お狐フレンズ   作:佐倉シキ

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中途半端な戦い

 

 

 

冷気が会場を包み込んだ瞬間、観客席から大きな歓声が沸き上がった。氷が張り詰め、吐く息すら白くなる。息を吸うたびに肺の奥まで冷気が突き刺さるようだった。

 

(……瀬呂君戦ほどの威力じゃない。一撃を狙いつつ、次を警戒したんだ)

 

緑谷はそう分析した。ソロはこの一発で終わるような男ではない。そう確信していた。そして、その予想は正しかった。

 

氷の中で、何かが蠢いた。

最初は淡い赤の輝き。だがそれは瞬く間に膨れ上がり、溶けかけた氷の中で光を放つ。轟の表情がわずかに引き締まる。氷の表面に細かなヒビが走り、亀裂が蜘蛛の巣のように広がった。氷が悲鳴を上げるようにパキパキと音を立て、やがて……。

 

轟音が響いた。

 

一瞬にして、氷壁が内側から爆ぜ飛んだ。炎が噴き上がる。轟の冷気を蹴散らすように、赤い光と灼熱が弾けた。空気が歪み、熱風が観客席にまで届く。髪が揺れ、皮膚が焦げるように熱い。

 

「うわーっ!!」

「炎や!?出た出たーッ!」

 

緑谷の隣で峰田と麗日が悲鳴混じりに叫ぶ。観客たちも一斉に立ち上がり、視線の先を見つめた。細かな結晶が宙を舞いながら光を受け、まるでダイヤモンドダストのように煌めく。その白銀の霧の中から、黒い影がゆっくりと姿を現す。

 

巨大な竜。黒い鱗が炎の余熱を反射して鈍く輝く。翼を広げるたび、空気がうねり、轟々とした音が響く。咆哮とともに竜の口から白煙が漏れた。

 

『来たーッ!!ドラゴン福州だーッ!!イエーーーイ!!』

『内側から火を吹いて溶かしたのか……相変わらず万能な個性だな』

 

実況席が騒然となる。

 

ソロは巨体を揺らしながら尾を振り抜いた。風圧だけで地面が割れ、砂塵が吹き飛ぶ。轟は瞬時に氷を生み出し、滑るように退く。尾の一撃はかすめただけで氷を砕いていく。

 

続けざまにソロは口を開き、再び火炎を吐く。灼熱が地を舐め、氷を瞬時に蒸発させる。轟は攻撃をすり抜け、滑るように前進。氷結の山を形成し、竜の胴を狙って突き出した。

 

だが、氷は竜の腕の一振りで砕け散った。白い氷片が弾丸のように飛び、轟の頬を切り裂き、血が滲む。痛みに眉が動くが、轟の足は止まらない。

 

『力こそパワー!!ドラゴンは火を吹くだけじゃねーぞ!!どうする轟!?』

 

ソロは雄叫びを上げ、前足を振り下ろした。爪が地面を裂き、破片が飛ぶ。轟は歯を食いしばって氷の上を滑走し、寸前でそれを避けた。

 

「アッハッハッハ!ちょこまかと逃げるなんて愛くるしい!まるでネズミですね轟焦凍!!はッははははは!捕まえて食ってやるぞぉ」

 

ソロが楽しそうに笑い声を上げる。轟は舌打ちをして鋭く息を吐いた。走りながら氷を巧みに操って進路を変え、竜の前足の下へ滑り込む。一瞬の隙を突き、足元の地面を凍らせ、氷の柱を突き上げた。

 

腹を突き上げられた竜の巨体が仰け反る。体の中まで衝撃が伝わり、ソロが苦痛に呻いた。熱い息が漏れ、血混じりの唾が床に飛ぶ。

 

『これはモロに入ったんじゃないかー!?ドラゴン福州、これは痛い!!』

『ドラゴン福州ってなんかプロレスラーみたいだな』

 

ソロは氷の山に両腕を叩きつけた。氷山が砕け、破片が飛び散る。轟は腕を交差して防御したが、いくつもの氷片が腕や頬を切り裂いた。

 

(クソッ……!)

