プラモクラフトな世界で心に火を点け生きていく   作:ダルマ

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第三話 小さな戦士との出会い

 太陽が傾き始め、地平線に向かって降下を始めた頃。

 放課後を告げるチャイムが鳴り響く中、部活動に勤しむ者、友達と談笑する者、そそくさと帰宅する者。校内には様々な生徒の姿で溢れている。

 そんな中、帰りのホームルームと掃除当番を終えた八尋は、同じく当番であった拓叶と葉月の二人と共に下駄箱に足を運んでいた。

 

「それじゃ八尋、また後でな」

「八尋くん、また後でね」

「うん、また後で」

 

 そして、下駄箱で拓叶と葉月の二人と別れた八尋は、その足で駐輪場へと赴き愛用の自転車にまたがると、正門をくぐるや自宅とは別方向、市の中心部にある商店街へと向かった。

 夕食の買い出しなど、多くの人で賑わいを見せる商店街。そんな活気ある商店街へとやってきた八尋は、やがてその一角にあるとある店舗の脇に自転車を停めた。

 

 店先に並べられたカプセルトイ、ショーウィンドウに綺麗に並べられているのは、TBFを始め艦船や戦車などのプラモデルの数々。

 その店構えからも分かる通り、この店は商店街にある玩具屋さん。そして、入り口の上部に掲げられた看板には、店名である"ニッパー"の文字がトリコロールカラーで描かれていた。

 

「おはようございます、坂井(さかい)店長」

「やぁ、八尋君、おはよう」

 

 そこそこの広さを有するニッパーの店内は、配置された棚にTBF関連の商品の他、様々な種類のプラモデルにぬいぐるみやフィギュア、更にはプラモデルの製作等に使用される工具などが陳列されていた。

 更に、店内でも一際開けた場所には、最新のナノハニカム構造を採用し軽量ながら高い強度と衝撃緩和能力を持つ"バトルセウム"と呼ばれる正方形の物体が鎮座している。

 これはTBFを使ってバトルをする際に、TBF操縦者が怪我などをしないように用いられるバトルフィールドの事で、それが鎮座しているあの場所は、言わば常置のバトルスペースなのだ。

 

 そんな充実した店内を見渡せる位置に設けらえれたレジカウンター。そこに佇み店番をしているのは、温厚な雰囲気を醸し出し恰幅の良い体格に店名の書かれたエプロンを着用した壮年の男性。

 このニッパーの店主であり坂井店長に、入店した八尋は声をかける。

 そして、挨拶を終えるや否や八尋は店内の一角にある従業員用の入り口を潜り、事務室兼バックヤードにスクールバックを置きブレザーを脱ぐと、坂井店長が着用していたものと同じエプロンを着用した後、再び店内へと足を運んだ。

 

「それじゃ八尋君、よろしくね」

「はい!」

 

 こうして着替えを終えた八尋は、坂井店長と交代する様にレジカウンターに佇む。

 この一連の行動からも分かる様に、八尋はこのニッパーでアルバイトとして働いている。

 因みに、正式にアルバイトとして働き始めたのは暁高校へ入学してからだが、実はそれ以前からも、具体的には中学生時代からお手伝いという名目で八尋はニッパーのお世話になっていた。

 なお、八尋が中学時代からニッパーでお世話になった経緯であるが、八尋が初めてのTBFを買ったのがこのニッパーで、その際に坂井店長と知り合ったのが切っ掛けだ。

 

 因みに、業務の内容は接客のみならず、商品見本のTBFやプラモデルなどの製作も含まれている。その為、現在ショーウィンドウに並べられているTBFは、主に八尋が製作技術の向上を兼ねて製作したものとなっている。

 

「ありがとうございました!」

 

 それから十数分後。数人のお客様の接客対応を終えた所で、新たなお客様が自動ドアを潜って店内に足を踏み入れる。

 すると八尋は営業スマイルと共に新たなお客様に声掛けを行おうとしたが、それよりも先に、お客様が八尋に声をかけた。

 

