プラモクラフトな世界で心に火を点け生きていく   作:ダルマ

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第四話 放課後、お店でバトルしようぜ!

 バトルスペースに置かれたバトルセウムでは、既に拓叶と葉月、倉矢と幸来のタッグに分かれてのタッグバトルが始まろうとしていた。

 TBFにおけるバトルの形式は上記のタッグの他。一対一のソロバトルから、最大三対三で行うチームバトルまで存在している。

 この他にも、一対三などの変則バトルもあるが、今回は切りよくタッグバトルを行う様だ。

 

 そして、そんなタッグバトルの舞台となる今回のバトルフィールドは、一面に広がる緑の絨毯が美しい、平原を再現したジオラマだ。

 バトルセウム内には現実世界に存在している様々な環境を再現したジオラマが用意されており、設置している店舗によっては珍しい環境が設定されている場合もある。

 因みに平原は、比較的多くの店舗で設定されているベーシックな環境である。

 

「葉月とのバトルは負けたが、今回は勝ちにいくぜ!」

「こっちも負けないさ!」

「いくわよ幸来ちゃん!」

「う、うん!」

 

 そんな平原のジオラマに、気概に満ちた四人の操るTBFが降り立っていく。

 

 その内の一機は、先程倉矢がレンタルしたポーンボックス。

 そしてその隣に降り立ったのは、幸来の所有するTBF。女性型のフォルムに、腰部(ようぶ)に設けられたスカート状のパーツ、そして頭部のシャコー帽を模したパーツが目を引く機体。

 アメリカに本社を置くマーテル&ダッグ(M&D)社から販売されている、マーチングバンドをモデルとした女性型TBFで、その名を"リトルマーチング"。

 販売されている同機種は赤を基調としたカラーリングなのだが、幸来の機体は桜色を基調とパーソナルカラーに変更していた。

 

 一方、そんな二機と対峙するように降り立ったのは、拓叶と葉月が所有するTBF。

 

 先ず拓叶のTBFは、男性型のがっしりとしたフォルムに右腕全体を保護する装甲パーツを有し、左腕には大型のシールドを装備。頭部は視界を確保するための幾つもの穴があけられ、剣闘士の兜を彷彿とさせる造形をしている。

 かつては開発した企業が製造・販売していたが、現在ではWDB社に吸収合併された為、WDB社から製造・販売されている剣闘士型TBF、その名を"グラディ・ムルミッロー"。

 拓叶の機体は、販売されている同機種の肌色と金色を基調としたカラーリングのままの為、見た目に関しては違いは見られない。

 

 そして葉月のTBFは、女性型のフォルムに白と青を基調としたワンピースとエプロンドレスを彷彿とさせるパーツ構成、頭頂部には黒いリボンをイメージしたパーツ。そしてその手には、鍵をモデルにした両手装備のハンマー系武器、セブン・キーが握られている。

 ヨーロッパ有数のコングロマリット、シュピールツォイク・ユニオン(SzU)から販売されている、童話不思議の国のアリスの主人公をモデルとした女性型TBF、その名を"トイアリス"。

 

「あ、まだ始まってない感じ?」

 

 そんな四機のバトルが始まる寸前で、何とか間に合った八尋。

 すると、そんな八尋に対して拓叶が不意に声をかける。

 

「お、丁度いい所に来たな八尋。折角だから審判頼む」

「了解。それじゃ、バトルのレギュレーションは"スタンダード"で、当然"ブレイクエンド"はなし。それでは、両チームとも準備はいい?」

 

 TBFバトルには幾つかのレギュレーションが設けられている。

 その内、最も一般的なレギュレーションがスタンダード・レギュレーションと呼ばれるものである。

 その内容は違法な改造やアイテム等々の使用禁止などの他、相手のTBFを破壊せずに倒す事を義務付けると言うもの。

 先ほど八尋の口にしたブレイクエンドとは、文字通りコア・シャーシごと機体を破壊し倒した状態の事である。世界的に普及し価格も安くなったとはいえ、一機十万円以上もするTBFをバトルする度に買い直すのはあまりにも非情。故に、手軽にバトルしたい時、更には今回の様なレンタル機が含まれるバトルの際に用いられるのがこのレギュレーションだ。

 

 勿論、この他のレギュレーションでは相手のTBFを破壊してもよいものもあるが、今回は説明を省かせていただく。

 閑話休題。

 

「おう!」

「勿論よ!」

「俺もバッチリ!」

「私も大丈夫です!」

「それでは、バトルスタート!」

 

 厳密には大会などでの公式なバトル以外、審判は必ずしも必要という訳ではないのだが、ここでは雰囲気を重視して審判を引き受けた八尋。

 八尋の開始を告げる合図と共に、四機のTBFが各々動き始める。

 

 

 

 

