ!!」

 

「きゃっ!?」

 

 ミキーシェちゃんを人質に取っていた盗賊が悲鳴をあげると同時に、ミキーシェちゃんを突き飛ばした。

 

「セシル! アシュリー!」

 

 突然に事態に驚きつつも、セシルとアシュリーは私の考えを汲み取って行動してくれた。

 セシルはミキーシェちゃんを保護して、アシュリーは兵を率いながら盗賊の残党を全員討ち取った。

 

「アルテミシア様!!」

 

 盗賊の残党を無事に討つ事ができ、一安心した私の胸にミキーシェちゃんが飛び込んで来た。

 

「アルテミシアさまぁ・・・。私・・・、私・・・」

 

 ミキーシェちゃんは涙をポロポロとこぼしながら震えていた。やっぱり怖かったのね・・・。

 

「大丈夫。もう大丈夫だからね。ミキーシェちゃん」

 

「ばい・・・!」

 

 未だに震えるミキーシェちゃんの頭を撫でながら、私は先程の事態について思案を巡らせ始めた。

 

「アルテミシア様、これを」

 

 するとセシルが私に何かを見せてきた。視線を向けるとそれは血の付いた矢だった。

 

「それは?」

 

「ミキーシェ様を人質に取っていた男の肩に刺さっていた物です。恐らくこれが・・・」

 

「盗賊がミキーシェちゃんを解放した原因。と見て間違い無いでしょうね。その矢を射ったのはレオ?」

 

「いえ。レオとその部隊は今し方合流したばかりで、彼女達も矢など射っていないと言っています」

 

 レオじゃない。じゃあ一体誰が・・・?

 思案を巡らせながら辺りを見渡す。すると私たちが今いる場所から二百アルシン程離れた崖の上に人影を見つけた。

 

「セシル彼女をお願い! アリファール!」

 

 私はミキーシェちゃんをセシルに預け、アリファールの風の力で崖の上まで飛び上がり、人影を私自身と崖で挟むように着地、アリファールを突きつけながら人影の正体を確認した。

 

「え?」

 

 予想外の人影の正体に、私は思わず声を漏らしてしまう。

 私は人影が盗賊の仲間だと思っていた。けれど人影の正体は・・・、

 

「子供?」

 

 明らかに盗賊達とは無関係そうな、黒い弓と矢筒、そして旅の荷物と思わしき袋と狐の毛皮を携えた赤い髪の男の子だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  NoSide

 

(え〜っと、何でこんな事に・・・?)

 

 赤い髪の少年ティグルは戸惑いを隠せずにいた。

 盗賊に人質に取られた女の子ミキーシェを助けるためにティグルが放った矢は彼の狙い通り、盗賊に命中。盗賊はミキーシェを解放し、指揮官と思われる金髪の女性アルテミシアはその隙を逃す事なく盗賊達を一人残らず討ち取った。

 それを確認したティグルは安心し、この場を立ち去ろうとした時、突然突風が吹きティグルは思わず腕で顔を覆い、風が止んで腕をどかすと、そこにはさっきまで崖下にいた筈のアルテミシアが目の前にいて、何故か意外そうな顔をしながら自分に剣を突きつけていた。

 ティグルは混乱する頭を無理やり働かせ、ある一つの結論に辿り着く。

 

(もしかして俺、あいつらの仲間だと思われてる!?)

 

 自分たちの兵ではない見知らぬ男が崖の上から矢を射った。状況的にそう思われても仕方ないと考えたティグルは慌てて弓と矢筒と荷物を地面に置いて両手を上げ、なるべく荷物や武器から離れようとゆっくりと落ちないギリギリの所まで下がった。

 

「えっと、あの、信じてもらえないかもしれませんけど、俺、怪しい者じゃありません。抵抗もしません。だから、えっと、ひどい事しないでください」

 

 ティグルの言葉を聞いたアルテミシアはゆっくりと剣を下ろす。

 

「幾つか質問したいんだけど、いいかな?」

 

