お狐フレンズ   作:佐倉シキ

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体育祭•終幕

 

 

 

 

バァンッ!

 

控え室の扉が勢いよく開いた。爆豪が部屋の中に入ってきて、「あ?」と気の抜けた声を出す。目の前の光景に一瞬、拍子抜けしたのだ。

 

机の上にソロが突っ伏していた。

 

(部屋、間違えたか?)

 

爆豪は舌打ちし踵を返しかけた、その時だった。

 

「詫びの一つもないんですね、貴方は」

 

低く、けだるげな声がかけられた。

視線を戻すと、ソロがゆっくりと顔を上げていた。

 

「テメー、起きてやがったのか」

「ええ、まぁ。随分と騒がしい音がしたので、夢の国から引き戻されましたよ。びっくり仰天〜」

 

いかにも面倒臭いと言う態度が丸出しの口ぶりに、爆豪のこめかみがピクリと動く。一瞬で距離を詰め、テーブルの上に手を叩きつけた。掌から閃光と爆音が弾け、木片が飛び散る。

 

「決勝相手にその態度は何だ?やる気あんのかぁ!?テメーは!」

 

ニトロの匂いが空気を焦がす中、ソロは欠伸をしながら伸びをする。その態度が更に爆豪の苛立ちを加速させ、怒鳴り、再び爆炎を弾かせた。しかしソロはその爆風の中でも微動だにせず、頬杖をついて爆豪を見上げる。

 

「何なんだその気の抜けた顔は!?テメー何のためにここまで来たんだ!?あ゛ぁ゛!?」

「それ、轟焦凍にも聞かれたんですけど。皆それを聞くんですね。僕に興味津々ですか、いいですよ。教えてあげます。まずは好物ですけどね」

「知るかボケ!ねーよ!!テメーに興味なんて!!」

「ええー!?ホントに!?ほんとは知りたいんでしょう僕のこと?知りたいんでしょう興味津々でしょう?まぁでも興味がないと言うのなら仕方ありません。僕は黙っておく事にします」

「言え!!!俺が聞いてんだろーが!!」

「ワオ!理不尽ですね貴方は」

 

怒号とともに、爆豪がもう一度爆発を起こした。テーブルの表面が焦げ、煙が立ち込める。しかしソロはまるで花火でも見ているかのように涼しい顔で続けた。

 

「はいはい。では答えましょう。福州ソロは何故ヒーローを目指すのか。それは頼まれたからです」

 

その瞬間、空気が凍りついた。

爆豪の笑みが完全に消える。歯ぎしりの音が聞こえた。

 

「……あ゛?」

「家の都合ですよ。福州家とヒーロー社会に繋がりを作るため。僕はそのためにヒーローになる。ね?真面目でしょう?」

「テメー……ふざけてんのか」

「まっさかぁ!」

 

ソロは口角を大きく吊り上げた。

 

「僕はね、真剣ですよ。僕が面白いと思う範囲では全力ですから」

「……気にいらねぇ」

 

爆豪は低く唸り、拳を握りしめた。

 

「クソナードに半分野郎……気に食わねぇ奴は多いが、テメーはその中でもトップだ!」

「光栄です。トップは好きですよ」

「どいつもこいつもマジでヒーロー目指して戦ってる!そん中でテメーは、人に言われたからだと!?遊び半分だと!?ふざけやがって!!」

「そんなに文句を言われても困ってしまいますね。“他の人は本気でやってるんだからお前も本気出せ”って?何その同調圧力!いただけません!

だってさ、所詮ただの体育祭でしょう?たかだか遊戯ですよ?そんなお遊びに全身全霊で燃え上がれって……いやいや、無理無理。暑苦しいだけですって。お遊びに熱血とか、正直バカみたいじゃないですか?楽しいと思える範囲内で楽しく楽しむのがエンターテイメントというものですよ」

「舐めプのクソカスが!!」

 

爆豪の靴が机を蹴り飛ばす。しかしソロはその様子を見てもただ小首を傾げるだけだった。

 

「僕はふざけてませんよ。真面目に、ド真面目に、やりたい事だけして楽しく生きています」

「それがクソだって言ったんだよッ!」

 

爆豪の怒りが部屋を震わせる。

 

「テメェクソカスッ!半分野郎の時みたいにふざけた真似すんじゃねーぞ。全力で来い!!その上で、真っ向からテメーを捩じ伏せてやるッ!!」

 

鋭く睨みつけ、爆豪はそう怒鳴ると部屋を出ていった。ソロは小さく笑い、眠そうに目を細めてその背を見送った。

 

 

 

 

      *    *    * 

 

 

 

 

『さあいよいよラスト!!雄英一年の頂点がここで決まる!!』

『決勝戦ッ!!福州vs爆豪!!入学テスト1位と2位の因縁の激突だーッ!!!』

「やぁ皆さんこんにちはー!!

