父さん、ニケになるってよ。   作:ハヤモ

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紅の間に混ざる汚泥

ゴッデスによる局地的な勝利では、もはや人類に勝ち目が無くなってきた。

スペックを大幅に落とし、若い女性脳なら取り敢えず部品に出来るようにした量産型ニケの生産が始まっているとはいえ、もはや劇的な逆転劇は見込めない。

それだけラプチャーの数と猛攻が凄まじいということ。 それでもニケの居ない序戦から約五年もの間、人類連合軍が地上で戦えたのは、ラプチャーに戦略的な思考がない、津波のように押し寄せては人間や建物といった文明を攻撃する単純な行動が大半だったからとされる。

拠点も地上で確認されず、上位モデルからの簡易的な信号を受信して群れて動いているだけに過ぎず、意志なんてものは連中に無いともいう。

 

……といっても開戦時から無差別かと思えば、宇宙港の破壊などが優先的に行われていたらしい。

その癖、軌道エレベーターという最も目立つ人類の建造物は破壊されていない。

彼の地はラプチャーの降下が確認されたポイントであり、今は防衛戦力とされるラプチャーの大群が犇き合っているそうな。

これが意味するところはつまり、連中は宇宙からやって来ていて、それも軌道エレベーターの先、宇宙ステーションを拠点にしているという事を示唆している。

 

後先が無くなってきた人類連合軍だが、重要な情報を得たのは快挙であった。

問題なのは、既に戦力の大半を失った連合軍が、どう攻略するかだった。

 

防衛するラプチャーを殲滅する力はない。

ICBMのような大量破壊兵器、遠距離攻撃は使えない。 前に使用した際、グラトニーと呼ばれる超巨大な"大口"が捕食、そのエネルギーを反射。 一方的に人類側が損害を被ったからだ。

再び使用すれば同じ目に遭う可能性があるし、同一個体がどれくらいいて、何処にいるかも分からない中ではリスクがデカ過ぎる。

空軍も近寄れない。 ストームブリンガーとかいう飛行型のせいで、制空権を人類は完全に失ったのだ。

 

司令部は対策を検討中だと、指揮官が教えてくれた。 でも近々決死隊として送り込まれるだろうと私は予感している。

もう本当に後が無いから。 アークも未完成。 力尽きる前に奴らに1発喰らわせるには、敵の喉元を少数精鋭の私達で貫くしかない。

それも賭けだ。 仮にエレベーターに到達して昇降機に乗れたとして、ステーションにいるとされる親玉が大人しく待ち構えているだろうか。

それでもステーションに到着出来たとして、親玉を倒せるだろうか。 そもそも、そうした存在がいるのかも分からない。 倒せたとして戦争が終わるかも分からない。

 

本当に賭けばかり……嫌いじゃないけど。

 

決行当日は第2世代型の代表機1名、シンデレラが支援、突破口をこじ開ける。

量産型も大量投入。 ラプチャーの大群を引きつける囮、陽動となり、突入部隊となるゴッデスを援護。 消耗を抑える。

その辺の具体的なプラン含め、お偉いさん方は話し合い中。 変更になるかも知れない。

 

でも決戦の日は近い。

後はやるか、やられるかだ。

 

そんな中、私に近接戦闘部隊の診察依頼が舞い込んだ。 このタイミングで?

いやまぁ、噂程度の近接戦闘部隊とやらは気になっていましたから、やぶさかではありませんが。

 

 

「ナグサ、直ぐに出発してくれ。 戦場にV.T.C.に研究にと忙しいのは承知しているが、上からの指示でな」

 

「分かりました。 指定座標に向かいます」

 

 

そうして向かった先は思いっきり戦場跡地。

そんなの今更と言いたいですがね、その傷が刃物で切り裂いたようなものなのですよ。

側に転がるは、黒いラバースーツのようなものに身を包んだニケのボディ。 量産型を魔改造、軽量化を施し機動力を確保、防御力を捨て得物は刀1本のみという超リスキーなカスタム機です。

こんな機体で戦わされていたとか。 ストレスマッハで思考転換率が通常機より高かった事でしょう。

……それによる暴走?

