魔弾の王と戦姫 IF STORY   作:マシュ・マック

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戦姫達は若者の器を目の当たりにする

  NoSide

 

 訓練場での騒ぎが治まった後、ティグル、エレン、サーシャ、ミラ、ソフィー、リーザ、ティナ、リムは公宮内の来客用の部屋に移動した。

 サーシャ達はエレンに自分達が四年前にティグルと顔を合わせている事と、ティグルに会う為にライトメリッツに来た事を話した。

 また、エレンがサーシャに訓練場での事を訊くと、サーシャは「好きな男性に自分のファーストキスをあげたいと思うのは女性として当然の事だと思うけど?」と、何食わぬ顔で返した。

 エレン達は唖然とし、ティグルは訓練場での事を思い出して顔を赤くした。

 こうして、ティグル達が四年前の事も交えて話を弾ませていると、誰かが部屋の扉を叩き、部屋の外から女性の声が聞こえてきた。

 

「失礼します。戦姫様」

 

「どうした?」

 

「ルーリック様が戦姫様とティグルヴルムド卿にお話があるそうなのですが・・・」

 

「ルーリックが? フム・・・・・・。いいだろう、通せ」

 

「承知しました。さっ、どうぞ」

 

「失礼いたします」

 

 今度は男性の声が聞こえ、扉が開くと、訓練場でティグルに弓を渡した黒髪の優男が入って来た。

 

「お話中の所、申し訳ありません」

 

「構わん。それで、話とは何だ?」

 

「はい。実は・・・」

 

「その前に、少し良いかしら?」

 

 ルーリックが何かを言おうとした時、ティナが口を挟んだ。

 

「何だ、ヴァレンティナ」

 

「いえ、少し確かめたい事がありましたので・・・」

 

 自身に訝しげな視線を向けるエレンに、少し視線をやった後、ティナはルーリックに視線を戻す。

 

「あなた、確か訓練場でティグルに弓を渡していましたね?」

 

 ティナの問いにルーリックは一瞬目を見開くが、すぐに目を閉じ、口を開く。

 

「はい」

 

「そう・・・。ならあなたは気付いていた筈よね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ティグルに渡した弓が粗悪なものだという事に」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何?」

 

「どういう事だい、ヴァレンティナ?」

 

 ティナの問いかけにエレンは目を見張り、サーシャは質問の意味を問う。

 

「どういう事も何も、言葉の通りです。私はティグルがエレオノーラ達と共に訓練場に来た所から見ていましたが、ティグルが使っていた弓は遠目に見ても劣悪な物だと分かりました。私の見立てでは、あんな弓で三百アルシン先の的を射る事なんてまず不可能。それどころか百アルシン飛ばす事さえ難しいと判断しました」

 

 やがて、ティナがルーリックに向ける視線に怒気が含まれる。

 

「もしあなたがその事に気付いていなかったのであれば、私はあなたの価値観を疑う、もしくはあなたの怠慢を咎めます。ですが、もしその事に気付いていたのであれば、その時は・・・」

 

 そこから先に言葉は続かず、代わりにティナの視線に含まれる怒気が増した。

 更にティナが言おうとしている事が分かったからか、エレン、ミラ、リーザも怒気を含んだ視線をルーリックに向け、サーシャ、ソフィー、リム、ティグルの彼への視線は怒気こそ含んでいないが真剣な物だった。

 そんな視線を暫く浴びた後、ルーリックはどことなく観念した表情で跪きながら口を開いた。

 

「・・・・・・、ヴァレンティナ様がお察しの通りにございます。私は、弓が粗悪な物である事を知った上で、ヴォルン伯爵にお渡ししました」

 

「っ!! ルーリック、貴様!」

 

 ルーリックの告白に、エレンは怒りを露にしながら椅子から立ち上がる。

 

「随分と巫山戯た部下がいるのね、エレオノーラ」

 

「捕虜を晒し者にして、辱めるなど、下衆の極みですわよ」

 

 ルーリックを睨みながらエレンを非難するミラとリーザ。サーシャ、ソフィー、リムもまた、険しい目つきで彼を睨んでいた。

 そんな中、ティグルはどこか納得した様な顔をしていた。

 

「そう・・・」

 

 ジャキィン!!

