宗教系医療機関V.T.C.へ出向。
より正確には、その研究員であるレッドシューズがいる施設に招かれました。
ラプチャーからの攻撃を防ぐ為、侵食コードという汚染物質を扱う為に隔離され秘匿されている様子ですが、私は信頼してくれたようですねぇ。
「初めまして、レッドシューズです。 "
出迎えたは長身金髪ショート、巨乳に太腿ムチムチでピッタリ黒レオタードなレッドシューズ。
柔らかな口調は聞く者を優しく抱擁するかのよう。 きっと組織や部隊の皆から人気なのでしょうね。
しかし目を惹くは別にあり。 名前の通り、脚部に赤くて大きな靴状の装備を履いております。 これで高速移動や強烈な蹴りを繰り出す訳ですね。
銃火器に対応してきたラプチャーほど、近接格闘に対応出来ないという考察もありましたからね。 そうした専門部隊も試験的に編成されたとか。
近接武器なんて時代錯誤に思えますが、リリスというステゴロ最強の存在に影響されているのかと。
彼女を開発したエイブ博士から色々話を聞きたいところですが……今は侵食について語らい合わねば。
「こちらこそ。 V.T.C.の上級司教兼、首席研究員の貴女にお会いできて光栄です。 早速ですが本題に入りましょう」
「ええ。 ナグサさんが送ってくれた資料は拝見致しました。 私が進めている研究と合致する点が多く、協力し合えると思っております」
「侵食についてですね。 感染した時は助からないと思いましたが、何だかんだ馴染んでしまいまして。 私自身を研究し始めた次第です」
「羨ましいです。 全てのニケがナグサさんのように"
ニコニコと笑顔を向けられ、奥へ迎えられる。
断る事もなく、研究室を進みますが……。
……なんでしょう、この違和感。
言葉の節々が引っ掛かるんですよね。
宗教系故の言葉遣いですかね? 本能的に嫌悪感を感じてしまうのですが、差別は良くないですよ私。
それに今は貴重な研究仲間じゃないですか。
……などと思っていた時期が私にもありました。
「是非ご覧ください。 ある種の聖地ですよ」
見せられたは、ラプチャーの残骸。
四肢が捥がれ、コアが赤く点滅してる。
……それはまだ分かる。 ニンフが理解出来ないなら、それに影響を与える侵食コードや、それを保有するラプチャーを調べようとするだろうから。
だけど脇に転がってる、いや、無造作に山になってる
「は……?」
出た言葉がソレだった。
そして遅れて理解する。
ある種の屠殺場だと。
ここでニケを実験台にしていたと。
「なによ……これ」
そして壁一面には白銀碧眼のツインテール、第2世代型の実質的リーダー、シンデレラの写真がびっしりと貼られていた。
まるで崇拝している、いや、しているのだ。
ゾッとした。
本能か警笛を鳴らす。
鳴らすがままレッドシューズを見た。
私の様に目を赤くして、頬を染め、狂喜の微笑みを浮かべて思想を熱弁し始めた。 私が疑問に思ったのが嬉しいのか、聞いてもないのに嬉々として。
「ここで侵食がニケに及ぼす影響を研究していたのです。 その為に教団のコネを利用して量産型や侵食コードを持つラプチャーを調達し様々な実験をしました」
「V.T.C.は知っているの?」
「いいえ。 私の独断です。 だってそうでしょう、頭が堅く、ラプチャーとの共存を考えられず、虚しく抵抗を続けるだけの人達が認可する筈がありません。 医者である貴女ならご理解頂けると思ったのですが」
「研究は倫理観との常なる鬩ぎ合いです。 ですが、ここまでとはね」
「確かに、私のしている事を察した者もいましたが……それで
「微妙に話が食い違ってますねぇ。 私が貴女のやり方に賛同していないのは理解していますか?」
コイツ
ラプチャーでもニケでもない、人をね!
私の動揺を無視し、彼女の述懐は続く。
「最早ラプチャーに人類が勝てるとは思えません。 であれば、多少不利であっても共存の道を模索するべき……そう私は考えました。
それにはどうするべきか……目をつけたのが侵食コードです。 侵食は当初、ニンフに作用してニケの動きを停止させる程度でしかなく、それもやがてニンフの免疫作用で浄化され、間も無く正常化されます。
しかし私はニンフに作用し脳に影響を与える点に着目しました。 ニンフは解析出来ませんが、侵食がどのような構造か理解できればと試みたところ……驚くべき事に、コードは人間にも解読出来るものだったのです!
これは啓示だと思いました……!!
