お狐フレンズ   作:佐倉シキ

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I•アイランド

 

 

「あ!!ねぇ見て見て!見えたよ!アンタ聞いてんの!?ちょっといつまでゲームやってんのよ!見える!?見て!!見ろ!」

「にゃ!?マリオが奈落の底に落下した!?オーノーマァリオ〜!」

 

狭い機内にユウの高い声が弾んだ。最新型のシートが並ぶプライベートジェットの一角で、ソロは座席に体を沈め、膝の上の携帯ゲーム機を動かしていた。下手くそなりに頑張ってクリアを目指している。

 

マリオが落下死した瞬間、ユウの腕がソロの首に回され、ぐいっと強引に窓側へ顔を寄せられた。

 

「あれ凄くない!?」

 

窓の向こう、雲の切れ間から姿を現したのは、人工的な輪郭を持つ巨大な島だった。青い海の上に不自然に浮かぶ都市。陽光を反射し、幾何学模様のように光を散らす。

 

「へぇ、もうついたの!飛行機って早いねぇ!アレがそう?なんだかタルタロスみたいだねぇ!」

「最悪な例えね」

 

ソロは子供のように目を輝かせながら感嘆の声をあげ、ユウは肘で軽く小突きながら呆れたように返す。2人の視界に広がるのは、学術人工移動都市、通称“I・アイランド”。

世界中の科学者が一万人以上も集まり、個性研究やヒーローアイテム開発の最先端を担っている。

 

福州家もヒーロー業界に参入してからは当然ここへ出資しており、今日はその視察と商談を兼ねた訪問だ。父である現当主、次期当主のユウ、そして息子でヒーローの卵のソロ。さらに護衛や使用人たちがプライベートジェットの後部に固まって座り、騒がしい兄妹を微笑ましく眺めていた。

 

やがて飛行機は滑らかに人工島の滑走路へ降り立ち、速度を落としていく。入国審査へ向かう通路は白く清潔で、医療施設のような静けささえ漂わせていた。

 

「そうだ、アンタはこの人工島が作られた理由知ってる?」

 

ユウは花のような虹彩の黄色い目を細め、挑発するように笑う。

 

「当然当然!世界中の優秀な研究者共を集め、個性の研究やヒーローアイテムの発明などを行う為だね!この島が移動可能なのはヴィラン達の襲撃から研究成果や科学者達を守る為らしいよ!」

「へえ、研究成果の資料見たけど私にはよく分かんなかったな。これってどのくらい凄いの?」

 

ソロはユウから渡された資料ファイルを開き、ページをぱらぱらとめくる。無数の論文タイトル、専門用語、図表。普通なら頭痛を起こす文字の群れを、彼は軽やかに読み飛ばす。

 

「確かにね、一般的に見ればそりゃあ凄いんでしょうとも!興味深〜い論文も山ほど出てるし、世界中の研究者が憧れて涎を垂らしてる場所だ!僕も昔ちょこっと調べ物した時に、ここの人達の論文を読ませてもらったしねぇ」

「なんか含みがある言い方ね〜?」

「いやいや、ウンウン、ほんっとうに凄いと思うよ?ただね……脳無を作った研究者の方がもっと凄いかもしれないなぁって」

「アンタねぇ、ヴィランと比較してたの?やめなさいよ失礼な奴ねぇ〜」

「だってねぇ、ここの優秀な皆さんがどんなにすんばらしいアイテムを作ろうとね、脳無1匹で蹂躙されてグチャっといきそうだなぁって……つい思っちゃったんだもの」

「思うなそんな事」

「ほらほら、想像してごらんよ。煙を撒かれたスズメバチの巣みたいに大騒ぎして、右往左往して、最終的には巣ごと海にポチャン!ってね。ジ・エンド!」

「想像するなそんな事」

「……ちょっと面白そうじゃない?」

「言うなそんな事」

 

ユウは眉根を寄せ、大きなため息をついた。だが、ただ呆れているだけではなかった。彼女の視線はソロの横顔に、ほんのわずかな変化を見つけていた。

 

以前のソロならこうした想像はもっと生々しく、もっと楽しげで、本気で実行しそうな危うさが常にあった。しかし今の彼は、冗談として語っている。残虐性が薄れ、軽口の範囲に収まっている。その違いをユウは確かに感じ取っていた。

 

「やっぱアンタ、雄英行ってちょっと変わったよね」

「ん〜?そうかなぁ」

 

