お狐フレンズ   作:佐倉シキ

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パーティー襲撃

 

 

 

「下ではオールマイトを招いてパーティーやってるのよね。良いなぁ、私も行きたかった。暇だよ〜」

 

ユウはさらりと髪をかき上げ、仕立ての良いスーツの袖を整えながら、テーブルに体を預けるようにしてかなり小声で退屈を訴えた。少し離れたところでは、福州家の当主である父が取引相手と静かに言葉を交わしている。

 

ユウはもうすでに役目を終えていた。顔見せも、資料説明も完璧に済ませた後はただ時間が過ぎるのを待つしかない。だからこそ、退屈さが余計に堪えていた。

 

「アンタも行きたかったんじゃない?」

「それはもう!行きたくて行きたくて生き霊を飛ばしてしまいそうな心地だよ!マナーが分からなくてあたふたする彼らの無様な姿をこの目に収められないのは結構ショックさ。でもまぁうるさいのは苦手だし、あの場にいるほとんどが興味の湧かない人間達であることを考えると、そこまで不満でもないかな」

「それもそっか」

 

ユウは自分の爪を眺め、磨かれた光沢を退屈しのぎのようにじっと見つめる。その横顔には、緊張も興奮もない。花のような虹彩の黄色い瞳には退屈そうな色が浮かんでいた。

 

「暇だね」

「堂々巡りって奴だね」

 

互いにため息をひとつ吐いた頃だった。ソロが父に呼ばれた。父の元に向かうと、そこで新しい指示が与えられる。新たな取引が確定したため、ユウと共に本社側と連携し準備に取り掛かれという内容だった。

 

ソロは淡々と二つ返事で了承すると、ユウの肩に軽く触れ、別の控え室へと歩いて行く。

 

「誰もいない部屋だわ!ラッキー!!」

 

扉を開けると、確かに誰の気配もない静かな個室だった。ユウは嬉しそうに足を運び、備え付けの大型テレビをつける。画面には丁度パーティー会場の華やかな光景が映し出されていた。

 

「オールマイト映るかな〜」

「オールマイト好きなの?」

「当然!だって平和の象徴よ!」

 

胸を張って言うと同時に、ユウは勢いよく両腕を掲げてポーズを決める。ソロはその横顔を見て、何かを思い出すように目を細める。

 

「平和の象徴……」

「どうかしたの?」

 

ユウが首を傾げると、ソロは少し遠くを見るような目をした。

その表情に、ほんの一瞬だけ昔の記憶の影が差す。

 

「知ってるかい?黒い狐って平和の象徴らしいよ」

「黒い狐が?」

「そうそう。瑞獣ってやつなのかな?白い狐は幸福の象徴で、黒い狐は平和の象徴なんだって」

「へぇ、知らなかった。そういえばアンタのコスチュームって黒い狐のお面付けてるのよね?ひょっとして憧れてたの?」

「まさか、奇跡的な偶然さ」

「でも運命的な偶然よ!平和の象徴ポーズ!現場でアンタもやってみたら?」

「そんな恐れ多い事をやるわけがないだろう。ファンだって誤解されちゃうし。すごいとは思うけど憧れてはないんだよ。というか、今更だけどそれってただのダブルバイセップスだろう。オールマイト固有のポーズとかではないだろうさ」

「じゃあ尚更やっても良いじゃない、権利とかないんだし」

「僕には合わないよ。もっとスマートなのじゃないと」

「じゃあアンタ用の新しいポーズ考えてあげるわ。こうよ!」

 

ユウは再び両腕をビシッと上げ、アルファベットのYを描くような謎ポーズを披露した。その姿がなんだか可笑しくて、ソロは思わず小さく笑ってしまう。

 

「お狐ポーズよ」

「どこが狐?それに、現場で両腕を上げるなんてまるで降参じゃないか……オールマイト風に言うのなら、ナンセンスって奴だね!全然スマートじゃないし!」

「なによぉ、ヒーローになるってんなら何か特徴的なポーズとかあった方が良いじゃない。それを見れば、アンタがどんな姿でも誰だってアンタだってわかるようなやつ。人気者になれるわよ」