 

その隙を狙って、竜が口を大きく開けた。牙が陽光を受けて光る。轟は身を屈めてソロの噛みつきを回避すると、氷の塊を形成し、竜の口に押し込んだ。ガキンッ、と嫌な音を立てて氷が簡単に噛み砕かれる。

 

(噛みつき?直撃したら重傷じゃ済まない。福州のやつ、何を考えてるんだ)

 

解説席で相澤が眉をひそめる。あの攻撃はまるで、獲物を嬲る肉食獣のそれだった。

 

(アイツわざと遊んでやがるな。ネズミで遊ぶネコみたいに。大怪我をして無様を晒すもよし、咄嗟に使いたくない炎を使ってくるのなら、それもまた面白いから良し。……はぁ、ガキかよ。ああいう言動をやめさせるのは大変そうだな)

 

ため息を吐く。視線の先で、ソロは氷を噛み砕き、舌で血を舐め取って笑っていた。

 

「どうしたんですか?炎は使わないんですか?僕じゃあ足りませんか?それとも、まだ悩んでいるんですかぁ?苦慮してる?苛まれてる?」

「俺は……」

「どうしたんですかぁ?教えて下さいよ、緑谷出久の話を聞いてなにを思ったんですか?愉快な気持ちになったんですか?悲しかった?ムカついた?それとも頑張ろうって気持ちになった?」

「……」

「アハハハ!ハッハハハハハ!馬鹿ですねぇ馬鹿ですねぇ愚か者ですねぇ。飛び方を知らないまま死ぬゴキブリみたいな方ですね貴方は!それならそのまま、無様に敗北してください!」

 

竜は二本足で立ち上がり、胸を大きく膨らませた。空気が熱を帯び、地面の砂が浮かび上がる。

 

(今までより……強力な火炎放射が来る!)

 

緑谷と戦ってから、轟の胸の奥ではずっと迷いが燻っていた。父を思い出すたびに、手が止まる。それでもあの時、あの一瞬だけ父を忘れられた。それは本当に正しい事のか。彼には分からなかった。

 

その時、

 

「負けるなッ!頑張れぇぇッ!!」

 

観客席から、緑谷の声が届いた。その一言が轟の心臓を撃ち抜く。体が震えた。もう一度、ソロを見据える。その瞳に宿るのは、確かな侮蔑。笑っている。遊んでいる。己の力を誇示しながら、心底から見下している。

 

(……なるほど、こういう気持ちだったのか)

 

はっきりと、舐められていると分かった。

 

【なりたい自分に、なっていいんだよ】

 

──俺だって、ヒーローに。

 

【君の!!力じゃないかッ!!】

 

あの言葉が蘇る。

 

──コイツにだけは、負けたくないッ!

 

轟の瞳が、再び燃え上がった。

 

 

 

 

 

    *   *    *

 

 

 

 

 

「……あのクソ共、何中途半端な戦いしてやがんだ」

 

観覧席の爆豪が苛立ちを隠そうともせず吐き捨てた。眉間に皺を寄せ、腕を組んだままスタジアムを睨みつける。その横で切島が首を傾げた。

 

「中途半端って……どういうことだ?全力でぶつかってるように見えるけど」

 

切島の目には両者とも手を抜いているようには見えない。氷と炎がぶつかる戦場は、誰が見ても死力を尽くした激闘に思えた。だが、爆豪と緑谷には違うものが見えていた。

 

「始まってからずっと、そうだね……」

 

緑谷が静かに口を開く。

 

「言葉を選ばずに言うなら、確かに二人は中途半端な戦いをしてると思う」

「どういう意味?」

 

と、麗日が眉をひそめて問う。

 

「二人とも、個性をちゃんと使ってないんだよ」

 

その一言に、周囲の空気がわずかに張り詰めた。爆豪は舌打ちをし、苛立ちを隠せぬまま緑谷の椅子の脚を蹴りつける。乾いた衝撃音が響き、緑谷が「ひょえっ!?」と間の抜けた声を上げた。

 

「半分野郎は氷しか使ってねぇし、煽りカスはドラゴン以外に化ける気がねぇ。アイツは舐め腐ってる。クソッタレの舐めプ野郎だ。おかげで千日手になってやがる」

 

爆豪の言葉は荒々しいが、的確でもあった。

緑谷が続ける。

 

「轟くんは氷で体が冷えてしまっても、福州くんの炎で温まる。福州くんの方も同じ。体が冷えても自分の炎で温まる。……これじゃイタチごっこなんだよ」

「煽りカスの個性は多分、化けた対象にある程度、習性とか性質が引きずられるんだよ」

「それってどういうこと?」

「あ゛ぁ!?見てりゃ分かんだろ!テメェの目ん玉は飾りかァッ!?」

 

ドンッと手のひらが爆ぜ、小さな爆発が弾ける。爆豪の怒気に近くの生徒たちが身をすくめた。切島が慌てて肩を押さえ、渋々席に腰を下ろした爆豪は不満を隠せぬ顔で続けた。

 

