プラモクラフトな世界で心に火を点け生きていく   作:ダルマ

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第二話 フルプライスうん十万円? じょ、冗談じゃ……

 八尋が大学生として過ごしていた前世から、第二の人生を送る事になった現世に無事に転生を果たしたのだと認識したのは、現世に生を受けてから三年程が経過した時の事であった。

 ある日突如として、前触れもなく前世の記憶を思い出(メインシステムを再起動)した八尋は、無事に転生を果たした喜び嚙みしめていた。

 だが程なく、八尋はそんなお祝いムードに水をさす事実を知る事となる。

 

 それが、現世は転生以前に思い描いていたような剣や魔法、更には摩訶不思議な生物に満ち溢れた世界などではなく。自動車や飛行機などが存在し、道路や鉄道、更には学校や病院等の社会インフラ、スマホやネット等の情報インフラが整備されている、前世とあまり変わらない世界の実情だ。

 それに加えて、現世に転生した八尋自身も、漢字こそ違うものの、父親である辰哉(たつや)と母親である美沙希(みさき)の間に生まれた尾崎家の子供という境遇等。

 折角転生したというのに、前世とあまり変わり映えしない事実に、八尋三歳児ながら、まるでおじさんみたいな深いため息をつくのであった。

 

(いや、まだ諦めるのは早いぞ俺。前世とほぼ同じって事は前世の知識が生かせるって事だ。なら今後はそれを生かして、前世よりもより良い人生を送ってやる!)

 

 だが、八尋は気持ちを切り替えると、現世では前世以上のバラ色の人生を送る事を決意するのであった。

 

 

 それから二年の月日が経過したある日の事。

 八尋が通っている幼稚園から自宅へと帰宅し、リビングで何気なくテレビを見ていた時の事。不意に、新商品販売を知らせるコマーシャルが流れ始めた。

 それがまさに、現世が前世とは極めて近く限りなく遠い世界であると知る切っ掛けとなり、同時に、転生の機会を与えてくださった女神に圧倒的な感謝を申し上げる事となった。

 

ワンダー・ドリーム・ブレイン(WDB)社が送り出す、新世代のホビーロボット! 組み立て組み換え、自分だけのオリジナルマシンも作り出せる、全高ニ十センチメートルのこのロボット、その名を"トイ・バトル・ロボットファイター"、TBF(ティー・ビー・エェェェフ)!! その栄えある第一弾、古代兵士型TBFアシリア、今月末、待望の新発売!!」

 

 テレビから流れる元気なナレーションと共に、テレビ画面に映し出されたのは、一体のロボット。

 ロボットらしく角ばった胴体や四肢を持ち、片方の手には円形の盾、そしてもう片方には剣を装備している。更に、人間の目を模した二つのセンサーカメラを擁する頭部の造形は、まるで兜を被っている様である。

 その外観はまさに、モデルとなった古代ヨーロッパの兵士を彷彿とさせた。

 

 ナレーションと共に躍動するTBFアシリアの姿を目にした瞬間、八尋の目は、文字通り釘付けとなった。

 前世においては機械いじりの趣味が高じて、否、ロボットを題材としたゲームやアニメなどに熱中していたからこそ機械いじりが趣味となった。そんな経緯を持つ八尋だからこそ、自分自身で組み立てて操縦できるTBFは、まさに自身が夢見ていた存在そのもの。

 故に、TBFアシリアのコマーシャルが終わり、再び番組が流れ始めても、八尋の脳裏には、テレビ画面に映ったTBFアシリアの雄々しき姿が焼き付いて離れずにいた。

 

 それから間もなく、八尋がTBFに関する情報の収集を開始するのは当然の流れと言えた。

 だが生憎と、当時まだ五歳であった八尋には、スマートフォンやパソコンなどの便利な情報収集ツールの使用を両親から許可してもらえなかった。

 そこで八尋は古来からの方法を取る事にした。そう、足で情報を稼ぎ始めたのだ。具体的には、TBFを扱う玩具屋の新商品カタログなどを手に入れ目を通す事である。

 

「嘘……、だろ……?」

 

 こうして収集した情報を精査した結果、八尋は驚愕の事実を知る事となる。

 コマーシャルではTBFアシリアのその姿に目を奪われて気づいていなかったが、カタログ等に記載されている予定販売価格、そのお値段、なんと驚愕の三十万円。

 これには八尋も目が点になる。

 

「さ、流石はホビーとはいえロボット……」

 

 ホビーと名が付いている事から、対象となる年齢層には学童も含まれている筈だが、それにしてもこの強気すぎる価格設定には唖然となる。

 この価格帯は、最早家庭用ゲーム機を軽々と越えて、高級家電や高性能なゲーミングPC並だ。学童が両親に頼んで買ってもらおうにも、流石の両親もこの価格の前には簡単に首を縦に振らないだろう。

 