「じゃあそのポーズはユウちゃんに上げるよ。その間の抜けたポーズを見れば、遠目からでもユウちゃんだってわかるはず。待ち合わせとかに便利だと思うよ。次からそれを使ってくれ」

「ユウちゃんポーズ!」

 

ユウがそのポーズを掲げるのを横で眺めながら、ソロは「それじゃあエンターテイナーが“本物”、見せてあげるよ」と言い、ポーズを決めるユウの前へ出た。指を構え、脚をぐっと伸脚のように開きつつ、妙にキマった立ち姿を取る。

 

「これこそが、僕のお狐ポーズ!」

「ちょっと待って、これはニチアサすぎるわ!別のを考えなさい!」

 

即座のツッコミにソロが笑い、気を取り直してポーズを変える。体を反らし、腕を大きくクロスさせ、一方は頭上へ突き上げ、もう一方は胸元で鋭く折り曲げる。

 

「お狐ポーズセカンド!」

「それはキラークイーンよッ!」

 

二人の軽口はしばらく続いたが、結局は飽きて同時にため息をつく。

普通にテレビへ視線を戻すと、ちょうど画面が切り替わった。

 

「あ、オールマイトだわ」

 

ユウが顔を輝かせたのと同時に、ソロも隣に歩み寄り、じっと画面を見つめた。

 

『ご紹介に預かりました。オールマイトです』

「ほら!映った映った!見て!生オールマイト!」

「生ではないよ」

 

軽口を言い合った矢先、会場の空気が突然ざわめきの色を帯びた。『堅苦しい挨拶は、』とオールマイトが言いかけた瞬間、背後のモニターが血のような赤に染まったのだ。

 

「あらら?」

 

ユウが首を傾げると同時、低く硬質な音声が島全体に鳴り響いた。

 

『I•アイランド。管理システムよりお伝えします』

 

それは非常時にのみ発せられる、島の警告アナウンス。

 

『警備システムによりI•エキスポエリアに爆発物が仕掛けられたという情報を入手。I•アイランドは現時刻をもって厳重警戒モードに移行します』

「あら大変」

「あは!ヴィランだ!よりにもよって今!あはは!!厳重な警備って何だったったんだよ!アッハッハッハ!!」

『島内に住んでいる方、また外部からいらっしゃった方々も含め、一切の外出を禁止します。今から10分以降の外出者は警告なく身柄を拘束されます』

「仕方がないのであっちの部屋と合流しようか!」

「そうね」

 

ソロがユウを庇うように前に立ち、ドアへ向かう。しかし取っ手に触れた瞬間、天井から重く鈍い金属音が響き、鋼鉄のシャッターがすとんと降りた。扉の隙間を塞ぐようにぴたりと閉まり、2人はあっさりと閉じ込められてしまう。

 

「あら困ったわ。お父様の元に向かえない」

 

ユウはシャッターを軽く押してみるが、びくともしない。ソロが何か言おうとして振り向いた瞬間、テレビの画面が視界に入った。

 

画面には、パーティー会場で銃を構えるテロリストたちが映っていた。会場の広いフロアには悲鳴がこだまし、ドレスやタキシードの招待客たちが腕を後ろで縛られ、床に膝をつかされている。主犯と思われる鉄仮面の男がゆっくりと壇上に姿を現し、無感情な動きで銃口を向けていた。

 

どうやら島の警備システムも彼らに乗っ取られたらしい。

 

ロボットたちが映る。武装した警備用ロボットも、清掃ロボットすらも、赤い警告ライトを点滅させながら動く。全てがテロリストの指揮下にあるらしく、まるで島そのものが敵になったようだった。

 

島民全員が人質だ。

不用意な行動一つで、ロボットたちが民間人へと牙を剥く。

 