 

「なっ!? ティナ!?」

 

 ティナは一言呟くと、 エザンディスの刃をルーリックの首筋に当てる。ルーリックは一瞬体を震わせるが、すぐに落ち着きを取り戻した。

 

「エレオノーラ。今私は無性にこの男の首を切り落としたいのですが、よろしいですか?」

 

「構わん。好きにしろ」

 

「エレン!!」

 

 ティナの問いに間髪を容れず、冷淡に答えるエレンに、ティグルは戸惑う。

 

「正直に答えた事は評価に値しますわ。何か言い残す事はありますか?」

 

「・・・・・・、でしたら一つだけ」

 

 エザンディスの刃を当てられながら、ルーリックは懐から一通の手紙を取り出す。

 

「これを、ヴォルン伯爵にお渡しください。これをお渡しする為に、私はここに来ました」

 

「俺に?」

 

 突然の申し出に、ティグルは首を傾げる。

 

「そうですか・・・、ティグル」

 

 ティナはエザンディスを当てながら手紙を受け取り、ティグルに投げ渡す。

 

「手紙は確かにティグルの手に渡りました。確認しましたね?」

 

「はい」

 

「では・・・」

 

「待ってくれティナ!!」

 

 ティナはエザンディスを握る手に力を込め、手前に引こうとした瞬間、ティグルが彼女の手を掴んだ。

 

「何もそこまでする必要はないだろう!?」

 

「何言っているのティグル」

 

「その男はあなたを笑い者にして不名誉と屈辱を与えようとしたのですよ? 死を持って償わせるべきですわ」

 

「ティグル、不本意だが今回ばかりは私もこいつらと同感だ」

 

 ティナを諌めようとするティグルに対し、冷淡に返すミラ、リーザ、エレンの三人。

 

「不名誉と屈辱を与えようとしたと言っているが、そもそも俺は気にしていない。寧ろこんな事で人に死なれたらそっちの方が寝覚めが悪い!」

 

「こんな事って・・・、あなたはそれで良いの? ティグル」

 

 ティグルの発言が気になったソフィーが問う。

 

「ああ。寧ろこんな事、ブリューヌでは珍しく無い。もう慣れたよ」

 

「慣れたって・・・」

 

 寂しげな顔をするサーシャを余所に、ティグルはルーリックを庇う様にティナの前に立つ。

 

「頼む! どうか考え直してくれ!」

 

「なっ!?」

 

「ティグル!?」

 

 ティグルはその場でティナ達に向けて頭を下げ、その様子にエレン達は唖然とする。そんな中、サーシャだけはどこか納得した様な微笑ましい顔をしていた。

 

「・・・・・・、はぁ〜」

 

 暫くして、ティナは溜め息をつきながらエザンディスをルーリックの首から離した。

 

「気が変わりました。エレオノーラ、ここはティグルの意思を尊重するのが最善と考えますがいかがかしら?」

 

「・・・・・・・・・、ルーリック、お前のした事は本来なら死刑を言い渡されても過言ではない大罪だ。だが、当事者であるティグルの気持ちを汲み、今回は不問とする。ティグルに感謝する事を忘れるな」

 

「エレン・・・、ありがとう」

 

 エレンの決定に、ティグルは感謝する。

 

「あの・・・、ヴォルン伯爵」

 

「ん?」

 

「・・・、何故、自分を・・・」

 

 振り返ると、「どうして自分を助けたのか?」と言いたげな顔をしたルーリックがティグルを見ていた。

 

「何でって訊かれても・・・、そうだな・・・、強いて言うならお前が悪い奴には思えなかったからだ」

 

「は?」

 

 ティグルの言った事にルーリックだけでなく、エレン達も呆けた顔になる。

 

「確かに俺にあの弓を渡したのはお前だけど、何か事情があったんだろ? その証拠にお前、俺の事一度も笑わなかったし」

 

 その言葉に、エレンとリムはそういえば、と言った表情を浮かべる。

 

「さっきも言ったが俺は別に気にしていない。だからお前も気にする事は無い。それで良いだろう?」

 

「ヴォルン伯爵・・・、いえ、ティグルヴルムド卿・・・」

 