「よ、八尋!」

「こんばんは、八尋くん」

「いらっしゃい、二人とも」

 

 声をかけたのは誰であろう拓叶と葉月の二人。

 しかも二人の出で立ちは、拓叶は白シャツにワイドジーンズ、葉月は白のカットソーに黒のロングスカートという、共に制服ではなく私服姿。

 何故かと言えば、学校で別れる前に自宅に着替えに帰った二人とニッパーで待ち合わせの約束をしていたからである。

 

「やぁ、いらっしゃい、二人とも」

「こんばんは、店長!」

「坂井店長、こんばんは」

 

 刹那、商品を並べていた坂井店長が拓叶と葉月の二人に気が付きに声をかけると、二人も言葉を返す。

 このやり取りからも分かる通り、拓叶と葉月の二人もまたニッパーの常連客なのだ。

 因みに、八尋が拓叶と葉月の二人と知り合う切っ掛けとなったのもこのニッパーである。当時別々の中学校に通っていたが、ニッパーを交流の場にして、八尋は二人との交友を深めていたのだ。

 

「ん? 倉矢(そうや)の奴はまだ来てないのか?」

「うん、まだ来てない」

 

 因みに、待ち合わせを約束していたのは拓叶と葉月の二人だけではなかった。

 あともう二人、ニッパーで待ち合わせを約束しているのだが、生憎当の二人はまだ来ていなかった。

 

「それじゃ、二人が来るまで暇つぶしにバトルでもするか。八尋、バトルセウム使わせてもらうぜ!」

「了解」

 

 そう言うと拓叶は使用料を八尋に手渡し、葉月と共にバトルスペースへと足を運ぶ。

 そして、二人は互いのTBFをバトルセウム内に投入すると、手にしたスマートフォンのアプリを起動させる。

 

〈Main system ActiVating fighting mode〉

 

 刹那、スマートフォンからTBFの操縦開始を告げる機械音声が発せられると共に、二機のTBFのセンサーカメラが光を放つ。

 それを合図に、バトルの幕が切って落とされる。

 

「葉月、今日こそは勝たせてもらうぜ!」

「ふふふ、拓叶くん、それはどうかしら?」

「いくぜぇぇっ!」

「上等よ!」

 

 内心二人のバトルの様子が気になるが、まだ就業時間中である八尋は、バトルスペースから聞こえてくる音や声に耳を傾けつつ、自身の業務に勤しむのであった。

 

 

 

 

 それから暫くの後、拓叶の敗北を告げるかの如く、拓叶の驚きの声と共に葉月の喜びの声がバトルスペースから聞こえてきた。

 程なく、がっくりと肩を落とした拓叶と笑みを浮かべた葉月の二人が、八尋のいるレジカウンターに戻ってくる。

 

「今日はいける気がしてたのに……」

「ふふふ、これで私の拓叶くんとの勝率は七割って所ね」

「くそーっ!! 今度は負けねぇからな! 近いうちに必ず、勝率を五分に戻してやる!!」

「あはは、拓叶、頑張れ」

 

 拓叶が不甲斐ない対戦成績を改善させる事を誓った刹那、自動ドアが開き、新たなお客様が店内に足を踏み入れる。

 

「悪い、遅れたごめん!」

「お待たせ、皆」

 

 現れたのは、八尋達と同年代と思しき二人。

 片や、ベージュのマウンテンパーカーにネイビーのスキニーパンツという出で立ちの、暗い焦げ茶色の髪をした活発な雰囲気の男子。

 もう一方は、ロングカフカシャツにブラウンのジャンパースカートという出で立ちの、綺麗な桜色の髪をサイドテールにした、小柄な背丈と相まって小動物を思い起こさせる雰囲気を持つ女子。

 