 因みにこの価格、フルセットパッケージと呼ばれる予定販売価格である為、それぞれの構成パーツ単位なら、フルセットパッケージよりも大分安く手に入れる事が出来る。

 具体的には、骨組みや神経をつかさどる"コア・シャーシ"が二十万円程度、頭部や胴体、腕部や脚部の各部"フレーム・パーツ"が各一万円。そしてTBFの頭脳とも言うべきCPUや、動力源となるモーターやバッテリー等の内臓パーツが五千円から二万円。そして剣と盾が三千円ずつという内容になっている。

 なお、操作する際には専用の端末等は必要なく、スマートフォン等で専用のアプリをダウンロードすれば操作が可能となる。

 

「……でも待てよ。もし人気に火がついて大量生産されれば、自然と価格も安くなっていく筈! なら、手が届かない事はない!」

 

 こうして八尋は、人気に火が付きブームになる事で大量生産され価格単価が下がる事を期待しつつ、TBFを手に入れる為にコツコツと貯金する事を決意するのであった。

 

 

 

 

 それから月日は流れ、十年の歳月が経過した。

 この間、TBFは八尋が密かに危惧していた一過性のブームという事態になる事もなく、第一弾となるTBFアシリアの発売以来、強気の価格ながら子供を中心に人気となり一般社会に浸透、日本に空前のブームを巻き起こし、その勢いは海外にまで波及した。

 更には、TBFを生み出したWDB社を追随するべく、ブームの過熱と共に同業や異業種の様々な企業が製品開発・販売に参入し、結果様々なTBFが登場する事となった。

 加えて近年では、企業のみならず、個人が自分だけのワンオフ機を開発する等。発売から十年の歳月を経てもなお、TBFブームは衰えを知らないものであった。

 

 

 そんなTBFブームの一方で、八尋個人のTBF事情はというと。

 TBFとの邂逅を果たしたあの日から、お手伝いで得たお小遣いやお年玉を必死に貯め続け。更には最後の難関であった両親の説得も、「認めようお前の熱意を。今この瞬間から、お前はTBFプレイヤーだ」と長年の熱意ある説得が功を奏し、小学六年生の頃、念願のTBFを手に入れていた。

 なお、この際手に入れたのはTBFの代表格であり、憧れの存在でもあったTBFアシリア。

 因みに、これを切っ掛けに、八尋は更にTBFに熱中していく事となる。

 学校の友達とのバトルで操作技術の腕を磨くのは勿論の事。前世での機械いじりの技術等を生かして製作技術を高め、今年の春から高校一年生となった現在では、自分だけのワンオフ機の開発を行えるまでに成長していた。

 

「ふわぁ……」

 

 ただし、TBFに熱中するあまり、学生としての生活に支障をきたす事もしばしばあった。

 具体的には、開発に向けた研究や改造作業などに没頭するあまり夜更かしして、結果遅刻ギリギリに登校したり、授業中に居眠りをしてしまう等である。

 最も、これが原因で通知表の評価が散々な結果になる事はなかった。何故なら、前世で得ていた学問の知識が現世においても大いに役立っていたからである。

 この為、中学校時代の成績に関しては平均点以上を維持していたし、市内にある"暁高校"に入学する際も、特に問題もなく入学試験を突破していた。

 

「あ、もうこんな時間か……」

 

 そんな八尋は現在、自室の一角に設けた通称"研究室"と呼ばれるTBF専用スペースにて、ワンオフ機開発の為の試作品開発に精を出していた。

 しかしふと机の一角に置いてある卓上時計の時刻を確認して、作業開始以前に予定していた作業時間を大幅に超えている事に気がつく。

 やはり好きな事に熱中していると、時間と言うものはあっという間に過ぎてしまう。

 

「あぁ、明日も学校なのに」

 

 これで翌日が休日なら何の問題もなかった。だが、翌日が学校となると話は別だ。

 回数こそ記入される事はないものの、やはり遅刻すればネガティブな印象を与え就職や進学などに影響を及ぼしてくる。

 その為、八尋も進学するにあたって自身の生活態度を改めようと考えてはいたのだが。高校入学から十日ほどが経過した現在、生憎と、改善の兆しは全く見られない。

 

「でも、止められないんだよなぁ……」

 

 頭では理解していながらも、ついつい誘惑に負けてしまう自分自身の意志の弱さを嘆きつつ、八尋は部屋の電気を消すと、ベッドへと横になり、程なく夢の世界へと旅立つのであった。

 

 

 迎えた翌朝。

 寝過ごす事もなく、設定したアラームと共に起床した八尋。

 てきぱきと紺色を基調としたブレザータイプの暁高校の制服に着替えると、必要な道具を入れたスクールバックを手に取り、二階の自室から一階のリビングへと足を運ぶ。

 

「あら八尋、今日は随分と早起きね」

「ははは、これは明日は雨かな?」

「おはよう、父さん、母さん」

 