ユウは静かに息を呑み、ソロは逆に、胸の奥で何かが愉快そうに蠢いているような笑みを浮かべた。

 

「大変だわ。こう言う島って根幹を乗っ取られるとかなりまずい」

「えぇえぇ!大変大変大パニック!言った通りに海の藻屑になるかもね!どうしよっか?シャッターも破壊する?」

「ダメよ。警備システムが反応しちゃうわ」

『当然、お前らもな』

 

鉄仮面の男の低い声が耳を打った。冷たい残響が部屋中に広がる。その男が「やれ」と無感情に命じた瞬間、パーティー会場の床が割れ、ヒーロー達の足元に黒い捕縛装置がせり上がった。

 

それは素早く伸び、ヒーロー達の体へ巻きつく。金属の締め付け具は骨の軋む音を立てながら食い込み、抵抗する隙さえ与えなかった。オールマイトなら引きちぎれるだろうが、人質が目の前にいる。被害者が出る。それを理解しているがゆえに、彼は拳を振り抜けない。次の瞬間、無力化された巨体がヴィランに蹴り飛ばされ、床を擦りながら転がった。

 

「ワオ、オールマイトが無力化された!」

「まずいわね。シャッター!すり抜けて!」

「オッケー!」

 

ソロの体が淡い光に溶け、輪郭がゆらぎ、次の瞬間には幽霊へと姿を変えた。彼は音もなく壁に向かい、そのまま霧のようにすり抜ける。隣室に移ると、父と取引相手らが暗い顔で真っ黒になったモニターを凝視していた。ソロの姿が現れると、父が鋭く振り返る。

 

「ソロか。ユウは無事か?」

「問題ありませんよ」

「そうか。シャッターが閉まっている限り人質は安全だろう。ソロ、お前はヴィランに見つからないように様子を探ってこい」

「承知しました〜!」

 

軽い調子で答えたものの、ソロの胸の奥では高揚感がざわざわと泡立っていた。危険であればあるほど好奇心が勝つのだ。

 

ソロは再び幽霊の姿で壁を抜け、ユウの元へ戻る。父の指示を伝えると、ユウは不安げに眉を寄せた。

 

「お願いだから、怪我だけはしないでね」

「はいはぁい!」

「気をつけて」

 

心配するユウの声音に、ソロは笑顔で答え、部屋を出ると同時に体が一気に細長く変形し、カマイタチへと姿を変える。風圧が床を削るように吹き上がり、そのままソロは風に溶けるように飛び去った。

 

 

 

 

     *    *    *

 

 

 

 

緑谷たちは、息を切らしながら非常階段を駆け上がっていた。メリッサの案内で目指すのは最上階、システムの心臓部。警備が乗っ取られているなら認証も破られているはず。ならば自分達で再設定すればいいのだと考えた。その判断は正しい。しかし最上階は200階。彼らが今いるのはまだ30階。汗が首筋を伝い落ちるほどの絶望的な距離だ。

 

その疲労を嘆くように、上鳴が大げさに肩を落とした。

 

「福州がいればドラゴンにでもなってもらって、背中に乗ってバビュンと一瞬だったのによぉ」

「無い物ねだりをしてもしょうがないだろ」

「いえ、無い物ねだりでもないかもしれませんわ」

「どう言う事だよ?」

「ユウさん達が取引を行うと仰っていたタワーはここです。恐らくこのタワーの中に福州さんもいる」

「マジかよ!早く呼び出そうぜ」

「取引中だからか、個人の携帯は電源を切っているみたいですわ。せめてどの階にいるのかが分かれば……」

「合流して、乗せてってもらえるかもしれねぇな」

「アイツどこにいるんだよ!?」

 

階段を上りながら、メリッサが息を整えつつ説明した。タワーは階ごとに役割が異なる。仕事の取引で訪れているのなら100階前後。走り続けて現在は80階。つまり、もう目の前だ。希望が見えかけたその瞬間。

