父さん、ニケになるってよ。   作:ハヤモ

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新しい体、新しい家族

謎の敵、機械生命体ラプチャー。

それに対抗する女型ヒューマノイド、ニケ。

 

両者間で発生した戦争の先が見えない中、私はそのニケとして生まれ変わり、そして生きねばならなかった。

 

慣れない女の体。 慣れない戦場。

白く美しい指は、本当に戦闘用に生み出された機械なのか疑いたくなるものだ。

 

朝起きて鏡を見る度、銀髪に碧眼の容姿端麗な美少女と目が合って泣きそうになる。

憂いを帯び、少し濁った目は儚さを演出し。

色白の肌と細く繊細な指は庇護欲を掻き立てる。

声も美しく道往く男がほっとかない。

 

だが当事者になると泣きたい。

決して女性を差別している訳ではない。 人間時代に酷い目に遭わされたが、医療従事者の端くれとして公平に見ている。

だが客観的な時だ。 主観的にどう思うかは本人の自由意志だろう。

 

具体的な不満は色々だ。

股がツルツルの違和感のままに視線を下に這わせれば、盛り過ぎない程度に膨らんだ双子山が視界を邪魔するし。

成人男性が何人も集まって、漸く持ち上げられる銃火器を、この細い腕で軽々と振り回せるし。

人が余裕で死ねる衝撃を受けても平然と動き回り、凄い速度で走り回ったり飛び上がる事もできれば、痛みも遮断できるし。

その癖、己を触診すれば人間と同じ柔肌で、体温も感じるし、喜怒哀楽の感情で表情が変化するときた。

 

ニケとは、普通に立っている分には人間だ。

人間の脳を使用するという都合で、精神崩壊を起こさぬよう人間の姿を保っているに過ぎない。

 

他にも模倣点は多い。

体液は血液を真似て赤色。 トイレに行ったり食事をしたりするし、そうした生理的欲求は引き続きある。

前者は医者として興味があって、ヘモグロビンを検出できるか試したが、普通の針では皮膚を貫通できず、何か鋭利なモノを求めていたところを周囲に引かれてからはやっていない。

ただ日常的な部分……実際に用を足す時は立ちションなんて出来ず苦労した。 あと拭かないとパンツが染みて気持ち悪くなるという苦労もしたが今や昔。

やがて慣れてきて、実態を知ってくると……ああ、私はゴリラ女になってしまったと嘆き人知れず涙した。

 

体を売り、二重の意味で息子を手放し、不健全な生活に身を投じている。

そこは戦闘用なのだと、現実を再認識させられるばかりである。

 

また、身体能力ばかりが凄いのではない。

ニンフなるナノマシンが脳内をわちゃわちゃし、訓練なく行動と知識を最適化。

医者で軍事訓練の経験が無い私でも、何故か銃火器を手足の様に扱える程だ。

一方で戦闘に支障がある記憶や経験……トラウマは都合良く削除される。 私の人間時代もナノマシン君は邪魔と判断したらしい、息子や私の本名や顔が思い出せない。 他のニケも同様らしい。

生身の人間の時代は終わったなと思わせるシロモノ。 それが私たちニケだった。

 

惜しむらくは、私という特例を除き、男は基本的にニケになれないという事か。

何故だろうな。 私は内科医寄りで、外科医は専門ではないのだが興味はある。

倫理的な範疇で知りたいとは思うが……己の体を計ろうとした時は未知の体感をする羽目になり、危うく戦闘外で昇天しかけた。

やるにしても信頼できる筋に頼むしかない。 マニュアルに無い自己流セルフチェックはダメ、ゼッタイ。

 

 

「お姉ちゃん! ナグサお姉ちゃん!」

 

 

戸を叩く音と愛らしい声がする。

開けばおチビちゃん、スノーホワイトだった。

名前のように白髪に白服。 ゴッデス最年少の童顔に、胸元の黒いリボンが愛らしい。

息子ならぬ娘のようだ。 その点、他の娘達も似たようなモノか。

 

 

「おはようスノウ。 診察かい?」

 

「違いますよ。 指揮官が呼んでいます」

 

「指揮官が? 診察か」

 

「診察から離れてください」

 

 

