お狐フレンズ   作:佐倉シキ

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林間合宿

 

 

 

I•アイランドでの事件の後、怒涛のように押し寄せる警察の聴取やヒーロー側の確認作業に追われ、ソロの夏休みはあっという間に進んだ。本来であれば、積んでいたゲームの山を一気に崩す予定だった。それも結局、半分ほどしかクリアできなかった。

ソロは不器用でクリアまでに時間がかかる。だから、気づけば夏休みは過ぎ去り、林間合宿の当日が来ていた。

 

ソロは支度を整え、家を出て学校へ向かう。

蝉の声が遠く近く反響し、湿った夏風が肌に張りついた。

 

(なんか、落ち着かないんだよな〜。なんだろ?最近なぁんか、変なんだよな。なんか結構調子悪いし……熱下がらねぇし……)

 

胸の奥でじわりと波紋が広がるような違和感。ざわつき、不調。理由ははっきりしない。ただ、どこか胸騒ぎがして仕方なかった。緑谷と話す日が近いからだろうか。けれど、それだけではないと本能が告げている。

 

その緑谷自身も、先日ヴィランに襲撃されたと耳にした。死柄木弔、ヴィラン連合のリーダーが動いたという事実。それは、世界の空気がまた少し変わりつつあることを示していた。

 

不吉な風が胸の内を撫でていく。

薄暗い影に触れたような、肌の裏側がざわざわと粟立つような感覚。だが、理由が掴めない。ただ、得体の知れない予感だけが形を持たず漂っている。

 

(自分で、自分の正体を察したから?……いや、違うよな。アレはもう納得して受け入れたし。緑谷出久と話すこと?いや、そんな丁寧に全部バラすつもりもない。まだ確信もないし。

……じゃあ何だ?何の予感?不安?……俺が、不安?何に?)

 

答えは出ない。

だからソロは、首をひねりつつ、とりあえずユウへメールを送った。最近は治安が悪い。だから、なるべく出歩かず、1人にならないようにと。

 

林間合宿の行き先は急遽変更されている。ソロはその行き先すら知らされていない。加えて、警戒体制のため合宿地では携帯を教師に預けるという。

情報漏洩を防ぐためだろう。この間はアプリもネットも見られず、ソロにとってはそれが地味に堪える。

 

「バスはこっちだ!並びたまえ!」

 

ユウから返信が届く前に、飯田の声が響いた。

ソロは眉を寄せながらも大人しく指示に従い、バスへ乗り込む。座席がすべて埋まったところで、車体は低く唸りをあげながら発車した。

 

「1時間後に一回止まる……その後は」

 

相澤が淡々と説明しようと振り返る。

だが、

 

「音楽流そうぜ、夏っぽいの!」

「バッカ夏といえばキャロル!夏の終わりだぜ」

「終わるのかよ」

「ポッキーちょうだい」

「福州音楽何聞いてんの?」

「ユウちゃんから返事来ないなぁ……」

「シスコン話聞けよ」

「しりとりのり!りそな銀行!」

「う、ウン十万円!」

「席は立つべからず!べからずなんだ皆!!」

「ねぇポッキーをちょうだいよ」

「轟それなに食べてんの?」

「蜂蜜ふらい」

「チョイス渋!」

 

誰も説明を聞いていなかった。

 

相澤は、心底疲れたように長いため息を吐いた。

バスの空気は妙に賑やかで、どこかこの上なく平和だった。それが逆に、先ほどまで胸の中でうろついていた不安の正体を曖昧にしていく。

 

 

 

 

     *   *   *

 

 

 

 

1時間後、バスは舗装もされていない開けた土地に停車した。パーキングエリアでも休憩施設でもない。地図にも載ってなさそうな、人気のない場所。生徒たちは訝しげに顔を見合わせながらも、大人しく外へ降りる。

 

すると、

 

「よーう、イレイザー」

 

と、奥の道の影から1人の女性が軽い足取りで姿を現した。落ち着いた佇まいの彼女に相澤は短く頭を下げる。どうやら知り合いらしい。

 

