魔弾の王と戦姫 IF STORY   作:マシュ・マック

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若者は守るべき物の為に立ち上がる

  ティグルSide

 

「ふ〜っ。いよいよ二日後、か・・・」

 

 身代金の期限が目前に迫った俺の頭には今、ジスタートでサーシャやエレン達と過ごした日々が走馬灯の様に、現れては消えていった。

 

 サーシャと互いに思いを伝え合った翌日、俺達はその事をエレン達に話した。その時の皆の様子は、呆然とするもの、複雑そうな顔をするもの、微笑ましそうな顔をするもの、と様々だった。

 その後、一緒に朝食を食べて、また少し話した後、ミラ、リーザ、ソフィー、ティナはその日の内に自分の公国に帰った。

 サーシャだけは「元々長期間、公国を留守にするつもりで、その旨も伝えてある」との事で、今もライトメリッツに滞在している。

 それからは色々な事があった。

 まず最初に思い付くのはルーリックの事だ。ルーリックがアルテミシアさんの手紙をもってきてくれた日の翌日、彼は自分の髪を全て剃った。曰く、俺の慈悲で罪自体は不問になったが、自分自身が納得出来なかったから。との事だ。これには俺は勿論、エレンを始めとした戦姫全員、そしてリムまでもが唖然とした。

 次に、公宮内で俺に接する人間の態度にも変化があった。無論、俺をよく思わない奴は今でもいるが、来た当初に比べれば格段と減り、逆に俺に話し掛けてくる者や、弓の教えを請う者が増えた。因みに俺に話し掛けてくる者の約四割は公宮の侍女で、内容は俺とサーシャの関係についてが殆どである。エレンも言っていたが、彼女達は本当にそういった話が好きなんだな、と思った。

 他にも、ルーリック達と一緒に弓の鍛錬をしたり、サーシャやリムから政を教わったり、サーシャと一緒にお忍びで城下町に行こうとしたエレンを発見し、三人で町を見て回ったり、俺が弓以外に使える武器が無いか試した時に誤ってエレンの胸を・・・んっんん!! 体を流そうとして、エレンが飼っている幼竜のルーニエと出会い、その後、エレンとサーシャのはだkゲフンゲフン!! と、とにかくいろんな事があった。

 

 本当にここは居心地のいい、優しい場所だと俺は思う。捕虜という立場故に行動の制限はあるものの、起きるのは自由だし(と言っても最近はサーシャに起こされるが)、食事もおいしいし、俺の弓の技量をこの上なく評価してくれるし、何より、俺の初恋の相手であるサーシャがいる。

 だけど・・・、

 

「それでもやっぱり、俺はアルサスが、ティッタやバートラン達が一番大切だ」

 

 だからこそ俺は何としてもアルサスに帰らなければならない。その為には、やはり身代金を払う事が第一条件だ。

 

「とは言ったものの、流石にあの金額は厳しいよな・・・。やっぱり当初の予定通り、サーシャを頼るしか無いか・・・」

 

 俺が身代金の事で頭を働かせていると・・・。

 

 

 

 

 

 コンコン

 

 

 

 

 

「ん?」

 

 誰かが俺の部屋の扉を叩いた。

 

(こんな時間に、誰だ?)

 

 俺は怪訝に思いながら、扉を開けた。

 

「ルーリック?」

 

「おお、起きていらっしゃいましたか」

 

 扉の前には、燭台をもったルーリックがいた。

 

「ティグルヴルムド卿に会いたいと言う者がおりまして・・・。出来るだけ音を立てぬ様、ついて来ていただけますか?」

 

 ルーリックの言う事に首を傾げながらも、俺は彼についていった。

 

 

 

 

 

 これがやがてアルサスだけでなく、ブリューヌ全土を巻き込む戦いの幕開けとなるとは、この時の俺には想像も出来なかった。

 

 

 

 

 

  NoSide

 

 ルーリックに連れられ、ティグルは巡回の兵達に見つからない様、慎重に進んで行き、やがて訓練場に辿り着いた。

 訓練場では数人の兵士に囲まれて、一人の老人が座り込んでいた。その老人の顔に、ティグルは覚えがあった。

 

「バートラン!」

 

「若!」

 

 ティグルと老人は歓喜の表情を浮かべながら互いに手を取り合う。

 

「若! よくぞご無事で!」

 

「お前こそ! 無事で本当によかった!」

 

