ギスギス
人類初のニケ部隊ゴッデス。
結成後、局所的ながら人類は勝利する事が増えてきた。
ラプチャーという圧倒的な火力と装甲、地平線と空を覆い尽くす怒涛の殺戮兵器の侵撃を前に、敗戦の一途であった中である。
地球全土のカバーは無理だが、ニケは希望の光、勝利の女神と持て囃され、その輝かしい栄光の中に入れた私は幸せ者だろう。
入隊当初は色々あったが。
ニンフ君は戦闘方法を教える癖に、女の子のアレコレは教えてくれなかった所為で変態扱いされて大変だった。
ブラなんて面倒だとつけなかったら、ビーチクが浮いちゃって周囲から騒がれたし。
手洗いで大小関係なく座らないといけないのを我慢出来ず、何とか立ちションしようとしてガニ股みたいになったところを見られて変態だぁと騒がれたし。
男トイレに平然と入ったり振る棒が無くてパンツ染みさせ、淫乱ヤリ◯ンの疑いまで掛けられた。
自分の体に性的興奮を覚える異常者に見られる事は無かったが、本当に医者なのかも疑われた。
だが待って欲しい。 それは仕方ないのだと。
言い訳すると知識として知っていても、実際に経験すると勝手が違うものだ。
その点において逆に問おう。 胸に脂肪の塊をつけてもタマ無しの君ら女の子が、突然男根を生やされてタ◯タマまでついた性欲を持て余す体にされたら、立ちションだとかその他の処理の仕方ができるのかと。
銃の廃莢動作と似ているからできそうとか、簡単に思っていそうだが。
弾の自動リロードは気紛れレボリューションだぞ、分かってないな?
生理現象で、当然ナニかに反応して、いつでもどこでも違法テント村、穢れたバベルの塔が乱立する可能性すらあるのだぞ?
何とか処理出来たとしても、女性は男性より感度ン倍という話がある。 どこまで根拠があるか分からんが、だとしたら、途中でヤめられず、お猿さんのようになってアヘ顔テ◯ノブレイクで腹上死の可能性も考え得る。
女性の苦労と男性の苦労を同列に語るのは無理があるだろうが、こうして被害に遭うと色々思うものがあるのだよ。
だが口に出す訳にもいかず。
耐えた……耐えずして勝利はない!
そんな私の温情を踏み躙るように、私のボディスペックが試作ニケという言い回しから脳にバグがあるのではと陰口を叩かれたので、意を決して元男だと告白。
これくらいなら経歴書にあるし良いだろうと。
そしたらどうなったと思う?
いよいよ凶悪な精神異常者、多重人格、性同一性障害のような疑いを掛けられて精神的苦痛をくらいツライさんになった。
ニケは女。 それしか基本有り得ません、だと。
……基本であろう? 特例が私なのだよ。
男がニケになっちゃ駄目なんですか?(半ギレ
今のように仲良くできたのは、指揮官とリリスが理解を進めて、仲介してくれたからだ。
指揮官は男だし、それ故に同情してくれた。
リリスは誰にでも優しい娘だ。 特に人類初のニケとして、他のニケを妹のように思っている。 私が元男と知ってもなお大切にしてくれるのだ。
その後は個々に打ち解けていった。
副隊長で政治家の令嬢のドロシーは、高飛車な雰囲気がありながらも根は優しく、息子の為にニケになった私に同情してくれた。
次期皇女の位を返上し、ニケに志願した聖女ラプンツェルは、その純粋な精神と医療に心得のある者同士という事で会話ができた。
ガンスミスで最年少のスノーホワイトは、私の能力や戦場での活躍を見て、いつの間にかリリス同様にお姉ちゃんと慕ってくれるようになった。
赤髪で田舎の不良娘だったレッドフードは、男の感覚ってどうなんだとか、ウザ絡みも多かったが、隊のムードメーカーとして暗くなる事態を防いでくれた。
なんだかんだ、皆良い娘たちだと改めた。
戦場は過酷だが仁義があった。 家族がいた。
だがそれ故に想ってしまう。
此処には息子がいないと。
無事を願う。
今は何処で何をしているのか不明だ。 地球全土が戦時下だ。 安全な場所なんて無い。
