魔弾の王と戦姫 IF STORY   作:マシュ・マック

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戦姫と侍女

  NoSide

 

 ティグル達がテナルディエ軍と激突してから数刻後。すっかり日が落ちたセレスタの町では祝勝の宴が開かれていた。

 

「ん〜、いい風が吹くな、ここは・・・」

 

「だろ? 俺のお気に入りの場所の一つで、晴れた日はよくここで昼寝をしているんだ」

 

「確かにここは日当りも風通りも良さそうだし、丁度良い木陰もある。昼寝するにはもってこいだね」

 

 満天の星が輝く夜空の下、ティグル、エレン、サーシャの三人は町外れの小高い丘の上で風に当たっていた。三人の傍には葡萄酒(ヴィノー)の入った酒瓶と杯。酒の肴の乾パンと干し肉があった。

 

「サーシャ、エレン」

 

 ティグルは座った状態で、二人に頭を下げた。

 

「ありがとう。二人のおかげでアルサスを守ることができた。本当にありがとう」

 

「ティグル・・・」

 

 サーシャは優しげな微笑みを浮かべながらティグルを見る。

 

「安心するのはまだ早いぞティグル」

 

 対してエレンは真剣な表情を浮かべている。

 

「私はテナルディエがこのまま引き下がるとは思えない」

 

 その言葉にティグルは頭を上げ、頷く。

 

「そうだな。嫡男であるザイアンを討った俺を、公爵は放ってはおかないだろう」

 

「ああ。それでティグル、君はこれからどうする?」

 

 ティグルは目を閉じて数秒間沈黙を貫き・・・、

 

「テナルディエ公爵と戦う」

 

 真剣な表情で答えた。

 

「・・・・・・、それでいいんだね? ティグル」

 

 サーシャの問いにティグルは頷く。

 

「そっか・・・。なら僕達から言う事は特に無さそうだね、エレン」

 

「うん。一先ずお前のこれからの予定を聞く事は出来た。ならば私達はお前に力を貸す。今はそれで充分だ」

 

「ありがとう、サーシャ、エレン」

 

 ティグル達に笑顔が浮かぶ。

 

「さてと、そろそろ戻るとするか」

 

「そうだな。明日からは町の復興作業も始まるしな」

 

「ごめん、僕はもう少しここにいたいから、二人は先に戻ってて」

 

「そうか? 分かった。行くぞティグル」

 

「ああ」

 

 エレンとティグルは立ち上がり、セレスタの町に向けて歩き出す。

 

 

 

 

 

「そろそろ出て来ても良いんじゃないかな?」

 

 

 

 

 

 そして、一人残ったサーシャは後ろに生えている木に背を向けながら声を掛ける。

 

 

 

 

 

「・・・・・・、いつからお気付きに?」

 

 

 

 

 

 木の裏側からメイド服を着た少女、ティッタが姿を現した。

 

「僕達がここに来て少ししてからだよ。多分ティグルとエレンも気付いていたと思うよ。敵意が無かったから放っておいたみたいだけど・・・。君は確かティグルの屋敷にいた・・・」

 

「ティッタです。幼少の頃からティグル様にお仕えしています。アレクサンドラ様、あなたにお訊きしたい事があります」

 

「ん? 何だい?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あなたは、ティグル様の事をどう思っているんですか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「好きだよ。僕、アレクサンドラ=アルシャーヴィンは、ティグルヴルムド=ヴォルンを一人の女として愛している」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ティッタからの問いかけに、サーシャは間髪入れずに、真剣な表情で答える。

 

「そうですか・・・」

 

 ティッタは目を閉じて頷く。

 

「あたしは・・・」

 

「ん?」

 

「あたしは、このアルサスの神殿の巫女の娘として生まれました。当時のあたしは巫女の修行が嫌で、お屋敷に侍女として働いている伯母の所へよく足を運んで、その時にティグル様と出会いました。何度もお屋敷に足を運んで、ティグル様と過ごしていく内に、伯母が働いているのを眺めたり、手伝ったりするのが好きになっていきました。11歳の時、母にお屋敷の侍女になりたいと伝えた時、母は当然反対しましたが、ティグル様が口添えしてくれたおかげで最終的には侍女になる事を認めてくれました。それからずっと、あたしはティグル様にお仕えしています」

 

 ティッタがサーシャのすぐ近くまで歩み寄ってくる。

 

「旅から戻ってきたティグル様はジスタートでの話をよく聞かせてくれます。その話の中にアレクサンドラ様、あなたの名前が頻繁に出てきました」

 

「ふぅん、そうなんだ」

 

 ティッタの言葉にサーシャは頬を緩める。

 

「あなたの事を話す時、ティグル様はいつも楽しそうにしていました。その様子を見たあるお方がティグル様に訊いた事があります。『その女性の事が好きなのか?』と。そしたらティグル様は・・・」

 

「ん? ティグルはどうしたんだい?」

 

