勝利の女神ニケ。
使命を果たす。 その時がきたようです。
私たちゴッデスは間も無く牙城へ突入、俗世の負託に答え、狂喜の女王の首を刎ねるべく逆鱗へ吶喊。
次世代機シンデレラの戦略級爆撃の支援を受け、敵防衛網に風穴を開け、その合間を縫い、女神は一縷の希望を胸に宇宙まで羽ばたいていくつもり。
そこから先は孤立無支援。 己と女神を信じてやり遂げるしかない訳ですねぇ。
そして、この飛行艇ともオサラバですねぇ。
敵対空弾幕の中を特攻紛いに強行突入、ギリギリまで接近して降下。 パラシュートなし、自由落下中に撃ちまくり、地上スレスレで逆噴射装置フルスロットルで着地、雑魚に構わず本陣に駆け込む予定。
両眼レンズ最大望遠の向こう、薄らと見える天を割く1本の直線。 絵本の頁同士の繋ぎ目のように世界を2つに分けている。
その正体は超巨大建造物、軌道エレベーター。
人類が誇る最大規模の塔。
驕り昂り建てられた様はバベルの塔。
大昔からの夢、地上から宇宙まで行ける夢の昇降機及び、その為の設備群。
今や敵の根城となり占拠されている皮肉の地。
謁見までの道のり、一縷の希望、蜘蛛の糸。
なぜ、ラプチャーはその施設に陣取ったのか。
偶然か、あの先の宇宙ステーションで何かあったのか。 地上より宇宙から降下した方がより広範囲に展開でき、同時に戦局を把握し易いからか。
もし人類がナニかして、その報いがコレならば……神話風に言えば、軌道EVはやはりバベルの塔といったところですかねぇ。
神に楯突くように天まで高く伸ばし、その驕りから神の怒りに触れ、粛清を受けている最中といった感じですか。
この作戦が失敗すれば、塔は破壊され言語はバラバラになり未曾有の大混乱が……って、そこまで出来た物語にはならずとも。
童話が神話に挑み、果たしてハッピーエンドになる見込みがあるのか否か。
この作戦でシンデレラ以上の支援は期待できません。 人類連合軍の戦力はほぼ尽きかけているからです。
ICBMのような大量破壊兵器やミサイル、砲弾による長距離攻撃は反射されるリスクから使用できませんし、制空権が無いので空軍の支援は受けられない。
人類最後の避難所、地下都市アーク防衛の戦力も考えると、温存したい気持ちもありましょう。
それでも陸戦に量産型ニケが約200機以上投入されるとか何とか。 上は捨て駒の陽動として使う気です。 その犠牲を払ってでも、なるべく我々を消耗させずに送り込みたいというところか。
誰しもの心に不安がある中、レッドフードは言いました。
「1つだけ分かる事がある。 私たちが勝つ」
根拠の無い自信。
けれど誇らしい心意気でした。
「そうだ。 俺たちが勝つ!!」
宇宙服を予め内側に着込んだ指揮官が放つ。
そうですね、ここまで来たらね。
私も真に昇華するべく、お付き合いしますよ。
「対空砲、来ます!」
リリスが叫ぶように報告した刹那。
軌道EVの方、地上でキラキラと無数の閃光。
数秒間を置き、爆音が飛行艇周囲に轟いた。
衝撃で艦全体が揺さぶられ、警報が鳴り響く。
「めっちゃ多いな!」
「大丈夫。 皆が、お姉ちゃんがいます!」
「あら、其方の剣士様は怖気たのですか?」
「ぬかせ。 武者震いだ」
「皆様、参りましょう」
「ゴッデスと共に往ける事、誇りに想うわ」
面々が互いを鼓舞する中。
飛行艇は速度を落とさず全力前進。
指揮官がサイドドアを開放、気圧差で外に投げ出されるのを耐え、響く爆音に負けじと指揮官が叫んだ。
「
まぁ呑気に空中でふわふわ浮いてたら、狙い撃ちにされるだけですからねぇ。
多少着地の衝撃が強くなろうと、オプションパーツとニケボディの頑強さに頼る方が生存率が高そうです。
降下順はシンデレラ、レッドフードとスノーホワイト、そしてドロシーに紅蓮。 続いてラプンツェル、リリーバイス、指揮官は最後、私と共に降下します。
後方支援組と切札は後という形ですね。 銃持ちが落ちながら地上に撃ちまくり道を開ける事で少しでも後続の生存率、損耗を抑える為です。
いうて毛が生えた程度の差。 無防備な空中で撃たれない事を願いつつの自由落下。
侵食の力で強化されているとはいえ、ラプチャーは普通に敵対して撃ってきますし、それらの攻撃を四方八方から受けたら損傷しますからね。
「降下! 降下! 降下ァッ!!」
言い終わるより先、シンデレラが大空へ溶けていく。 ボディを囲っていた大楯……ガラスの靴が彼女を軸に回転しながら展開する様は、1つの芸術でしたね。
1歩遅れて飛び出すはレッフ。 先に行くぜと飛び降り、直ぐにスノウが共にする。