 リビングには、食後のコーヒーを堪能しながら新聞を読む父親の辰哉と、後片付けを終えてほっと一息ついている母親の美沙希の姿があった。

 そんな両親に朝の挨拶を交わした八尋は、いつも座っている席に腰を下ろすと、いただきますの挨拶と共に母親が用意してくれた朝食を食べ始める。

 程なく、相変わらず美味しい朝食を食べ終え、食後のリラックスに母親が淹れてくれた紅茶を堪能する八尋。

 そして、紅茶を飲み終えた所で現在時刻を確認すると、丁度自宅を出る時間を迎えた所であった。

 

「はいお父さん、お弁当」

「うん、ありがとう」

「はい八尋、お弁当」

「ありがと」

「それじゃ、行ってくる」

「いってきます」

「はーい、いってらっしゃい」

 

 母親から受け取ったお弁当をスクールバックに入れ、母親に見送られながら父親と共に玄関を潜る八尋。

 そして、愛車で出勤する父親を見送ると、自身も愛用の自転車にまたがり、暁高校目指して自宅を後にした。

 

 

 

 

 自宅のある閑静な住宅街から、市の中心部にある暁高校を目指して自転車を走らせる事十数分。

 何事もなく暁高校に到着すると、駐輪場に愛用の自転車を停め、下駄箱で上履きに履き替えると、八尋は自身の教室へと足を進めた。

 全部で五階の階層からなる暁高校の校舎。その三階部分に設けられた一年生の教室の中、八尋は迷うことなく一年三組の教室に足を踏み入れた。

 

 そして、窓側の奥から二番目にある自身の机にスクールバックを置くと、椅子に腰を下ろして一息つく。

 

「おはよう、八尋くん!」

「あ、おはよう、葉月(はづき)さん」

「ん、ぬぉ!? 八尋がこの時間にいるだと! こりゃ、明日は季節外れの大雪か!?」

「おいおい、拓叶(たくと)。驚きすぎ。俺だって余裕を持って登校する事ぐらいあるって」

「いやいや八尋。なんならお前、先生と話しながら入ってきてんじゃないかって位、殆どギリギリだったろ。それが今日に限ってこんなに余裕で……、そりゃ驚くだろ普通」

 

 そんな八尋に声をかけてきたのは、クラスメイトの男女。

 ふわふわ栗色のセミロングの髪を持つ可憐な女子生徒である森山 葉月(もりやま はづき)と、ツンツン赤髪に恵まれた体格の男子生徒である中里 拓叶(なかさと たくと)の二人。

 二人はその口振りからも分かる通り、八尋とは単なるクラスメイトに留まらず、友人という程親密な仲である。

 

 入学からたったの十日でこの距離感と驚くかもしれないが、実は二人とは暁高校に入学する以前からの知り合いの為、ここまで気心の知れた仲なのだ。

 

「所で八尋、今日発売の"Fマガ"見たか?」

「あ! そう言えば今日発売日だっけ! しまった……、折角早く起きたんだから途中でコンビニに寄って行けばよかった」

 

 因みに、二人と知り合い交友を始める切っ掛けとなったのが、TBFである。

 そのTBFの情報雑誌が先ほど話題に上がった、正式名称TBF総合マガジン、通称Fマガと呼ばれる月刊情報誌だ。

 

 その最新号の発売日が本日だったのだが、どうやら八尋は発売日である事を忘れていた為に、まだ購入できていないようだ。

 

「だと思ってよ、ほら」

「あ、もしかして!?」

「おう、バッチリ手に入れておいてやったぜ! 有難く拝見しろよ!」

「神様仏様拓叶様、ありがたやー!」

 

 そんな八尋に救いの手を差し伸べるように、不意に拓叶が自身の購入していた最新刊のFマガを八尋に手渡す。すると、八尋は大袈裟な感謝の言葉を述べた後、受け取ったFマガに早速目を通していく。

 

「ねぇ八尋くん、私も見ていい?」

「勿論いいよ」

「んじゃ、俺も失礼して……」

「え? 拓叶、先に読んだんじゃなかったのか?」

「いや、実は軽く目を通しただけで、まだちゃんと読んでなかったんだよ」

 

 こうして、三人はFマガに目を通していく。

 Fマガには、各会社から今月発売予定のTBFの情報の他、特集として、とある機種をピックアップし徹底的に深掘りする等の内容が掲載されている。

 発売から既に十年もの年月が経過している事もあり、新発売のTBFのフルセットパッケージの販売価格は今や平均して十四万円前後と、十年前と比べてかなりお手頃となっていた。

 これも、TBFが世界規模で流行するまでに至ったお陰だな。と、心の中でしみじみと感じながら、八尋は自身の製作するワンオフ機の参考にもなるFマガの内容を、脳裏に焼き付けていくのであった。

 

 そして、一通りFマガに目を通し終え、感想を交えた雑談に一区切りついた所で、担任の教師が教室に姿を現し朝のホームルームが始まるのであった。

 




販売価格に関しては、このぐらいが妥当なのかなと思ったり……。
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