「・・・・・・、頷かれました。顔を赤くして慌てふためいた後。その時、あたし思ったんです、ティグル様にこんな顔をさせる方に会ってみたい。その方がティグル様をどう思っているのか訊いてみたいって」

 

「それでどうだった? 僕に会って、訊いてみた感想は?」

 

「・・・・・・、正直、敵わないな。って思いました」

 

 ティッタは皮肉めいた笑みを浮かべる。

 

「ティグル様と接していた時間はあたしよりも短い筈なのに、アレクサンドラ様とティグル様の間には確かな絆が結ばれていて、そこにあたしが入る余地は無いと気付きました」

 

「その口振りから察するに、君もティグルの事を・・・」

 

「はい。あたしも、ティグル様を、一人の女として、お慕いしています」

 

「そっか・・・」

 

 サーシャは満足した様な笑みを浮かべながら、星空を見上げる。

 

「安心した。ちゃんといたんだね、ブリューヌにもティグルを思ってくれる人が」

 

「え?」

 

「ありがとうティッタ。君の話を聞かせてくれて」

 

 そう言ってサーシャはティッタに視線を向ける。

 

「じゃあ今度は僕の話を聞いてくれるかな?」

 

 サーシャは自身の問い掛けに頷いたティッタに微笑み、隣に座るよう促す。

 ティッタは戸惑いながらもサーシャの隣に腰を下ろす。

 

「まず最初に言わせてもらうと、僕はこのブリューヌと言う国にあまり良い印象を持っていない」

 

 サーシャの突然の告白に、ティッタは目を丸くする。

 

「剣や槍が不得意で、弓が得意。たったそれだけの事でティグルを否定し、嘲笑う。別にブリューヌ独自の文化や価値観に兎や角言うつもりは無いけど、それでも、それだけに拘り、ティグルの良い所を認めようとしない度量の狭さには心底腹が立つ」

 

 ティッタはスカートの裾を握りしめる。サーシャが語ったそれは、ティッタ自身も昔から抱き続けているものであった。

 

「加えてあんな他人の領地のとは言え、自国の民を平然と傷つけられる様な下衆が国を代表する貴族の片割れだと思うと反吐が出る」

 

 忌々しそうに空を睨むサーシャ。

 

「だから僕はティグルにジスタートに来てほしいと願った。ジスタートならティグルは正当な評価を受けられる。エレンも彼を好待遇で彼を迎えると言っていた。でも・・・」

 

 空を睨んでいたサーシャは表情を変え、残念そうな笑みを浮かべる。

 

「断られてしまったよ。自分には帰るべき、守るべき場所がある。そこを放り出す事は出来ないって」

 

 サーシャが語るティグルの思いに、ティッタの頬が緩む。

 

「どうしてティグルはこんな国に尽くそうとするのか、僕には理解出来なかったよ。それで一度訊いてみたんだ。そしたらティグルはなんて言ったと思う?」

 

 ティッタは数秒間首を傾げながら考えるが、やがて首を横に振り、サーシャはその時の事を思い出し、笑みを浮かべる。

 

「ティグルはね、僕にこう言ったんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『俺は別にそこまでブリューヌに忠義立てしているつもりは無い』って」

 

 サーシャから聞かされたティグルの答えにティッタは目を丸くし、そんなティッタの様子を見てサーシャはクスクスと笑う。

 

「その後ティグルはこう言った。『無論、貴族として必要最低限の忠誠は誓っている。だけど俺にとって一番大切なのはあくまでアルサスだ。何故ブリューヌに尽くすのかと言っていたけど、それはアルサスがブリューヌの領土だからだ』って」

 

「ティグル様・・・」

 

 困った様な、それでいて嬉しそうな顔をしながら、ティッタはサーシャの話を聞く。

 

「その後彼はこのアルサスの事を僕に聞かせてくれたけど、その時の様子から彼が本当にこの地の事を大切に思っているんだと感じた。そしてこうして実際にアルサスを目の当たりにして分かった」

 

 サーシャは微笑みながらセレスタの町を見渡す。

 

「確かにこれと言った産業は無いみたいだから税収は少なそうだけど、豊かな自然に囲まれていてのどかで、何よりそこに住む人々が活き活きとしている。領民達も領主であるティグルを心から慕っている。ここは本当に良い所だ。だからこそ・・・」

 

 先程まで柔らかかったサーシャの表情が一変、険しくなる。

 

「どんな理由や考えがあるかは知らないけど、このアルサスを焼き払おうとしたテナルディエ公爵を僕は決して認めない」

 

 僅かな殺気が含まれたサーシャの独白に、ティッタは身震いする。

 そんなティッタを余所に、サーシャは続ける。

 

「恐らく公爵との戦いはこれから更に激しくなっていくだろう。公爵も本気でティグルを潰そうとしてくると思う。でも、絶対にティグルは潰させない。この命ある限り、僕はティグルを支え続ける。彼と、彼の守りたいモノの為に」

 

 己が決意を語るサーシャの姿に、ティッタは畏敬の念を禁じ得なかった。

 そして同時にティッタはサーシャに確かな安心感を覚えた。

 