 いつの間にか、ルーリックの目には涙が溢れていた。

 そして、ルーリックはティグルの前に跪き、何度も、何度も、「ありがとうございます」と繰り返し、ティグルは苦笑いを浮かべていた。

 そんな二人の様子に、エレン達の頬は自然と緩んでいた。

 

「ところで、この手紙は誰からのなんだ? 俺とお前は初対面の筈だから、手紙をもらう理由はないんだが・・・」

 

「ああ! これは失礼いたしました!」

 

 ルーリックは涙を拭い、表情を引き締める。

 

「その手紙は先代のライトメリッツの戦姫、アルテミシア様が、あなた様に当てた手紙です。ティグルヴルムド卿」

 

「なっ!? アルテミシアさんだって!?」

 

 ルーリックの口から出た名前に目を見開くティグル。また、エレン達も少なからず驚いていた。

 

「ルーリック、何故お前がそんな物を持っている? ・・・いや、そういえばお前はあの人の代からこの公宮に仕えていたな」

 

「はい。この手紙はアルテミシア様が戦姫の座を辞され、公宮を去る時に『もしも、ティグルヴルムド=ヴォルンという男がこの公宮に来たら渡してほしい』と、渡された物でございます」

 

「・・・・・・、読んでみても良いか?」

 

「無論にございます」

 

 ティグルは封を開け、中に入った便箋を取り出し、広げる。

 

「『親愛なるティグルヴルムド=ヴォルン殿、あなたがこの手紙を読んでいるという事は、私はもう公宮にはいないでしょう。あなたがブリューヌに戻ってからも私は戦姫としてこのライトメリッツを治めてきましたが、日を重ねるごとに体は重くなって行き、戦姫としての務めを果たすもの難しくなって行きました。そして、遂にアリファールは私の元を離れて行きました。その後私はヴィクトール陛下と私の後任としてライトメリッツの戦姫になったエレオノーラ、エレンちゃんの計らいで、ライトメリッツの外れの小さな田舎で静かに暮らす事になりました。なので私が戦姫としてあなたと再会する事はもう無いでしょう。ですがこれだけは忘れないでください。例えどんな事があっても、私はあなたの事を大切に思い続けます。あなたがジスタートを去る時にも言いましたが、あなたは私にとって息子も同然です。困った事があったらいつでも私を訪ねて来てください。私に出来る事なら助力は惜しみません。最後にあなたにこの言葉を贈らせていただきます。これから先、あなたが進む道には幾つもの困難が待ち受けているかもしれません。ですが忘れないでください。あなたは決して一人ではありません。あなたを助けてくれる味方は必ずいます。勿論、私もその一人です。そして、あなたの未来が幸溢れる物であらん事を、切に願います。元ジスタート七戦姫、アルテミシア=アッシュベルからティグルヴルムド=ヴォルンに、愛を込めて』・・・・・・。ありがとう・・・、母さん」

 

 手紙を読み終わった後、ティグルは涙が流しながら手紙を抱き締め、静かに呟いた。

 

 

 

 

 

 その後、ティグル達はルーリックも交えて、談話を再開した。

 ルーリックはティグルに訓練場での事を再度詫び、この様な事をした訳を話した。曰く、アルテミシアはティグルがジスタートを去ってから彼女が戦姫を辞すまでの間、ほぼ毎日のようにティグルの名を口に出し、その弓の腕や人となりを褒めていたと言う。それをずっと聞かされて来たルーリックは是非その弓の腕を見てみたいと思い、あの様な行動に出たと言う。

 それを聞いたティグルは自身が評価された事を喜ぶべきか、その所為で面倒な事になった事を悲しむべきか、何とも言えない気持ちになったと言う。

 やがて日が暮れて夜になり、夕食を食べた後も、ティグル達は葡萄酒(ヴィノー)片手に夜が深けるまで談話を続けた。

 サーシャ、ミラ、ソフィー、リーザ、ティナの五人はエレンの計らいにより、今夜は公宮内に泊まる事になった。この時、エレンはミラ、リーザ、ティナを泊めるのを渋ったが、ティグルの口添えもあり、仕方無く了承した。

 

 

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