NoSide
「美味しい。やっぱりあなたの淹れる
「フフッ。ありがとうソフィー」
ジスタート王国、オルミュッツ公国の公宮内の中庭で、オルミュッツ公国の戦姫、リュドミラ=ルリエは、ポリーシャ公国の戦姫、ソフィーヤ=オベルタスに自前の紅茶をごちそうしていた。
「それよりソフィー、ライトメリッツに行こうとしてたみたいだけど、エレオノーラに何か用事でもあるの?」
エレオノーラの名を口にした時、リュドミラの言には棘があった。
「正確にはエレンにじゃなくて、エレンがこの間の戦で連れてきた捕虜に、なんだけどね」
「捕虜? エレオノーラが? 珍しい事があるものね。けどその捕虜とあなたに何の関係があるの?」
「手紙に書かれていた捕虜の名前に聞き覚えがあったの。だから本人かどうか確認しにね」
「へぇ〜、ソフィーにブリューヌ人の知り合いがいるなんて知らなかったわ。なんて人なの?」
「ティグルヴルムド=ヴォルンよ」
「・・・・・・え?」
「ティグルヴルムド=ヴォルン。ブリューヌ王国の貴族の息子よ。・・・・・・って、どうしたのミラ?」
ソフィーヤの口から出たティグルヴルムド=ヴォルンの名前に、リュドミラは目を見開き、固まっていた。
「・・・・・・、ねぇ、ソフィー。これからその人に会いに行くのよね?」
「え? ええ、そうだけど・・・」
「・・・・・・、私も一緒に行って良いかしら?」
「ええっ!?」
今度はソフィーヤがリュドミラの言った事に驚く。
「どうしたのミラ? あなたがエレンの所に行きたがるなんて・・・」
「別にエレオノーラに会いたい訳じゃないわ。寧ろあの女の顔なんて見たくもないわ」
「じゃあどうして・・・」
「・・・・・・、ソフィーと同じよ」
「え?」
「私もその名前に聞き覚えがあるの。それでどうなの?」
「私は別に構わないけど・・・、エレンがなんて言うか・・・」
「ソフィーが良いなら十分よ。エレオノーラの事情なんて知った事じゃないわ。じゃあちょっと待ってて。すぐ支度するから」
「あっ! ちょっと、ミラ!」
事情が掴めないソフィーヤを余所に、リュドミラは中庭を後にし、自分の部屋を目指す。
「ティグルヴルムド=ヴォルン・・・」
リュドミラの脳裏には四年前に出会った弓を担いだ少年の姿が浮かんだ。
「・・・・・・、あなたなの? ティグル・・・」
所変わってジスタート王国、王都シレジア、王宮の謁見の間。ここでは現在、ジスタート王と戦姫の謁見が行われていた。
「面をあげよ」
「はっ」
ジスタート王、ヴィクトール=アルトゥール=ヴォルグ=エステス=ツァー=ジスタートの許しを得て、レグニーツァ公国の戦姫、アレクサンドラ=アルシャーヴィンが頭を上げる。
「バルグレン、討鬼の双刃が主、アレクサンドラ=アルシャーヴィンよ。この度そなたを呼んだのは他でもない。そなたに頼みたい事がある」
「陛下のご命令とあらば、喜んで拝命いたします」
「うむ。そなたにはライトメリッツへ行ってもらいたい」
「ライトメリッツ、エレオノーラの公国ですか? 何故また突然・・・」
ヴィクトール王の突然の命に、アレクサンドラは訝しげな表情を浮かべる。
「アレクサンドラよ。そなた、ティグルヴルムド=ヴォルンを覚えておるか?」
「っ!!」
王の口から出た名前に、アレクサンドラは目を見張る。
「・・・・・・、ええ、覚えています。いえ、忘れる筈がありません。四年前、私の命を救ってくれた恩人・・・。彼がどうかしたのですか?」
「うむ。実はエレオノーラが先のディナントの戦いの戦勝報告に来た際、ティグルヴルムド=ヴォルンというブリューヌ貴族を捕虜にしたと報告した」