「・・・・・・、アレクサンドラ様」

 

 ティッタは立ち上がり、サーシャに頭を下げ、サーシャはキョトンとした顔でティッタを見る。

 

「ティグル様はあたし達、そしてこのアルサスになくてはならないお方です。どうかティグル様の事をよろしくお願いします」

 

 ティッタの思いを感じ取ったサーシャは同じく立ち上がり、ティッタの肩に手を置く。

 

「君の思い、確と受け取ったよ。僕は戦場でティグルを支える。彼が無事に帰ってこられるように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして君も僕と一緒にティグルを支えてほしい、ティッタ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え?」

 

「戦いを終え、疲れ果てた彼を出迎え、戦い以外の日常の中で彼を支える。それが出来るのは他でもない、幼少の頃から彼と共に過ごしてきた君だけだ。ティッタ」

 

「あ・・・、あたしが・・・、ティグル様を・・・」

 

 戸惑うティッタに力強く頷くサーシャ。

 

「・・・・・・、あたしなんかに・・・、出来るんでしょうか? 何の力も無い、あたしに・・・」

 

「それは違うよ。君だからこそ僕は頼りにしているんだよ。同じティグルを愛する、一人の女として」

 

「アレクサンドラ様・・・」

 

 ティッタの目尻に薄らと涙が溜まるが、ティッタはそれを拭い、笑顔を浮かべる。

 

「はい! あたし、頑張ります! ティグル様の為に一生懸命!」

 

「よろしく頼むよ、ティッタ」

 

「こちらこそ、よろしくお願いします! アレクサンドラ様」

 

「サーシャで良いよ。ティグルを思う者同士、余所余所しい態度は止めてくれ」

 

「え? えっと・・・・・・、じゃあ、サーシャさんと呼ばせてもらいます」

 

「うん、それで良いよ」

 

 お互いに笑顔で握手を交わすサーシャとティッタ。

 その時、セレスタの町の方から誰かがやって来るのが見えた。

 

「お〜い! サーシャ!」

 

「「ティグル(様)!」」

 

 やってきたのはティグルだった。

 

「やっぱりまだここにいたのか、サーシャ・・・って、あれ? 何でティッタがここに?」

 

「え? えっと・・・」

 

「僕に話があったみたいで、ずっと待っていたみたいなんだ。それで、さっきまで二人でここで話していたんだよ」

 

「へ? ああ、あの気配、あれお前だったのか。サーシャに話って、一体何を話していたんだ?」

 

「そ、それは・・・」

 

「それは僕達二人だけの秘密だよ。そうだよね? ティッタ」

 

「っ! はい!」

 

 仲睦まじく話すサーシャとティッタの様子に、ティグルは首を傾げる。

 

「二人ともいつの間にそんな仲良くなったんだ? まあいい。もうだいぶ夜が更けて来たから、今日はもう休もう。明日は町の復興作業もあるしな」

 

「そうだね。じゃあ行こうか、ティグル」

 

 サーシャはティグルの傍に駆け寄り、彼の右手に抱きついた。

 

「なっ、サーシャ!?」

 

「ん? 何だい?」

 

「いや・・・、何だいって・・・」

 

 急に抱きつかれて戸惑うティグルだったが、可愛らしい笑顔を浮かべるサーシャを見て何も言えなくなってしまう。

 ティグルとサーシャの背後で、ティッタが羨ましそうに二人を見ている。

 それに気付いたサーシャは何かを思い付いたような笑みを浮かべる。

 

「そうそうティグル。君に言っておきたい事があるんだ」

 

「ん? 何だサーシャ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「僕の事もちゃんと忘れずに愛してくれるなら、別に愛人は何人いてもいいからね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぶっ!!」

 

「ふぇぇっ!?」

 

 屈託ない笑顔で、薮から棒にとんでもないことを言うサーシャに、ティグルは吹き出し、ティッタは顔を赤くして慌てる。

 

「いい、いきなり何を言い出すんだサーシャ!?」

 

「いや、ティグルの事だから僕の知らない所でフラグを建ててるんじゃないかな〜。って思って」

 

「何を言っているのかさっぱり分からんぞ!?」

 

「あ、勿論その人が君に相応しいかどうか、しっかり見極めさせてもらいけどね」

 

「だから何を・・・って、はぁ〜。サーシャ、君が何を思い至ったのかは知らないが、少なくとも俺は君以外の女性を好きになるつもりは無いぞ」

 

「ふふっ、ありがとう。でもこれだけは覚えておいてくれティグル。君の事を本気で思っている人間は、案外すぐ近くにいるってことをね」

 

 サーシャはティグルに見えないようにこっそりティッタに向けてウインクし、サーシャの言っている事の意味を理解したティッタは顔を赤くして俯いてしまう。

 

「ん〜、よく分からんが、とりあえずは覚えておくよ。じゃあ行こうか、サーシャ、ティッタ」

 

「ああ」

 

「はい」

 

 そして、三人はセレスタの町へと戻っていった。

 

 

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