 

 

「……近接戦闘部隊による戦闘跡と見るべきですねぇ。 ですが、ラプチャーの残骸が見当たらない。 代わりにあるは、刃物で刻まれたニケのボディときた」

 

 

仲間割れでしょうか?

ラプチャーに手も足も出ず全滅したにしては、一方的過ぎですし、このような傷跡をつける型に覚えはありません。

 

 

「思考転換、或いは侵食による暴走。 指揮官に連絡するべきところですが」

 

 

そんな事をすればリリス達が急行してきて、問題も研究材料も纏めてワンパンチです。

それは面白くない。 ギリギリまで攻めますよぉ。

 

 

「実験しましょう。 誰もいない内にね」

 

 

鉄屑、いえ、死体に手を当てる。

私の能力で動けばと思い侵食させます。

するとどうでしょう!

死体は俎上で跳ねる魚のようにビクンビクンと痙攣、背中を仰け反ります。

次にはコアまで達し致命傷となっていた筋傷が瞬時に塞がり、やがてはニンフが馴染み落ち着きます。

 

───そして、赤い目を開けた。

 

 

「あれ? ここは? 私、斬られたはずじゃ」

 

 

素晴らしい!

蘇生しましたよぉ!

私の能力の可能性はまだまだ未開拓ですねぇ!

 

()()()未来がある! 希望がある!

 

 

「初めまして。 ゴッデスのナグサと申します。 僭越ながら貴女を治しました」

 

「えっ? ゴッデス? それに私、かなりガッツリ斬られた筈なのに……訳が分からないよ……!」

 

「混乱するのも無理はありませんが───ここで何があったのですか?」

 

「そうだ……隊長が、薔花(そうか)が!」

 

 

"そうか"?

ああ、近接部隊の隊長格でしたね。

部隊の中で1番強いんだと聞いています。

 

 

「薔花隊長が何かしたのですね?」

 

「そうなんです! 突然反乱を起こすって、指揮官の中尉を斬るって! それで賛同した隊員と反対する隊員が斬り合って、それで!」

 

「概ね事情は分かりました。 後はこちらで」

 

「えっ───」

 

 

ガクン。

 

浮き足が立つ彼女に意識を向け、彼女のボディを乗っ取る。

元の私はその場で眠るように倒れます。

 

 

「(えっ? なに? なにこれ!?)」

 

「ふむ、体が軽く感じます。 情報通りですかねぇ。 軽量化を施し、刀1本で敵に肉薄。 相当のリスクを背負ってなお、今日まで生き延びたのに……最期は味方同士の斬り合いでお終いとは、なんと勿体無い」

 

「(なんなの!? 私、操られてる!?)」

 

「そう焦らないで。 発見時、貴女は死んだも同然でした。 それを私が助けた。 少し恩返しのつもりでボディをお貸しくださいね」

 

「(い、いや! いやああ! 返して! 私を返してよぉ! こんなの気持ち悪い───)」

 

「煩い。 眠れ

 

 

そう命じるや、彼女の意識は刈られた。

奥底で眠っている感覚はあるので、死んではいません。 私が元の体に戻れば元の持ち主に帰る事でしょう。

 

 

「今はそう、薔花に挨拶しましょうねぇ」

 

 

私はその足で、さっさと先へ進みます。

おお、体が軽い軽い。 走力はフェアリーテールモデルに勝るとも劣らない。

道中、同型機の死体を素通りします。 弄りたいですが、今は手元ので我慢。 遊んでる場合ではありませんからね。

 

 

「はてさて、おや?」

 

 

やがて前方で鍔迫り合いの音。

量産型の顔立ち故に見分け難いですが、副隊長兼薔花の妹である紅蓮(ぐれん)と、姉であり隊長の薔花が戦っています。

その足元には指揮官だったものが転がっていますねぇ。 手遅れでした。 ニンフを持たない、というかニケではない人間に侵食は効かないですからね。 今のところは。

 