続けて、明るい声が響く。

 

「煌めく眼でロックオン!」

「キュートにキャットにスティンガー!」

 

2人の女性が、元気よくポーズを決めながら飛び出してきた。ヘソを出したミニスカートのコスチューム、猫耳のような髪飾り。派手で華やかだが、動きに無駄がなく、鍛えた身体であることが一目で分かる。

 

そして──

 

「「ワイルド•ワイルド•プッシーキャッツ!!」」

 

彼女達は4人チームで構える、有名なプロヒーロー集団。山岳救助を得意とするベテランで、一般人には到底真似できない地形把握能力と体力を持つ。

 

その足元には、目付きの悪い少年がいた。

敵意とも無関心ともつかぬ視線でこちらを見上げてくる。

 

生徒達は一斉に顔を見合わせ、呆然とした。

今回の林間合宿は、どうやら彼女たちの指導のもとで行われるらしい。

 

合宿施設は、彼らの立つ山道からも辛うじて目に入る麓にあった。この一帯はプッシーキャッツの私有地だという。

 

「今は午前9時半、早ければ12時前後かしらん」

 

その一言に、不穏な空気が走る。生徒たちは反射的にバスへ引き返そうと駆け出した。

 

「12時半までに辿り着けなかったキティはお昼抜きねん」

 

切島が真っ先にバスへ向かって走る。だが、次の瞬間、足元が崩れた。地鳴りのような音とともに土砂が津波のように押し寄せ、彼らの身体を次々と飲み込んでいく。

 

「悪いね諸君、合宿はもう始まってる」

 

相澤は、まるでいつものホームルームを始めるかのような涼しい顔でそう言い放ち、落ちていく生徒たちの姿を見送った。

 

私有地につき、個性の使用は自由。ただし、制限時間は3時間。自力で合宿場までたどり着かねばならない。プッシーキャッツは、この一帯をこう名付ける。

 

────魔獣の森。

 

「魔獣の森?」

「なんだそのドラクエめいた名称は」

 

訝しむ声の中、森の奥がぐらりと揺れた。木々を押し分けて姿を現したのは、獣。いや、獣と呼ぶにはあまりに異質だ。土色の皮膚、樹木の根を巻き付けたような体躯。まさしく魔獣そのものだった。口田が慌てて声をかけるも、通じない。彼の個性は動物であれば全てに通じるはず。通じないという事は、これは生き物ではないという事だ。つまり文字通り、魔獣。

 

それでもA組は慌てない。彼らは何度も危機を越えてきた。揺らがない強さが自然と足に力を宿らせる。緑谷、爆豪、轟、飯田が並び立ち、そのまま迷いなく魔獣へ突撃した。轟の氷が地を走り、爆豪の爆破が空気を裂き、緑谷の拳と飯田の蹴りが魔獣の体表を抉る。

 

しかし、その戦いの中にいるはずの姿が見当たらなかった。

 

「あれ福州は?」

「いなくね?」

 

生徒たちがざわりと騒ぎ始める。どこを見回しても、あの鮮やかな存在感がない。

 

「まさか土砂に飲み込まれたんじゃ!?」

「ンな訳ねーだろアホ!上見ろ」

 

爆豪の声に、切島は空を仰いだ。

 

「何だよ、何もねーじゃん」

「どこ見てんだ間抜け、木の上にいんだろーが」

 

指差す先、枝に一羽の鳥が止まっていた。

 

「あの鳥……隼?」

「あ!まさか!?」

 

隼はクラスメイトたちを見下ろし、わざとらしく目を細めた。そして、優雅に翼を広げる。

 

「ハロー、地に足をつけた飛べない皆々様方〜!すんばらしく優秀な僕がこんなところで汗と泥に塗れるなんてダッサイ事をやるはずがないって事なんですよね!貴方方はそこで頑張って血と汗と泥に塗れていてください!それじゃあ、さよならバイバイ!12時半に会いましょう!」

 

「あ!ずりー!!」

「私達も乗せてってよ〜!」

 

上鳴の抗議も芦戸の泣き言も無視して、ソロは風を裂く音を残し飛び立った。

 