ソロは振り向き、首を傾げる。

その表情は以前と違い、ほんの少しだけ自然な笑みを浮かべていた。わざとらしい陽気さや誇張された演技をせず、ふっと力の抜けた笑顔。ニヒルで、どこか意地の悪さが残りつつも、生きている人間の表情だった。

 

ユウはその変化を見つめながら、胸の奥に小さな安堵と、説明のつかない不安を同時に抱いた。

 

「なんか、ちょっと悔しいかも」

「んん、何がぁ?」

「いいえ?なんでもないわ。同い年のお友達って大切なのねって改めて思ったの」

 

ユウはそう言うと、軽く背伸びしてソロの頭を撫でた。途端、ソロは目を丸くして固まる。次の瞬間、照れ隠しのようにその手を払いのけた。

 

「僕は犬猫じゃぁないんだから!」

 

わざとらしい怒り顔で腕を組むソロに、ユウは肩を震わせて笑った。そんなふうにじゃれ合っているうちに、入国審査はいつの間にか終了していた。

 

ゲートを抜けると、そこにはまるでテーマパークのような光景が広がっていた。ユウが歓声を上げて飛び出していく。

 

「ソロ」

「はい、お父様」

「私は先に挨拶に行ってくる。この島の地理は把握しているな?」

「問題ありません」

「ユウはここを見たがっていたからな。お前が付き添え。時間までには必ず戻ってこい」

「承知しました〜」

 

ソロが恭しく頭を下げると、父は使用人達を引き連れて去っていった。姿が見えなくなると同時にソロは顔を上げるが、ユウはすでに少し先を歩き出していた。ソロは慌ててその背中を追う。

 

「ねえねえちょっと!これすごくない!?」

 

ユウが指差す先では噴水の水が空中でうねり、【Welcome】の文字を描いていた。舞う水飛沫が虹を生み出し、輝きながら形を変えていく。

 

「これどういう仕組みなの!?」

「I•アイランドは日本と違って個性の使用が自由だからねぇ。個性を使ったアトラクションも多いらしいよ。コレもそうじゃない?」

「すっごいじゃん!!ちょっと見て回ろう!ダッシュで!!」

「ダッシュで?」

 

ユウはソロの腕を引っ掴んで走り出した。

 

I•アイランドは日本とは似ても似つかず、まるで異世界へ足を踏み入れたようだった。舗装された石畳は踏むたび色を変えて輝き、キラキラとしたエフェクトまで生まれる。

 

ジェットコースター、観覧車、メリーゴーランド。見慣れたはずの遊具も、個性を組み込んだことでまったく別物のように進化していた。

 

ユウは片っ端から乗り倒した。ひと通り楽しみ尽くしたあと、今度はお腹空いたわねと言い出す。ソロは鼻を利かせ、匂いを辿ってユウの好みそうな屋台を探し当てた。

 

パスタ、パンケーキ、ドーナツ、エスプレッソ。体育祭のときと同じ勢いでユウは次々注文し、半分はソロに押し付けた。

 

「行儀悪ぅい!」とソロは呆れるが、ユウは気にも留めない。

 

「一緒に食べればいいじゃん!どうせなら全部食べたいし、分け合いっこしよう!」

 

そう笑いながら、さらにアイスクリームを二つ追加した。

 

「4個とも食べたいと思ってダブルを2つ買ったんだけど、やっぱり流石にお腹壊しちゃうかな?」

「やめた方が良いでしょう!先方に挨拶に行く際には顔出しをしなきゃならないのに、ユウちゃんだけ無様にトイレに籠る羽目になっちゃうよ!まあそうなったらなったで僕がうまいこと伝えてあげるけどね!」

「悪い様に伝わりそうね。仕方ない、じゃあ片方アンタが食べてよ!捨てるの勿体ないし!」

「アハハ!呆れる!」

「アッハッハッハ!写真撮ろ!!」

 

ユウはアイスをソロに押しつけ、そのまま肩を組んでふたりで写真を撮る。その写真の端に大きな影が写り込んでいた。

 

「怪獣ヒーローゴジロだ」

「なになに?知ってるの?」

「えぇ、えぇ、知ってるとも知ってるとも!僕は彼に興味があったんだ!」

「へぇ、珍しいわね!それにしても大きいわぁ、まさしく大怪獣!かっこいいわね!」

 

振り向くと、のっしのっしと歩いているのは怪獣ヒーロー、ゴジロ。5メートル近い巨体を誇る異形型ヒーローだ。

 

「サイン貰ってきたら?」

「やぁ、別にファンと言うわけじゃあないんだけども」

「いいからいいから!」

 