「やはり、ティグルヴルムド卿のお知り合いでしたか」

 

「ああ。皆! 本当にありがとう。バートラン、マスハス卿は? ティッタは? アルサスは大丈夫なのか?」

 

「そうだ! それどころじゃねぇんです若!」

 

「え?」

 

「テナルディエ公爵の軍勢が、アルサスに向かっとるんです! 数は三千」

 

「何だと!? どういう事だ!?」

 

「わしには、よう分かりませんが・・・」

 

 バートランは懐から一通の手紙を取り出し、ティグルに差し出す。

 

「マスハス様から手紙を預かっとります」

 

 ティグルは手紙を受け取ると、急ぎ中を見る。

 手紙には身代金を用意出来なかった事への謝罪、とりあえずアルサスが平穏である事、ティッタが毎夜神殿でティグルの無事を祈っている事等が書かれており、その後はテナルディエ公爵がアルサスを焼き払うべく、三千の兵を差し向けた事。更にそれを知ったガヌロン公爵が先んじて兵を動かそうとしている事が書かれていた。

 手紙の主であるマスハスはガヌロンを抑えるので精一杯なのでどうにか戻って来てほしい。という言葉で締めくくられていた。

 

「やりたい放題、という訳か!」

 

 溢れ出んばかりの怒りを表すかの様に、ティグルは手紙を握り潰す。そんなティグルの様子に、ルーリック達は沈痛な顔を浮かべる。

 

「ティグルヴルムド卿、お気持ちはお察しします。ですがどうか部屋にお戻りください」

 

「悪いが、それは聞けない」

 

 ティグルは立ち上がり、城門に向けて歩き出すが、すぐに兵達に囲まれる。

 

「お戻りください! 手荒な真似はしたくありません。戦姫様も仰っていたでしょう!? 城門に近づけば死刑だと」

 

「分かっている! その上で、俺はここを出ると言っている」

 

 ルーリックは語気を強めてティグルを止めようとするが、逆にティグルの凄みを帯びた声に圧倒され、道を開けてしまう。

道を開けてくれたルーリック達にティグルは軽く笑いかけ、再び城門に向けて歩き出した。

 

「随分騒がしいと思えば・・・」

 

「こんな夜更けにどこに行く気だい? ティグル」

 

 城門の方を見ると、そこには腕を組みながら門に背を預けるエレンと、そのすぐ近くに立つサーシャがいた。

 二人の服装は昼間に着ていた服装であり、二人の腰にはそれぞれの竜具が収まっていた。

 

「通してくれ。俺はアルサスに帰らなければならない」

 

「自分の立場を忘れてしまったのか?」

 

「テナルディエがアルサスに三千の兵を差し向けた。町が焼かれてからでは遅いんだ! 頼む! 全てがすんだら必ず戻ってくる。だから俺を行かせてくれ!」

 

「・・・・・・。アルサスに行って、お前は何をするんだ?」

 

「何をって・・・、領民を守るに決まっているだろ!」

 

「どうやって?」

 

「え?」

 

「ティグル。君の弓の技量はよく知っている。だけど、たった一人で何が出来るというんだい? 三千の敵にたった一人で挑もうなんて、無謀なんてレベルじゃないよ」

 

「分かっている!!」

 

「ならどうする? 何か方法があるとでも言うのか? 三千の敵を倒す方法が」

 

 アリファールを突きつけながら投掛けられるエレンの問い。

 その問いにティグルは・・・、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああ、ある」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 確固たる決意の籠った声で答えた。

 

「何?」

 

「え?」

 

 予想外の答えに、エレンとサーシャは怪訝な顔をする。

 

「三千の敵全てを倒すのは厳しいかもしれないが、少なくとも、総大将を打ち取って、敵を瓦解させる事くらいは出来る筈だ」

 

 ティグルの告白にエレン達は勿論、ルーリック達やバートランも戸惑いを隠せない。ティグルが嘘を言っているとは思えないが、それでも彼の言う事が信じられなかった。

 そんな中、思案を巡らせていたサーシャが、何かに気付いた様にハッとする。

 

「まさか・・・、あの力を使うつもりなのか? ティグル・・・」

 

 サーシャの言葉に、ティグルは一瞬目を見開くが、直ぐに表情を戻す。

 

「ああ、そうだ」

 

「あの力? サーシャ、お前何か知っているの・・・、サーシャ?」

 