 拓叶と葉月の機体は初期地点から散開すると、各々の方向から倉矢と幸来の機体目掛けて接近を試みる。

 一方の倉矢と幸来は、機体を散らばらせる事なく、まとまって行動していた。

 

「倉矢くん、十時の方向から高速で接近してくる機影。多分、葉月ちゃんの機体だと思う」

「了解だ!」

 

 リトルマーチングは、シャコー帽を模した頭部パーツに、市販されているTBF内でもトップクラスのレーダーを搭載している。

 その為同機種は、単機で使用するよりもチームを組んで使用する方がその性能を最大限に生かせる。

 そして今回、幸来のリトルマーチングはその性能を遺憾なく発揮し、倉矢に接近する葉月のトイアリスの存在を知らせた。

 

 迎撃を行うべく、接近してくる方角に向けて、ポーンボックスの右手に装備した片手銃、スタンダードハンドガンと呼ばれる、名前の通り標準的な性能を持った銃の銃口を向ける倉矢。

 刹那、大きな岩の影から葉月のトイアリスが跳躍しながら姿を現した。

 

「そこっ!」

 

 次の瞬間、スタンダードハンドガンの銃口が火を噴くものの、女性型に多く見られる機動力の高さ、更に葉月独自のカスタマイズも相まって、放たれた弾丸は何れもトイアリスの装甲を捉えられずに彼方へと消える。

 

「残念。今度はこっちの番よ!」

「っ!」

 

 スタンダードハンドガンから放たれる弾丸を掻い潜りながら、倉矢のポーンボックスへと接近したトイアリスは、両手で保持したセブン・キーをムーンフェイス目掛けて振るう。

 だが、ポーンボックスは左腕に装備していた中型シールドを咄嗟に構えた為に、何とか直撃は免れる。

 

「倉矢くん!」

 

 その時、リトルマーチングが装備していたスタンダードハンドガンを発砲し援護に入る。すると分が悪いと判断してか、トイアリスは一旦距離を取り体勢を立て直し始める。

 一方、倉矢と幸来の二人も、次なる行動を話し合い始めた。

 

「倉矢くん、一時の方向から拓叶くんの機体が接近してきてるよ」

「合流されると厄介だな。先ずは葉月さんの機体を叩く!」

「うん、分かった」

 

 リトルマーチングと共にポーンボックスも射撃を開始。近接攻撃しかできないトイアリスに対して、距離を取っての撃破を目指すものかと思われた。

 だが刹那、ポーンボックスは射撃を続けつつその武骨な逆脚で大地を蹴ると、一気にトイアリス目掛けて接近を試みる。

 

「っ!?」

 

 この予期せぬポーンボックスの行動に、一瞬動きが鈍るトイアリス。

 その一瞬の隙を、倉矢は見逃さなかった。

 

「そこだ!」

「っ! しまった!」

 

 ポーンボックスは中型シールドを構えると、大地を思い切り蹴り、勢いよくトイアリス目掛けて突撃を行う。

 次の瞬間、回避が間に合わずポーンボックスのシールドアタックを受けたトイアリスは、吹き飛ばされる。

 機動力の高さと引き換えに、装甲の厚さと重量では男性型に劣る事が多い女性型。故に、今回のような単純な力比べでは、ポーンボックスに軍配が上がった。

 

 地面に叩きつけられ体勢を立て直そうとするも、シールドアタックのダメージが想像以上に効いているのかなかなか起き上がれない。

 そこに、追い打ちとばかりに、二機からの銃撃が襲い掛かった。

 

「やられちゃった……」

 

 そして、無防備な体に幾多もの弾丸を受けたトイアリスは、程なく糸の切れた人形の如く動かなくなる。バトル継続不可能な状態、所謂ブレイクダウンと呼ばれる状態となり、このバトルから落伍した。

 

「くそ、二対一かよ!」

 

 その瞬間、グラディ・ムルミッローが姿を現し、先ずは近くにいたリトルマーチング目掛けて突撃を開始する。

 リトルマーチングは装備したスタンダードハンドガンを発砲し、僅かに遅れてポーンボックスも発砲を開始し迎撃を始めるが、グラディ・ムルミッローが装備した大型のシールドにより、弾丸は何れも弾かれる。

 

「先ずは弱い所から!」

「させるか!」

「く!」

 

 そして、弾丸を防ぎつつ間合いに入った所で、グラディ・ムルミッローは右手に装備していた片手剣、グラディソードをリトルマーチング目掛けて振るう。

 だがその剣身は、咄嗟に間に入り込んだポーンボックスの中型シールドによって防がれてしまう。

 

「相変わらずいい反応しているな、倉矢! だが、俺も負けてられねぇ!」

 

 拓叶の気合と共に、グラディ・ムルミッローが再びグラディソードを振るう。

 そして、剣身がポーンボックスのスタンダードハンドガンを切り裂くと、同銃を使用不能へと至らしめる。

 

「それなら!」

 

