ラプンツェルは修道女であり、次期教皇候補でもあった偉い地位の聖女様。
しかし戦局が悪化、人々の尊厳が失われていく様子に心を痛め、祈るだけでは何も変わらない、救われないと地位を返上、ニケに志願。
けれど内心不安もあって、早く帰りたいという想いが能力として具現化。
ニケの応急処置程度の治療能力とビームなどを弾く防御能力が身についた。 どういうことなの……。
ニケの体は機械だが、それらはガッテシウムという物質で構成されたブラックボックス。
これと特殊能力の開花といい、まぁニケ自体謎だらけなのだけど、人間の治療のやり方は通じない。 包帯を巻くとか意味が無い。 良くて止血モドキができるだけ。
ではラプンツェルの治療とはどういうものか。
これもまた謎ながら都合の良い感じ。 極めて微細なガッデシアムの粒子を体に打ち込むというものだ。
すると損傷箇所は応急的に塞がれ、循環液の流出を抑えたり、回路のバイパス効果を与えたりと、なんか即効性の凄い効果をだす。
えぇ……オカルトテクノロジースゲェである。
ただし、あくまで応急処置。
大きな損傷までは治せない。 腹に開いた大穴を塞ぐとかは難しい。 まだ医者は用無しとはならなそうね。
……あ、ニケに人間の治療は意味が無いんだった。 ままならない。 私って本当半端。 できて指揮官の応急処置じゃない?
……侵食という未知の存在もサッパリだし。
医者という肩書きはサッパリ役立っていない。
当時の経験を元に僭越にも考察するばかり。
「ラプンツェル、V.T.C.の回答は?」
「……侵食についてはまだ不明な点が多く。 最初はニケを停止させる程度だったものが、いつの間にか同士撃ちをするまでに。 ラプチャー側で進化しているのではと予想されています」
「肝心の治療法はナシ、ですか」
「……申し訳ありません。 でも、試薬の服用は続けてください。 どうか可能性を捨てないでください」
「渡され続けていた薬も、いつの間にかただの栄養剤に変わりましたね。 プラシーボ効果は否定しませんが、何せニケです。 どこまで人間の構造に寄せているものか」
最近渡されるのは、ブドウ糖や乳糖の偽薬。
最初は既知のものから未承認のものまで来たものですが、もはや治療方法はドン詰まりといったところですかね。
「……お医者様のナグサさんは、見破られていましたか。 でも騙すつもりでは無かったのです」
「構いません。 立場が逆ならそうしたでしょう。 それに謝るのは私です。 偽りの希望を患者に与える良心の呵責は想像して余りあります……辛いでしょうラプンツェル。 もう私の事は良いのです、休んでください」
「お優しいのですね。 スノーホワイトがお姉ちゃんと慕う理由が分かります」
「スノウにも悪い事をしました。 侵食をリセットする為に頭を撃ち抜く場面なんて幼子には刺激が強すぎます」
ニンフ君が刺激的な記憶はカットするとはいえ、あまりにストレスが掛かると思考転換、人格崩壊、発狂する恐れがありますからね。
指揮官にもなるべく死ぬなと命令されていますが、やむを得ない場面もありましょう。
「今度はサイレンサーを頼みますかね。 ああ、でも肝心の拳銃はレッフに奪われたんでした。 遺書兼形見になればと文字を彫っておいて正解でした」
「またそんな悲しい事を……」
「良いでしょう? 私も無限復活できるとは限りませんし。 戦場にいる以上、瓦礫の下敷きだとか奈落の底とか溶岩の中とかに放られたら、流石に無理かも知れませんし」
「そんな状況があり得ると?」
「ええ。 ラプチャーに限らず、司令部によって」
復活できる侵食体という、敵対すれば危険極まりない存在となってしまいましたからね。
そうでなくても、実験台にしたがっているマッドサイエンティストはいるでしょう。
「ナグサさん。 貴女は私が、私達が守ります」
「回復と防御特化とはいえ、人間相手なら無理はしないでください。 ニンフの影響で人間に抵抗しようとすると安全装置が掛かって動けなくなるかもですし」
「戦いばかりが華ではありませんよ。 そうした人達が来る前に伝手を頼ります。 V.T.C.の研究員にレッドシューズというニケがいます。 無理を言えば、その部隊に匿って貰う事もできる筈です」
レッドシューズ……。
私達第1世代の後継、第2世代型フェアリーテールモデルの1人でしたね。
V.T.C.の研究員でありながらニケに選ばれ、戦闘と両立する才覚の持ち主。
製作者は同期の首席研究員エイブだったかな。
そちらは寝る間を惜しむあまり量産型ニケのプロダクト23になった変わり者と聞く。
人間性に懐疑的な余地はあるけど、緊急時はそうも言ってられないか。 万が一は世話になるかも。
「その時はお願いします」
「はい……ところでその、銃には何を?」
「彫った文字ですか。 それはですね……」
大したものではありませんよと前置き。
拳銃ということで銃身に長々書けないし。
「『私を忘れないで』」
刹那、ラプンツェルに抱きしめられた。
───柔らかくて、そして温かい。
何故か郷愁にも似た感覚に襲われて。
私も抱きしめ返したのだった。