 

「ッ!」

 

警告音と共に視界が赤く染まり、80階のシャッターが一斉に降りた。金属板が重く叩きつけられる音が階段全体に響く。ヴィランに見つかったのだ。

 

だが轟と飯田の活躍で、迫る鉄壁をギリギリで突破した。植物プラントを突っ切り、反対側の非常階段を目指すことにする。

 

「あれ見て!エレベーター、上がってきてる!」

 

耳郎が叫び、皆が顔を上げる。シャフト横の表示パネルの数字が勢いよく上昇していた。誰かが下からこちらに向かってきている。

 

緑谷たちは自然と息を潜めた。胸の鼓動が耳の裏で鳴っている。緊迫した空気が場を満たしていた。

 

草陰に身を潜め、全員が息を呑んでエレベーターの扉を見つめた。エレベーターが到着する間際、静かな階層にピンポンと軽やかすぎる音が響く。その無機質な明るさが、却って緊張感を際立たせた。

 

扉が左右に割れ、内部から現れたのは2人のテロリスト。先ほどパーティー会場で暴れていた連中だ。ひとりは小柄で、もう一人はひょろりと背の高い男。2人とも銃を構えたまま、殺気のこびりついた目つきで辺りを見回す。

 

「見つけたぞ!!クソガキども!!」

 

怒号が反響し、草陰の空気が一気に凍りつく。緑谷の心臓が跳ね、頭の中で焦燥が押し寄せた。まずい。見つかった。この距離では逃げ切れない。

 

どうする、と思案するより早く、その場にいないはずの人物の声が突然飛び込んできた。

 

「あ゛ぁ゛?今なんつったテメー」

「やめろよ爆豪」

 

(かっちゃん!?それに切島くんも!)

 

緑谷が驚愕した瞬間、爆豪はすでに前へ進み出ていた。エレベーターから距離があるにもかかわらず、その敵意は鋭くテロリストへ向けられている。完全に喧嘩を売られたと思い込んでいる顔だ。

 

「ここで何をやってるんだ?」

「あ?そんなの俺が聞きてぇわ」

「わ、まてまて爆豪!ここは俺に任せろ!」

 

切島が慌てて爆豪を押し下げ、朗らかな笑みをつくって一歩前に出る。その声色はいたって明るい。切島は彼らに道に迷ってしまったと伝える。真実なのだが、言い訳にしか聞こえないそれを鵜呑みにするヴィランではない。背の高い方が鼻で笑い、無警告のまま銃を振り上げる。

 

引き金が引かれる音が空気を裂いた。

 

切島は一瞬目を見開いた。避けられない。爆豪も間に合わない。緑谷達の胸に終わったという言葉が浮かびかけた刹那、

 

轟の個性が発動した。

 

凍気が床を走り、瞬く間に巨大な氷山が切島の前へ立ちはだかる。銃弾は氷に弾かれ、金属音を響かせて落ちた。続いて轟は息を荒くしながら氷の柱を生成し、緑谷たちを次の階層へ押し上げるように突き上げた。

 

「お前ら先に行け、道を探してこい!」

「轟くん!!」

「すぐに追いかける、行け!」

 

下には爆豪、切島、轟の三人が残される。背後では敵の怒声と、氷の砕ける鋭い音が混じり始めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

緑谷達は、一刻も早く上に進むためにシャッターを破り続けた。金属の板が何度もひしゃげ、やがて彼らは日照システム管理用の部屋に辿り着く。

 

構造的に非常階段が存在するはずだ。しかしその階段は上の階からしか降ろせない仕組み。上に行くためには飛ぶか、外壁を登るしかない。

 

必然的に、峰田が選ばれた。

 

渾身の駄々を捏ね、床に転がりそうな勢いで拒否したが、上鳴が耳元で囁いた。

 

“見事階段を下ろせたら、皆に褒め称えられてハーレムができる”

 

その一言で峰田の魂に火がついた。

 