 エレンが振り向くと、彼女の紅い瞳に、寂しそうな、不安そうな表情の親友の姿が映った。

 

「ティグル・・・、君はあの力の事をどこまで知っているんだ? 君はちゃんと力を制御する事は出来るのか?」

 

「・・・・・・・・・、正直言うと、俺はあの力について何も知らない。力自体も、四年前のあの時以来、一度も使っていない」

 

「・・・・・・、だったら尚更、今の君を行かせる訳にはいかない」

 

 サーシャはバルグレンを抜き、右手に持つ紅蓮の刃をティグルに突きつける。

 

「っ! ・・・・・・、どうしても、通してくれないのか? サーシャ」

 

「ああ。今君をアルサスに行かせれば、僕は間違いなく後悔するからね」

 

「え?」

 

「ティグル。前に僕達戦姫が使う竜具(ヴィラルト)には竜技(ヴェーダ)と呼ばれる強力な技がある、という事は話したよね?」

 

「ああ。それがどうかしたのか?」

 

「僕は昔、エレンにこう言った事がある。『竜技(ヴェーダ)の濫用は自重するように。頼ってばかりいては心も技も弱くなる』今の君が正にそれだ」

 

 サーシャの言葉にティグルは目を見開く。

 

「君がアルサスを大切に思っているのは分かる。そんなアルサスを焼こうとするテナルディエ公爵には僕も憤っている。でも、だからと言って一人で、しかも出自も制御出来るかも分からない様な力に頼ろうとしている君を行かせて、もし君に何かあったら、僕は一生自分を許せなくなる」

 

 真っ直ぐな瞳で自分を見つめるサーシャに気圧され、ティグルは視線を逸らしてしまう。

 

「何故一人で抱え込もうとするんだ? どうして知恵を絞らない? エレンも言っていた。君はディナントで、圧倒的不利な状況を少しでも良くしようとしたと。そんな君がどうして感情任せに動こうとするんだ?」

 

「サーシャ? 何を言って・・・、っ!」

 

 サーシャの言葉に戸惑いながらも、ティグルは何かに気付く。

 

(そういえば、何故エレンは何もしてこない? ルーリック達の命じて、俺を取り押さえる事も出来るのに・・・)

 

 サーシャとエレンを見つめながら、思考を巡らせるティグル。

 やがて一つの答えに辿り着き、ハッとした表情でエレンを見る。

 

(エレンは俺にチャンスを与えてくれようとしているのか・・・)

 

 次にティグルは視線をサーシャの方に向ける。

 

(そして、そのヒントは恐らくあの言葉・・・)

 

「エレン、サーシャ。頼みがある」

 

 ティグルは二人に頭を下げる。

 

「俺に力を、兵を貸してくれ!」

 

 ティグルの言葉にルーリック達は驚きを禁じ得なかった。捕虜の立場にある人間が兵を貸せと言うなど、前代未聞であった。

 

「ハッ・・・、ハハッ・・・、アッハハハハハハハハハハ!!」

 

 ティグルの申し出に、エレンは腹を抱えて大爆笑し、サーシャは「本当に君らしい」とでも言う様な顔で、ティグルに微笑みかけていた。

 

「いやはや、何とも清々しい程に図々しいな、ハハッ」

 

 笑いを治めたエレンが目尻に浮かんだ涙を拭い、嬉しそうな表情でティグルを見る。また、主の気持ちを表すかのように、風が楽しそうにそよぎ、バルグレンからは温かな、優しい光が発せられる。

 

「貸せと言うか。良いだろう。だが当然タダではないぞ」

 

「・・・・・・、いくらだ?」

 

「アルサス全土」

 

「公正な統治を。領民の安全な生活を保障してくれるなら」

 

「決まりだな。で、お前は何を要求する? サーシャ」

 

 楽しそうな顔でエレンはサーシャに視線を移す。

 

「僕は、そうだね・・・、全ての戦いが終わった後、僕の頼みを何でも一つ聞いてくれる事。それで良いよ」

 

「何を要求する気なんだ?」

 

「それはまだ秘密だよ。その時になったら教える。だから、君にはその時までちゃんと生きててもらうよ? ティグル」

 

「ああ、分かった」

 

「そちらも決まったな」

 

 エレンは鞘に納まっていた銀閃を抜き、天に掲げ、高らかに号令を下す。

 

黒竜旗(ジルニトラ)を掲げよ! 戦いだ!」

 

 

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