ユウに背中を押され、ソロはゴジロのもとへ。ゴジロは大きな手で器用にペンを摘み、小さなサイン色紙に丁寧な文字を書いてくれた。最後に巨大な指でピースサインまでして去っていく。

 

「お茶目なのね、可愛いわ」

「彼が世間に受け入れられたのは、やっぱ腕を人のように動かせるというのが大きいのかな?それとも二足歩行?」

「何の話?」

「個人的な興味の話さ。異形型個性が化け物と呼ばれ始める線引きは一体どこなのか、興味がある」

「難しい話ね」

 

ユウが眉を下げると、ソロはわずかに視線を宙へ彷徨わせる。ゴジロの巨体はすでに人混みの向こうへ遠ざかっていたが、その背中はいつまでも目に残るほど存在感があった。

 

“化け物”と“ヒーロー”の境界線。

 

ソロの言葉は軽い調子でも、その奥には深い興味が潜んでいる。二人がそんな話をしていた、その瞬間だった。遠くで、鋭い破裂音が空気を震わせた。白い閃光が走り、周囲の空気が一気に冷え込む。

 

「あれ、轟焦凍?」

 

ソロの直感が真っ先に答えを導き出した。ユウがその場で地図を開き、「あそこではヴィランアタックってアトラクションやってるみたい」と言う。ロボットを倒すタイムアタック。ユウは一瞬で目を輝かせ、ソロも同じく胸が高鳴った。

 

「よっし、やろう!!」

「エンターテイナーの出番だ!!!」

 

ソロはユウの手首をつかみ、軽やかな足取りで駆け出す。そこは岩肌を模した巨大なステージで、人工の山脈をくり抜いたような立体構造になっていた。

無機質なロボット達が険しい地形のあちこちに配置され、冷気の余韻が漂っている。

 

案の定、そこには轟がいた。

ステージに掲示された記録には【14秒】の文字。現在トップらしい。

 

「ハロー!そこのお姉さん!飛び入りして良いかな!?」

 

ソロがスタッフの女性に大きく声をかける。女性は笑顔で頷き、「記録更新狙ってこ!」とユウが背中を叩いた。「当然僕がNo.1」と、ソロは白い手袋を整え、自信たっぷりに微笑む。

 

ステージ側では、別の意味で火花が散っていた。

 

「テメー半分野郎!!いきなり出てきて俺スゲーアピールかコラッ!!」

「爆豪……緑谷達も来てんのか」

「無視すんな!!!大体なんでテメーがここにいんだよ!?」

「招待受けた親父の代理で」

『あ、あの…次の方が来るので』

「うるせぇッ!!次は俺だ!!!」

「NO!次は僕だ!」

 

ソロの澄んだ声が割って入ると、爆豪がギョッとしたように振り返った。

 

「福州くんッ!?」

 

そのとき、別方向からの聞き覚えのある声にソロが横目を向ける。緑谷、耳郎、麗日、八百万……そして何人もの見慣れた顔。

雄英A組が揃っていた。

 

「ハローハロー、リスナー諸君!突然の真打ち登場で失礼!ヒーローチャンネルのスタートです!

いやぁ、ついね?偶然聞こえてきた見事な痴態のハーモニーに、僕の耳がビビッと反応しまして。プロのアンサンブルより心地よい、敗者の遠吠え!これを前に黙っていられるほど、僕は冷淡にはできていませんので。

というわけで本日も、勝者の余裕と敗者の負け惜しみが織りなす至高の時間の始まりです。

パーソナリティはこの僕、ウルトラど有能な男こと福州ソロがお送りします!」

「テメェ煽りカスクソロン毛!!どっから湧いて出た!!」

「そこ」

「舐めてんのかボケが殺すぞ!!」

 

爆豪が吠えるが、飯田たちが慌てて雄英の恥部(爆豪)を物理的に回収しに走り、爆豪は引きずられる形で幕を閉じた。スタッフの女性は冷や汗を拭いながらもすぐに司会へ戻る。プロの鑑だ。

 

『再び飛び入り参加者がきましたー!イケてるスーツの美少年!!一体どんな記録を出してくれるのでしょうか!?』

 

その紹介に応えて、ソロがゆっくりとステージへ歩み出る。人のざわめきがすっと静まり、視線が一点に集まった。

 

(やるからには、当然最速を狙うよね)

 

『ヴィランアタック!レディ、ゴーッ!!』

 

その合図と同時に、ソロの姿は変貌した。骨格が軋む音、筋肉が縮む感覚、皮膚の下を走る熱。そして、小柄なイタチのような獣へ、しかし腕には鋭く湾曲した鎌がついている。カマイタチだ。