「ハーレムハーレムハーレム!!」

 

勢いよく外壁に取りつき、ぶどうのような個性を使いぺたりと張り付きながら登り始める。しかし、怖いものは怖い。数メートル登っては正気を取り戻し、そのたびに甲高い悲鳴を上げた。

 

「チキショー!!こんなん福州の仕事だろ!?飛べば一発じゃねーか!!爆豪でも轟でもいい!!なんでオイラなんだよぉぉ!!ちっくしょー超怖ぇー!!!なんでいないんだよ恨むぞ福州ゥッ!!!!!」

 

叫びはタワーの外壁に反響し、夜風に乗って上方へ吸い上げられていく。

 

その声は、奇しくもソロの耳へ届いた。

 

「ん?今何かとぉっても愉快な声がしたような」

 

ソロはカマイタチの姿で、薄暗い通路を風のようにすべりながら一回転した。足元には、手足の腱を綺麗に切り裂かれて倒れ込む複数のヴィラン達が転がっている。呻き声がこだましているが、ソロはケタケタと笑いとばす。

 

「気のせい……じゃあないよねぇ。多分峰田実の声だった」

 

カマイタチの眼光が楽しげに細まる。少し考えた末、彼は声の聞こえた方向へと風に乗って向かうことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

峰田はなんとかメンテナンスルームに辿り着き、緑谷達は無事に階段を上がることができた。100階を超えたあたりから、なぜか隔壁がすべて上がっていた。自分たちの姿を見失ったのか、そう思いもしたが、恐らくは誘い込まれている。分かっていても、進まざるを得ない。

 

さらに上階へ踏み入れると、警備ロボットが群れをなしていた。金属の関節が不気味な音を立て、赤いセンサーがこちらを捉える。

 

「なんて数なの」

「奴ら捕える方に作戦を変えたか」

「きっと僕達が雄英生である事を知ったんだと思う」

 

ロボットは個性で破壊できる。そう判断し、緑谷達は八百万が創造した絶縁シートの下に身を潜めた。上鳴が息を大きく吸い込み、攻撃をする。

 

放たれた電撃は轟音とともに走り、ロボット達を包み込んだ。130万ボルト。肌を焦がすような光が通路に充満する。

 

しかし。ロボットは踏みとどまった。全身の装甲をきしませながら、防御体勢に入ったのだ。

 

 

「それなら、200万ボルト!!」

「ばか!そんな事したら!!」

 

案の定だった。凄まじい閃光が一度爆ぜ、空気が焼け焦げる。放電が終わった瞬間、上鳴は白目を剥き、足元をふらつかせた。オーバーヒートだ。

言葉の端々が溶け落ちたように崩れ、「うぇ、うぇ〜い」と意味不明な声を発しながら、ロボットの群れど真ん中でよろよろと立っている。仲間を守るために張った一撃が、今度は彼を無防備に晒してしまった。

 

しかも、ロボット達は耐えていた。

焼けた金属の匂いを上げながらも、ギギ、と首を傾けてこちらを見据えてくる。

 

「なんて頑丈なロボット!」

 

仕方なく、即座に作戦を切り替える。八百万が次々と物資を創り出す。通信が乱れた隙に、峰田のモギモギで動きを封じようと必死に食らいつく。

だがロボットはまるで執念でも宿しているかのように、絡め取っても絡め取っても起き上がり、ぎこちないながらも前へと迫ってくる。

 

「くっそ……!」

 

飯田と緑谷は互いに頷き合い、強行突破に踏み切った。焦げた金属片が舞う中、飯田が全力で飛び込み、緑谷が上鳴の身体を抱え上げる。轟音を上げて駆け抜け、辛くも皆で包囲を破った。

 

そして138階、サーバールーム。

ドアが開いた瞬間、空気が変わった。

 

「うそだろ……」

 