またまた元気にやっていきましょう!なんと本日、4戦目の収録です!!ちょっともうね、脳が半分溶けてます!でも笑顔だけは忘れませんよー、ヒーローといえばスマ〜イル!スマイル忘れず限界突破!このヒーロー飽和社会において1人のヒーロー希望のガキの命は紙より軽い!と言うわけで、やるぞ!やるぞ!やれる範囲で頑張るぞー!」

「ぶっ潰すッ!!」

 

場内が揺れるほどの歓声。ソロは口元に笑みを浮かべ、対する爆豪はまるで猛獣のような視線を向けていた。

 

『スタート!!!』

 

開始の合図とともに爆豪が一気に加速する。爆音が響き、一瞬でソロに接近した。だがソロはすぐに反応して体勢を低くし、前転するように滑り込んで爆風を避けた。爆豪が振り返る。だが、その時にはもう遅い。ソロの姿はもう変わっていた。

 

純白の衣をまとい、頬に氷の紋様を浮かべた小柄な影。冷気が広がり、息が白く凍る。

 

「ジャックフロストッ!!」

「正解正解大正解!」

 

ソロは楽しげに笑い、指先を鳴らした。次の瞬間、スタジアム全体が白銀に染まる。雪が舞い、霜が張り、ツララが垂れ、地面には瞬く間に氷の膜が張った。冷気が肌を刺し、観客が息を飲む。

 

『一面雪景色だー!!何でもありかよ福州ぅうう!!!』

 

ジャックフロストは冬将軍の擬人化とも言われる精霊だ。怒らせれば人を氷漬けにして殺してしまうと言う伝承もある。

 

(いきなり大技……俺の調子を下げるつもりかッ!)

 

その狙いが読めた。爆豪の個性は掌の汗腺から出るニトロのような汗を爆発させるというもの。つまり、汗が出なければ威力は落ちる。この寒さは爆豪の力を封じるためのものだ。

 

(今までの試合や襲撃の時の話を聞く限り、大技を使うとコイツはめちゃくちゃ疲労する。コイツに大したスタミナはねぇ。半分野郎との試合でかなり消耗したはず)

 

本来なら試合開始時間を遅らせたかった。だがそれは大人の事情により教師陣に却下された。

 

(そんだけ疲れてる状態でスタジアム辺りを一面雪にしちまうくらいの大技を使ったって事は、疲労覚悟で俺の調子を上げたくねえって事だろッ!?)

 

爆豪はスロースターターだ。戦いが長引けば長引くほど、調子が上がっていく。だがそれに対して、ソロの個性は対極にある。変身を繰り返すたびに体力を削り、戦闘が長引けば長引くほど、疲労が蓄積してしまう。個性を用いた長期戦では圧倒的不利。それは本人が誰より理解していた。

 

だからこそ、ソロは疲労を承知で爆豪が調子を上げないように凍てつく風で体温を奪うことにした。威力が上がらないうちに押し勝つ為の、消耗覚悟の作戦だった。

 

だが、

 

「その程度でどうにかなるとか思ってんじゃねーぞ!!!」

 

爆豪は怒声と共に爆発を放つ。耳を裂くような轟音と共に、ステージを覆っていた氷が粉砕された。衝撃波が観客席にまで届き、吹き飛ばされた氷片が霰のように降り注ぐ。しかし雪はそのまま振り続け、なおも白い冷気が残る。

 

(障害物競走の時の風もしばらくその場に残ってた。一度放った技はその場に残しておけんのか)

 

爆豪は息を荒げながら、冷たい空気を肺に吸い込む。だがその寒さなどそこまで関係なかった。自分で自分を温める術を知っている。己の爆発で、動きで、体温を上げて血を沸かす。

 

爆豪が再び前に目を向けた時、目の前に立つソロの姿が変わっていた。黒い羽の生えた姿、長い鼻の面。まるで古来の伝承に語られる妖、天狗のようだった。

 

「今度は天狗かァッ!」

 

ソロが羽団扇を一閃。瞬間、空気が爆ぜた。耳鳴りがするほどの風圧が爆豪を押し飛ばし、体ごと空に放り上げる。強烈な寒さに舌打ちを一つし、爆豪は空中で反転した。爆発を利用して態勢を立て直すとソロへ突進した。

 

『空中戦だー!!こいつぁ派手でいいッ!!!』

 

風と炎、爆発と旋風がぶつかり合う。爆豪の爆撃が風を切り裂き、ソロの突風がそれを押し返す。二人の間で衝撃波が弾け、空中に火の粉が雨のように降り注いだ。

 

ソロの目が光る。羽団扇を翻し、風圧で爆豪の爆発の軌道を逸らす。爆豪は歯を食いしばり、頬をかすめた風の刃で血を流す。雪が降り頻る中、もはや熱いのか冷たいのかも分からない。

 

(団扇をぶっ壊すッ!)