「でも魔獣に撃ち落とされるんじゃね?」

「多分、それは無理だよ」

「え?」

「プッシーキャッツは環境を守るヒーローでもあるから」

「それがどう関係あるんだ?」

「隼はこの辺りにも生息しておりますから、野生動物と見分けがつかない福州さんを攻撃できないのですよ」

「そっか。万が一にも本物の隼を攻撃しちゃったら可哀想すぎるもんな」

「あいつの個性こういう時に羨ましいわ」

 

爆豪はその会話を聞くと、舌打ちをした。

 

「関係ねーよ」

 

短く吐き捨てる。手のひらが爆ぜ、小さな光が散る。獰猛な笑みを浮かべた。

 

「飛んでるアイツより早く着きゃ良いだけの話だ」

 

その言葉に轟が無言で頷き、緑谷も呼応するように笑った。

 

(そうだ、他人を羨んでる暇なんてない!すごい個性だってことは分かってた!僕だって、負けてられない!)

 

 

 

    *    *    *

 

 

 

 

日が沈み始めた頃。

 

「やーっと来たにゃん」

 

相澤の隣でソロが腕を組み、少し高い位置からA組の生徒たちを見下ろす。疲労で足取りの重い生徒たちが、ひとり、またひとりと姿を現した。

 

「あッはは!飛んでて思ったんですけど、どう考えても3時間はぜーったいに無理でしょ!未熟なガキどもが精一杯努力したとて日が暮れるって分かってたくせに!性格悪いですね!ははははは!」

「ありゃプッシーキャッツならって意味だ。というか、未熟なガキなのはお前も同じだろ」

 

生徒たちは疲労と苛立ちを隠さず、露骨に不満を見せる。

 

プッシーキャッツの評価が特に高かったのは、緑谷、爆豪、轟、飯田の4人だった。福州はそもそも飛んで来てしまったため採点対象外。むしろ、ヒーローを目指すなら友達の一人くらい助けてあげろ、と小言をもらう始末だった。

 

「君らの3年後が楽しみ!唾つけとこ!」

「マンダレイ、あの人あんなでしたっけ」

「彼女焦ってるの、適齢期的なアレで」

 

はしゃぎ倒すピクシーボブの異様なテンションに、生徒たちは揃って引き気味だった。見ている側の頬がひきつる。

 

「適齢期と言えば」

「と言えばて!!」

「ずっと気になってたんですが、その子はどなたかのお子さんですか?」

 

緑谷が指さしたのは、マンダレイのそばにじっと立つ少年。帽子の上から突き出た二本角、刺すように鋭い視線。4、5歳ほどの体格ながら、周囲の空気を遠ざけるような刺々しい雰囲気をまとっていた。

 

彼は洸太。マンダレイの従甥であり、諸事情あってプッシーキャッツの下で暮らしているという。

 

緑谷は膝を折り、目線を合わせて柔らかく笑った。

 

「僕、雄英高校ヒーロー科の緑谷出久。よろしくね」

 

その瞬間だった。

 

洸太の小さな拳が、緑谷の股間を思い切り打ち抜いた。鈍い衝撃音。緑谷の表情から血の気が引く。

 

「っ——ぐ……っ!!」

 

言葉にならない声を漏らし、その場に崩れ落ちる。全身に冷や汗が滲む緑谷を心配した飯田がすぐさま駆け寄り、正義感の炎で眼鏡を光らせながら叱責する。

 

「おのれ従甥!!何故緑谷くんの陰嚢を!!」

 

洸太はまるで悪びれもせず、鼻で笑った。

 

「ヒーローになりたいなんて連中とつるむ気はねぇよ」

「つるむ!?いくつだ君!!」

 

洸太はぎらりとA組の面々を睨みつけ、つまらなそうに視線をそらして去っていった。

 

「マセガキ」

「︎おやおや……将来有望なクソガキですねぇ。いやはや、実に愉快です。彼がこの先どれほど無様に、華々しく転げ落ちていくのか。想像するだけで胸が高鳴ってしまいますよ。あの歳であれなら大抵は手遅れです」