憲兵モドキな部隊の長、オスワルドという男曰く、優遇されているとの事だが。 ひと目確認したいと思うのは親の常か。
勿論、それが許される事はない。 最前線部隊の1人であり、機密の塊であるニケの私がホイホイと拠点を離れたら脱走扱いだ。 仲間に迷惑が掛かる。 それは避けたい。
それにと私。
今となっては、侵食を受けたイレギュラー。
いつ発狂して隣近所のニケや人間を殺戮し始めるか分からない。
指揮官とゴッデスメンバーの温情で、いつも通りを過ごさせてくれているが、司令部のお偉方は迅速に始末するよう求めている。
普段は決断が遅い癖に、こういう時は早いのだと愚痴るは、リリス隊長だった。
指揮官も、撃とうが潰そうが再生する特殊ボディのナグサを、どう始末しろと? と言い返してあやふやにしてくれている。
それに関しては冷凍保存だとか、拘束の類で封印するか、体内のナノマシンを何かしらの方法で停止させる等の案があるが。
わざわざ言う必要は無い。 善意を反故にする訳にはいかないからね。
けれど、隊の雰囲気はよそよそしくなった。
再生する度に人格や記憶が少しずつ抜け落ちるのもそうだが、そこに侵食属性だ。
特にレッドフード。 自分のせいでナグサがこんな目に遭っている、家族の事を忘れていっていると自責の念にかられている。
だから私は言った。
子と君達さえ無事なら、私は大丈夫だと。
……余計に曇られた。 何故だ。
「ふざけんなよ! 残された私たちはどうだって良いのか? アンタの子供に会った時、なんて言えば良いんだよ! 目の前の1人も救えず何が勝利の女神だって罵倒されるぞ!」
「ママは立派だったって、言えばいいじゃない」
「ッ! お前は父親だろうが! 自分で言ってた事をもう忘れちまったのか! ボケるには早すぎるだろ、それともなんだ、やっぱ頭がおかしいんじゃねぇのか!?」
「そうだったね……頭は、うん。 何度吹き飛んでも駄目だね。 馬鹿は死ななきゃ治らないって言うけど、アレは嘘だよ。 だって治らないもの。 この侵食もね」
紅い目を見せた後、目を閉じて、自決拳銃をこめかみに当てて……ひったくられた。
「……これは預かっておく」
「困るよ。 分かるでしょ、死は救いなの」
「死んでも死にきれねぇアンタが持ってちゃ宝の持ち腐れだろ。 それに、アンタがコレを使う度にアンタはアンタじゃなくなる。 子供や私達の事だって忘れちまうぞ」
「君達が元の私を覚えてくれる限り、私は死なない。 私の記憶は残り続ける。 だから何も問題はないの」
「いい加減にしろよ! さもないと」
私がナグサを───。
「そっか」
私は私なりに彼女を理解した。
医者なのに人を見る目は無かったが、これでも自己解釈の上で接しているつもりだ。
息子を救う為にニケになったようにね。
「何がそっか、なんだよ」
「レッドフードは優しいなって。 だから頼むよ」
ニコリと笑う。
男が見たら、堕ちるような微笑みで。
「万が一の時は私を、私達を救ってね。 そして、死んでいった私達の分まで生きて。 貴女達の手にかかるのなら、貴女達はより鮮明に前の私を記憶するでしょう。 その生誕から死の瞬間まで。 その限り私の死は無駄にならない。 貴女達の記憶の中に生き続ける事ができる。 息子もきっとそう。 だからね、何も寂しくなんてないの。 だから宜しくね」
「ふざけやがって!!」
感動で泣かれながら殴られた。
つくづく、私って見る目が無い。
拳1つ避けれなかった。
でもまぁ、たぶん。
照れ隠しって奴だと思うの。
これからも宜しくねゴッデスの皆。
死に逝った私、新しい私を宜しくね。
覚えてくれる限り、私は無駄にはならない。
そして優しい君達は、きっと死を無駄にしない。
そしてどうか、息子の未来を勝ち取って。
その糧になるのなら、是非私を使い潰してね。
後書き
無限ループって怖くね?