 

天狗の能力は羽団扇に起因する。変身対象に習性やら何やらが引き摺られるのであれば、間違いなく天狗の弱点は羽団扇だ。爆豪は急上昇し、爆発を連鎖させながら一気に距離を詰める。

 

ソロが風を巻き起こすが、その風に逆らうように突っ込む。肌が切り裂かれ、血が舞った。風圧で皮膚が裂ける痛みが、爆風の熱と混ざり合って灼けるように痛い。

 

「獲ったッ!!!」

 

爆豪が渾身の力で羽団扇を掴み、爆破した。団扇は姿を変え、赤黒い体毛のようなものが空中に散って燃えながら落ちていく。

 

「これでお前は無力だろ馬鹿がッ!!」

「チッ……」

 

ソロが舌打ちした瞬間、爆豪はその顔面を掴み、至近距離で爆発させた。皮膚が焦げ、煙が立ち上る。ソロの変身が戻り、苛立ちに歪んだ表情で爆豪を睨む。

 

轟音と共にソロの体が地面に叩きつけられ、雪が激しく舞い上がる。

背骨がきしみ、肺の中の空気が全部押し出された。地上で咳き込みながらも、ソロは顔を上げた。頬が焼け爛れ、焦げた皮膚の下で赤い肉がのぞいている。

 

あれではまだ足りない。爆豪はトドメを差すため舞い上がった雪煙の中に急降下する。

 

「ッ!!?」

 

しかし直感に従い、爆豪は急旋回した。

振り返るとさっきまで己がいた所にドラゴンの顔がある。

 

『ドラゴン福州の噛みつき攻撃を危機一髪で回避したー!!すげー反射神経だぜ!!』

 

ソロはゆっくりと爆豪を睨む。

正直疲労困憊だ。息がかなり乱れている。

 

「上等だ、もういっぺん叩き潰してやるッ!」

 

獰猛に笑った爆豪が、再び突進する。ソロはその強烈な爆発を正面から受け止めると、腕力に任せて爆豪を地面に叩きつけた。

 

『先ほどの仕返しだー!!今度は爆豪がぶっ飛ばされたー!!』

 

攻撃がぶつかり合い、互いに吹き飛び、地面を転がる。砂塵が舞い、観客席が悲鳴に包まれる。ソロは息を詰まらせながら、焼け焦げた腕を押さえた。皮膚が破れ、黒く焦げている。痛みで歯を食いしばる。

 

(飽きてきた……痛くてもう全然楽しくないし……俺なんでこんな頑張ってるんだっけ……)

 

このままでは、体の大きなドラゴンはただの的だ。そう判断したソロは、すぐに人間の姿に戻る。爆発攻撃を回避し、爆豪を投げ飛ばすものの、爆豪は方向転換し、再び襲いかかる。回転し、爆発の威力を高めようとしている。恐らく最後にするつもりだ。迎え撃たねばならない。そう考えて踏ん張ろうとした足元で、地面が大きく凹んだ。

 

(あ、やべ。変身がゆるんだ)

 

ソロの個性は、その姿を強く意識し続けなければ維持できない。わかりやすくいうと、常に少し力んでいるようなものだ。だが、今は疲労でそれに綻びが生じ始めている。このままでは、“福州ソロ”という形すら保つのが大変になる。

一応、万が一本当の姿を見られた時のことも考えて個性届では大きな異形型として申請してあるが、誰にも見せたことはない。相澤や教室陣には配慮を求めたのだ。もし本来の姿がヴィランとして登録されていたら非常にまずい。腹が減って盗みを働いた事もあるし、人に襲われて返り討ちにした事もある。その姿を大衆の前で晒すわけにはいかない。

 

榴弾砲(ハウザー)!!!」

「じゃあもう負けでいっか」

 