「そうならないといいな。今は爆豪に似てる」

「たぁしかに!下品な目つきは瓜二つだ!」

「テメーらそれどういう意味だコラッ!!つかクソ共喋ってんじゃねーぞ!!」

「悪い」

「あはは!」

 

相澤は頭痛でもするかのように眉間を押さえ、大きくため息をついた。そして、茶番はそこまでだと告げ、荷物を部屋へ運ぶよう指示を出した。荷物を置いたら食堂で夕食、入浴、就寝。本格的な合宿は明日から、という段取りだ。

 

食堂へ向かう緑谷の背中に、ソロが軽やかな声で呼びかけた。

 

「グッドイブニング緑谷出久、惨めなハイキングで今日は疲れているでしょう?3日目には肝試しがあるらしいし、明日の夜にでもお話ししませんか?」

「福州くん!うん、分かった」

 

ソロはひらりと手を振り、そのまま先に食堂へ入っていった。

 

食事を終えた後、皆は大浴場へと移動する。

 

「まあまあ飯とかはね……ぶっちゃけどうでも良いんスよ」

「何だ峰田急に」

「優秀な僕の頭脳は一つの結論に辿り着きました。皆で峰田実を湯船に沈めるべきだってね」

「峰田死んじゃうよ?」

「分かってんでしょ?皆様方も、求められてんのってそこじゃないんスよ。その辺分かってるんスよ、オイラは」

 

浴場は湯気がゆらゆらと揺れ、木の壁に反射した灯りが不規則に波打っている。男子たちは次々と湯船へ肩まで浸かり、疲れた筋肉を解きほぐしていく。

 

ただ一人、峰田だけは湯船に背を向け、二つの浴場を隔てる壁の前にぴたりと立っていた。背筋を伸ばし、真剣そのものの表情。

 

「求められてんのはこの壁の向こうなんスよ」

「1人で何言ってんの峰田くん」

 

峰田が壁へそっと耳を押し当てる。

木の隙間越しに、かすかな声が聞こえた。女子たちの談笑、湯を弾く音、あるいは柔らかい吐息。湯気と壁の向こうに、楽園が広がっている。

 

峰田は確信していた。これは、もはや事故なのだ。入浴時間をずらさない方が悪いのだ、と。

 

意味を理解した何名かの男子は、反射的に顔を真っ赤にした。壁の向こうには、確かに女子たちがいる。その想像が胸を叩くように跳ね上がる。

 

「峰田くんやめたまえ!君のしている事は己も女子達も貶める恥ずべき行為だ!」

 

飯田の正論は、湯気の中でまるで壁に跳ね返るように虚しく響いた。峰田は振り返りもしない。悟りきった仏のような静かな表情で、

 

「やかましいんスよ」

 

と一言だけ返すと、その体が唐突に弾けるように動き出した。湯気を切り裂く勢いで壁に飛びつき、手足を爪のように引っ掛け、驚くべき敏捷さで駆け上がっていく。

 

「壁とは越える為にある!!プラスウルトラ!!!」

「校訓を穢すんじゃないよ!」

 

悲鳴にも似たツッコミが浴場中に響く。しかし峰田は止まらない。あと数手。あと少しで、手が向こう側の淵に届く、はずだった。

 

「ヒーロー以前に人のあれこれを学び直せ」

 

幼い声とともに、壁と壁の隙間からひょいと洸太が顔を出した。そのまま容赦なく峰田を押し除けた。当然、峰田は落下した。

 

湯気の中で、弧を描いて落ちていく小さな体。

湯船へ落ちる直前、峰田は醜い暴言を発する。誰も拾いたくないほどの無様さだった。

 

「じゃあもう福州でいいよ。森野ミドリに化けてくれ。今すぐ!ライトナウ!!」

「ひゃは!しつこいですね!……いい加減ぶっ殺すぞテメェ」

「びっ、くりしたー。福州お前、爆豪が憑依してんぞ」

「おっとしまった、品性がログアウト……」

「クソ髪ィ、クソロン毛ェ……テメーら俺に喧嘩売ってんのか……」

 

