魔弾の王と戦姫 IF STORY   作:マシュ・マック

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若者は頼もしき戦友と共に帰還する

  NoSide

 

 エレンの指揮の下、一千の兵がアルサスへ向かう。その中にはエレンとリムは勿論、ティグル、サーシャ、ルーリック、バートランの姿もあった。

 

「敵は三千! こちらは一千! 勝てると思うか!?」

 

「奴らは地理に(くら)い! テナルディエ家の人間がアルサスを訪れた事はここ数年無い! 俺はアルサスの山野は殆ど知っている!」

 

「それに連中はアルサスを盛り場くらいにしか思っていない筈だ! マトモな反撃や抵抗があるとは夢にも思っていないだろう!」

 

 馬を駆りながらのエレンの問いに、ティグルが答え、サーシャが自分の意見を加える。

 

「地の利有りか」

 

 エレンは不適な笑みを浮かべる。ふと視線を移すと、ティグルが自分をジッと見つめている事に気付く。

 

「見惚れるのも良いが、言葉の一つぐらい掛けたらどうだ? 綺麗だ、とか」

 

「ディナントで再会した時からずっと思ってたよ、それは」

 

「っ! そ、そうか・・・」

 

 からかうつもりでかけた言葉に、予想外の答えが返って来て、エレンは思わず頬を赤く染める。

 

「むぅ・・・」

 

「あっ! そういえばサーシャ!」

 

「えっ!? なっ・・・、何だい? ティグル・・・」

 

 サーシャが少し拗ねたように頬を膨らませていると、突然ティグルに声をかけられ、慌てて顔を元に戻す。

 

「その髪飾り、まだ付けててくれたんだな。似合ってるよ!」

 

「っ! 覚えててくれたんだ・・・」

 

 今度はサーシャが顔を赤く染めながら、右手で髪飾りに触れる。

 そんな遣り取りを経て、ティグル達はアルサスを目指し、馬を駆る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アルサスの中央都市セレスタでは現在、迫り来るテナルディエ軍に備えて、住人達の避難が行われていた。

 マスハスの指示を受けた兵士や侍女のティッタの指導の下、町の外へ出た事がある者と体力がある者は郊外の森や山へ。そうでない者や老人、子供は神殿へと避難していく。

 そんな中、ティッタはただ一人、屋敷でティグルの帰りを待っている。主のいない屋敷の中で、ティッタは部屋の一角に飾られた家宝の黒弓を瞳に映す。

 ティッタの脳裏にティグルが戦に向う日の朝、彼と交わしたやりとりが浮かぶ。

 

「ティグル様・・・」

 

 黒弓を抱き締めながら、ティッタはティグルの無事と帰還を信じ、祈った。

 

 

 

 

 

 そんな彼女の思いを踏みにじるように、テナルディエの軍勢がセレスタの町に攻め入る。

 

 

 

 

 

 セレスタの町に侵入したテナルディエの兵達は、欲望のままに暴れ回る。家屋を破壊し、金品や食料を奪い、火を放つ彼らの所業は正しく蛮族のそれであった。

 彼らの指揮官でありテナルディエ家の長男であり次期当主、ザイアン=テナルディエは、セレスタの町から少し離れた場所にある丘の上から、兵達に蹂躙される町を眺めながら、下衆な笑みを浮かべていた。

 また、彼の後ろには、父フェリックス=アーロン=テナルディエから送られた飛竜(ヴィーフル)地竜(スロー)、二頭の竜が控えていた。

 少しして、兵から町に住人がいない事を聞かされたザイアンが悪態をつきながらふと視線を動かすと、彼の目にティグルの屋敷が映る。

 ザイアンは部下に兵の指揮と竜を任せ、一人軍を離れ、ティグルの屋敷に向かう。

 

 

 

 

 

 屋敷の一階から物音に、ティッタは体を震わせるも、弓を抱き締めて勇気を振り絞り、廊下に出て、階段を下り、広間の方を見ると、そこには鎧を着た青年、ザイアンが立っていた。

 気丈に振る舞い、強い口調でザイアンを追い出そうとするティッタ。そんな彼女にザイアンは剣を抜き、襲い掛かる。

 必死に逃げるが、遂にバルコニーに追いつめられてしまうティッタ。逃げる途中で手にしたナイフをザイアンに向けて突きつけるが、ザイアンは何事も無いようにそれを剣で弾き、更にそれと同時にティッタの胸元が露になる。