「始まりは体力テストの時からだ。アイツ、持久走で馬になってただろ。あの時、他のやつが個性を使うたびに耳がピクピク動いてやがったんだよ。ありゃ警戒してる動きだ」

「警戒?」

「頭が人間で、そこに天敵なんているはずが無いと理解していりゃ起こり得ない行動だ。警戒するもんなんざ何もねーんだからな。ただ馬なら、草食動物だし、常に警戒して然るべきだ」

「馬の習性に引きずられてたって事か?」

「そんな前から福州くんのこと見てたの?」

「当然だろ。俺がいつかぶちのめす相手なんだからな」

 

爆豪はフンと鼻を鳴らす。

 

「じゃあそう考えるとあのドラゴンも、ドラゴンの習性に引き摺られてるって事か?」

「ケロケロ、でもドラゴンの習性って何かしら?」

「爬虫類だろ」

「あっ、そっか!」

「爬虫類って変温動物だよね!」

「そう。自分で体温を上げられない」

「つまり寒さに弱いってことか!寒いと動きが鈍くなる!」

「じゃあなんで轟相手に、ドラゴンのままなんだ?」

「だから舐めプだって言ってんだよ。あんだけバリエーションがあるんだから、さっさと別の姿になってぶっ飛ばせばいい。なのにアイツは変化しねぇ」

「ドラゴンにこだわりでもあんのかな?カッコいいからとか?」

「知るか!とにかくムカつくんだよ!どうせあのカスのことだ、舐めプ野郎を舐めプで倒せば面白ぇとか思ってんだろ!」

 

椅子が小さく震えるほどの貧乏ゆすり。緑谷はその横顔をちらりと見た。爆豪の言葉は乱暴だが核心を突いている。轟が勝つには炎を使うしかない。

 

氷だけでは、溶かされる。

炎を使わねば勝てない。

だが、炎を使うことは轟にとって、父を思い出す行為だ。

 

緑谷は拳を握りしめた。

 

「頑張れ……!」

 

小さな声が漏れた。

祈るように、思いを込めて。

 

 

 

 

     *    *    *

 

 

 

 

轟は白い息を吐いた。冷たい空気が肺を満たし、胸の奥まで凍りつくような感覚。額にはうっすらと汗が滲み、それが凍りかけている。

 

(……千日手だ)

 

互いに決定打を欠いたまま、ただ力の応酬が続く。

氷と炎のせめぎ合いは揺るがない。このままでは体力が尽きてしまうだけだ。

 

炎を使わなければ、この状況は打破できない。分かっている。頭では分かっているのだ。それでも、身体が拒む。

 

轟は一歩、前に出た。

氷を足元に展開しながら、静かに口を開く。

 

「なぁ、福州」

「おや、質問ですか?いいでしょう。サービスタイムです。答えてあげますよ。ちなみに好物は」

「好物じゃねぇ。なぁ、お前は何のためにここに立ってるんだ?なんでヒーローを目指す?」

「なんだ、そんな退屈なことに興味があるんですか?……強いて言うなら、面白そうだからですかね。なってみろって言われましたし」

「自分がなりたいから、じゃないのか?」

「だったら何かあるんですか?」

「……いや」

 

その沈黙に、ソロは冷笑を浮かべた。

 

「はッ、女々しい男ですね」

 

吐き捨てるように言うと、竜の前足を再び振り上げる。轟は横滑りで避け、氷を展開して反撃する。炎と氷がぶつかり合い、視界が白く霞む。熱と冷気が混ざり合い、地面が爆ぜる。皮膚を焼くような熱と、骨の芯まで凍らせる冷たさ。その中で、二人の戦いは、なおも決着を見せなかった。

 

イタチごっこ。終わりの見えない均衡。

 

それでも、轟はほんのわずかに、歯を食いしばって前を睨んでいた。その瞳の奥で、迷いが熱へと変わり始めていた。

 

「そうだ、じゃあ逆に聞いてもいいですか?貴方は何故ここにいるんですか?何がしたいんですか?」

「俺は、俺だって……ヒーローに……」

「ひぃ〜!声ちっさいし弱っちくて泣き言みたいですねぇ!“俺だってヒーローになりたいよぉ”、ですか!?アッハッハ!願い事があるなら2ヶ月後の七夕で短冊にでも書いてくださ〜い!こんなでっかいステージで言って恥ずかしくないの〜?にゃは!青臭ッ!ひゃはははは!」

 

笑うと同時にソロは灼熱を吐き出した。轟の視界いっぱいに紅蓮の奔流が広がる。咄嗟に氷を展開したが、分厚い氷壁は見る間に溶けていく。表面が蒸気を上げ、白い霧が視界を覆った。