その瞬間、力が抜けた。悩むのは面倒だ。そう考えると、自分でも笑ってしまうほど急にどうでもよくなったのだ。何回も何回も真剣に戦うなんて馬鹿らしい。疲れたし、正直もう飽きた。

 

着弾(インパクトォォオオオ)!!!!」

 

直後、閃光と轟音が会場を貫いた。空気が震え、観客の髪が逆立つ。そして、爆発が収まった時、ソロの姿は場外に転がっていた。

 

いつものお団子頭は解け、焦げたエクステが近くに落ちている。炎に焼かれた藤色の髪が肩で乱れ、煙の匂いが漂う。ソロは大きく咳き込み、舌打ちをして起き上がる。

 

「あ゛ぁクソッ、冗談じゃないぞクソッタレ!痛いにも限度ってもんがッ……っと、うっかりうっかり、にゃはは!負けちゃった!」

 

『爆豪の超火力を前にトリックスターも為す術無しー!!福州、場外ー!!!』

 

爆豪は、俯いたまま拳を握り締めた。

唇が震える。怒りか、失望か、もう分からない。

 

 

——ふざけんな。

 

 

この戦いを“お遊び”だと思っているその態度が、何よりも許せなかった。

 

激しい怒りが湧いた。

舐められているとかそんな次元ではない。ソロは最初から自分と同じ舞台にすら立っていなかった。寄せては引く波のように気まぐれで、燃えてはすぐに冷める炎のような軽薄さ。いや、まるで飽きっぽい子供だ。面倒くさくなれば投げ出す。その幼稚な無責任さ、すべてが腹の底を煮え立たせた。

 

こっちは人生を懸けている。己の限界を賭けて、全身全霊で戦っているというのに。相手は退屈した子供のように投げ出した。

 

それが、何よりの侮辱だった。

努力も、覚悟も、積み重ねてきたものすべてを笑われたようで、

爆豪の中で怒りが一気に燃え上がった。

 

爆豪は怒りに任せて駆け寄った。そして、ソロの胸倉を乱暴に掴み上げれば勢いで足が僅かに浮く。

 

「オイっ!!ふざけんなよ!!」

 

声が震えていた。怒鳴りながらも、喉の奥が焼けるように痛む。全身にまだ爆破の余熱が残っていて、皮膚の下で血が脈打つのが分かる。ソロは突然掴み上げられた衝撃で息を詰まらせ、驚いた顔をした。目の奥に一瞬、驚愕と戸惑いが混ざる。

 

「勝ったのになにを怒っているんです?」

「テメェ……ッ!」

 

ただでさえ不満だった。

自分はようやく調子が上がってきたというのに、相手はもう疲れていた。対等な真剣勝負と呼ぶには程遠いものだ。それだけでも納得いかなかったのに、その上で、戦いを放棄されたのだ。

 

そんなもの、認められるはずがない。

 

「こんなの……!」

 

——こんなのは求めていた勝利じゃない。

 

自分が欲しかったのは、誰もが納得する完璧な1位。

実力で叩き潰して、跡形もなくねじ伏せる勝利。

 

だが目の前の相手は、今もキョトンとした間抜け面をしている。

 

「舐めてんのかッ!!」

 

胸の奥に溜め込んだ怒気が弾けた。

 

次の瞬間、爆豪は拳を振り上げ——

 

 

 

意識が、ぷつりと途切れた。

 

 

ミッドナイトの個性だ。

司会席から飛び出してきた彼女が、即座に個性を使ったのだ。ソロに殴りかかろうとする爆豪を止めるために。

 

そして、会場に響く高らかな声。

 

『福州くん、場外!よって爆豪くんの勝ち!!』

 

刹那、スタジアムがどよめいた。

 

『以上で全ての競技が終了!!今年度、雄英体育祭一年優勝はA組爆豪勝己ッ!!!』

 

歓声と拍手が湧き上がる。

だが、そこにある光景は奇妙だった。

 

勝者、爆豪は地に伏し、眠っている。

敗者、ソロは手櫛で髪を整えながらそれを不思議そうに見下ろしていた。

 

 

 

 

      *    *    *

 

 

 

 

『それではこれより、表彰式に移ります!!』

 

ステージの上で、ミッドナイトが明るく声を張り上げた。だがその声とは裏腹に、観客たちの表情はどこか引きつっている。熱気は冷めきり、空気は微妙な緊張と苦笑に包まれていた。

 

なぜなら、

 

「ん゛ん゛〜〜〜ッ!!」

「締まんねー1位だな……」

 

表彰台の中央、1位の爆豪はガチガチに拘束されていた。体中をベルトで固定され、口には猿ぐつわ。それでもなお、何とか引きちぎろうと全身で暴れ、獣のように唸っている。

 