湯気の向こうで三者三様の悪態と困惑が混ざり合う。男湯らしい乱雑な空気と熱気の中で、ただ一つ風向きが変わったのは……

 

「うわっ!」

 

洸太が滑り、足を取られて落下した瞬間だった。小さな体が空中でひっくり返り、顔が恐怖で強張る。反射的に緑谷が飛び出した。湯気を割り、浴場の床を滑るようにして前へ。両腕を強く伸ばし、寸前のところで洸太を受け止める。

 

細い肩に触れた瞬間、洸太の体ががくりと沈む。

恐怖に耐えられなかったのか、意識を失っていた。

 

緑谷は慌ててタオルを掴み、洸太を胸に抱えたまま浴場を駆け出していった。

 

その背中を見送ると、浴場にはどことなくしんとした空気が落ちた。

せっかくの長風呂気分も、一連の騒動で完全に冷めてしまい、全員が気まずそうに湯船から上がっていった。

 

 

 

 

     *     *     *

 

 

 

 

そして翌日。

 

午前5時30分。まだ薄闇の残る時間帯。

森の向こうで一筋の光が差し始め、地面には冷えた朝露がきらりと光る。眠気の残る表情で並ぶA組の生徒たちの前に、合宿本番が姿を見せていた。

 

今回の目的は明確だ。

全員の個性強化、そして仮免取得に必要な実力を手にすふこと。ヴィランの悪意が確実に近づいている以上、準備は必須となる。

 

「という訳で福州……いや、爆豪。こいつを投げてみろ」

「あ?……ああ」

 

相澤が無造作に投げたソフトボールを爆豪が片手で受け取る。一瞬、横目でソロを睨みつけ、舌打ちをひとつ。

 

「くたばれ!!!」

 

「今のは僕に向かって言いましたね」

「そうなのか?」

 

雄叫びと同時、爆破の閃光が爆豪の手元で炸裂し、ボールが音を裂いて飛んでいく。空を切る白い軌跡。だが、

 

表示された記録は709.6メートル。

以前と比べて、ほとんど伸びていない。

 

約3ヶ月、さまざまな経験を得て確かに皆成長したが、それはあくまで精神や技術の話だ。個性は成長していなかった。それを理解した爆豪の奥歯が、怒りにきしむ音を立てる。

 

(最初クソロン毛を指名しようとして、俺に変えた。俺の個性は伸びてないって分かってたからだ!)

 

つまり逆に言えば、ソロの個性は伸びているのだ。

 

実際、I・アイランドでの彼の火炎放射は、体育祭時よりはるかに重く強かった。あの、USJの脳無に勝てるようになりたいと思っているソロは訓練を重ねてきた。

 

特に爆豪戦の最後、変身が解けかけた瞬間を本人は一番痛烈に覚えていた。その弱点を潰すため、変身をロックする訓練を死ぬ気で行った。寝ても、気絶しても、最悪死んでも解けない変身。

林間合宿で寝ていて変身が解け、下敷きにしてクラスメイトを圧死などさせるくらいなら、大嫌いな努力をした方がましだった。

 

さらに彼の本来の肉体は、まだ成長期にある。

運動し、食べ、眠るだけで、筋力も耐久も底上げされる。

授業だけを受けている他の生徒とは根本的に違う。最近はどうにも具合が悪い日が多いが、適度に遊びつつ、それと同時に身体を鍛え、個性も鍛えるという器用すぎる生活をしていた。

 

——だからこそ、爆豪の怒りは収まらない。自分は個性を鍛えていなかった。越えるべき、倒すべき相手をみすみす先に行かせてしまったと言う、自分への怒り。

 

「今日から君らの個性を伸ばす。死ぬ程キツいが、くれぐれも死なないように」

 

相澤の淡々とした宣言に、爆豪は逆に笑った。

前へ進むための炎が胸の底で音を立てる。

 

(上等だわクソがッ!!)

 

挑発にも似たその言葉を、爆豪は獰猛に笑い返した。

 

 

 

 

 

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