 この二人こそ、八尋達が待ち合わせの約束をしていた残りの二人である。

 

「いらっしゃい、二人とも。遅かったね?」

「そうだぜ倉矢、遅れるなら先に連絡しろよ」

「こんばんは、倉矢くん、幸来(さら)ちゃん」

 

 二人はクラスこそ違うものの、八尋達と同じ暁高校に通う生徒である。

 男子の名は八神 倉矢(やがみ そうや)、女子の名は喜田嶋 幸来(きたじま さら)

 

 因みにこの二人、実は八尋とは同じ小・中学校に通っていた為、拓叶と葉月の二人よりも八尋と付き合いが長い。

 

「ごめんごめん。実は、出掛ける寸前に急に母さんに買い物頼まれちゃってさ……」

「私は、そんな倉矢くんのお買い物を手伝ってたから」

「そうだったんだ」

 

 そんな二人が待ち合わせの時間に遅れた理由を話した所で、バックヤードの整理を終えた坂井店長が五人の前に現れる。

 

「やぁ、いらっしゃい二人とも」

「こんばんは、店長」

「坂井店長、こんばんは」

 

 例に漏れず常連客である倉矢と幸来の二人が坂井店長に挨拶をした所で、坂井店長は不意に五人に対して見せたいものがあると言い出した。

 

「何だろう、八尋、何か知ってる?」

「いや……、俺も初めて聞いた」

 

 アルバイトである八尋なら何か知っているのではと倉矢が尋ねたが、当の八尋も、どうやら初耳だったらしい。

 五人が胸を高鳴らせ待つこと暫く、バックヤードから戻ってきた坂井店長の手には、TBFの箱が抱えられていた。

 

「じゃーん。今朝入荷したばかりの、正真正銘の新品だよ」

「「おぉー!!」」

 

 レジカウンターに置かれたTBFの箱を目にするや、五人は目を輝かせると共に感嘆の声をあげる。

 箱のパッケージには、黒を基調とし各部の黄色がアクセントとなるカラーリングの人型TBFが描かれている。

 バイザーの奥に光るツインアイ、翼の様なスラスターユニットに腰のサイドスカート等々鋭角的なパーツの数々。武装であるビームライフルとシールドを構えるその姿は、まさにロボットアニメに登場する巨大人型兵器を彷彿とさせた。

 

「その名も、宇宙戦士型TBF、"ラーベアハト"」

「ラーベアハト……」

 

 パッケージに描かれたTBFの名を聞き、その名を小さく呟く八尋。

 そんな八尋を他所に、倉矢と拓叶の二人が箱の中身を見せてほしいと頼むと、坂井店長もそれを快く承諾する。

 入荷したばかりの新商品をこうして見られるのは、彼らが常連客だからこそだろう。

 

「おぉ、すげぇ!」

「へぇ、フレーム・パーツだけなんだ」

「そうなると、コア・シャーシや内臓パーツを揃える必要があるわね」

「でも、カッコイイデザインですね」

 

 箱の中に入っている梱包されたパーツ類を目にして、八尋を除く四人が各々の感想を述べる。

 TBFの販売は、初心者向けに購入して組み立てればそのまま遊べるフルセットパッケージが主流である。しかし中には今回のラーベアハトの様に、フレーム・パーツのみで販売しているものも存在している。因みに、その様な機種は、概ね熟練者を対象とした層向けとなっている事が多い。

 

「ん? これ、WDB社製だ……」

 

 それまで黙って注視していた八尋は、パッケージの隅に描かれたWDB社のロゴマークを目にし、ぽつりと疑問符を零す。

 

「坂井店長、これって今朝入荷したんですよね?」

「あぁ、そうだよ」

「今日発売のFマガには、ラーベアハトの販売情報は記載されていなかった気がするんですけど……」

 

 今朝読んだFマガ、その発売予定情報の中には、確かにWDB社からラーベアハトが販売されるとの情報は記載されていなかった。

 そして、八尋の言葉に同意する様に、拓叶と葉月の二人も首を縦に振る。

 