「なっ!? エレンがティグルを捕虜に!? それは本当なのですか陛下!?」
アレクサンドラは驚きの余り立ち上がり、二人を愛称で呼んでしまうが、直ぐに慌てて跪く。
「も、申し訳ありません! 見苦しい姿を・・・」
「構わん。そなたのあの若者に対する思いは余も理解している」
「っ・・・」
ヴィクトール王の冷やかしに、アレクサンドラは顔を赤くする。
「話を戻すぞ。そなたにはライトメリッツに行き、エレオノーラが連れてきた捕虜が本当にあの若者かどうか確かめてきてほしい」
「御意。では直ぐにライトメリッツに向かいます」
「ああ、待て」
立ち上がり、謁見の間を出て行こうとするアレクサンドラをヴィクトール王が引き止める。
「結果の報告は書状を使者に届けさせればそれで良い」
ヴィクトール王の言葉にアレクサンドラは首を傾げる。
「私が直接報告しなくてよろしいのですか?」
「そなたにも募る話があろう。報告は部下に任せてゆっくりと旧交を暖めるが良い」
「っ! し、失礼します!」
再び顔を赤くしたアレクサンドラは早足で謁見の間を後にする。
王宮を出た後、馬を走らせてライトメリッツに向かう。
(また、ティグルに会えるんだ!)
アレクサンドラは心底嬉しそうに頬を緩ませていた。
この時、ティグルの事で頭がいっぱいだったアレクサンドラは失念していた。
王との謁見の時、謁見の間には自分と王の他に人がいた事を。
そしてその中に、自分と同じ戦姫が二人いた事を。
「これはこれは、面白い話が聞けましたわ」
大鎌を持った戦姫は、その場から一歩も動かずに謁見の間から姿を消し、
「彼が・・・、ジスタートに・・・」
鞭を持った戦姫は謁見の間を出て足早に厩舎を目指した。
そして、同じくジスタート王国、ライトメリッツ公国。
「・・・・・・・・・」
「エレオノーラ様、少しは落ち着いてはどうですか?」
執務机に座りながらソワソワするライトメリッツを治める戦姫、エレオノーラ=ヴィルターリアを彼女の筆頭家臣、リムアリーシャが諌めるが、エレオノーラの耳に、彼女の言葉は全く入っていないようだ。
「・・・・・・、はぁ〜、そんなに待ち遠しいのでしたら、私が起こして参りましょうか?」
「ん? あ、ああ、そうだな。頼む、リム」
エレオノーラに頼まれたリムアリーシャは軽く頭を下げ、部屋を出て行く。
彼女が部屋を去った後、エレオノーラは、ふぅ、と一息つく。
「お前は私の物だ。か・・・、フフッ」
エレオノーラはディナントの戦いの時、ティグルに言った言葉を再び口にし、笑みを浮かべた。
ティグルヴルムド=ヴォルンは寝起きが余りよくない。その為、幼少の頃から彼に仕える侍女は彼を起こす際、多少ではあるが乱暴な手段を用いる事もある。
「剣を口に入れて起こす、なんて珍しい起こし方をされたのは初めてだよ、リム」
「私もこの様なやり方で人を起こしたのは初めてです。ティグルヴルムド卿」
そんな会話がライトメリッツの公宮内のティグルの部屋であったとか無かったとか・・・。
「エレオノーラ様がお待ちです」
「分かった。すぐに行くよ」
起き上がったティグルは身支度を済ませ、リムと共にエレオノーラのいる部屋に足を進める。
「・・・・・・。久し振りだな、ティグル」
「名前を聞いて、ディナントで姿を見た時、まさかと思ったが、やっぱり君だったのか、エレン」
ティグルが部屋に入って最初に交わされたのは、四年振りの再会の言葉だった。
現時点でのオリ設定(原作との相違点)
・ジスタート王が戦姫を恐れておらず、性格が丸くなっている。
・サーシャが病に侵されていない。
・ライトメリッツの前任の戦姫としてオリキャラが登場。