「え? あっ、はい! 俺に答えられる事であれば、何なりと」

 

「じゃあまず、君の名前は?」

 

「ティグルヴ・・・ティグル! ティグルです!」

 

「ティグル君ね。じゃあ次、君はどうしてここにいて、ここで何をしていたの?」

 

「えっと。俺、自分探しの旅をしていて、さっきまでこの近くの川辺で食事をしていて、何か騒がしかったから気になってここまで来て、あなた達があの盗賊らしき連中を囲んでいるのを見つけて、女の子が危ないと思ったので、ここから盗賊を狙って矢を射ました」

 

「じゃあこの矢を射ったのは君なのね?」

 

 アルテミシアはセシルから受け取った血の付いた矢を見せながらティグルに尋ね、ティグルはその問いに頷く。

 

(これと同じ矢羽の矢を持っていることから恐らく言っている事は事実。だけど・・・)

 

 アルテミシアは自分が持つ矢と、地面に置かれた矢筒の中の矢を交互に見た後でティグルの後ろ、即ち崖下の先程まで自分たちがいた所に視線をやった。

 

「ここから盗賊達がいた所まではおおよそ二百アルシンはあるわ。にも関わらず君は矢を射ったの?」

 

「はい。二百アルシンくらいなら、大丈夫だと思ったので・・・」

 

「・・・・・・・・・」

 

 ティグルの言葉にアルテミシアは少し懐疑的な表情を浮かべた。

 

(確かレオの今の最高記録は二百八十アルシン。だけど・・・)

 

「君、今幾つ?」

 

「十二です」

 

「・・・・・・」

 

(レオが彼と同じ歳、つまり十二歳の時の記録は確か百アルシン程。つまり彼は当時のレオの記録の倍の距離でも問題無いと言った・・・)

 

「あの〜」

 

「・・・・・・・・・」

 

 黙ってしまったアルテミシアにどう対応していいのか分からないティグルはオロオロする。

 

「セシル! 聞こえる!?」

 

 すると突然アルテミシアはティグルの後ろに向かって大声で叫んだ。

 

「聞こえます! 何でしょうか!?」

 

 今度は崖下から女性の声が聞こえてくる。

 

「盗賊達が被っていた兜を槍の先につけてそれを立ててちょうだい!」

 

「はっ!!」

 

 突然だったにも関わらず即座に動いた事から、ティグルはアルテミシアが部下から信頼されているのだな。と思った。

 そんな事を思っていると、いつの間にかアルテミシアが目の前まで来ている事にティグルは少し驚き、その後すぐ彼女の手の中にある自分の弓に目がいった。

 

「突然で悪いんだけど、君にお願いがあるの」

 

「え? お願い? 俺にですか?」

 

「ええ。君、さっきここから盗賊を狙って射ったって言ったよね?」

 

 ティグルは頷く。

 

「失礼かもしれないけど、私には少し信じられないの。だから証明して欲しいの」

 

「証明?」

 

「ええ。あれを見て」

 

 アルテミシアが弓を持っていない左手で崖下の方を指差す。

 彼女が示した方を見ると、そこには彼女の部下と思わしき茶髪の女性が、先端に兜がつけられた槍を持って立っていた。

 

「ここからあの兜までの距離は約二百アルシン。君の言う事が本当ならここからあの兜を狙える筈。それを見せて欲しいの。いいかしら?」

 

「は、はい・・・。構いませんけど・・・」

 

「ありがとう」

 

 アルテミシアは一言礼を言ってから弓をティグルに返し、ティグルは弓の弦を数回弾いた後、矢筒から矢を一本取り出し、矢に番える。

 

(この子・・・)

 

 この時アルテミシアはある事に気付いた。弓に矢を番えた瞬間、ティグルの表情が先程

までの惚けたものから打って変わり、獲物を狙う狩人のように鋭くなった事に。

 

 

 

 

 

「なあセシル、アルテミシア様は一体何をするつもりなんだ?」

 

「突然兜を槍の先につけろって言ってたけど・・・」

 