 

「姉さん! どうしてこんな!」

 

「私たちは実験台だったのよ。 最後の1人になるまで戦わせて、残った者を女神にする蠱毒の儀式。 だから補給も碌に寄越さず、無茶な任務ばかり繰り返して、わざと数が減るようにされた。 指揮官が自白したわ。 だからさっさと死ねってね」

 

「だから斬ったのか! だがどうやって!?」

 

「相手は人間じゃない、人間の形をしたラプチャーなんだって思い込めば、アッサリ斬れたわ。 ニンフの安全装置はそんなものなのよ」

 

 

おやおや、ニンフの限界の1つを理解している。

それを利用して外道指揮官を斬り捨てたと。

 

……さて、割り込むには芝居を打つべきか。

残機斬らせて骨を断つか。

 

いや、斬らせて侵食させるわ。

指先1つでも触れさえすれば良いからね。

 

 

「隊長!」

 

 

私は抜刀。

心得は無いですが、ニンフ君が補正。

便利ですね、ナノマシンの乗っ取りは。

 

 

「ッ! もう私と紅蓮しかいない筈なのに」

 

 

動揺は一瞬だけ。

そして、目にも止まらぬ内に。

 

 

「───あ」

 

 

胴体と頭が泣き分かれた。

参ったなぁ。 流石に頭をやられたらね。

本体だったら直ぐ生えるんだけど、借物の体だと厳しいかな。

 

頭が転がる中。

自分の胴体を見て、次に薔花を見る。

 

ニチャァ……と笑って口を動かして見せた。

彼女は瞳孔を開き、再び動揺した。

 

刹那、暗転。

 

私は意識を集中し───。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「薔花お姉ちゃん、つぅかまえたぁ♪

 

 

もう1度、同じ台詞を言ってやった。

今度は薔花の美しい声色で。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「───それで、この惨劇と?」

 

 

ゴッデスが私の救援を受けて到着した頃。

首の縫合だの、傷口の封鎖だのと、助けられそうな者は助けておいた。

駄目だった者もいたけど、仕方ない。 医者は神様じゃない。

でも私に限れば勝利の女神になるつもり。 他のニケやラプチャーを出し抜き、1人勝ちという形のね。

 

 

「はい。 首謀者は隊長の薔花です。 部隊の目的を思えば情緒酌量の余地はありますし、紅蓮は暴走を止めようとした功労者です。 どうか寛大な処置を」

 

「分かった。 司令部には悪いようには報告しないでおこう。 だが……」

 

 

指揮官、私をじろじろ。

そして足元で眠っている私の本体を見比べて。

 

 

「侵食は仕方ない。 そうするしか助ける道は無かった。 だが乗っ取る必要があったのか?」

 

「ええ。 自由意志も奪わないと暴れるかも知れないでしょう? 暴れる患者を治療するには拘束したり麻酔を打つなどして、無理矢理にでも行使する荒療治が必要な時もあります」

 

「妹だという紅蓮の顔を見てみろ。 複雑そうな顔をしているぞ」

 

「死なすよりマシでしょう。 まぁコアと剣は没収して、代わりに私のコードとニンフだけで動くようにし、何か悪さをしたら即停止や乗っ取りが出来るようにした上で後方に送ります」

 

「ナグサ……変わったな」

 

「誰しも変わるものかと」

 

「大きな誤ちだけは犯さないでくれよ」

 

 

誤ちを繰り返す事こそ人間らしくもない?

……冗談ですよ。

 

 

「指揮官、紅蓮をスカウトする事にしたわ」

 

「リリス、唐突に決めるなよ……」

 

「本人は納得したから。 ね、紅蓮?」

 

 

ゴリス、じゃなかった、リリスに殴られ白目を剥いてる紅蓮。 彼女に引き摺られ、有無を言わさずお持ち帰りという。

 

 

「おお、怖い怖い……」

 

「同感です」

 

 

リリスだけは敵にしたくない。

だからこそ、私のコードを馴染ませたのですが。

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