「実はね、これは御贔屓にしている問屋から仕入れたものなんだけど、先方も、情報になかった商品だからちょっと困惑していてね」

「そうだったんですか」

 

 坂井店長の口から語られたラーベアハト入荷の経緯を聞き五人が小首をかしげていると、不意に拓叶が、何かを思い出したかのように声をあげた。

 

「おぉ、そう言えば。倉矢の親父さんってWDB社の開発部門に勤めてるんだろ? だったら何か聞いてないのか?」

 

 拓叶が倉矢に質問を投げかけた刹那、倉矢の表情が一瞬にして曇り始める。

 すると、それに気がついた八尋が、慌てて話に割り込み始めた。

 

「拓叶、幾ら家族だからって、発売前の新商品の情報は漏らさないんじゃないかな!」

「あー、まぁ、そう言えばそうだよな」

「それに、単に情報が出回っていないだけで、実は超レアものかも知れないぞ!」

「おぉ、それだったらスゲーな!」

 

 何とか話題を変える事に成功して、安堵の表情を浮かべる八尋。

 すると、倉矢が助かったと言わんばかりの視線を八尋へと向け、それに気づいた八尋はどういたしましてと言わんばかりに小さく頷く。

 

 

 先ほど拓叶が言った通り、倉矢の父親はWDB社の開発部門にて新商品の開発を行っている技術者の一人で、TBFの生みの親の一人と言う、業界ではかなりの有名人。

 故に息子としてはさぞ父親を誇らしく思っていると考えられるが、実の所、TBFの販売以降はTBFの開発に没頭しており、それが原因で自宅にほとんど帰らない等。八神家の家庭環境に影を落としている原因の一つとなっていた。

 そんな八神家の事情を小学生の頃に倉矢本人から聞いた事のある八尋は、極力倉矢の父親の話には触れないように気を使っていたのだ。

 

「んじゃ、いい物も見た事だし、バトルするか!」

「そうね」

「あぁ」

「はい」

 

 ラーベアハトを見て気分が上がった所で、拓叶の音頭と共に、八尋を除く四人はバトルスペースへと足を運び始める。

 そんな中、倉矢は八尋に対してバトル用のレンタルTBFを頼んでいた。

 実は倉矢は、先ほど説明した家庭環境から自分のTBFを所有しておらず、バトルの際は専らレンタル用のTBFを使用していた。

 

「それじゃ、どれにする?」

「そうだな……」

 

 バトルレンタル用のTBFが並べられたケースを見つめながら、どれにするかを悩む事数十秒。

 やがて倉矢は、一機のTBFを指名する。

 

「それじゃ、"ポーンボックス"で頼む」

「了解」

 

 指名したのは、WDB社が販売している汎用非人型TBF。首のない、所謂胴体と頭部が一体となった箱型のパーツが名前の由来ともなった機体だ。

 軍用兵器を彷彿とさせる武骨な腕部、そして武骨な逆関節の脚部。その外観は、まさに人型の戦車と言えた。

 同機はその見た目通り防御力に優れ、また逆脚による高い跳躍力、更には一体型パーツで販売価格も比較的安いという特徴を持つ。

 

「じゃ、はいこれ」

「ん、確かに」

 

 倉矢から使用料を受け取ると、ケースから取り出したポーンボックスを手渡す八尋。

 程なく、バトルスペースへと向かう倉矢の背中を見送った八尋に、ふと、坂井店長が声をかけた。

 

「そうだ八尋君、ちょっと休憩がてら、皆のバトルを見学してきたらどうかな?」

「え? いいんですか!」

「あぁ、構わないよ」

 

 坂井店長の優しさに感謝の言葉を述べると、八尋は足早にバトルスペースへと足を運ぶのであった。




次回、いよいよバトル開始です。
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