父さん、ニケになるってよ。   作:ハヤモ

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前書き
期待に添えず、すみません……


自己同一性

脳が飛ばされても自己再生する、この(おんな)

その度に自己喪失が進み、能力はより洗練、最適化されていく。

いよいよ人間とはいえないが、同時に私は悩んだ。 心療内科の者がいつぞや話してくれた哲学を思い出したのだ。

 

記憶も見た目も全く同じ複製(コピー)は、果たして自分といえるのか。

 

スワンプマン、テセウスの船……。

同一性とは何かという思考実験。

昔から問われ続けてきた問題の一例だが、今まさに、その問題を身をもって体感している。狂喜(ラプチャー)に蜂の巣にされても、踏み潰されても、グチャグチャと不快な音を立てて意志に関係なく自己再生、元の美しい少女の姿に舞い戻る。 銃痕の1つも残さずに。

そんな私はなんなのだ、と。

 

他の女神(ニケ)は違う。

壊れたら、そのまま壊れて終わる。

脳が破壊されたら「死亡」する。

逆に言えば脳さえ無事なら、新しいボディに換装して復活できる。 そして素早い戦線復帰が可能だし、記憶と人格も保持したままだ。

その場合ならば、同一人物と言えるかも知れない。 何故ならば同じ脳があるから。

 

だがそれすらもなく、ニンフに記憶と人格をバックアップして貰い、死ぬ度にロードしている私はまるで違う。

 

ソレは私なのだろうか?

いや、違う。 確実にそう言える変化がある。

 

体が再生するだけなら良い。

義手足や臓器移植だと考えられる。 新しく生やす特殊治療も存在する。 多少違和感を覚えても、まだ受け入れられる。

だが頭が、脳が治るとは何事か。 複雑難解な生体部品、命や個をたらしめる部位がアッサリ再生されてしまう。

しかも治る代償として、何故か人格が排出されていくってナニ。 男としての自覚が薄らいで、精神が女の体に引っ張られるって新手の洗脳や拷問ではないか。 思考転換の兆候かと怯えや恐怖を覚えるが、最近はナノマシンのバグを疑っている。

 

いつからか。

オシャレしたいなぁとか、指揮官格好良いなぁとか、リリスとガールズトークでキャッキャウフフしたり、息子との関係性を「ママ」と答えそうになったりするなんて……。

 

ヤバい時は存在しない記憶が湧く地獄。

息子に授乳したりと、父親ではなく母親としての振る舞いに置換されていくとか怖すぎでしょ。

 

失われていく男……父性、自己。

自我が連続さえしていれば、それは自分だとする意見がある。

長い目で見れば、人間の細胞は日々古いものから新しいものになり、全ては置き換わってはいる。

この場合、記憶が少しずつ換わっても、緩やかに自己を継承しているのなら良いじゃないかとなる。

 

けど本当に?

脳君、後悔はないの? 息子が見たら泣くよ?

感動の再会時、ママだよ〜って言う気?

そりゃ見た目は女よ。 でも本質はパパでしょ。

 

…………あれ? そうだ。 そのはずよ私。

 

そんなある日。

ある事件が起き、更に悩む羽目になった。

 

ニケを狂わせる「侵食」という攻撃をしてくるラプチャー、ウルトラの攻撃を受けたのだ。

侵食コードをニケに植え付ける触手攻撃がレッドフードを襲った時、私は咄嗟に彼女を庇い、覆い被さって盾になった。

無数の触手が私のボディに突き刺さると、痺れや鈍い痛み、そして精神が体から引き剥がされる感覚に襲われる。

 

 

「ふ、ふふ……これが侵食、ですか……まさか私が被験体になろうとはね」

 

 

敢えて痛覚センサーの感度を少し上げる。

が、不思議と特別な肉体的痛覚は無い。

視界も意識もしっかりしている。

けれどもう1人の自分と対面している気分。

 

これは……離人症に似た症状かも。

自身を傍観、俯瞰する観察者に変化したようだ。

隔離室に入れられ、ガラス越しに見ているよう。

 

 

「ナグサ!? クソォ!!

 

 

その間、レッドフードがデカい物干し竿……あいや、対物ライフルでウルトラを撃破。

その勝利の余韻に浸るでもなく、私の体を掬い上げ、揺さぶった。

 

 

「しっかりしろよ"()()"! 生きて子供に会うんだろ!? こんな事で良いのかよ!」

 

 

赤髪の田舎の不良娘も涙が流れるのですね。

綺麗な顔がくしゃり、と歪んでますよ。

ついでに私の顔が濡れます。 冷たいですね。

……ふむ。 まだ感触を知覚できますか。

 

 

「レッフーの泣き面なんて、レアなものを見れました。 あとあまり頭を揺らさないでください。 こういう時は安静にするものです」

 

「なに冷静に言ってんだよ……!」

 

「親であり"()()"ですから」

 

 

安心させようとニコリ、と微笑むも、彼女には逆効果だったようだ。

 

 

「ナグサさん!」

 

 

治療と防御要員のラプンツェルが駆け付ける。

癖で手を翳しボディの修復を試みて、そして手を下ろした。 私の体に空いた穴は、とうに塞がっているから。

 

 

「欠損なし、被弾箇所修復済(オールリペア)。 体調は?」

 

「バイタル安定。 ボディへのコアエネルギー供給異常なし。 眼球ユニット視界良好。 でも離人症のような感覚に襲われていますね。 ああ、触手が腕や足とした末端でしたら、即座に切り落として毒が回るのを防げたかも知れません。 今回は全身をブスブスされましたからね。 貴女が好きな触手プレイって奴です」

 

「こんな時に何を言ってるんですか!」

 

 

ラプンツェルを安心させようとして冗談を言ったが、同様に失敗した。 余計に曇り顔にさせてしまう。

 