 スタンダードハンドガンを失ったポーンボックスは素早く、予備として腰にマウントしていたコンバットナイフ状の片手剣、コンバットソードを構えると、グラディ・ムルミッローとの鍔迫り合いを開始する。

 一進一退の激しい鍔迫り合いが行われる中、決着の時は、突如として訪れた。

 

「な!?」

 

 突如、グラディ・ムルミッローの無防備な背後を、幾つもの弾丸が襲い掛かったのだ。

 その正体は、いつの間にかグラディ・ムルミッローの背後に回り込んでいたリトルマーチングのスタンダードハンドガンであった。

 

 程なく、グラディ・ムルミッローはがくりと膝をつくと、まるで石造の如く動かなくなるのであった。

 

「そこまで! 勝者、倉矢・幸来チーム!」

 

 

 八尋の勝利宣言と共にバトルが終了し、四人は各々のTBFを回収していく。

 

「やった、勝ったね、倉矢くん!」

「あぁ、これも幸来のアシストのお陰だ。ありがとな!」

「そんな、えへへ……」

 

 勝利に沸く倉矢と幸来の二人に対し、負けた拓叶と葉月の二人は悔しさを滲ませる。

 

「二人のコンビネーションの良さに完敗ね」

「全くだ……」

 

 と、拓叶が短いため息を漏らした所で、更に言葉を続ける。

 

「にしても、レンタル用TBFなのに、相変わらず強えぇな倉矢」

「まぁ、レンタル用TBFのチューニングが最高なのもあるからな」

 

 レンタル用TBFのチューニングは、当然ながら制作者でもある八尋が行っている。

 その為、不意に倉矢の口から飛び出した八尋に対する賛美の言葉に、八尋ははにかまずにはいられなかった。

 

「なぁ、そんなに強えぇんだから、さっさと自分用のTBF買ったらどうだ? 自分用のTBFを手に入れたら、大会にも出られるようになるしさ。今の倉矢の実力なら、入賞も目指せるんじゃねぇか?」

「……まぁ、その内、な」

 

 拓叶の提案に、倉矢の表情が少々曇る。

 それを察して、八尋が話題を変えようと声をあげた。

 

「そうだ! もしまだバトルするなら、リペアジェルや充電器を用意するけど?」

「ん? んーそうだな。まだ時間もあるし、もう一戦するか?」

「私は構わないわよ」

「私も、大丈夫です」

「倉矢はどうする?」

「あぁ、いいぜ。やろう!」

 

 何とか話題を変える事に成功し、内心安堵した八尋は、四人の為にリペアジェルや充電器などを準備し始める。

 因みにリペアジェルとは、バトルなどで損傷したパーツなどを修復する為の道具の事で、その名の通りジェル状となっている。一方充電器は、その名の通りバッテリーを充電する為の道具である。

 

 

 

 

 その後、修復と充電を終えた四人がバトルを続ける一方で、八尋はレジカウンターに戻り業務に勤しむのであった。

 楽しい時間と言うものはあっという間に過ぎるもの、気付けば時刻は夕焼けと夜空が混じる黄昏時。

 

「じゃぁな八尋、また明日な!」

「また明日学校でね、八尋くん」

「またな、八尋」

「またね、八尋くん」

「また明日」

 

 十分にバトルを堪能した四人は、各々の自宅へと帰るべくニッパーを後にする。

 それから暫くした後、八尋も退勤時間となったので着替えを済ませると、最後に坂井店長に声をかける。

 

「お先に失礼します、坂井店長」

「お疲れ様、八尋君。気を付けて帰るんだよ」

「はい。……あ、そうだ」

 

 こうして帰ろうとしたその時、八尋は何かを思い出したかのように声を漏らすと、足を止めた。

 

「坂井店長」

「ん? 何だい?」

「さっき見せてもらったラーベアハトなんですけど、あれ、俺に売ってくれませんか?」

「おや、まさか八尋君が買うとはね……。倉矢君が一番熱心に見ていたから、僕はてっきり彼が買うものとばっかり思っていたよ」

「え、そうだったんですか?」

「まぁ、でも、こういうのは早い者勝ちだからね。今準備するよ、ちょっと待っててね」

 

 ワンオフ機の参考になると、実は密かにラーベアハトが気になっていた八尋。

 少々怪しい所はあるものの、次に訪れた時には売られている可能性もあり、今回意を決して購入を決断したのであった。

 

 暫くして、袋詰めされたラーベアハトと引き換えに購入代金を支払い、今度こそニッパーを後にする八尋。

 そして、愛用の自転車にまたがると、照明に照らされた商店街を後に、一路自宅を目指してペダルを漕いだ。




ここまで読んでいただきましてありがとうございます!
そして、感想を書いてくださったgaraasaa様、評価してくださった皆様、お気に入り登録してくださった皆様。本当にありがとうございます!
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