魔弾の王と戦姫 IF STORY   作:マシュ・マック

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若者と朧姫、思いを打ち明け、結ばれる

  NoSide

 

「それでは、おやすみなさい、ティグルヴルムド卿」

 

「ああ、ありがとう、ルーリック」

 

 談話を御開きにした後、ティグルはルーリックに送られて自分に割り当てられた部屋に戻って来た。

 

「さてと、さっさと寝るか」

 

 ティグルがベッドに腰を下ろし、手をつこうとした時・・・、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ふにょん

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・ん?」

 

 右手にやわらかい感触がした。

 

 ふにょん ふにょん

 

 試しに二度、右手に触れた物を握ってみると先程と同じ感触がした。冷や汗を流しながら慌てて布団をひっぺがすティグル。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・、キスをして顔を赤くしていたのを見た時は純情だなと思ったけど・・・、意外と大胆なんだね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 するとそこには、顔を赤くした寝間着姿のサーシャがティグルのベッドで横になっていた。因にティグルが先程から掴んでいた物の正体が彼女の胸であったのは言うまでもない。

 

「うおわぁあああああああああ!!!!!!!」

 

 驚きの余り、ティグルはベッドから飛び落ち、尻餅をつく。

 

「ななななな何でサーシャがここに!?!?」

 

 顔を真っ赤にして驚きを露にするティグル。

 

 ドンドンドン!!

 

「どうしましたティグルヴルムド卿!? 何かもの凄い音が聞こえましたが!?」

 

 刹那、扉が叩かれ、廊下側からルーリックの声が聞こえてくる。

 

(まずい! 今この状況を見られるのは非常にまずい!!)

 

「だ、大丈夫だルーリック! ちょっと、ベッドに座り損なっただけだ!」

 

「そうですか? よろしければ、念のため塗り薬をお持ちしましょうか?」

 

「いや、大丈夫だ。心配かけてすまなかった!」

 

「・・・、分かりました。では、おやすみなさい、ティグルヴルムド卿」

 

「ああ、おやすみルーリック」

 

 遠ざかって行くルーリックの足音を聞きながら、ティグルは呼吸を整える。正常に戻ったのを自覚した後、再びベッドに目をやると、やはりそこにはサーシャがいた。

 

「もう、そんなに驚く事は無いんじゃないか? ティグル」

 

「いや驚きの余り心臓が止まるかと思ったよ。それより、何でサーシャがここにいるんだ?」

 

「見ての通り、ティグルと一緒に寝ようと思って待ってただけだけど?」

 

 不思議そうに首を傾げる仕草をするサーシャに、ティグルは一瞬かわいいと思いつつも頭を抱える。

 

「あのな、仮にも公国の戦姫と敵国の捕虜、それ以前に年頃の男女が寝所を共にするのはまずいだろ?」

 

「それなら問題無いよ。僕は自分に意思でここに来たんだから」

 

「いや、そういう問題じゃなくてだな・・・!」

 

「それとも・・・」

 

 急にサーシャの声から元気が無くなる。

 

「ティグルは僕と一緒に寝るのが嫌なのかい?」

 

サーシャはゆっくりとティグルの服を掴み、瞳に涙を溜めながら、不安そうに尋ねた。

 

「・・・・・・」

 

 そして、ティグルにその問いに、はい、と答える度胸は無かった。結局、ティグルはサーシャと一緒に寝る事を了承したのだった。

 

 

 

 

 

「サーシャ・・・、そんなに抱きつかれると、色々と困るんだが・・・」

 

「そうかい? でもこうしないとどちらかがベッドから落ちそうになるから・・・」

 

(そりゃ一人用のベッドに二人寝ようとすればな・・・)

 

「それに、こうしていた方が君の温もりを感じられるから・・・」

 

 サーシャは頬を赤く染めながら一層ティグルに抱きついてくる。

 

「なっ!? 〜〜〜」

 

 ティグルは再び顔を赤くしながら寝返りを打ち、サーシャに背を向ける。

 

「む〜っ、つれないな・・・」

 

 サーシャは不満そうに頬を膨らませる。

 

「・・・ティグル」

 