連続してドロシー、紅蓮、ラプンツェルにリリスが散歩に行く軽やかさで落ちていく。
私も続きませんとね。
「では私らも飛び降りましょう。 しっかり捕まっていてくださいよ」
「あ、ああ……行くしかないからな」
「勝利の翼号、お世話になりましたねぇ!」
指揮官を抱き大空に身を任す。
先陣の尻につき、下から吹き付ける風。
人間より重いから加速度はある筈なのですが、ニンフのお陰か想定より気楽です。
足元ではレッフとスノウが対艦ライフルの超大口径弾を撃ちまくり、風切り音に混じり轟音が空気を震わせる。
シンデレラは謎の飛行技術のままに飛び回り、踊るようにレーザーの回転掃射。 イルミネーションのよう。 そうして地上に着くまで出来る限り敵を薙ぎ払ってくれます。
細かいところはドロシー、地上に着いたら紅蓮やリリスが露払いしてくれるはず。 今はその負担を減らす時。
私も短機関銃で申し訳程度に援護しますよ。
威力も精度も低いけど、取り回しの良さのままに弾をばら撒き支援します。
あと、ラプチャーに私の侵食が効くのは不幸中の幸い。 隙あらば全体攻撃の如く侵食して、同士撃ちさせます。
……いやしかし、男のままでしたら、タマヒュンなる現象を味わっていたかも知れません。
生前の記憶はハッキリしないので、その感覚の無さに惜しさはあり───
「うおおお!?」
そんな唯一の男、指揮官は空に叫び散らします。
人間様は身体能力の低さといい、何かと不便ですねぇ。 だからとニケが楽という訳でも無いですが。
……私もね、内心怖いんですから。 対空砲弾の時限信管が作動して、すぐ隣で起きる爆煙やら、頬を掠めていく弾幕の衝撃波とか。
それらから指揮官を守らねばならない身にもなってください。 いくら再生力が高いとはいえ、盾になるのは辛いんです。
「指揮官、煩いですよ」
「どうせ逝くなら男の胸じゃなく美人に抱かれて旅立ちたい!」
「すみませんね、元男で。 私もそういう趣味はないんですがね、守り抜きますよ」
じゃなきゃ、リリスや皆が悲しむでしょ。
それに、能力の意味では私が護衛に適任です。
……ああ、思った側から片腕もってかれた。
すぐ生えましたけど。
「まぁ少なくとも私が
「約束しかねる。 俺は神様じゃないんだ」
「私も"
「ナニ言ってる。 お前も頑張るんだ」
「お互い様ですねぇ! おっと、間も無く地上です、逆噴射しますよ!」
脚部や背面に取り付けたブースターや姿勢制御スラスターが燃料の在らん限りに全力噴射。
大量の砂埃を舞わせて無事、生足を着けた。
衝撃は強いけど耐えられない程じゃない。
直ぐに指揮官を抱き下ろし、銃を構える。
「さぁ、後は自力で走って貰います」
「息をつく暇もないな」
「死にたくなければ頑張って。 私も援護し」
ますから。
そういう前に顔が爆ぜた。
ビシャッ。
指揮官の顔に赤い体液がかかります。
……すぐ生えました。 流れ弾は怖いですねぇ。
そして、この体質も憎らしい。
「ナグサ!?」
腹いせのように、銃を持った片手を振り回して弾丸をばら撒いた。
接近してきたラプチャーを転ばし、後続を巻き込んで足止めする。
「早く走って! 私もね、生き返りたくて生きてる訳じゃないッ!!」
「ッ! ああ、そうさせて貰う!」
走る先、道はもう先陣によってできている。
レッフとスノウが直線上を薙ぎ払い、左右から波打ってくるラプチャーは、上空のシンデレラが光線で貫き、撃ち漏らしはドロシーが撃ち、肉薄してくる奴には、紅蓮が咄嗟の居合い斬りで斬り捨てる。
それでも行かせまいと、軌道エレベーターの昇降機の前に全力で立ち塞がる大群───
「数が多過ぎます!」
「呑み込まれるぞ! 指揮官、ナグサ、走れ!」
「お急ぎください! 決戦も控えてるんですよ!」
「剣は幾らでも振れるが、数の暴力が過ぎる!」
「指揮官! ナグサさん!」
「残りエネルギー、僅かよ」
それぞれが、誰が誰の声だか判断する暇もなく、指揮官の肉壁となり共に走る。
肩が弾け、片目が潰れ、足を抉られ、それでも侵食と銃撃は止めやしない。
そんな中、勝利の女神が微笑み降り立った。
「問題ない! リリスが出る!!」
指揮官が叫ぶ。
刹那、遥か前方。 行手を遮るラプチャーに対峙する1人の黒い影。
勝利の女神、リリーバイス。
そしてシャッ、と腕を一閃。 ただそれだけ。
それだけで、ラプチャーの群れが寸断された。
「さぁみんな」
パンパンと手をはたき、埃を払う。
くるりと振り返り、笑顔を向ける
「行きましょうか?」
友軍で、
彼女に勝てる要素は中々無いでしょうからね。
クイーンまでを区切りにしたいところ。