 

「さぁさぁヒーロー希望者さま!逃げてないで戦って下さい!ヒーローは勝つのがお仕事なんでしょ〜?口先だけですかぁ?やぁ〜い雑魚雑魚よっわむし〜♪」

 

(……コイツはやっぱり、俺で遊んでるんだ)

 

氷越しに見えるソロの顔は笑っていた。愉快そうに、心底楽しげに。

 

自分が何者かも分からない。興味もない。ソロにとって大事なのは“いま楽しいかどうか”だけだ。今は轟で遊ぶのが楽しい。だから、轟が片側しか使わないのなら、自分も力の一部だけで戦ってやる。それで勝てたら最高に面白い。そんな顔をしていた。

 

「ほらほらぁ!頑張れ頑張れ!」

 

氷が、じりじりと音を立てて崩れていく。

 

(無様な俺を見るのが楽しいのか……マジで性格悪いんだな)

 

唇が焼けるように乾き、拳が震えた。だが、その怒りの裏に、はっきりとした自覚があった。自分はこれまで、誰よりも他人を侮っていた。戦う相手に、まともに向き合っていなかった。

 

今その報いを受けている。

 

(気付かせてくれたって訳じゃねぇ。コイツは素でやってるだけだ。……だが感謝するぜ、福州。お前の言う通りだ。ヒーローは、負けねぇ)

 

ヒーロー。他人を救ける仕事。憧れた理想。

 

(緑谷は、俺に……俺の力だって、ちゃんと見てくれてた)

 

拳を握る。皮膚が裂け、血が滲むほどに。

あの時、緑谷は全身全霊で自分を救おうとした。だからこそ、

 

(俺だって、勝ちてぇッ……!)

 

歯を食いしばる。

 

負けたくない。

 

負けるにしても、手を抜いた戦いじゃなく、“本気の相手”と、“本気の自分”でぶつかって負けたい。そのために必要なのは、中途半端ではない覚悟。

 

氷が溶けて消えていく。

心の奥にまで、緑谷の叫びが響いた。

 

「轟君ッ!!!!」

 

視界が真っ赤に染まる。炎が迫る。皮膚が焼ける。

轟は、全身で叫んだ。

 

「俺だってッ!!ヒーローにッ!!!」

 

その瞬間、彼の半身が爆ぜたように燃え上がった。轟の炎が、ソロの放った炎を押し返す。炎と炎が衝突した一瞬、爆発が起きた。地鳴りのような衝撃。観客席まで熱風が駆け抜け、悲鳴が上がる。

 

「ギャッ!」

 

ソロが驚き、翼を大きく広げた。だが羽が風圧に煽られ、うまくバランスを取れない。巨大な鱗が焦げ、皮膚がひび割れる。

轟はその隙を逃さず駆け寄って、ソロをさらに熱い炎で包んだ。突然の熱にソロは思わず悲鳴を上げた。

 

「あ゛っついッ!熱い熱い熱いッ!痛いッ!」

 

燃える鱗が剥がれ、皮膚が赤く泡立つ。ソロは転がりながら変身を解いた。人の姿に戻る一瞬、そのタイムラグを轟は見逃さなかった。

距離を詰め、腹に蹴りを叩き込み、続けて顎を殴り上げる。骨の軋む音が響く。さらに足払いで体勢を崩し、ソロの体を地面に叩きつけた。

 

「ぐぁッ!」

『轟が猛攻ーッ!!!福州、成す術無しかー!!?』

 

地に転がったソロが、火傷で爛れた顔を上げ、血走った目で轟を睨みつけた。

 

「クッソ……テメェ、やってくれたなッ……!クソ痛ぇッ!」

「今はとりあえず、お前を倒す事だけを考える事にした」

 

轟は低く言い放ち、ゆっくりと歩を進めた。右半身に氷を、左半身に炎を纏う。白と紅が交錯し、体の表面で蒸気が立ち上る。

 

「……俺は、お前が分からない」

「は?」

「No. 1になるって言った割に、戯れを優先して負けたり。こうやって人を嘲って遊んだり。面白ければ敗北もアリって言ってたくせに、今お前は俺に殴られて悔しそうな顔をしてる。お前こそ何がしたいんだ?」

「何がしたいか、って……」

 

ソロは一瞬きょとんとする。そしてムッと、不愉快さを全面に出して子供のように顔を顰めた。その様子を見て轟は目を見開く。

 