 しかし突然、サーシャは先程とは違う声音で名を呼びながら、ティグルの体に手を回し、彼の背に抱きつく。

 

「サ、サーシャ・・・?」

 

「・・・・・・、言っておくけど、僕は誰にでもこんな事をしてる訳じゃないよ? 僕がこんな事をするのは君だけ。ティグルだからこうしているんだよ?」

 

「・・・・・・」

 

「好きだよ、ティグル。愛してる。一人の女として・・・」

 

「サーシャ・・・」

 

「あの日から、君の事をずっと思ってきた。四年前、君が僕の命を救ってくれたあの時から、ずっと・・・」

 

 サーシャの告白を聞き、ティグルの脳裏に四年前、サーシャと初めて会った日の記憶が呼び起こされる。

 

「あの時、君がいなければ、僕は今ここにいなかった。今こうしていられるのは全て君のおかげだ」

 

「・・・・・・」

 

「だからティグル、このままずっとジスタートに居てほしい」

 

 サーシャがティグルを抱き締める手に力を込める。

 

「エレンが君をブリューヌと同じ伯爵位をもって遇すると言っていた。勿論差別もしないと。その話を受けてほしい。そうすればいつでも会うことができる」

 

「・・・・・・、ありがとう、サーシャ」

 

 サーシャには見えないが、ティグルは心底嬉しそうに、それでいて穏やかな笑みを浮かべている。

 

「でもごめん。その話は受けられない」

 

「っ!」

 

「ありがたい話だとは思っている。こんな誘いはブリューヌではまず有り得ないだろうな」

 

「じゃあ、どうして・・・」

 

 サーシャの瞳に涙が浮かび始める。

 

「俺には帰るべき、そして守るべき場所がある。アルサス。父から受け継いだ俺の領地だ。そこを放り出す事は出来ない」

 

「・・・・・・、どうして」

 

「え?」

 

「どうして君はそこまでブリューヌに尽くそうとするんだい?」

 

 問いかけるその声は、今にも消えそうな位、弱々しい物だった。

 

「ブリューヌは弓を蔑視していると聞いた。昼間、君も笑い者にされる事なんて珍しく無いって言っていた」

 

「ああ。実際、王宮で弓が得意だと言った時も大笑いされたし、この間のディナントでもそんな事があった」

 

「ならどうして君はそんな国に尽くそうとするんだ!?」

 

 突然声を荒げるサーシャにティグルは戸惑う。

 

「サ、サーシャ・・・?」

 

「僕は君とは四年前と今日を含めた数日しか直接会った事は無い! でも! そんな短い期間でも君の良い所はたくさん見つけられた! なのにどうして僕よりも直接会う機会のあるブリューヌ人は君を笑うんだ!? どうしてティグルの事を認めようとしないんだ!?」

 

 大粒の涙を流しながら、サーシャは自身の心の内をさらけ出す用に叫ぶ。

 

「どんな好待遇で迎えられえてもそれをはね除け、尽くそうとする忠臣を、どうしてブリューヌは嘲笑う事が出来る!? どうしてそんな国がティグルに尽くされるんだ!? どうして僕の思いがそんな国に負けるんだぁ!!」

 

 泣き崩れるサーシャの声は、ドンドン弱々しくなっていく。

 

「どうして・・・、なんだ・・・、ティグル・・・。僕の何がいけないんだ? こんなにも・・・、君を愛しているのに・・・」

 

 サーシャは悔し涙を溢れさせながら、ティグルの背中を叩く。

 

「サーシャ・・・」

 

 サーシャの思いを一通り聞いたティグルは寝返りを打ち、彼女と向かい合う体勢になり・・・、

 

 

 

 

 

 ギュッ!!