隣のソロはいつも通りの上品な笑顔を浮かべていて、もう片方の3位、轟はメダルを受け取る者とは思えぬほど沈んだ表情をしている。その隣に立つ常闇は居心地悪そうに冷や汗を垂らしていた。

 

それでも進行は止まらない。

 

『それでは、メダル授与に移ります!今年はもちろんこのお方にお願いしましょう!我らがヒーロー、オールマイト!!』

 

ミッドナイトの声と、オールマイトの「私がメダルを持って」が盛大に被った。会場の空気が一瞬フリーズし、オールマイトが「……あっ」と困ったように眉を下げる。気まずい空気を振り払うように咳払いを一つ。そして気を取り直し、まずは常闇へ、そして続いて轟へとメダルを掛ける。轟は少しだけ穏やかな表情をしていた。

 

「緑谷少年との戦いで迷いは晴れたのかな?福州少年とのバトルでは、しっかり炎を使っていたね」

「あれは多分、あいつが俺を舐め腐ってたからです。でも……俺だけが吹っ切れたんじゃ意味がねぇ。俺にはまだ、清算すべきものがある」

「顔が以前とはまるで違う。……深くは聞くまい。今の君なら、きっと清算できる」

 

オールマイトは轟を軽く抱きしめ、次にソロの前に立った。

 

「福州少年。君が最後に戦いを放棄したのには何か理由があるのかい?」

「ハハッ、目敏いですねオールマイト。まあ、誰だって抱えていたい秘密の一つや二つくらいあるでしょう?」

「それはどう言う意味か聞いても?」

「えぇ〜、そこを聞きます?僕はミステリアスが売りのエンターテイナーですよ?だから当然、秘密は秘密です。最後に変身を使うのをやめた理由は2つあります。飽きたから、疲れたから、そしてそうするべきだと思ったから。おや、3つになってしまいましたね。まあいいか!

とにかく、ここはとっても楽しい舞台なんですから、人死になんて出したくないでしょう?それに、あれ以上はお互いただただ痛いだけで……やってる側も見ている側も愉快なショーにならなかったですしねぇ」

 

その言葉に、爆豪が唸るように暴れ始めた。「ん゛ん゛……!」と猿ぐつわ越しに呻き、オールマイトが慌てて押さえる。ソロはそんな爆豪を見上げ、ふっと笑みを深めた。

 

「まあ、無様な負け犬の遠吠えに聞こえるでしょうし、これ以上は何も言いませんよ。どうしても知りたければ勝手に調べればいいんじゃないですか?もしかしたら……何か面白いものが見つかるかもしれませんよ?」

「君はいつでもそんな調子だね。……だが、悩みがあるなら相談してくれ。皆、味方だ」

「にゃははは!どうしようもないことで悩んでるほど暇じゃありませんって。過ぎたことは過ぎたこと!後悔なんて、あんなの時間の無駄です。

僕はね、過去も見ないし未来も考えない主義なんですよ。“今”だけを楽しんで、臨機応変に生きる!これが一番、健全でしょ?」

「……君がいつか、“今’以外に目を向ける事の大切さに気がつく時が来る事を祈っているよ。とりあえず今は2位おめでとう!よく頑張ったな福州少年!」

「わんわん!」

 

オールマイトが差し出した手を、ソロは丁寧に握り返した。

続いて爆豪の番。拘束具を外した瞬間、爆豪は弾けたように叫んだ。

 

「オールマイトォッ!!こんな1位にゃ、何の価値もねぇんだよッ!!世間が認めても俺が認めてなけりゃゴミなんだよ!!」

 

血走った目。歯ぎしりの音。

その顔は、ヒーローというよりどう考えてもヴィランだった。

 

「うむ!相対評価に晒され続けるこの世界で、不変の絶対評価を保ち続けられる人間はそう多くない。受けとっとけよ!傷として!忘れぬよう!」

「要らねっつってんだろが!!!」

 

オールマイトが掛けようとするメダルを、爆豪は全力で拒む。だが結局、口に咥えさせられる形で押し付けられた。

 

ようやく掛け終えたオールマイトは、満足げに会場へ向き直り、締めの言葉を投げかける。今回はこの4人だったが、この場にいる誰にも可能性はあった。だからこそこれからも競い、高め合って登って行ってくれ、と。

 

そして皆が「プルスウルトラ!」と締めようとする中オールマイトが特大の声量で「お疲れ様でした!!」と言って、体育祭は終了したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

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