今までの比ではない数の警備ロボットが壁一面に並び、こちらを迎え撃つ態勢で待ち構えていた。ここで足止めを喰らっている場合じゃない。飯田達に残って足止めをしてもらい、緑谷はメリッサと麗日を連れて脱出した。

 

彼らがいなくなっても戦闘は終わらない。

レシプロバーストの爆風が床を抉る。峰田のモギモギが飛び、ロボットを拘束する。八百万は息を荒げながら大砲を創造し、連続で撃ち込む。それでも止まらない。押し寄せる。潰される。押し切られる。

 

やがて、飯田の脚は悲鳴を上げ、峰田の腕は震え、八百万の物資も追いつかなくなる。限界は、目前だった。

 

そして、彼らは拘束されそうになる。

ロボット達の拘束用ロープが一斉に射出され、鋼線の束が蛇の群れのように絡みついてくる……はずだった。

 

だが、ロープは奇妙な方向へと飛び散り、天井や床に絡まり、同士討ちのように絡み合っていく。

 

「これは……」

「ど、どう言う事だ?」

 

ロープを撃たなかったロボット達が異変を察知し、警戒モードで襲いかかる。しかし、そのロボット達もまた、突然ぎこちなく痙攣し、内部で何かが弾けるようにバランスを崩してひっくり返っていく。背面を床に叩きつけられ、脚をばたつかせながら沈黙した。

 

続いて、さらに後方のロボット達がロープを射出し、撃ち出された鋼線は逆方向へ跳ね、互いの胴や腕に絡まり、ぐしゃりと崩れ落ちた。

 

気づけば、警備ロボット達は全て一斉に沈黙していた。

 

「な、なんだなんだ!?」

「どうなってますの?」

「これで全部かな!?」

「ん?うわっ!」

 

飯田が息を整えた瞬間、彼の足元にそれはいた。身長15センチほどの小人。一本角の生えたウサギのような姿。皺だらけの赤い上着に、緑の半ズボン、黒革の長靴。絵本の妖精がそのまま現れたような異形。峰田が素で叫ぶ。

 

「なんだこのチンチクリン!?」

「ははッ!貴方に言われたくはないですね!」

「福州さん……ですわよね」

 

小人の姿がぐにゃりと歪み、皮膚が裏返るように捻じれ、その奥からすっとスーツ姿のソロが立ち上がった。一瞬痛みに顔を顰めるような様子を見せたが、なんでもない様子でニッと笑う。

 

「正解正解大正解!ウルトラ優秀な福州ソロですよ。愉快な声が聞こえた気がしまして、貴方達を探していたんです。まずは僕に対する感謝をどうぞ!」

「ありがとうございます福州さん」

「ま、ありがとう」

「はっはっは!アッハッハッハ!」

「てか声って?」

「ああ、それはですね。峰田実。貴方、外で何か叫んでいませんでしたか?」

 

あっ、と峰田の顔に理解が落ちる。そして次の瞬間には「なんだオイラのおかげかよ〜」と鼻を鳴らして得意満面になったので、全員が揃って無視した。

 

「今の姿は?」

「何だと思います?正解は〜、グレムリン!機械に悪戯をする妖精です」

「機械特効って事か、マジですごい個性だな。上鳴、アンタのお株も取られるぞ」

「うぇ、うぇい?」

「まだアホだったわ」

 

八百万が立ち直り、ソロに状況を説明する。彼はほとんど理解していたが、改めて情報をまとめ、軽く頷いた。

 

「なるほどなるほど、理解理解。緑谷出久達が先に上にねぇ」

「ええ、福州さんならすぐに追いつけますわよね。彼らを見つけたら手を貸して差し上げてください」

「貴方たちは?」

「体力が回復したら向かいますわ」

「オッケーオッケー!了解しました」

 

一礼とともに、ソロの身体が巨大化し、骨格が変形していく。鱗が光を帯び、龍の翼が広がった。

 

ドラゴンとなったソロは扉をこじ開け、ガラス窓を粉砕して外へと飛び去った。

 

 

 

 

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