 

「V.T.C.*1に問い合わせ、有効な治療法を模索します。 まだ諦めないでください」

 

「遅延性の未知のウィルスに全身を蝕まれ、苦しみ、生きる希望を失った患者を励ましながら、必死に治療法を模索する。 その辛さは心中察して余りあります」

 

 

聖女さまとて、元人間。

皇女となるべく、高度な教育を受けてきたにせよ、絶望する事もあるでしょう。

その心を和らげる為にも、同情的になります。

ですが、彼女は引いてくれません。

まあ……私も立場が逆なら、そうかもです。

 

 

「まだ決まった訳ではありません。 ですのでどうか、私に挑戦させてください。 そして貴女はお医者さまです。 どうかご助力を」

 

「元人間の、ですが」

 

 

医者を持ち出されてはね、協力せねば。

メス化が進んでも、自己を失いかけても、そこは身に染みた職業病ですかね。

おや。 私まで泣けてきますよ。 社畜は辛い。

 

 

「私も侵食の存在を知った時から薄々考えていました。 この正体は何かと。 機械の体であるニケを操るにはどうするか。 自然界には、宿主を都合良く誘導する寄生虫が存在しますが……人間に効果がなくニケにだけとなれば、ナノマシンのニンフに干渉し、ニケの自由意志を奪うコンピュータウィルスではと愚考しております。 であれば、ニンフを除去すれば助かるのではないでしょうか」

 

「……除去する方法が分かりません。 できたとして何が起きるか。 特にナノマシンで体を構成するニケほど危険は増すでしょう」

 

「おや。 私の心配ですか。 嬉しいですねぇ」

 

「仲間でしょう?」

 

 

なんだかんだ会話の余裕はありながら、レッドフードに担がれて後方に下げられる。

指揮官や面々と合流、険しい顔をされてしまう。

 

 

「やられたのか?」

 

「ナグサお姉ちゃん!」

 

「ッ! 目が紅いですね」

 

「ふふ、綺麗でしょう? 命の終わりは」

 

滅多な事を言わないで!

 

 

リリスに怒られました。

そこそこレアですが、レッフーの泣き顔はそうそう越えられませんよ。

 

 

「司令部の通例通りなら、ただちに"()()"処分が妥当だ。 侵食を治す手段は確立されていない」

 

「私らに殺せ、なんて命令しねぇよな?」

 

「しない。 本人の能力的に殺すのは容易ではない。 だから自分でケリをつけさせる。 そうだなナグサ"()()"?」

 

「ええ。 それが妥当でしょう」

 

 

そういい、私は即座に自決拳銃をこめかみに当て、トリガーを引く。

鈍い衝撃と音が体中を乱反射し、力無く倒れると空を見上げた。

 

 

「え…………?」

 

 

その声はスノウだったか。

それとも他のゴッデスメンバーだったか。

そして───。

 

 

「ナグサお姉ちゃああん!!」

 

 

そうも悲痛な声を上げないで。

おちおち寝てられないじゃない。

 

 

「はいはい、ナグサお姉ちゃんですよ」

 

「ッ!?」

 

 

むくりと起き上がり、ニコリと笑う。

こめかみに手を触れれば案の定、銃痕は綺麗に塞がっている。

股間の息子は、駄目でした。 起きません。

そもそも存在自体しません。 拍子におち◯ちんが生えてくるかななんて、思った私がおバカでした。

……なんで女の子なのに、卑猥な妄想をしているのかしら。 いつからエッチな子に? はしたない。ラプンツェルの癖が移ったかな?

 

 

「ラプンツェル、眼球ユニットの色は?」

 

「は、はい……碧眼、綺麗な青い目です……」

 

「ふむ、一時凌ぎにはなりますか。 頭もクリア。 生まれ変わったようにスッキリしました。 ただ、完全には毒が抜けていないですね。 ヤバくなったら撃ち抜く必要があります」

 

「やめてください! そんな事言うのは!!」

 

 

スノーホワイトが訴えて、胸板を叩いてくる。

その度に胸が揺れて目のやりどころに困るのですが。 その刹那、ギュッと抱きつかれて頬擦りされては、母性が暴走しそうになるのですが。

でも何故か郷愁に似た想いが湧きます。 かつて、こうしてあげた子が他にもいたような……うーん。

 

 

「うぐ……ぐすっ」

 

「私は死なない。 死ねないのですよ」

 

「嘘つき! 今、死んでました! それに、起き上がる度にナグサお姉ちゃんは、なんだかどんどん静かになるようで! いつか動かなくなるんじゃないかって!」

 

 

あー、うん。

それはその、精神が女の子の体に引っ張られている様子ね。

自我は無くならない。 良くも悪くも。

そしていつか、雌堕ちする己に何の疑いもなくなり、かつての同性に腰を振る悍ましい事態に発展するかも知れません。

 

 

「よしよし……ごめんね、怖いトコ、見せて」

 

「ナグサ。 今後は出来るだけ死ぬな。 命令だ」

 

 

時に冷酷な判断を下せる指揮官からの命令。

それはそれは……また難しい注文ですねぇ。

 

 

「了解しました。 ただ万が一は」

 

 

レッドフードと視線が合う。

 

 

「私を……殺して(たすけて)

 

*1
宗教系医療機関




後書き
主人公の再生能力は、ヘレティックに通じる部分がありますね
他のニケであれ思考転換は起きますが、ナグサは条件が明確で、だけど緩やかに進行するイメージ
また記憶のコピーは、原作本編にもあって考えさせられる話。エクシアという情報を扱っていたニケがそうでしたね
精神を守る為にナノマシンが記憶を改竄、消去する事もあるようで。体をバラされたネオンの話とか
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