他より先んじてラボに到着した私。
早速エイブ博士に迎えられました。
量産型のプロダクト23が白衣を纏った姿をしていますが、ニケは眠らずに済むからという理由で志願、この姿になったという変わった経緯の持主です。
量産型とはいえ記憶はあり、第2世代型を制作できる技術を保有する天才です。
そしてニケになるには若い女性でなければならない事から、天才の前に『若くして』という言葉が付くでしょう。
私なんか霞んで見えてしまいますよ。
正直に羨ましいですね。
まぁ、その頭脳もゆくゆくは"私"にします。
けど、その目は疑心と哀しみに満ちています。
当然です。 同僚のレッドシューズが侵食研究で人類を裏切っていたし、私は侵食を武器に戦っていますからね。
少なくとも良い気はしないでしょう。
それでも迎え入れたのは最低限の挨拶。 なけなしの礼節。 上からの監視や命令もあっての仕方なし。
「……ラボへようこそ。 エイブだ、宜しく」
「ナグサです。 お噂は聞いております。 例の件は心中お察して余りあります……お互い苦労しますね」
どの口がいうのか。 この口です。
君の同僚でもあるレッドシューズを侵食し、罪を自白させた奴は誰でしょう。
そうです私です。
でもあのまま野放しにするより断然マシです。
たぶんですが、彼女を放置していたら同部隊のシンデレラや、他の隊員を実験台にしていたでしょう。
その意味では感謝は無くても責められるいわれはありませんねぇ!
「決戦前だ。 上層部も形振り構ってられないんだろう。 今までは戦時中でも悠長に権力争いをしたり、責任の擦り付け合い、決断が遅れたり、かと思えば処分は早かったり、今となっては土壇場で漸く慌てるときた。 何もかも後手に回りに回る。 この巡り合わせもその1つだ」
ナグサもそうだと頷きます。
とある警察官の言葉をお借りすると……戦線から遠のくと楽観主義が現実にとって代わると。 そして最高意思決定の段階では現実なるものは時に存在しないと。
戦争に負けている時はいつもそうだ───
第2世代型が完成しても、ずっと実戦投入されずにいたのもまた、呑気に足の引っ張り合いをしていた上層部の揉め事の所為です。
新たな力、期待の戦力。 それらはどこの管轄、指揮下に入るのか。 見えないところで奪い合いや押し付け合いがあったのです。
人類の存亡を賭けた瀬戸際なのに、未だ1枚岩になれず殴り合いとか笑っちゃうんですよね。
正解もハズレも分からないから慎重になったり、責任を取りたくない気持ちも分かりますがね。
さっさと決断できていれば、どれくらいの命が助かり、何本もの戦線が生き延びた事か。
だとして延命処置程度でしょうが。 ゴッデスとシンデレラの部隊だけで世界中の戦線を支えるのは非現実的ですからねぇ。
故に親玉、クイーンがいるとされる宇宙ステーションに殴り込みという喉元を狙う作戦が取られると。
それもまた、今更なんですよ。 まだ戦力がある内ならば。 そんなたらればの話も今更感。
もしかしたら、戦争はラプチャーが降下してくるより前、とっくに始まっていたのかも知れない。
……気付くのが余りに遅過ぎましたねぇ。
「エイブ博士に同意します。 放置していた夏休みの宿題を最終日に片付けるが如き。 そんな上層部連中の尻拭いをする余力は最早誰にもありはしない。 仲違いする気力も無ければやったやられたの犯人探しも出来やしない。 後は同じ舟に乗る仲間として協力するだけです。 それが泥舟でもね」
「腹の探り合いはやめよう。 かといって腹を割って話す仲でもないが」
「ええ、私を危険視しているのも存じておりますとも。 侵食なんて敵の技術、信用できないでしょう」
「資料には目を通した。 ナグサのコードと"
家族ねぇ。
最近はよく聞きますが。 その単語は同情を誘う罠としても活用できる言葉の人質。
盾、言い訳、命乞い。 或いは己が如何に立派か、社会的地位の振り翳しによるマウント、見せる見栄、装飾品として使う者もいる。
私にとっては単語そのものが忌々しい呪詛となりつつありますが……エイブはどういう意味で使ってるのかな?
「心配する気持ち、十分理解できます。 他のニケは私の様に復活できる訳ではない。 頭を撃ち抜いてリセットする事も叶わない。 あいや人格データや別の脳をバックアップとして用意する方法はあれど、今の"
故にコードを利用し、残機を用意しています。
でもこの考えは倫理観に反するとか、生理的に無理で受け入れられない者も少なくない。
私は続けます。
「だから無理強いはしません。 ゴッデスの皆はしているのですがねぇ」
「無駄だ。 シンデレラも誰も靡かないぞ」
ああ、見透かされていましたか。
でもねエイブ博士、もう遅いんですよぉ?
私をラボに入れた時点で、私の侵食コードは床や壁を菌糸のように、血管のように這い広がり、この施設の構造や、内部にいるニケはとうに侵食しましたから!
そうです。 もう直接触れる必要も無い。
サイレントに侵食できる。 本人達に自覚は無いし、気付きそうになっても汚染されたニンフ君が勝手に記憶や思考をコネコネして認識出来ないようになります。
私の能力はどこまで成長するのでしょうか。 我ながら恐ろしいですねぇ!
でもまぁ、このまま引き下がるのも癪なので粘って遊びましょう。
「まぁレッドシューズの事があってはね」
「その名は、もうしないでくれ……」
「忘れたい過去ですか。 分かりますよ、でも真実はどんな誤魔化しや嘘にも耐え得るものです。 未来永劫、永遠に。 逃げられやしませんよ」
「それはナグサもだろ。 貴女の事は調査済だ。 元医者だそうだな。 結婚相手に騙されて借金をし、連れ子を押し付けられ、職を失いかけていたところを、起死回生の策としてニケ化実験に参加。 唯一、男性ニケの成功例らしいな。 驚いたよ。 だとして、それとこれは別だ」
「私は私なりに受け入れました。 こんな人生、こんな世界をね。 その上で生き延びる方法を模索した。 皆に記憶される、己の存在の証を残す方法を模索した。 そしてほぼ確立したといえます。 あとは人類が滅びないよう、邪魔なクイーンやラプチャーに大人しくなって貰うだけです」
「……底知れない恐怖を感じるよ、君からは」
「褒め言葉ですねぇ!」
「ナグサは、君は味方だと信じたい」
「ならシンデレラに謁見しても?」
「ああ……こっちだ」
「賢明な判断です」
君達の脳みそは掌握済。
喧嘩も発生しない。 後は都合良く進むだけ。
侵食による思考誘導……暴力の要らない説得。
この力が人間、上層部にも使えれば良いのにね。
キャラを1度に何人も出すと大変なのと、使い分ける自信が無いので、小分けにしている感