いやまあ、そうだな。

どうにも職業病というか悪癖がね。

それも唯一の男で人間の指揮官となれば、私の常識が通用する範囲内だ。

同性……元とはいえ、話が通じ易い気がするのも良い。 男同士だけで飲み交わしたい日もある。

 

 

「ナグサです。 指揮官、診察ですか?」

 

 

そして案の定、そんな下世話な内容だった。

 

 

「ああ、強いて言えば心のな……」

 

「私で良ければ聞きますよ」

 

 

部屋に入り、座るよう促されて対面する。

軍帽と軍服の上、グラサンをも外した指揮官は意外とレアだ。 私以外で見るのはリリーバイス隊長だろう。

 

 

「ゴッデスの事だ」

 

「あの娘達が、また何かやらかしましたか」

 

「そうだ。 決まってレッドフードが中心だ。 今日なんて何したと思う?」

 

「聖女様のラプンツェルにアダルトビデオを見せて喧嘩になったとか、ここ勝利の翼号の飛行甲板でリリスと追いかけっこになって戦闘機のブラストに吹かれて危うく地上に落下しそうになったとか、スノーホワイトの整備用部品を失くして喧嘩になったとか、ドロシーをいつも通りお嬢様呼びして怒りを買ったとかですか」

 

「よくスラスラ出てくるな……今回は弾薬の誤発注だ。 リリスの奴がレッドフードに必要な弾を数えさせたのが間違いだった。 倉庫に保管できない数が輸送されてくるわ、その件で司令部に小言を言われて始末書を書かされるわで散々だ」

 

 

ああ、うん。

それもまた嫌な事件だったな……。

 

 

「それはまぁ……酒に付き合いましょう」

 

「万病に効くというからな」

 

「心の慰めにはなります。 こうして打ち明ける事もそうです」

 

「……ナグサ、君の過去のようにか」

 

「まだ疑ってます? 私が元男だって」

 

「いや、シンパシーからして疑ってはいない。 今も資料にある通りだと思う……お前も色々苦労したな」

 

「今もなお、です。 息子を助ける為に女の、ニケの体を受け入れたつもりでした。 ですが現実は非情で。 せめて息子がアークに避難できる事を願うばかりです」

 

 

2つのグラスに酒を注ぐ。

それぞれ持つと、静かに音を鳴らした。

 

 

「……これ以上失いたくないな」

 

「ええ。 娘達も……そして、あなたも」

 

「俺にそんな趣味はないぞ」

 

「私にもありませんが、ナニか?」

 

「"メス"を向けないでくれ冗談だ!?」

 

 

戦争の行く末は分からない。

私も何処まで生き延びれるか。

 

 

「これも冗談ですよ……半分は」

 

「半分なのか」

 

「それに、指揮官に手を出すような女がいたら、リリスにスクラップにされるでしょう。 私も中身は男のつもりですが、人は外面を気にするものです」

 

「いくらリリスがゴリラでも、他の隊員たちを妹みたいに思ってるんだ。 ヤらないだろう」

 

「悪さをしたレッドフードがツクシみたいに床に埋まっていたのを見てしまうとね」

 

「ああ……」

 

「私の能力で治せましたが、ラプンツェルのようにはいかず……この体も不便なんですよ?」

 

「そうか? 苦労するのはトイレとかくらいかと思ったが」

 

「隊員それぞれの能力、その良いところを半端に引き継いでいます。 特筆して言えるのは、脳を吹き飛ばされても忽ち自己再生してしまう、けれどヤられる度に精神がメス堕ちするふざけた体という事でしょうか」

 

 

本当に、なんなんだろうねこの体。

ニケって固有の特殊能力を持つ事があるのだが、私の場合は凄まじい再生力だ。

その代償が人間時代の名残、縋るアテ、唯一のアイディンティである「前世は父親」が消されて最後はメス堕ちとか地獄です。

 

 

「……死なずとも自己を失う。 怖いな」

 

 

だけど。

私は完全な女になっても良いから。

 

ああ、神様。

私に、皆を救わせて下さい。

 

人類の希望、勝利の女神ニケ。

その為に私は此処にいるのですから。




後書き
性別の不一致による下ネタとか苦悩とか連発したい気持ちはあるんです
その辺ヤるなら最初から全開でイクとこですが
でも度が過ぎるとね、難しいね……
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