「知りたきゃ自分で調べろって言ったよな。俺はお前に興味が出てきた。だから俺が勝ったら、お前の事教えろ」

「……尚更、尚更負けられなくなりました。だってまだ、その気分じゃない」

 

ソロは立ち上がり、轟を睨んで笑う。そしてまた変身する。轟は即座に炎を使い、攻撃をした。直撃した筈だ。だが警戒は続ける。当然ながら、この程度では倒せない。炎の中から翼を持った小柄な影が空に向かって飛び出した。金色と赤で彩られた羽毛を持つ鳥。

 

『フェニックスだー!!フェニックスは炎の中から蘇るー!!』

「でも、あんな小さな鳥じゃあ轟君に攻撃できんくない?」

「攻撃は出来なくても、空ならまた変身できる」

 

緑谷の考察通り、空で再びソロの姿が歪んだ。そして現れたのは障害物競走の時と同じ、細身の愛らしい少女の姿。

 

(確か、風の妖精だったか)

 

ソロは空中から轟を見下ろす。

炎は空まで届く。だが強風を起こされればむしろ、炎でダメージを受けるのは轟だ。となると攻撃手段は氷となる。だがそれでは決定打にならない。

 

(細かい攻撃は得意じゃねえ。もっと個性の訓練しとくべきだったか)

 

悔やんでも遅い。

今できる最大限で迎え撃つのみだ。氷山を作って攻撃を仕掛けるがひらりひらりと躱される。飛ぶ相手は厄介だ。強風が轟を場外に吹き飛ばさんと襲いかかるのを氷の壁で防ぐ。幾度かの攻防を繰り返し、ある事に気がついた。

 

(攻撃の頻度が、少なくなってきてるか?)

 

轟はソロを窺い見る。上空にいる為分かりにくいが、息が切れているように見える。

 

(疲れてる?……そうか、万能でも全能じゃねえ。無敵な個性なんて存在しないんだ。技を使う度にアイツ、疲れてきてる)

 

ならば何度でも技を打たせる。風では己を倒せない。もっと別の姿になってみろ。そう言う意味を込めて氷と炎で攻撃を仕掛けた。

 

そして何度目かの炎が風で打ち返された時だった。

 

「ッ!!」

 

上空にソロの姿がなくなった。

 

(仕掛けて来た!!)

 

背後に巨大な影。振り返ると、ドラゴンの姿のソロが飛びかかって来ていた。

 

「舐めんなッ!!」

 

咄嗟に炎で迎撃する。炎が竜を包み込み、苦しそうにもがくのが見えた。

 

『これは決まったかー!!!』

『……いや』

 

氷でトドメを刺そうとした、その瞬間。

景色が一回転した。地面に叩きつけられ、続いて頭に鋭い衝撃が走る。視界がクラクラと歪み、起き上がれなかった。

 

『轟くん……行動不能!!決勝進出、福州くん!!!』

 

ワァァアア、と会場が盛り上がる。

轟は歪む視界で、ソロを見上げた。汗を流し、大きく息を乱したソロの姿が映った。彼の肌には痛々しい火傷が多い。

 

「な、何が起きたん?」

「化け狐……」

「え?」

 

A組のクラスメイトの大半も何が起きたのか分かっていなかった。ドラゴンが焼かれて、轟の勝ちだと思ったのだ。

 

「最後、女のガキの姿で半分野郎の炎を打ち返した時、アイツわざと炎に飛び込んで身を隠した」

「その時、ドラゴンに化けたと思ったんだけど実際は違ったんだ」

「あのドラゴンは幻だったんだよ。最後の最後で、強く印象に残っているドラゴンを幻覚として見せた事で、まんまと半分野郎を引っかけたんだ」

「轟君の背後に狐がいた。そしてすぐ元の姿に戻って、轟君を投げ飛ばして頭を踏みつけたんだ」

「轟ちゃんは最後の最後で狐に化かされたって訳ね」

 

轟は悔しそうに奥歯を噛み、ソロは乱れた息を整えて汗を拭い、笑う。

 

「ひゃっひゃっひゃ!血塗れ火傷まみれの放送事故でも知ったことじゃない!これがイカれた雄英ラジオだ!……というわけで、次回も懲りずに聞いて下さいね~ッ!!怪我超いた〜い!もうやだー、アッハッハ!」

 

ソロは大仰な仕草で拍手を煽る。

 

(思ったよりも技を使ってしまった……しかも体痛いし疲れたし、ほんッと最悪……)

 

会場には2人の健闘を讃える大歓声が上がった。勝者は高らかに笑い、負けた轟は暗い顔をして悔しさで歯を噛み締めていた。

 

 

 

 

 

 

 

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