 

「ケケケ」

 

イタチの喉で笑った瞬間、地面が爆ぜたように風が巻き起こった。その姿は消えた。いや、速すぎて目に映らないだけだ。

石壁に、空中に、地面に、次々と風が走り、ロボットの外殻を深々と裂く金属音が響き渡る。細かい破片が散り、ロボットの間接部は風の勢いで捻じれ、センサーが悲鳴のように赤く点滅する。

 

『こ、これは凄い!!7秒!!圧倒的な速さで1位になりました!!』

「さて諸君、今日の楽しい遠吠え観察のお時間はあっという間にエンディング。いやぁ、鮮やかでしたね。見てこのタイム。信じられないレコードで余裕のままにフィナーレ直行です!

それではまた次の放送でまた会いましょう!

ではでは、常にトップスコア保持者の福州ソロでした。グッドナイト、敗者諸君!」

「黙れ体育祭2位ッ!!」

「ぎゃ!最も痛いところを突かれた!!」

 

ソロは笑いながら元の姿へ戻った。

その背後では爆豪が「クソが!!どいつもこいつも舐めやがって!!もう一度やらせろ!!」と暴れるが、切島に羽交い締めにされて連行されていく。

 

1位の記録を出したソロの元へ、ユウが勢いよく駆け寄り、手を叩き合わせる。A組の面々もそのまま集まり、自然と輪ができた。

 

「福州くんも来てたんだね」

「ハロー緑谷出久。貴方も来ていたんですね。合宿まで会えないものかと思っていたのですが、思ったよりも早い再会だ!」

 

ソロは目を細めて微笑む。

 

「ユウさん!お久しぶりですわね!」

「百ちゃん!元気してた?」

 

ユウと八百万が楽しげに再会を喜び合い、ユウは緑谷と轟の姿も確認して「君たちも久しぶり!」と手を振る。

 

「福州の姉さんか、久しぶりです」

「うんうん!貴方達も元気そうね!それにしてもエキスポにこんなにたくさんの雄英生が招待されてるなんて、雄英って本当にすごいのね!」

 

周囲の喧騒や煌びやかなアトラクションの光に包まれながら、ユウは朗らかに笑い、それぞれへ丁寧に自己紹介をしていった。

 

「私は福州ユウ!この自称エンターテイナーのお姉さんです!」

「自称ではなくスーパーなエンターテイナーだよ!」

「まあこんな感じのこの子だけど、たくさん仲良しな子がいるのね、性格終わってるのに意外だわ!正直ちょっと無理だと思ってた!」

「お姉さん!?酷い事言うやん!」

 

ユウの軽口に、場の空気がやわらかく揺れた。麗日は堪えきれず、ふっと吹き出す。笑いが零れた瞬間、ソロはそれを逃さず、誇らしげに胸を張ってワハハと愉快そうに笑った。

 

「彼らを私に紹介してちょうだいな!」

「オッケーオッケー!任せてくれよな!」

「嫌な予感がする……」

 

ソロは大仰なステップでも踏むように前へ出た。周囲の照明が彼の長い影を床に伸ばす。彼はその影すら舞台演出の一部であるかのように堂々と見せつけ、観客を前にする役者のように腕を広げた。

 

「彼は緑谷出久、強力なパワーを持つ個性を保有しているわりに個性の制御がいつまでたっても完璧にならない間抜けです」

「言い方」

 

緑谷は苦笑した。ソロの紹介を止める術は、もはや誰にもなかった。

 

「その隣のクールフェイスが轟焦凍。エンデヴァーの息子で、氷と炎という豪華二本立ての個性を持ちながら、家庭問題で長らく拗らせていた男です。あの半分封印ごっこは……まあ、思春期特有の反発ってやつでしょう。クールぶってましたが、実態はパパが嫌いなだけでしたね」

「よろしくお願いします」

「轟くん、怒りな?」

「八百万百はもう知っているので飛ばしますね」

「助かった……!」

 

八百万は胸に手を当て、心底ほっとした表情を浮かべた。

 

「こっちの女子は麗日お茶子。触れたものを無重力にする個性を持ってるけど、あまり詳しくないです」

「何だろう。これはこれでモヤモヤする自分がいる」

「それで、その隣は耳郎響香。イヤホンジャックという音に関する個性です」

「……それだけ!?なんかもっとこう!ないの!?」

「皆毒されてしもうてるわ……物足りなくなってしもうてる……」

 