 

 

 

 

 

「えっ?」

 

 サーシャを思い切り抱き締めた。

 

「ありがとう、サーシャ。君がそこまで俺の事を思ってくれてるなんて知らなかった。凄く嬉しいよ」

 

 サーシャが顔を上げると、そこには優しげな微笑みを浮かべたティグルの顔があった。

 

「俺も、サーシャの事が好きだよ」

 

「え?」

 

 突然の告白にサーシャの思考は一瞬停止する。

 

「んっ!?」

 

 そして、昼間の訓練場の時とは逆に、今度はティグルがサーシャの唇に、自分の唇を重ねた。数十秒程重なっていた唇はやがて離された。

 

「これで、信じてくれたかな?」

 

 照れ臭そうに頬を緩めながらティグルはサーシャに問いかけ、サーシャは再び目から涙が流れ出す。ただし、その涙は悲しみから流れる涙ではなく、幸せから流れる涙だった。

 

「ずるいよ・・、ティグル・・・。こんな事されたら・・・、信じるしか無いじゃないか・・・」

 

 幸福の涙で頬を濡らしながら、サーシャはティグルに抱きついた。

 

「じゃあ今度は俺の話を聞いてくれるか?」

 

 目尻に涙を浮かべながら、サーシャは頷く。

 

「まず最初に、何故そこまで尽くそうとするのかと言ってたけど、俺は別にそこまでブリューヌに忠義立てしてるつもりは無い」

 

 いきなりの爆弾発言に、サーシャは目を丸くする。

 

「無論、貴族として必要最低限の忠誠は誓っている。だけど俺にとって一番大切なのはあくまでアルサスだ。何故ブリューヌに尽くすのかと言っていたけど、それはアルサスがブリューヌの領土だからだ」

 

 遠い目をしながらティグルは自身の胸の内を口にする。

 

「俺にとってアルサスはかけがえの無い宝の山なんだ。俺を慕ってくれる民達、生まれた頃からの思い出。他にもたくさんある。そんなアルサスを守る領主という立場を、俺は誇りに思っている。だからこそ、もしアルサスに危機が訪れたら俺はそれが何であろうと、誰であろうと戦う。父が死んで、アルサスの地を受け継いだあの日、俺はそう胸に誓った」

 

 サーシャがティグルの目を見ると、そこに力強い光が宿っているのが見えた。

 

「今アルサスは領主不在の状態にある。このまま放置しておけばいずれ領民の生活にも影響が出る。俺はそれを見過ごす事は出来ない。だから一日も早くアルサスに戻りたい」

 

「・・・・・・、君の誓いはとても立派だと思うよ、ティグル。でも具体的にはどうするんだい? 今の君はエレンの捕虜だ。身代金が払えなければ君はアルサスに戻る事は出来ない。身代金の宛はあるのかい?」

 

「あ〜、まあ、なんと言うか・・・」

 

 身代金の話を出した途端にティグルは困った様な顔をして、頬をかく。

 

「その事なんだが、サーシャ・・・。もし俺がアルサスを担保に身代金を肩代わりしてくれ。って言ったら、どうする?」

 

「え・・・・・・」

 

 ティグルの言った事が理解出来ず、サーシャは呆けた顔をするが、暫くして突然笑いだした。

 

「アッハハハハハ!! 何それ!? 本気で言ってるのかいティグル?」

 

「・・・・・・、だったらどうなんだよ」

 

 恥ずかしそうに頬をかくティグルを見て、サーシャは更に笑い出す。

 

「アッハハハハハ!! 捕虜になった貴族が、敵国の人間に、領地を担保に身代金の肩代わりを要求するなんて、そんな話聞いた事無いよ!! アハハハハハ!!」

 

 暫く笑い続け、やっと笑いが収まったサーシャは目尻に浮かんだ涙を拭ってティグルに向き合う。

 

「全く。君という奴は・・・、本当に型破りと言うか、常識はずれと言うか」

 

「それは俺も自覚している。でも実際の所、俺はアルサスの平和が守られるんであれば、アルサスがジスタートの物になっても構わないと思っている。で、どうなんだ? サーシャ」

 

「前向きに検討させてもらうよ。大好きな人の為にもね」

 

「本当か!?」

 

「勿論!」

 

 そして、お互いに心底嬉しそうに笑顔を浮かべながら、ティグルとサーシャは再び抱き合い、キスを交わし、そのまま夢の世界へと旅立った。

 

 

 

 

 

 翌日、昼過ぎになっても起きてこないティグルを起こす為に部屋を訪れたエレン達が、抱き合う様に眠る二人を発見し、昨日以上の騒ぎになったのは言うまでもない。

 

 

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