 一方こちらは崖下。盗賊達を討った後、アルテミシアの部下で、部隊長を務める長い茶髪の女性セシルは、同じく部隊長の灰色の髪の小柄な女性アシュリーと、黒髪の長身の女性レオノーラの質問を受けていた。

 

「さあ? でも彼女には何か考えがある筈よ。なら私は彼女を信じてそれに従う。それで十分よ」

 

 セシルは質問に答えてからすぐにアルテミシアの指示通り先端に兜がついた槍を立てるように持つ。

 

「あら?」

 

「どうしたのセシル?」

 

 アルテミシアの方に視線を向けたセシルが何かに気付いた事に気付いたレオノーラが彼女に尋ねながら、同じくアルテミシアの方に視線を向ける。

 

「あれ? 誰かいる」

 

「あん、誰かだ? アルテミシア様じゃないのか?」

 

「ううん、違う。あれ・・・、子供だ。男の子がアルテミシア様の側でセシルの方を弓矢で狙ってる」

 

「はぁ? 何だそりゃ?」

 

「成る程。そういう事ね」

 

 理解出来ないといった顔をするアシュリーとは対照的に、セシルはアルテミシアの指示の真意に気付く。

 

「多分だけど、ミキーシェ様を人質に取ってた盗賊に矢を射ったのはあの子よ」

 

「え!? あの子が!? あそこから!?」

 

「バカ言え! あそこからここまで二百アルシンはあるぞ! あんなガキにそんな事出来る訳・・・」

 

「アルテミシア様も同じ事を考えた筈よ。だから確かめようとしているのよ。それが本当なのか否か」

 

 セシルのその言葉に納得がいったような顔をするアシュリーとレオノーラ。刹那、セシルが槍を持っていた手に衝撃が走る。

 セシル達が慌てて槍の先端を見ると、そこについていた兜が無くなっており、アシュリーの近くには矢が突き刺さった兜が転がっていた。

 

「なっ!?」

 

「マジ・・・かよ・・・!」

 

「ホントに当てた・・・」

 

 セシル、アシュリー、レオノーラは崖の上の少年ティグルが二百アルシンの距離を物ともせず、標的を狙い撃ちした事に驚きを隠せなかった。

 

 

 

 

 

「えっと・・・、これで良かったですか?」

 

「・・・・・・・・・」

 

「ん?」

 

 舞台は再び崖の上に戻る。言われた通り、見事兜に矢を命中させたティグル。

 彼がアルテミシアの方を向くと、彼女は驚きを露わにしながら固まっていた。

 

「あの〜」

 

「え!? ああ! ごめんなさい! ちょっとボーっとしちゃって・・・」

 

 ティグルの呼びかけで気を取り戻したアルテミシアは剣を鞘に収め、ティグルの前まで近づき、彼に向けて頭を下げた。

 

「ええっ!?」

 

 アルテミシアの突然の行動に、ティグルは驚きの余り、声を上げてしまう。

 

「君の言った事を疑って、本当にごめんなさい」

 

「え!? いやいや別にいいですよ! 俺は全然気にしてませんし!」

 

 慌てふためきながら答えるティグルに、アルテミシアは頭を上げ、優しい微笑みを彼に向ける。

 

「ありがとう。優しいのね、君」

 

「え? いや、そんな・・・。別に俺は・・・」

 

 アルテミシアの微笑みに見惚れたティグルは顔を赤らめながら、恥ずかしそうに頬を掻いた。

 

「それで、えっと・・・、あなたは・・・?」

 

「あ! そういえば自己紹介がまだだったね」

 

 アルテミシアは軽い咳払いをして、簡単に身形を整えてから再び口を開いた。

 

「私はアルテミシア=ヴィルターリア。ジスタート王国の七戦姫の一人として、ここライトメリッツ公国の公主をしているわ。よろしくねティグル君。」

 

「ジ、ジスタートの戦姫様!? し、失礼しました!! 知らなかったとはいえ軽々しい態度を取ってしまい・・・、本当に申し訳ありません!」

 