 恥ずかしさと怒りで顔を赤くし、胸元を隠そうとするティッタ。

 バルコニーで押し倒されたティッタにザイアンの魔手が伸びようとしたその時、何かが風を切る音と共に、ザイアンの右手に謎の衝撃が走り、上に伸び上がる。

 突然の出来事にザイアンは惚けた顔になるが、謎の衝撃の正体を知るべく、右手を見上げると、彼の顔に赤い何かが落ちてくる。

 そして、視線を右手にやると、ザイアンの右手には一本の矢が貫通していた。ザイアンは理解する。謎の衝撃の正体が自分の右手に矢が突き刺さった時のモノだという事に。顔に落ちて来た赤いモノが自身の血である事に。全てを理解すると同時に、右手を射抜かれた激痛がザイアンを襲う。

 あまりの痛みに叫び声を上げ、右手を抑えながらザイアンは後ろに倒れ込む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「跳べ!! ティッタ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ティッタの耳に、彼女がずっと待ち望んでいた人物の声が聞こえた。

 声のした方を見ると、二頭の馬と、それに乗り、一直線にこちらに向かってくる二人の男性が目に映った。

 二人のうち、前を走る赤い髪の青年、ティグルの姿を見たティッタは目に涙を溜め、弓を抱え、バルコニーから飛び降りる。

 一方、ティグルは全速力で馬を走らせ、屋敷を目指す。

 しかし、その途中で潜んでいたテナルディエ軍の兵の横槍を躱した拍子に、馬がバランスを崩してしまう。

 テナルディエ兵はティグルと共に来た禿頭の騎士、ルーリックの放った矢に討ち取られ、バランスを崩したティグルは鞍を踏み台にして跳び、空中でティッタの体を抱き締める。

 ティグルとティッタが地面に激突しそうになったその時、エレンがアリファールを振るうと同時に起こった風が転びそうになった馬の体を起こし、風はそのまま二人を優しく包み込み、ティグルとティッタは舞い落ちる木の葉のようにふわりと地面に着地する。

 

「全く、無茶をするモノだ。恩に着せるつもりは無いが、私がいなかったら二人とも大怪我では済まなかったぞ?」

 

「当てにはしていた。でも助かったよ。ありがとうエレン。・・・・・・っ! そうだ、ザイアン」

 

「ザイアン?」

 

「テナルディエ家の長男で、次期当主だ。そして恐らく・・・」

 

「連中の指揮官。と言った所か?」

 

 屋敷のバルコニーを睨みつけながら、ティグルは頷く。

 

「敵の親玉が屋敷にいる。突入せよ!」

 

 エレンの命を受け、ルーリックが先頭になり、ジスタート兵が屋敷に突入する。

 

「ティグル様・・・」

 

「っ! ティッタ・・・」

 

「ティグル様!!」

 

 弓を抱え、目に涙を溜めて、ティッタは縋り付くようにティグルの胸に飛び込む。

 

「信じてました・・・。必ず、必ず帰って来てくださると・・・。ティグル様ぁ・・・」

 

「心配かけたな。けど、もう大丈夫だ。それよりお前、どうしてその弓を?」

 

「あ、これは・・・、その・・・、もしもの時、これだけは持ち出そうと・・・」

 

「バカ! こんな物放っといてさっさと避難すれば・・・」

 

「出来ませんそんな事!!」 

 

 ティッタは足を振るわせながらも、強い口調で抗弁する。

 

「あたしはティグル様にお屋敷の留守を任されました! 逃げるなんて出来ません! でも・・・」

 

 大粒の涙をこぼしながら抗弁するティッタを、ティグルは再び抱き締める。

 

「そっか・・・、ありがとう。ティッタ」

 

 やがて、ティッタの顔に笑顔が戻る。

 

「おいおい、見せつけてくれるな。サーシャが見たら焼くぞきっと」

 

 馬上からのエレンの冷やかしにティグルは苦笑いを浮かべる。

 

「ティグル様、この人達は一体・・・」

 

 辺りを見渡しながら、ティッタは不安そうに尋ねる。

 エレン達の事を説明しようとした時、ティグルの目がある者を捉える。

 刹那、物陰から矢がティッタに向けて飛来。ティグルはそれを左手で掴み、自身の弓につがて物陰に向けて放ち、潜んでいた敵兵を射倒し、ジスタート兵達から感嘆の声が上がる。