耳郎が半ば怒り、半ば嘆きながら顔を覆うのを横目に、ソロは愉快そうに指を鳴らした。

 

「ではお望みどおり、もう少し掘り下げていきましょうか。眼鏡の彼は飯田天哉。少し前に引退したヒーロー、インゲニウムの弟で、生真面目すぎるほど生真面目な委員長です。四角四面で息が詰まりそうですが、脚のエンジンは一流。ただ、戦闘以外だとアクセルとブレーキの踏み方を間違えがちなので人間関係はちょっと空回り気味です」

「ぐはぁッ」

「ああ、飯田くん!」

「お前らが余計な事言うから飯田が死んだぞ!」

 

胸を押さえて膝をつく飯田に、緑谷が慌てて駆け寄る。その背後で、爆豪を取り押さえていた切島が叫んだ。

 

「彼らは名誉にも僕の友人に選ばれた人間達です」

「この方は何でこんなに上から目線なんですの?」

「本当にそんなん思ってんのか、疑問だわ」

 

ユウは、互いに遠慮なく突っ込み合う彼らの様子を眺めながら、微笑ましげに目を細める。その視線が自然と切島と爆豪に向かうと、ソロの視線も釣られるようにそちらへ向いた。瞬間、切島は肩を跳ね上げ「やめて!」と悲鳴のような声を上げた。

 

「赤髪の彼が切島鋭児郎。男らしさを崇拝する、どこか昭和の香り漂う純情硬派。硬化の個性は頼りになりますが、どこか一歩足りない。もう少しガツンと殻を破れれば、もっと化けるんですけどね。

 

で、最後。捕縛されてじたばたしている無様な男。

爆豪勝己。あれは……彼はほぼヴィランです。桃太郎が神聖な桃から生まれた勇士なら、彼はさしずめ肥溜めの糞から勢いよく産まれたタイプでしょう。才能はあるのに、まったく惜しい男です」

「んだとコラ聞こえてんぞクソロン毛!!!俺が糞ならテメーはそれ以下だわ!腐った生ゴミの詰まったゴミ袋だわ!」

「糞も生ゴミもどっちも最悪だな」

「何だ何だ!?何を怒ってるんですか!?ひょっとして貴方も友人って言って欲しかったのですか!?僕と友人になりたいんですか!?」

「んな訳ねェだろ!!テメーと友情結ぶくらいならバッタと結ぶわカスッ!!」

「バッタが可哀想でしょう。少しは相手の気持ちも考えなさい貴方は」

「まァじでぶち殺してやるからなカスッ!!テメーこっち来い!!!!!」

 

その喧噪の中、緑谷のそばに立つ金髪の女性がくすくすと苦笑していた。

 

「生憎、貴方の事は存じ上げませんけど」

「あ!いいのいいの!私はヒーローじゃないから!私はメリッサ。よろしくね」

「ふぅ〜ん。ま、よろしくお願いしますね」

 

ソロはメリッサにも軽く会釈を返し、彼女の穏やかな物腰をどこか興味深そうに眺めた。

 

「福州くんは家の関係で来てるんだね。コスチュームじゃなくてスーツだし」

「ええ、家がI・アイランドに出資しているので。パーティーにも招待されていたのですが、今日は仕事の取引で来ているんです」

「貴方達はパーティーに行くの?」

 

緑谷たちが「はい」と頷くと、ソロはその反応を見計らったように眉を上げた。

 

「パーティーのルールやマナーはご存じなのですか?ふふ、知らないまま踏み込んで、そこで盛大に大恥を晒してしまう、なんて事もあるかも!」

 

その一言で、緑谷と麗日が見事に同時に目を白黒させた。肩を寄せ合いながら「あれ?」「何したらいいの?」と慌てふためく。ユウはそれが可笑しくて仕方がないといった風に笑い、肩をぽんと叩いた。

 

「大丈夫よ、そんな形式ばったパーティじゃないから!気楽に楽しんでくると良いわよ」

 

2人は胸を撫で下ろすように深く息を吐いた。

 

「それじゃあ、名残惜しいだろうけど僕達は仕事があるから先に行きますね」

「うん、また会おう福州くん!」

 

ソロは皆に軽く手を振る。背中を翻し、そのまま歩き出すとユウも自然にその横に立った。2人の影が地面に伸び、夕陽の金色がタワービルのガラスに反射して彼らの輪郭を縁取る。

 

喧噪と笑いと喧嘩の熱を背に置き去りにしながら、ソロとユウは取引先のタワーへと向かっていった。

 

 

 

 

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