「・・・・・・・・・」

 

 アルテミシアの立場を知ったティグルは慌てて跪いて謝罪し、そんなティグルにアルテミシアは困ったような、悲しそうな表情を浮かべた。

 

「あの・・・」

 

「そんな風に接するのはやめてほしいな」

 

「え?」

 

「私、自分の立場を知られて急に余所余所しくされるのは嫌いなの。だからティグル君もさっきみたいに普通に私に接してちょうだい」

 

「え? でも・・・」

 

「・・・・・・・・・」

 

「分かりました! ただ流石に年上に敬語を使わないのはまずいので、そこは勘弁してください!」

 

「ありがとう!」

 

 さすがに自分と彼女では立場が違いすぎると思い、申し訳ありませんがそれは。と言おうとしたティグルだったが、無言で涙目になるアルテミシアに思わず即答してしまい、答えたアルテミシアは表情を一変させ、花のような笑顔を浮かべてティグルの手を取り、ティグルはまた顔を赤らめてしまう。

 

「じゃあ早速だけどティグル君。あなたにお礼をさせて欲しいの」

 

「お礼、ですか?」

 

「ええ。あなたが助太刀してくれたおかげで、さっきの女の子、ミキーシェちゃんを無事に救い出す事が出来たわ」

 

「いや、そんな・・・。別に俺はお礼が欲しくてやった訳じゃ・・・」

 

「そうはいかないわ」

 

 アルテミシアからの謝礼をやんわりと断ろうとしたティグルだったが、アルテミシアはそれをバッサリと切り捨てる。

 

「あの時、もしティグル君が助太刀してくれなかったら、きっとミキーシェちゃんを無事に助ける事は出来なかった。ううん。もしかしたらあのまま人質に取られたまま連れ去られていたかもしれない。そうならなかったのは君のおかげ。だから私はその恩に報いたいの。これは私の戦姫としての矜持で、同時に私自身の信条でもあるの。だからティグル君、君には何が何でも私の気持ちを受け取って欲しいの。いいわね?」

 

「はい・・・」

 

 恐ろしく真剣な表情で語るアルテミシアにティグルは根負けし、彼女の謝礼を受け取る事を承諾する。

 するとアルテミシアは再び笑顔を浮かべて言葉を紡ぐ。

 

「ありがとう。じゃあティグル君。君を今から私の公宮に招待するわ」

 

 

 

 

 

 この時、ティグルの脳裏に旅立つ前、恩人であるマスハスが言っていた言葉が浮かんできた。

 

 

 

 

 

『良いかティグル。旅というものは時に予想だにしない事が起きる事もある。その事を肝に銘じておくんじゃよ』

 

 

 

 

 

(マスハス卿・・・、あなたの言った通りでした・・・)

 

 

 

 

 

 こうして旅に出て十日目、ティグルはジスタート王国が誇る七戦姫の一人、アルテミシア=ヴィルターリアの公宮に招かれる事になる。

 そしてこれが彼女達との深く長い交流の始まりになる事を、この時、ティグルはまだ、知らない。

 

 




新年最初の投稿でした。読んでいただきありがとうございます。
さて、突然ですが私マシュ・マックはこの度遂に就職が決まりました。
大学の単位も問題無く進んでおり、卒業制作も既に終了しています。
なのでこれから存分に執筆に使える時間が大幅に増えました!
ただ、私としても小説だけにその時間を使うのかと訊かれると、はい。とは答えられません。
一月には欲しかったゲームも発売するので、そちらに時間を使う事もあります。
ですがそれと平行して小説の執筆も進めて行こうと思うので、去年に比べて少しは更新頻度が増えると思います。
最後に前書きでも書きましたが、今年も魔弾の王と戦姫 IF STORY。そして私ことマシュ・マックをどうぞよろしくお願いします。
感想誤字脱字指摘等。お待ちしています。


余談ではありますが、本日今話投稿と同時に、私の短編集に小説を二話投稿しましたので、よろしければそちらもご覧になってください。

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