 

「つっ・・・」

 

 左手に痛みが走るのを感じたティグルが手のひらを見ると、矢を掴んだ時についたと思われる、横に広がる傷から出血ていた。

 それを見たティッタはスカートの一部を破り、それをティグルの手にきつく巻く。

 

「大丈夫か?」

 

「問題無い、やれる」

 

 ティグルの答えを聞き、笑みを浮かべるエレン。

 

黒竜旗(ジルニトラ)!」

 

 エレンの宣言と共にジスタート兵が、軍旗を掲げ、それを見たディナントの戦いに参加したテナルディエ兵達は悲鳴を上げ、次々に逃げ出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「散々好き勝手に略奪の限りを尽くし、罪無き民達を傷つけておきながら、いざ自分達より強い相手が出て来たら我先に逃げ出すなんて、正に盗賊の所業だね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 突如聞こえてきた声と共に、何かがテナルディエ軍の中を通過し、同時に兵達の体から血が噴き出し、崩れ落ちる。

 

「見ていて虫酸が走るよ」

 

 声の主、バルグレンを構えたサーシャはその瞳に怒りを宿し、テナルディエ軍を睨みつけ再度突撃、次々と兵を斬り捨てる。

 

「突撃! サーシャと共に敵を追撃せよ!」

 

 エレンの掛け声と共に、ジスタート兵達は武器を構え、テナルディエ軍を追撃する。

 

「ティグル、追うぞ!」

 

「おう!」

 

 エレン達に続き、敵を追撃しようとしたティグルがふと自分の持つ弓に目をやると、弓に大きな亀裂が走っているのを見つける。

 

(ティッタを助けた時か・・・。どちらにせよ、これじゃあ使えない。どうすれば・・・)

 

「ティグル様、これを」

 

 ティッタが抱えていた家宝の黒弓をティグルに差し出す。

 

「こいつは・・・」

 

 それはヴォルン家の家宝であり、何よりティグルにとって、文字通り特別な弓だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(四年前、俺はこいつと共にジスタートを巡り、そしてあの時、俺はこいつの力を使い、サーシャを救った)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ティグルは四年前、ジスタートに発つ時、父からこの弓を持たされ、こう言われた。

 

『良いか? 決してこの弓を手放してはならない。旅の途中、常にこれを手元に置いておくのだ。分かったな?』

 

 そしてジスタートから戻り、父に弓を返した時に言われた事を思い出す。

 

『この弓、そしてその力を(いたずら)に使ってはならない。今後この弓を使うのは本当に必要とした時のみだ』

 

(そして、今がその時!)

 

 ティグルはティッタから黒弓を受け取り、代わりに亀裂の入った弓を手渡す。

 四年振りに手入れ以外の目的で手に取った弓の感覚を確かめるように、ティグルは弦を軽く弾く。

 一月以上放置していたにも拘らず、確かな弾力が指に伝わる。

 

(やっぱり馴染む。あの時同様・・・、いや、それ以上に!)

 

 弓を握りしめ、ティグルは決意する様に誓う。

 

(父上。俺は嘗てサーシャを、初恋の女性を守る為にこの弓の力を使いました。そして今、今度はアルサスを守る為にこの弓を使います!)

 

「若〜!!」

 

「「バートラン(さん)!!」」

 

 馬に乗ったバートランがこちらに向かって来るのが見えたティグルとティッタは手を振り答える。

 

「若! ティッタ! 無事でしたか!」

 

「ああ。バートラン! ティッタを頼む」

 

「分かりました。さ、ティッタ」

 

「はい」

 

 バートランの馬に乗ったのを確認したティグルは黒弓を掴み、自身の馬に騎乗し、エレン達の後を追う。

 

「ティグル様、どうかお気を付けて」

 

 バートランの後ろで、ティッタはティグルの無事を祈った。

 

 

 

 そして、エレン達と合流したティグルは共闘しセレスタの町からテナルディエ軍を追い出し、逃げ延びた兵達は本隊と合流。

 ザイアン率いるテナルディエ軍と、ティグル、エレン、サーシャ率いるジスタート軍は、モルザイム平原にて激突する。

 

 




今回登場したオリ設定。
・サーシャの髪飾りはティグルがプレゼントした物。
・ティグルはジスタートを放浪中、父から家宝の黒弓を持たされており、黒弓の力についても少し知っている。

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