これを"改良"し、私の人格データを与えてラプチャーの基準で考えるよう簡単な命令を与えてニケに投与したところ、ニケは命令通りに動いたり、ラプチャーを守る行動を見せました。 これは共存への輝かしい第1歩です!
ですが、依然としてニンフが侵食を攻撃してしまう事、脳が物理的に破壊される事、侵食が解けたニケは自決してしまうなど問題もありました。 人格データを幾ら修正しても改善せず、これ以上は私には難しいと判断。 ラプチャーの自己進化能力に託す事にしました。
私の人格データを埋め込んだ侵食コードを10体ほどのラプチャーに移植した上で野に放ったのです。
すると、何という事でしょうか!
その結果、侵食効果の大幅な持続強化、発現までにかかる時間の大幅短縮、行動の多様化、ラプチャーがニケを攻撃しなくなるなど侵食が進化したとの報告、いえ、福音が聞こえました……!
とはいえ、少しニンフの修復機能が作用して、最後にしていた言葉を繰り返すようですが、いずれ完全な制御も遠く無いでしょう!」
「ああ、医者として、この分野を研究中の身として大変興味が惹かれる話ではありましたよ。 同時に思いました。 貴女と私ではやり方が違うとね」
長々と語られて、医者としては勉強になった。
でもね、流石に同意しかねます。
「そうですか残念です。 侵食を受け入れ、大幅な強化を成した貴女ならば、きっと理解してくださると思ったのですが。 貴女も詰まらない人たちと同じ側という事ですか」
「それで? どうします?」
「ナグサさん。 貴女は貴重な"材料"です。 侵食との適合率も高い。 その再生能力も大変興味深い。 どうでしょう、片腕の1本でも置いていってくれませんか?」
このアマ、どこまでも自己中心的ですね。
まるで私の……配偶者? だった奴みたい。
でもここで断れば、私が延々と切り刻まれるモルモットになり、ゴッデスの皆、可愛いスノウ達まで巻き込まれます。
それは大変に面白くない。
なので、ここは賭けといきましょう。
「ええ。 でもここまで話を聞いてあげたんですから、私の話、新しい能力も見聞きして欲しいですね。 私も医者、研究者の端くれ。 知識を披露、"共有"するのはやぶさかでは無い」
「興味があります。 どんな?」
「ああ、それは───」
刹那、足が地を蹴る。
侵食で強化された脚力は、第2世代型フェアリーテール、近接格闘型の彼女にも反応出来ないもの。
そして彼女が認識する前には、私の片手は彼女……レッドシューズの頭を捉えていた。
そして一瞬で流し込まれる"
「"
手を離すと、一瞬虚な目をして立ち尽くすレッドシューズ。
やがてハッとして、私を見た。
「今のは? 一体、私に何を?」
「私のコードをお裾分けしてあげました。 侵食好きの貴女には嬉しいでしょう?」
「まぁ……! でもどのような効果が?」
「ああ、それは直ぐ分かりますよ」
───ドクン
刹那の脈動。
意識が一瞬飛んだような感覚。
それは私だけでなく相手も感じたもの。
同時に彼女のボディ、脳は私が共有……いえ、一方的に私のモノ。
再び虚な目になるレッドシューズ。
今の彼女は催眠状態。 私の操り人形です。
「さて、早速ですがレッドシューズ」
「……はい」
「貴女は己の罪を仲間に告白し、懺悔なさい。 それが司教として、研究員としてするべき事ですよ」
「……分かりました。 私、レッドシューズは罪を告白し懺悔します」
こうもアッサリと誘導できるとは。
この催眠、洗脳の類……恐ろしい能力ですね。
疲れもない。 道具要らず。 強いて言えば接触する必要がありますが。
シちゃえば、後は私のモノです。 催眠以外にもボディの乗っ取りもできそう。 今回はやりませんが。
「そうそう。 そして私に貴女の研究データを譲渡。 だけど、貴女は私と会った事実は無い。 ここに来た事も無い」
「……はい。 私のレッドシューズはナグサさんに研究資料を明け渡し、けれどこうして会った事実はありません」
「人類の為に」
「……人類の為に」
「私の為に」
「……ナグサさんの為に」
言い終わるや、彼女レッドシューズはフラフラと研究室を纏めていき、私に何の疑いも無く資料を渡しては、仲間の元へ去っていきます。
……後は憲兵やエイブが何とかするでしょう。
ふぅ。
被害の拡大を抑えたというべきか。
でもまさか、今の侵食の脅威が、元凶がレッドシューズとはね。
これは許されない事でしょう。
まぁでも私は私。 それだけです。
「研究資料も手に入りましたからね」
───ふふっ。